相続放棄申述の却下審判に対する即時抗告事件
第l 抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨は,主文と同旨の裁判を求めるというものであり,その理由は,別紙のとおりである。第2 当裁判所の判断1 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被相続人B (以下「被相続人」という。)は,昭和53年×月×日,抗告人の母であるCと婚姻し,長男D (昭和54年×月×日生),長女E (昭和57年x月×日生),二女の抗告人であるA (平成3年×月×日生。以下「抗告人」という。)をもうけたが,平成14年×月×日,被相続人が定職に就かずに酒に酔ってはCに乱暴したりすることなどから,抗告人の親権者をCと定めて協議離婚した。
(2) 被相続人とCは,協議離婚する際,抗告人の親権者をCと定めたほか,長男D,長女EはCの戸籍に入ること,被相続人はCに対し慰謝料分としてCが使用している自動車をCに譲渡し,当該自動車の未払代金は被相続人が負担すること,そのほかに被相続人とCの聞には何らの債権債務がないほか,被相続人と子ども3名との間にも債権債務がないことを確認することなどを内容とする離婚協議舎を親戚2名の立会いの下で作成し,取り交わした。なお,被相続人は,平成8年×月×日, 00労働金庫から住宅ローンとして1420万円を借り入れるなどして,父と共有する形で00県00市内に家屋(以下「本件家屋」という。)を新築していたが,本件家屋は,被相続人の両親も生活しているB家の実家に相当するものであったことから,本件家屋はB家が所有するものとし,本件家屋に係る住宅ローン債務については被相続人や被相続人の弟Fが責任をもって完済していくことになった。
(3) 平成14年×月×日,子ども3名は,母の氏を称する入籍を行い,被相続人の戸籍から除籍された。抗告人は,両親が離婚して以来,親権者と定められたCに引き取られて, cと共に生活している。Cは,被相続人と離婚した際に被相続人との問で上記離婚協議書を取り交わし, cと子ども3名は,被相続人の戸籍から離れたことから, cのみならず子ども3名も完全にB家と切り離されたものと考え,被相続人に対して抗告人の養育費の支払を求めることもなく, cはもとより子ども3名も被相続人とはその後連絡を取らなかった。
(4) 被相続人は,平成18年12月×日に死亡した。Cやその子どもたちは,被相続人が死亡した当日に, Fからの連絡で被相続人が死亡した事実を知った。
(5) 被相続人は, 00労働金庫から住宅ローンとして1420万円を借り入れた際に,社団法人口口基金協会(以下「基金」という。)に対し,保証を委託し,この保証委託契約上の債務についてCが連帯保証をしていたところ,基金は,平成17年x月×日, 00労働金庫に1109万3985円を代位弁済した。
(6) 基金は,平成19年6月× 日,D, E及び抗告人の法定代理人であるCに対し,基金が00労働金庫に代位弁済した1109万3985円につき求償金請求権を有すること,担保物件である本件家屋は既に売却済みであることを通知するとともに,相続放棄の手続の有無などを照会する文書(以下「本件通知」という。)を送付したところ,そのころ同容面はD,E及び抗告人の法定代理人であるCの下に届いた。Cは,基金に対する債務は住宅ローンを組んだ際に加入した団体生命保険ですべて返済されたものと考えていたため,驚いて,基金の担当者に対し事情を尋ねたところ,本件家屋の競売が被相続人の死亡する前であったことから生命保険金は支払われず,債務が残ったとの回答を受けた。なお,本件家屋が競売による売却をされたのは,被相続人が死亡する約2か月半前の平成18年9月×日であった。
(7) そこで, D, E及び抗告人の法定代理人であるCは,弁護士に委任し,平成19年7月×日,福島家庭裁判所郡山支部に被相続人の相続を放棄する旨の申述をしたところ,同年10月×日, D及びEの申述は受理されたが,抗告人の申述は却下されたため,抗告人が本件抗告を申し立てた。原審が,抗告人についてのみ相続放棄の申述を却下した理由は,未成年者である抗告人については民法915条所定の熟慮期間の起算日である相続人の認識については抗告人の法定代理人であるCの認識によって判断するのが相当であるところ, cは被相続人の基金に対する保証委託債務を連帯保証しており,被相続人が死亡した時点で相続債務が存在していたことを認識していたというべきものであるから,抗告人については既に相続放棄をすべき期間を徒過しているというものである。なお, 00労働金庫から事務を引き継いだ口口労働金庫は,平成17年8月×日付けでCに対し連情保証債務の履行を求める書面を発送しており,上記書面を受領したCは, Fに対し,雛婚時の取決めに従ってB家の方で債務の履行をするよう求めたところ,その後, cは, どこからも債務の履行を求められなかったため,債務は順調に履行されているものと考えていたところ,平成19年1月×日付けで,再び基金から連帯保証債務の履行を求められたものの, c自身にはまとまった資産はなく,返済を検討できる状況にはなく,被相続人の弟のFも支払を続けていける状況にはないということであったが,被相続人が住宅ローンを組んだ際に加入した団体生命保険で弁済されるはずではないかという助言を実姉から受けるなどしたため,被相続人が死亡して日も浅く,基金としては被相続人の死亡の事実も把握しないまま通知をしてきたものと考え,それ以上の対応は取らなかった。
2 ところで,相続人は,自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならないが(民法915条1項本文),相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが,相続財産が全くないと信じたためであり,かつ, このように信じるについて相当な理由がある場合には,民法915条1項所定の期間は,相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識したとき又は通常これを認識しうべかりし時かぢ起算するのが相当である(最高裁判所昭和59年4月27日第二小法廷判決・民集38巻6号698頁参照)。また,相続人が未成年者の場合にあっては,財産管理能力のない未成年者を保護する見地からして上記熟慮期間の起算日である相続人の認識については法定代理人の認識によって判断するのが相当である。しかるところ,上記1で認定した事実によれば,抗告人の法定代理人であるCは,被相続人の基金に対する保証委託債務を連帯保証していたものであり,平成19年1月×日ころには基金から連常保証債務の履行を求められているのであるから,そのころには被相続人が住宅ローンを完済しないまま死亡した事実を認識することができたとみる余地もないわけではない。しかし, cは,連帯保証債務の履行を求められでも,基金に問い合わせなどもしないまま放置しており,本件通知を受けるに至って,初めて,抗告人の親権者として相続放棄の申述受理の申立てをしているところ, cがこの時点で抗告人につき相続放棄の手続をしたのは, cにおいて,被相続人と離婚した後は本件家屋はB家が実家として維持していくものと考えており,被相続人の生前に本件家屋が競売によって売却されたことも知らなかったし,仮に住宅ローン債務が残っていたとしてもこれは住宅ローンを組んだ時点で被相続人が加入した団体生命保険によってすべて完済されていると考えていたためであったことが認められ,そうすると, cは,抗告人の法定代理人として本件通知を受領したことにより,初めて抗告人が相続する被相続人の債務があることを認識するに至ったものと認めるのが相当である。そして,Cは,定職に就かず酒を飲んではCに乱暴することなどが原因となって被相続人と離婚し,その際の離婚協議舎の作成により,離婚後は子ども3名を含め,完全にB家とは切り離されたものど考え,被相続人を含むB家の人間と接触せず,住宅ローン債務はB家で処理することになっていたことなどを勘案すると,本件通知を受領するまで抗告人が承継する被相続人の債務があることなどについて十分な調査をしなかったことにはやむを得ない事情があったものというべきである。以上検討したところによれば,抗告人の法定代理人であるCが,平成19年6月× 日ころ基金から本件通知を受けるまでは被相続人には何ら相続財産がないと考えていたことについては相当な理由があったものというべきであり, したがって,本件通知の受領から3か月以内にされた本件相続放棄の申述は受理するのが相当というべきである。よって,当裁判所の上記判断と異なる原審判を取り消し,主文のとおり決定する。( 裁判長裁判官大楠弘裁判官鈴木桂子岡田伸太)
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遺言執行者解任審判に対する抗告事件
1 事案の概要
(1) 本件の遺言者である亡Gは,先に死亡したH (平成11年×月×日死亡)との聞に,長女の1,長男の相手方D,二男の相手方E,三男の相手方Fの4人の子がいる。亡Gは,平成18年×月×日, Jと婚姻の届出をし,平成19年x月×日死亡した。亡Gは,死亡に先立つ平成18年×月×日,00法務局所属公証人0000作成に係る同年第xx号遺言公正証書をもって,すべての財産を妻であるJに相続させる旨の遺言をし,併せて遺言執行者として抗告人らを指定した。なお,相手方ら及び長女Iは,平成19年×月×日ころ到達した内容証明郵便をもって, J及び抗告人らに対し,遺留分減殺の意思表示をした。
(2) 本件は,相手方Dが,抗告人らにおいて財産目録を調製等することなく,また, Jの利益のためにのみ行動するという偏頗性,不公平性が認められるとして,遺言執行者の任務を怠り,かつ,解任すべき正当な事由があるとして,その解任を求めた事案であり,原審における審判手続中に相手方E及び相手方Fが利害関係人として参加したものである。原審は,抗告人らについてJの利益にのみ偏して行動していると思われる事情があり,遺言執行者としての公平性に多大の疑念があるから,解任すべき正当な事由があると認めるのが相当であるとして,抗告人らを遺言執行者から解任することを命じた。
(3) この原審判に対し,抗告人らが即時抗告を申し立てた。本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告申立書」に記載されたとおりであり,これに対する相手方らの反論は,別紙「意見書」に記載されたとおりである。
2 当裁判所の判断
(1) 本件に関する当事者双方の主張は,上記の即時抗告申立普及び意見害に記載されているほかは,原審判理由欄のl項, 2項に記載されたとおりである。また,本件の事実関係は,原審判理由欄の3項(1)に記載されたとおりであるから,これを引用する(ただし, 原審判8頁25行目の「関係金融機関Jの前にi,遺留分減殺請求をした本件相手方らの了解を得ないまま,Jを, 9頁末行の末尾に「ただし,同訴訟は,その後, 00地方裁判所00支部に移送された。」をそれぞれ加える。)。
(2) 以上の事実関係を前提として,抗告人らについて,遺言執行者の解任事由があるか否かを検討する。ア任務悌怠について相手方らは,抗告人らについて,相手方らに遺言執行者に就任したことの通知をせず,また,相続財産目録の作成や交付をせず,かつ,本件相続財産のうち払戻しを受けた預貯金や関係書類の管理方法等の事務処理状況を全く明らかにしないという任務懈怠があると主張する。この点に関する判断は,次のとおり付加,訂正するほか, 原審判理由欄の3項(2)のアに記載されたとおりであるから,これを引用する。① 原審判11頁2行自の末尾に「また,上記の事情にかんがみれば,抗告人らは,相手方らがKに関係した相続財産の調査に非協力的である中で,判明している限りでの相続財産の明細をまとめた上で本件目録を作成,交付しているものというべきであるから,この点に関して任務の懈怠があるとはいえない。」を加える。② 原審判11頁3行目から5行固までを,次のとおり改める。「次に,本件遺言書においては,相続財産として株式会社00銀行等9つの金融機関に対する預貯金債権や金融資産のあることが明記されているが,前記のとおり,抗告人らは,相手方らから遺留分の減殺請求を受けた後になって,相手方らの了解を得ることなく,それらの大部分を払い戻したり名義変更の手続をしていることが認められる(これらの預貯金等については,後記説示のとおり,遺留分減殺請求によって相手方らが共有ないし準共有持分権を有するに至った。)ところ,上記預貯金等について,相手方らが,原審において,平成19年×月×日付け上申性(2)により上記預貯金等の管理方法など現在の事務処理状況を速やかに報告すべきであると主張し,向性面はそのころ抗告人Aに到達しているにもかかわらず,抗告人らが上記預貯金等の管理方法等について相手方らに報告ないし説明をした形跡はない。遺言執行者のする相続財産の管理については,委任に関する規定が準用されるから(民法1012条2項),遺言執行者は,相続人に対し,荷求があるときはいつでも事務処理状況を報告する義務があるのであって(同法645粂),この点に関して,上記の事実に照らすと,相手方らの主張するとおり,抗告人らに任務の懈怠があるというべきである。確かに, 亡Gの死亡直後から,実子である相手方らと後妻であるJとの間で,相手方らに秘密裡に行われた婚姻届出の証人となった抗告人らも巻き込んで,激しい感情的な対立に発展しており,抗告人らが上記の預貯金や金融資産を払い戻すなどしてから暇もなく,相手方らが本件の遺言執行者解任の申立てをしていること,加えて,抗告人らの上記管理行為からさほどの期間が経過していないことなどの事情はあるにしても,遺言者の名義であった預貯金等(しかも抗告人らの作成した相続財産目録によれば総額は3790万円を超える多額である。)を払い戻したり名義を変更することは,当該財産の管理方法の重大な変更であり,管理方法いかんによってはその適正な管理,保全に著しい支障を生じさせるおそれがあるのであるから,相手方らからの求めがある場合には,その管理方法,管理状況を速やかに報告ないし説明すべきである。そして,その説明,報告義務は実子である相手方らと後妻であるJとの問で激しい争いがあるからといって左右されるものではない。したがって,抗告人らには上記の点において任務懈怠があるといわざるを得ない。」イ偏頗性・不公平性について① 本件遺言書の内容は,亡Gのすべての財産を包括的にJに相続させるというものであるが,それを知った相手方らから,直ちに遺留分減殺の意思表示がされたところ,原審判が説示するとおり,遺留分を侵害された相続人(遺留分権利者)が減殺請求権を行使すると,遣問は遺留分を侵害する限度において失効し,受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するのであって,例えば,遺産すべての包括遺贈に対して滅殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は,遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない(最判平成8年1月26日・民集50巻1号132頁参照)。本件においても,相手方らが遺留分減殺請求権を行使したことにより,亡Gのした上記の遺贈は,相手方らの遺留分を侵害する限度において失効し, Jが一旦取得した権利はその限度で当然に相手方らに帰属することになるのであって,本件相続財産は, Jと相手方らとの共有ないし準共有の状態にあるといえる。したがって,相手方らは,本件相続財産について,それぞれの遺留分の割合に相当する持分を有するものである。もちろん,遺留分算定の基礎となる財産は,相続財産のみでなく,一定の範囲の贈与も含まれるから(民法1030条, 1039条,1044条, 903条),正確にはこのような生前贈与の存否の調査を待って,本件相続財産に対する相手方らの具体的な被侵害額が確定されるのであるが,少なくとも本件記録上,このような生前贈与があったことを認めるに足りる資料はないのであって,相手方らが本件相続財産について各自の遺留分の割合に相当する持分を有するものとみて差し支えない。なお,抗告人らも,平成19年×月×日付けで相手方らの代理人弁護士に宛てた書簡(乙7)において,当該減殺請求は効力が生じているので,今後はその趣旨に沿い,全財産の4分のl相当額を分与するための手続を行うことを考えていると述べているのであって,相手方らが本件相続財産について遺留分の割合相当の持分を有することを是認している。② 抗告人らは,本件遺言書の内容が遺言者である亡Gの意思であるとして,本件相続財産の名義変更や預貯金の解約等の手続を行うに当たって,相手方らの遺留分に配慮する必要はなく,そうしなければならない法的根拠はないなどと主張する。確かに,遺言者である亡Gとしては,本件相続財産のすべてをJに遺贈することを所期していたものといえるが,遺留分権利者の権利は遺言者の意思に優越するのであり(しかも,後記のとおり遺言者である亡Gは遺留分減殺請求のあり得べきことを想定していた。),遺留分の減殺請求が適法にされた以上,その権利は当然に保護されるべきものであるから,遺言執行者としても,遺留分権利者の権利に配慮してその職務を遂行しなければならないのであって,抗告人らの上記主張は採用できない。また,抗告人らは,相手方らの減殺請求を受けたJとしては,遺贈の目的の価額を弁償することによって返還の義務を免れることができるから,その価額弁償に相当する金員の支払いを準備するために,預貯金等の金融資産を解約したりする必要があるなどと主張する。しかし,価額弁償の方法により,受遺者が返還の義務を免れる効果を生ずるためには,受遺者において遺留分権利者に対し,価額の弁償を現実に履行し又は価額の弁償のための弁済の提供をしなければならず,単に価額の弁償をすべき旨の意思表示をしただけでは足りない(最判昭和54年7月10日・民集33巻5号562頁参照)。したがって,本件でも, Jにおいて相手方らに対し,現実に価額弁償をし又はそのための弁済の提供をしなければ,本件相続財産について相手方らの共有持分権は消滅しないのであって,そのような処置に出ることなく相続財産を処分することは,相手方らの遺留分を侵害する行為であるといわなければならない。そして,上記のとおり,それがJのする価額弁償を準備するためのものであるとすれば,このような処分行為は,相手方らの主張するとおり, Jの利益にのみ備し,不公平であるとの詩りを免れない。そして,前記のとおり,本件遺言書には相続財産として9つの金融機関に対する預貯金債権や金融資産のあることが明記されていて,抗告人らがこれまでに作成した相続財産目録によっても,上記のとおりその総額は3790万円余りに及ぶというのであり,そのうち相手方らの遺留分の割合に相当する額もかなりの高額になることがうかがえる。したがって,この点も併せ考慮すると,抗告人らにおいて,相手方らが遺留分減殺請求権を行使したことを認識しながら,相手方らの了解を得ることなく,それらの全部又は大部分の払戻しをしたり名義変更の手続をした行為は,相手方らの遺留分に関する権利を侵害するものであるといって差し支えないばかりか,一方的にJの利益のみに偏したものであることは疑いないのであって,遺言執行者として職務遂行の適正性,公平性を欠くものであるといわざるを得ない。なお,抗告人らは,相続税の申告,納付の必要性も主張するが,その意図するところはJの相続税の支払いを慮っているにすぎないとみられるし,相手方らが抗告人らに対して,相手方らの納付すべき相続税の処理を依頼しているわけではなく,抗告人らにおいて,払い戻した預貯金等を相手方らのための支払いに充てたという事実も認められないのであるから,この点を考慮しでも,上記の説示は左右されない。③ 次に,相手方らは, ]がKやLに対し本件庖舗建物の明渡しを求め,かっ,その旨の訴訟を提起したことについて,抗告人らにおいて, ]の代理人としてその使用貸借契約ないし賃貸借契約を解除し,明渡しを求める書面を作成,送付するとともに,抗告人B及び同Cに至ってはそれらの訴訟においてJの代理人となったのであり,このような行為は遺言執行者として偏頗性・不公平性を示すものであると主張する。ところで,前記のとおり,本件相続財産である本件庖舗建物は,現在のところ, ]と相手方らの共有であり(]が現実に価額弁償をしたことを認めるべき証拠はない。),他に特段の事情のうかがえない以上,相手方らの遺留分の割合を考慮しでも, ]は過半数を超える持分を有しているといえる。そうすると,共有状態にある建物の使用貸借契約ないし賃貸借契約の解約は,共有物の管理行為であるから(民法252条),過半数の持分を有するJが共有不動産に関する利用契約を解除すること自体は,当然には問題にはならない(もちろん,その解除事由の存否や正当性については,別件の訴訟で決せられるべき問題である。)。しかしながら,本件において,特にKとの聞の使用貸借契約の解除行為について考えると, ]が主張する解除原因は,Kの代表者である相手方Dとの信頼関係が崩壊しているというものであって,いわばJと相手方Dという亡Gの相続人間における感情的な面も含めた諸々の対立が基礎にあることが明らかである。そうすると,抗告人らにおいて, ]の代理人として使用貸借契約を解除し,明渡しを求める書面を作成,送付したり,その上, ]の訴訟代理人となってKに対し共有建物の明渡しを求める訴訟を提起することは, ]と対立する相続人である相手方Dに対して,遺言執行者としての職務遂行の公平性に重大な疑念を抱かせるものであり,一方的にJに加担し,その利益に偏した行為といって過言ではない。したがって,抗告人らの上記行為は,相手方らの主張するとおり,相続人間の取扱いにおいて偏頗性・不公平性を示すものとの謗りを免れない。④ 本件においては,相手方らが本件遺言書の効力に疑問を持っているほか,亡Gの妻であるJと先妻の子である相手方らとの聞で激しい感情的な対立があり,遺言執行者である抗告人らとしては,その職務遂行に難儀を来していることがうかがわれる。しかしながら,このような事情を考慮しでも,以上の検討によれば,抗告人らは,遺言執行者として相続人間の取扱いに公平を欠き, ]の利益のみに偏した不適切な事務処理を行っているものというべきである。ウ遺言者の意思との関係について本件遺言書によれば,遺言者である亡Gは, 1条, 2条において相続財産をすべて奏であるJに取得させる旨を定めた上, 3条1項において遺言執行者を指定し,更に同条2項において遺言執行者に付与する権限について定めているところ,同項には,遺言執行者は,各種相続財産につき,これを相続人又は受遺者に引き渡すべきことが明記されている。そして,亡Gは,更に付言事項として,本件遺言書を作成した経緯,受遺者,相続人ら及び経営してきたKに対する心情を詳細に記述している。この記述によれば,亡Gは,①当初,子どもたちにKを運営する上で必要な分配をし, Jに将来の生活を考えた分配をすることを考えたが,誰に何を分配すればよいか決めかねていることから,相続財産の分配を遺言者が決めずにJに託そうと考えて本件遺言書を作成したこと, ② したがって,全相続財産をJに残して同女が自由勝手に財産を処分することを望んでいるものではないこと,③Jの生活に何が必要か,子どもたちには何が必要か,長男がKを運営する上でどうしたら相続財産が役立つのかをJを中心によく話し合ってほしいこと,④本件遺言書があっても遺産分割の方法や遺留分減殺の方法で話し合うことも可能であるから,具体的な手続は本件遺言書の原案を作り遺言執行者にもなっている抗告人らに相談して承継方法を考えてほしいこと,そして, ⑤何よりもKの将来の発展を願っていることなどを念頭に置いて本件遺言書を作成したことが認められる。上記のとおりの遺言内容に照らしてみると,亡Gは,遺産分割や遺留分減殺の方法で相続財産を相続人らの実情に適う方法で分配することをあり得べきこととして想定し,遺言執行者の権限に相続人ら(本件相手方ら)に対する相続財産の引渡しを意識的に盛り込み,相続人間の不公平がないような分配,特にKを運営する長男である相手方Dへの配慮を遺言執行者にも期待していたということができる。また,抗告人らは,上記のとおり本件遺言舎の原案を作成し,抗告人B,同Cは公正証書遺言の証人として立ち会っていたのであるから,このような遺言者の意思は十分認識していたということができる。そうしてみると,前記認定のとおり,抗告人らが,相続財産である預貯金等を相手方らの了解を得ずに, Jのために払い戻し,名義を変更したこと,そして,その現在の管理状況について相手方らに何らの報告,説明をしないまま放置していること,及びKに対して本件庖舗建物の明渡しを求め, しかも訴訟まで提起するについてJの代理人として関与したことは,いずれも遺言者である亡Gの上記意思に惇ることが明らかで,遺言者に対する背信的な行為であると評価することができる。エ以上のとおりであって,抗告人らについては,任務僻怠があるほか遺言執行者から解任されるについて正当な事由があるというべきである。
3 結論
よって,抗告人らについて,本件の遺言執行者からの解任を命じた原審判は正当であって,本件抗告はいずれも理由がない。(裁判長裁判官安倍嘉人裁判官内藤正之’後藤健)
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遺産分割申立事件寄与分を求める処分申立事件
一件記録によれば,以下のとおり認定及ぴ判断することができる。
1 相続の開始及ぴ相続人被相続人は,平成17年×月×日死亡し,相続が開始した。 その法定相続人は,同人の子供である申立人A,同B,同C及び相手方の4名であり,法定相続分は各4分のlである。
2 遺産の範囲別紙遺産目録A記載の不動産, B記載の預貯金及ぴ現金が被相続人の遺産であることは,当事者間に争いがなく,本件記録によってもこれを認めることができる。なお,別紙遺産目録B記載の7の預貯金の残高については,平成18年×月×日の審判期日における当事者の合意及びその後の調査結果に基づき,別表のとおり,相続開始時である平成17年×月×日時点の残高に,その後撮り込まれた平成17年4月分の賃料を加算し,そこから固定資産税の4か月分等及び駐車場の預かり保証金76万円を差し引いたものである。また, 同目録B記載の8の相手方保管の現金については,同様に, 450万円から葬儀費用等の409万8252円を差し引き,これに相手方の口座に振り込まれた被相続人の年金28万3879円を加えた68万5627円から,相手方が立て替え払いした被相続人の税金11万8900円を差し引いた金額である。
3 寄与分
(1) 相手方は,寄与分を主張する。すなわち,相手方は,平成元年に被相続人の喪Fが入院して以降,被相続人方の家事等生活の面倒を見てきたものであり,平成14年ころから,被相続人の認知症が進行し始めた後は,介護支援を行ってきたこと,被相続人が行っていた駐車場の経営を引き継いで管理,経営を行ったことにより,被相続人の財産の維持増加に貢献し, 7366万7600円の寄与分があるとの主張である。
(2) これに対し,申立人らは,平成14年以降の3年間については,相手方が被相続人の介護を献身的に行っていたことを認めるものの,その余の点については,相手方に特段の貢献があったものとは認められず,前記, 3年間の介護についても,相手方が被相続人宅に隣接した被相続人所有地に家を建て,地代等の負担もなく,長年住み続けている事怖を考慮すると,相手方の主張する7366万7600円という金額は過大に過ぎる旨,主張する。
(3) そこで,検討するに,被相続人の喪Fは,平成元年ころから,短期の検査入院を繰り返すようになり,平成7年×月に死亡したものであるが, Fの入院中は,相手方の婆が毎日病院に通うほか(口口在住の申立人Aも週にl回程度,病院を訪れていた。),相手方夫婦で,被相続人の家事全般の世話をしていた。F死亡後は,相手方の妻が昼食と夕食を作り,被相続人方に届けるほか,日常的な世話を行っていた。被相続人方の周囲は広いため,除草作業や清掃作業の負担は大きく,申立人Aもときどき庭や周囲の溝の清掃を手伝っていた。また,被相続人は,平成13年までは一人で新幹線に乗り,00に住む申立人Bや申立人Cの家を訪問してしばらく滞在していた。しかし,平成14年2月ころから被相続人に認知症の症状が顕著に出るようになったため,相手方は,被相続人の3度の食事をいずれも相手方方でとらせるようになり,被相続人が00を訪問するときは,相手方が往復とも被相続人に付きそうようになった。このころから,被相続人は常時,見守りが必要な状態となり,また,被相続人の排便への対応にも相手方は心を砕いていた。申立人らも,平成14年以降の3年間については,相手方が被相続人の介護を献身的に行っていたことを認めており,この期間については,相手方の被相続人に対する身上監護には,特別の寄与があったものと認められる。これに対し,平成14年2月より以前の被相続人に対する日常生活上の世話は,親族間の扶護協力義務の範囲のものであると認められ,特別の寄与とまではいえない。また,駐車場の管理について,相手方が具体的に行動し始めたのは平成13年2月ころからであり,駐車場の清掃,苦情への対応,顧客離れを防ぐための賃料の減額などを行っていたものであるが,相手方が平成14年1月から駐車場管理の報酬として月額5万円を取得していたことに照らし,相手方の駐車場の管理について特別の寄与があるとまで認めるのは困難である。
(4) 相手方の被相続人に対する身上監護については,親族による介護であることを考慮し, 1日当たり8000円程度と評価し,その3年分(1年を365日として)として, 8000円x365日x3=876万円を寄与分として認めることとした。4 特別受益
(1) 申立人Bに対する00市00区000丁目00-00の宅地の持分27分の5の生前贈与申立人Bは,平成14年から15年にかけて,被相続人から00市00区000丁目00-00の宅地の持分27分の5につき,申立人B及びその妻,子に対して贈与を受けており,この評価を相続開始時である平成17年の路線価を基に計算すると597万4388円となることは,申立人B自身が認めている。
(2) 申立人A,同B,同C及び相手方に対する各333万円の生前贈与当事者全員が,それぞれ被相続人から生前贈与として各333万円を受領したことを認めており,これについては,特別受益としては取り上げないこととした。
(3) 相手方の別紙遺産目録A記載5の土地の無償使用申立人らは,相手方が別紙遺産目録A記載5の土地を昭和51年1月から平成17年4月まで無償使用していることにより, 1256万3000円の特別受益を受けている旨主張する。相手方は,昭和51年ころ,被相続人夫婦が居住していた別紙遺産目録A記載3の土地の隣地である同目録A記載5の土地(被相続人所有)の上に自宅を建設し,同所で生活するようになったものであるが,被相続人としては,長男である相手方にそばにいてほしいとの考えから,同目録A記載5の土地の上に相手方の自宅を建設させ,特に土地使用料もとらなかったものと考えられ,その後,被相続人夫婦が次第に高齢となるに従い,相手方夫婦を頼りにし,その世話になることも増えていったことが窺えるものであり,被相続人の意識として,相手方の別紙遺産目録A記載5の土地の無償使用を遺産分割において特別受益として扱うことは予定していなかったものと推認される。また,前記,寄与分の判断において,長年にわたる相手方の被相続人に対する身の回りの世話のうち,平成14年以降の3年間についてのみ寄与分を認め,それ以前の時期については,特別の寄与とまで認定していないこととの対比においても,相手方の別紙遺産目録A記載5の土地の無償使用を特別受益とすることは,相当でない。
(4) 相手方の独身時代における親元での居住利益申立入らは,相手方が就労した後も, 30歳で結婚するまで親元で生活し,住居費の支出を免れるとともに,両親から食事のサービスを受けていたことについて,特別受益として主張するようであるが,これは特別受益にはあたらない。
(5) 相手方の住宅建設時の資金援助申立人らは,相手方が自宅を建設する際,被相続人から材木購入代金670万円の援助を受けていると主張するが,これを認めるに足りる資料はない。
(6) 相手方に対する亡母F葬儀残金の贈与申立人らは,相手方が亡母Fの葬儀後,被相続人から残金260万円を贈与されたと主張するが,これを認めるに足りる資料はない。
5 遺産の現状及び評価
(1 ) 別紙遺産目録A記載1の土地は,駐車場,広告塔用地として利用されており,相手方が管理している。同土地上に同目録記載2の建物が建っている。同目録記載3の土地の上に同目録記載4の建物が建っており,現在,居住者はおらず,相手方が管理している。同目録記載5の土地の上には,相手方の居宅がある。別紙遺産目録B記載の預貯金・現金は,相手方が管理している。
(2) 別紙遺産目録A記載1ないし5の各不動産の評価は,別紙遺産目録記載のとおりとすることに,当事者全員が合意している。なお,別紙遺産目録A記載5の土地については,同土地上に相手方所有の建物が建っていることから,当事者全員の合意により,使用借権分として土地本来の価額から15パーセントを減じた価額を同土地の評価額としたものである。
6 各人の具体的相続分
(1) 審判時における遺産は,不動産がl億7791万4766円,預貯金・現金が3439万8153円の合計2億1231万2919円である。これに申立人Bの特別受益597万4388円を加えると2億1828万7307円となる。
(2) 相手方に876万円の寄与分が認められるので,これを差し引き,残額2億0952万7307円を法定相続分各4分のlで分けると,各人の取得分は5238万1826円となる。
(3) したがって,各人の具体的相続分額は,以下のとおりである。ア申立人A及び同C各5238万1826円イ申立人B5238万1826円-597万4388円=4640万7438円ウ相手方5238万1826円+876万円=6114万1826円
7 分割についての当事者の意見等
(1) 申立入らの希望ア第1希望① 別紙遺産目録A記載1及び2の不動産は,申立入らの持分各3分のlの共有とする。② 同目録A記載3ないし5の不動産は,相手方の取得とする。ただし,相手方の相続分を超えるときは,代償金の支払いにより調整する。① 同目録Bの預貯金・現金は,申立入らが取得する。イ第2希望① 別紙遺産目録A記載1ないし4の不動産は,申立人らの持分各3分の1の共有とする。ただし,申立人Bにつき,特別受益のため,持分3分のlとすることが過大である場合には,持分を相応に減少させる。② 同目録A記載5の不動産は,相手方の取得とする。③ 同目録Bの預貯金・現金は,按分する。
(2) 相手方の希望別紙遺産目録A記載し2及び5の不動産を取得する場合には,代償金は2500万円まで支払える。申立入らと遺産の不動産を共有することは希望しない。
8 遺産の分割
(1) 相手方は,自宅の敷地である別紙遺産目録A記載5の土地のほか,駐車場である同目録A記載し2の不動産の取得を希望するようであるが,これらの不動産の評価額の合計は1億2512万0249円となり,相手方の具体的相続分額6114万1826円との差額が6397万8423円にものぼり,支払うべき代償金が相手方の支払可能金額を大きく超えることとなるため,相手方には,不動産としては,自宅の敷地である別紙遺産目録A記載5の土地のみを取得させるのが相当である。
(2) 申立人らは,第2希望ながら,別紙遺産目録A記載lないし4の不動産の持分各3分のlでの共有を希望している。この点と申立人A及び同Cに比べ,申立人Bの具体的相続分が少ない点を考慮し,別紙追産目録A記載1及び2の不動産を申立人らの持分各3分のlでの共有とし,同目録A記載3及び4の不動産を申立人A及び同Cの持分各8分の3,申立人Bの持分8分の2での共有とすることとした。これにより,申立人Bは, 4373万4858円相当,申立人A及び同Cは各5033万4173円相当の不動産を取得することになる。申立人ら各人の具体的相続分との差額については,別紙遺産目録B記載の3の預金から取得させることとする。申立人A及び同Cは各204万7653円,申立人Bは267万2580円である。
(3) 相手方には,具体的相続分6114万1826円と別紙遺産目録A記載5の土地の評価額3351万1562円との差額2763万0264円を預貯金及び現金で取得させることになる。すなわち,相手方には,別紙遺産目録B記載の1,2, 4ないし7の預金の全部, 8の現金の全部及び3の預金のうち391万9028円を取得させることになる。なお,別紙遺産目録B記載の3の預金に平成18年11月14日以降の利息がついている場合には,各人の取得金額の割合に応じて利息を取得させることとした。
9 手続費用の負担本件手続費用は,各自の負担とするのが相当である。よって,主文のとおり審判する。(家事審判官牧其千子)
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特別養子縁組成立申立事件
1 一件記録によれば,次の各事実が認められる。
(1) 申立人A及び同B (以下,それぞれ「申立人(夫)」「申立人(妻)」といい,両者をあわせて「申立人夫婦」という。)は,平成3年×月×日に婚姻した,いずれも25歳以上の夫婦である。申立人夫婦は,実子に恵まれなかったことなどから,平成8年×月×日○○児童相談所に里親登録をした。申立人夫婦の聞には,平成10年×月×日,長男F(以下「実子Jという。)が出生したが,同人らは,数年間にわたって里親としての研修等を受ける中で\虐待されたり育児放棄を余儀なくされる子らの実態を知り,なお生育環境に恵まれない子を実子同様に育てたいとの考えを持つに至り,里親登録を継続した。
(2) 事件本人D(以下「実父」という。)及び同E(以下「実母」という。)は,平成11年×月×日に婚姻し,両者の聞には,平成12年×月×日,長男G(以下「実兄」とし、う。)が,平成14年×月×日,事件本人c(以下「事件本人」という。)が出生した。・事件本人は,平成15年×月×日ころ,風邪のため,実母方祖父母に連れられて病院で受診したところ,体重が生後11か月で7.5キロと少なく(乳幼児[男子]体重発育パーセンタイル曲線のー分布から外れる。).必要な予防接種等も受けていなかったことなどから.co児童相談所に通告され,その後,同年×月×日に乳児院に緊急一時保護,同月×自に同院に入所措置となった。なお,実兄についても,平成12年×月と平成13年×月に児童相談所にいわゆるネグレク卜で通告され,平成14年×月×日,乳児院に入所措置となり,その後,児童養護施設を経て,平成16年×月以降.co市内の里親に里親委託されている。
(3) 実父と実母は,平成15年×月× 日,離婚し,実母が実兄及び事件本人の親権者となった。実母は,離婚後,交際相手である当時17歳の少年宅に身を寄せるなどしていたが,平成16年×月ころ.0ム県に転居し,弁当の製造作業やファストフードのアルバイト等をしつつ,別の男性と同棲するなどの生活を送っている。実母は,事件本人が申立人夫婦と特別養子縁組をすることについて,同意書を提出してこれに同意している。実父は,平成15年×月ころ,実母の交際相手で・あった少年の姉であるH及びその連れ子であるIとムム県に転居し,平成16年×月×日,Hと婚姻するとともに同年×月×日にHが出産したJと養子縁組した(なお,実父は,平成20年×月×日.Jを.Hとの聞の長女として認知した。)。実父とHの聞には.平成18年×月×日,二女K (同年×月×日死亡)が,平成19年×月×日,三女Lが,平成20年×月×日,長男Mが出生した。実父は,家族らと岡県内で転居を繰り返しつつ,派遣会社やガソリンスタンド等で稼働している。実父は.事件本人を引き取りたい旨述べ,事件本人と申立人夫婦との特別養子縁組に同意していない。
(4) 事件本人は, 平成16年×月×日から,申立人夫婦に里親委託され,現在まで引き続き申立人夫婦に監護養育されている。申立人(夫)はCわ県職員,申立人(妻)は専業主婦で,住所地に実子及び事件本人のための部屋がある二階建て家屋を所有している。申立人(妻)は,事件本人の主たる養育者として,常におおらかな態度で、事件本人の養育にあたっており,事件本人はかけがえのない家族の一員で,その成長につれて様々なことが起こると思うが家族で力を合わせて乗り越えてゆきたし、旨述べている。申立人(夫)も,事件本人の養育に対して協力的で,実子と事件本人が兄弟として相乗効果を発揮しつつ育つことを期待する旨及び家族の粋の大切さを教えていきたい旨述べている。事件本人は,体格的にやや小柄であるが,運動面,言語面,身辺処理能力等において年齢相応の発達をしており,申立人らに強い愛着を示し,実子とも突の兄弟のように親和している。事件本人は,平成21年4月より,小学校に入学し,元気に通学している。
(5) なお,申立人夫婦は,平成16年×月×日,事件本人を特別養子とする審判の申立てをしたが(当庁平成16年(家)00号特別養子縁組事件,以下「前件」という。),実父の同意、が得・られなかったことから,平成18年×月×日,特別旋子縁組の年齢制限を踏まえて再度の申立てをすることを前提にして,前件を取り下げた。
2 以上によれば,申立人夫婦は,経済的・社会的に安定しており,共に事件本人に対する十分な愛情に裏付けられた強い養育意欲を示しつつ,事件本人に対して適切な監護旋育を継続している。事件本人は,そのような申立人夫婦及び実子も含めた良好な家族関係の中に在って, 1歳10か月の時から現在まで5年以上の聞にわたって,順調に生育している。他方,上記のような実父及び実母の各実情(実父については後述の点も含む。)からすれば,実父文は実母が事件本人を監護することは著しく困難又は不適当であると認められ,事件本人を申立人夫婦の特別養子とすることがその利益のために特に必要であるといえる。
3 実父の同意がない点について,当裁判所は以下のように判断する。
(1) 実方血族との親族関係が終了するとし、う特別養子縁組の効果からして,養子となる者の父母の同意が得られない場合,軽々に特別養子縁組が認められるべきでないことはし、うまでもない。しかし,本件においては,以下のような事情が認められる。前記1(2)記載のように.事件本人及びその実兄は,実父母の下において,いわゆるネグレクト状態に置かれ,共に児童相談所への通告や乳児院への入所措置等が繰り返されている。また.一件記録によれば,Hの連れ子であるIは,平成17年×月ころ,ムム児童相談所に虐待通告され,その後も児童養護施設への入所等を繰り返しており,さらに, 実父とHの長女であるJについても,平成18年ころから児童養護施設への入所や,里親委託等がなされている。実父は,本件手続の当初においても.事件本人の特別養子縁組に反対し,親権者変更の手続をするつもりである旨の回答をしているが,実際には,前件で同様の回答をして以降,現在まで,何ら引取りのための手続をしていない。実父は,その後.家庭裁判所調査官からの, △△家庭裁判所文は実父方に調査官が出向いて面会するための日時場所等の意向を閉し、合わせる照会話(平成20年×月×日付及び同年×月×日付)や電話連絡等に全く応答しなくなり,また,家庭裁判所調査官において,事前に,日時場所を指定し,不都合であれば連絡を諾う旨記載した連絡文書(平成20年×月×日付)を送達の上,平成20年×月×日,△△家庭裁判所に出張調査に赴いた際も,何らの連絡もなく出頭せず,さらに,平成21年×月×日,実父の陳述を聴くために指定された審判期日にも連絡なく出頭しない。なお,一件記録によれば,実父は,前件における家庭裁判所調査官とのやりとりや,本件における申立人夫婦からの実父宛の手紙等を通じて,事件本人の良好な生育状況についてある程度の情報を得ているものと推認される。
(2) 以上の各事実からすれば,現状において,事件本人を5年以上も安定的に護育してきた申立人夫婦らの家庭から引き離すことは,事件本人に混乱と打撃を与えるだけでその福祉に沿わない反面,実父の過去の事件本人及び実兄に対する監護状況並びに現在の家庭における子らに対する監護環境は.子の福祉という観点からは問題があるといわざるを得ず,また,同意、できないとする実父の意向は,親としての気持ちの表れである面を否定はできないものの,事件本人を引き取ると言いながら何らの手続もしないのみならず,事件本人の将来にとって極めて重要な本件における調査や審判期日に何らの応答もせず,事件本人の良好な生育状況をある程度認識しながらいたずらに特別養子縁組に反対する実父の行動は,その気持ちに反して,事件本人の将来にわたっての安定的な生育環境を阻害する結果をもたらしかねないもので,いわば同意権の濫用にあたるものである。不同意を巡るこれらの事実関係は,養子となる事件本人の健全な生育の著しい妨げとなるもので,その利益を著しく害する事由がある場合に該当するというべきである。
(3) そうすると,本件については,実父の同意なしに特別養子縁組を成立させるのが相当である。4 よって,本件申立てを相当と認め,主文のとおり審判する。(家事審判官小川直人)
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遺産分割及び寄与分を定める処分審判に対する抗告事件
第1 事案の概要等
l 事案の概要
(1) 被相続人は,平成14年×月×日に死亡し,相続が開始した。その相続人は,被相続人の長女・D,二女.H,四女.A,長男・C及ぴ五女.Bの5人(妻及び三女は既に死亡)で,法定相続分は各5分のlであった。
(2) Aは,平成14年×月×日,被相続人の遺産分割を求める調停を申し立てたが,平成16年×月x日に調停不成立となり,原審判手続に移行した。その後, cは,平成16年×月×日,寄与分を定める処分に係る審判申立てをした。
(3) Hは,平成16年×月×日に死亡し,その夫であるE,その長女であるFが各2分のlの割合でその相続分を承継した。
(4) D, E及びFは,平成16年×月×日,その相続分をCに譲渡して原審の手続から脱退した。その結果,各自の相続分は, cが5分の3, A及びBが各5分のlとなった。
(5) 原審は,平成18年×月×日,cの寄与分を2808万0970円(遺産評価額合計9360万3235円の30%) と定め,被相続人の遺産は,原審判別紙土地目録記載の土地(以下,一括して「本件土地」という。),同建物目録記載の建物(以下「本件建物」という。)及び同株式目録記載の株式(以下,一括して「本件株式」ということがある。)であり,各当事者主張の特別受益を,いずれも持ち戻すべき贈与に当たらないとした上で,分割方法として,本件土地建物をCの取得とし,本件株式は,原審判主文のとおり三者に分割し, cに,代償金として, Aに対して147万9312円, Bに対して537万3135円の各支払を命じる旨の原審判をした。
(6) Aが原審判を不服として即時抗告をしたのが本件である。
2 抗告の趣旨及び理由
(1) Aは,原審判を取り消し,本件を原審に差し戻す旨の裁判を求めた。
(2) 抗告理由は,別紙のとおりであるが,その要旨は,次のとおりである(なお,Bも,概ねAと同趣旨の意見を述べた。)。アCとAとの教育出費には歴然たる差があり, cが中学校・私立大学を通じて受けた学費・生活費の援助は特別受益とすべきである。イ原審判がCの寄与分を遺産の30%としたのは過大である。(ア) 原審判は, cが昭和29年から本相続開始まで被相続人の農業を手伝ったとしたが,実際には,被相続人が自ら農耕するか,賃貸していたもので, cが手伝った実態はなく,あるとすれば,昭和50年頃まで農繁期で学校の合聞に手伝ったに過ぎず,資産の維持に当たらない。(イ) 原審判は, cが不動産の取得維持管理に3488万円を支出したとするが,農場整備費(原審判別紙C支出一覧表4ないし6(計457万6905円))は, cが負担した証拠がなく,国営農地開発事業負担金(同70 152万1520円)は,被相続人死亡後に発生した債務を含んでいると考えられ,本宅の修理や壁塗替え(同16,32。計92万6855円)は,被相続人死亡後にCらの居住改良のために行われたものであり,回の買い戻し(同8, 9。計428万5000円)はその土地や取得者等が明らかでなく,本宅下家・蔵修理(同23) のうち住宅改造工事254万3000円は,改造の場所・程度が不明であり,下水道,風呂,水洗化等の改良工事(同18,21, 22。計944万1503円(原審認定額))は,被相続人のためではなく,もっぱらCやその長女Iの2世帯のための改造で財産の維持・増加にも当たらず,造園敷石工事(同330 138万円)も,CやIが車の乗り付けが便利なように改造したもので財産の維持・増加に当たらない。したがって,少なくとも前記合計2109万円余りをCの支出から差し号|いて寄与の有無を判断すべきであり,その余の支出についても,証拠不明のものがある。(劫療養介護の寄与の評価も過大である。被相続人は高齢になっても健康で記憶もしっかりし,平成11年に要介護認定を受けた後も,排世には一定の介助が必要であったとしても,寝たきりでも,重度の認知症でもなく,デイケアに通い得る体力もあったもので,介護は相互扶助の範囲内に近いものである。また,Cは,家屋構造上,高齢者向きに排地可能な改良を行うべきであったのに,これを怠り,排尿立を抑えるため午後には水分を与えないなどしていたもので,特別寄与と評価できる物的人的手当はない。ウ遺産の範囲について, cは,被相続人の預金通帳を管理し,平成8年×月から相続開始までの聞に, 1794万1502円(うち350万円は被相続人が霊鰐な状態にあった平成14年×月×日)を引き出しており,その使途を説明すべき義務があり,泣産の範囲の問題として整理されるべきである。エ分割方法について,動産のうちに, 「百寿図」という掛軸があるはずで,これはAが米寿の祝いに贈呈したものであり,評価額は微少かもしれないがAに分配されたい。
第2 当裁判所の判断
l 相続の開始,相続人及び相続分原審判3頁2行目から14行固まで記載のとおりであり,相続分説渡後の相続分は, cが5分の3,AとBが各5分のlである。
2 遺産の範囲
(1) 原審判3頁16行目から4頁5行目まで記載のとおりであり,原審判別紙記載の土地,建物,株式以外に遺産分割jの対象とすべき遺産が存するとは認められない。
(2) Aは,平成8年×月から相続開始までの聞に,被相続人名義の預金から合計1794万1502円が引き出されたとして,これを遺産の範囲の問題として主張する(抗告理由ウ)。Cは,これに対し, 850万円余りは,c及びその妻の資金を被相続人の非課税枠を利用して預金していたものであり, 148万円は,被相続人が管理していた平成元年×月に自ら引き出したもので使途等は不明であるとし,その余については, 20万円から30万円ずつ引き出して被相続人に渡していたと主張する。そこで検討するに,仮に,前記預金について, cが被相続人の財産を正当な理由無く取得したものであったとしても,相続開始時点においては,それは,不当利得返還請求権等の金銭債権に転化しているため,法律上当然に分割されるものとされているから,当事者の合意がない限り遺産分割審判の対象となるものではない。そして,本件においては,そのような合意が存するものと認めることはできないから,これを遺産分割の対象財産とすることはできない(この解決は,遺産分割とは異なる民事訴訟等の手続により,別途解決が図られるべきものである。)。また, Aは,動産として, 同人が被相続人の米寿の祝いに贈呈した「百寿図」の掛軸があるとして, これを分割の対象どすべき旨主張する(抗告理由エ)。これに対し, cは,「百寿図」の掛け軸は,自己の還暦祝いに寄贈を受けた品物であるが,Aに返却する旨回答している。本件記録上,この掛軸が,被相続人の遺産に含まれるか否かについては明確な資料がなく,更に,その評価についても的確な資料が見当たらないところ,上記のとおり,その経緯にかかわらず,cが返却の意向を述べていることを考慮すると,これが遺産か否かについて当審において検討するよりも,遺産として扱うことなく,別途当事者間での解決に委ねるのが相当である。抗告理由ウ及びエは,いずれも採用できない。
3 特別受益
(1) 当裁判所も,本件では,各当事者につき,特別受益として持ち戻すべき生前贈与等は存しないものと判断する。その理由は,原審判4頁7行目から6頁11行目まで記載のとおりである。
(2) Aは,学費に閲して, cとAらは,共に高等教育ではあるとしても,実際の教育出費には歴然たる差がある旨指摘する(抗告理由ア)が,本件のように,被相続人の子供らが,大学や師範学校等,当時としては高等教育と評価できる教育を受けていく中で,子供の個人差その他の事情により,公立・私立等が分かれ,その費用に差が生じることがあるとしても,通常,親の子に対する扶養のー内容として支出されるもので,遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般であり,仮に,特別受益と評価しうるとしても,特段の事情のない限り,被相続人の持戻し免除の意思が推定されるものというべきである。抗告理由アは,採用できない。
4 寄与分
(1) 当裁判所は, cの寄与分の評価については原審と見解を異にし,これについては,本件遺産の15%と評価するのが相当と判断する。その理由は,次のとおり付加変更するほか,原審判6頁13行目から9頁12行固まで記織のとおりである。ア原審判7頁23行目「4ないし13,16ないし33Jをf4ないし7,10ないし13,17ないし31,33」 と改める。イ同8頁13行目「認められる。」の次に「同表8,9は,買い戻しの対象となった不動産が相続財産中には無く,同表16,32は,いずれも相続開始から1年8か月後の出費であって,被相続人はその支出による利益を受けておらず,相続財産の客観的価値を現実に高めたとも認められないから,いずれも寄与分の評価において重視することはできない。jを加える。ウ同頁26行目「3488万円余り」を「2967万円余り」と改める。エ同9頁6行目から12行固までを次のとおり改める。「そして,被相続人は平成10年頃からは認知症の症状が霊くなって排他等の介助を受けるようになり,平成11年には要介護2,平成13年は要介護3の認定を受けたもので,その死亡まで自宅で被相続人を介護したCの負担は軽視できないものであること, cの不動産関係の支出は,本件の遺産の形成や維持のために相応の貢献をしたものと評価できるけれども,本件建物の補修費関係の出費は,そこに居住するC自身も相応の利益を受けている上に,遺産に属する本件建物の評価額も後記のとおりで,その寄与を支出額に即して評価するのは,必ずしも適切でないこと,更に農業における寄与についても, cが相続人間では最も農地の維持管理に貢献してきたことは否定できないが,公務員として稼働していたことと並行しての農業従事であったことをも考慮すると,専業として貢献した場合と同視することのできる寄与とまでは評価できないこと,cは,もともと,親族として被相続人と相互扶助義務を負っており,また,被相続人と長年同居してきたことにより,相応の利益を受けてきた側面もあること等本件の諸事怖を総合考慮すれば,cの寄与分を遺産の30%とした原審判の判断は過大であって, その15%をもってCの寄与分と定めるのが相当というべきである。そうすると,後記のとおり,本件遺産の評価額合計は, 9360万3235円であるから, cの寄与分は,その日%に当たる1404万0485円となる。」
(2) 抗告理由イは,前記説示に沿う範囲で理由があるものというべきである。
5 遺産の評価原審判9頁14行目から10頁4行目まで記載のとおりである。
6 具体的相続分本件遺産の評価額は,原審判別紙株式目録,同土地目録及ぴ建物目録記載のとおり合計9360万3235円であり(原審判10頁6行固ないし9行目),また, cの寄与分は,前記のとおり1404万0485円であるから,各人の具体的相続分は,次のとおりとなる。
(1) c(9360万3235円一1404万0485円)x 5分の3+1404万0485円=6177万8135円(2) A及びB(9360万3235円一1404万0485円) x 5分の1=1591万2550円
7 分割に関する当事者の意見
(1) A抗告理由エのとおり掛軸を希望するほか,原審判10頁26行目から11頁3行固まで記載のとおりである。
(2) B原審での希望は,原審判11頁5行目から6行固まで記載のとおりであったが, 当審での意見書では,現物分割できるものは現物で相続すべきであり,不動産の相続は主張しないが,代償金による株式等の減少は認めたくない,と主張する。
(3) c原審判11頁8行目から11行目まで記載のとおりである。
8 当裁判所の定める分割方法
(1) 本件土地及び本件建物については,本件の経緯及び不動産の利用状況等からみて, cの取得とするのが相当である。その理由は,原審判11頁14行目から12頁6行固まで記載のとおりである。
(2) 本件株式についてア本件株式の現況は,原審判12頁8行目から12行自まで記載のとおりである。イそして,前記の各当事者の希望のほか,当事者聞の公平の見地から,株式は等分に近い形で分割することとし,その他本件の諸事情を考慮して,別紙株式分配表記載のとおりに当事者に分配して取得させることとし,併せて, cに対し対応する株券の引渡を命じるものとする。ウ上記を合計すると,株式の取得額は,cが1411万8214円, Aが1318万4029円, Bが1307万5144円となる。
(3) A及びBの具体的相続分と前記取得分の差額は, cが代償金を支払う方法によるのが相当であり,その金額は,上記具体的相続分額と株式取得分との差額であるから, Aに対しては272万8521円, Bに対しては283万7406円となる。そして,記録によれば, cに上記代償金を支払うに足りる十分な資力があると認めることができる。なお,その支払期限としては,本件決定確定後3か月間の猶予を置くこととする。
9 以上の次第で,本件抗告は,前記説示に沿う範囲で理由があるから,家事審判規則19条2項により,原審判を変更することとし,主文のとおり決定する。( 裁判長裁判官田中批太裁判官松本久蔚木稔久)
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2012年2月26日 | コメント/トラックバック(0) |
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親権者変更申立事件
1 本件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1) 申立人は.1975年(昭和50年) ×月×日に中華人民共和国(以下「中国」という。○○省で出生した,中国国籍を有する者である。相手方は.1952年(昭和27年) ×月×日に中国△△省で出生した,中国国籍を有する者である。申立人と相手方は.1999年(平成11年) ×月×日に婚姻した。
(2) 申立人の母の夫及び相手方の母は日本人である。申立人と相手方は.1999年(平成11年)から日本で生活をしており, 日本の永住権を取得している。
(3) 2002年(平成14年) ×月×日,申立人と相手方との聞に,未成年者が出生した。申立人相手方及び未成年者は.○○市○○町にある公営団地のアパート(以下「本件アパート」とし、う。)において同居していた。本件アパートには, 5畳の空き部屋, 6畳の寝室, 6畳のリピング、3畳のキッチン,風呂及びトイレがある。
(4) 申立人と相手方は.2007年(平成19年) ×月,協議離婚をした。その際には,未成年者は相手方において養育することになっており,申立人は,離婚届に未成年者の親権者になるべき者は相手方であ62・1-112る旨の記載をして,同月×日○○市役所に提出した。
(5) 申立人は, その後本件アパートを出て別の場所で生活をしている。 本件アパートには,相手方と未成年者が生活をしているが,申立人及びその母が本件アパートに行き,未成年者の食事の準備等をしている。申立人は,週2ないし3回,夕方の相手方のいない時間帯に本件アパートを訪れ,掃除をし,未成年者の宿題を見て,未成年者の洗濯物を申立人方に持ち帰っている。申立人の転居先は, 6畳の台所の他に6畳の寝室と6畳の和室があるアパートであり,清潔に保たれている。
(6) 相手方は, アパート等の整備の日雇いアルバイトをしている。その収入は,本人の申告によれば,半年間で約64万円である。相手方は.泊まりがけで仕事に出ることがあり,その場合には申立人の母が本件アパートに来て未成年者の面倒を見るなどしている。申立人は,スナックを経営しており,午後7時から午前1時までの勤務で,月収は30万円から50万円程度であり相当の貯蓄も有している。相手方は,申立人から,未成年者の生活費として月5万円程度を受け取っている。
(7) 申立人は,平成20年×月×日,未成年者の親権者を相手方から申立人に変更することを求める旨の本件申立てをした。なお,申立人は,平成21年× 月×日の審判期日において,本件申立ては,未成年者について中国婚姻法36条にいう「撫養」をする者を相手方から申立人に変更することを求める趣旨であると述べた。
(8) 未成年者は,平成20年×月×日の調停期日に,申立人とともに当庁を訪れたが,申立人と良好な関係にある様子であった。同年×月×日の調停期日にも,申立人とともに当庁を未成年者の撫護者を相手方から申立人に変更する。理自未成年者は,訪れた。未成年者は.申立人にまとわりついていたが,相手方は,申立人に抱きつく未成年者を無理に引き離して連れ帰った。
(9J 平成21年×月の時点では,本件アパートは.洗溜前の衣類や菓子等が散らかっているなど不衛生な状態であった。相手方は,食事を作ることはしておらず,未成年者が,パンを焼くなどを行っている。未成年者は,相手方は入浴をしないので臭い旨の発言をしていた。未成年者は,押入れを自室として使用していた。
2 国際裁判管轄親権者の指定又は変更や子の監護に関する処分に係る事件について,子の住所地国の裁判所は,国際裁判管轄を有すると解することが相当である。本件においては,未成年者は日本に住所を有するから,本件申立ては日本の国際裁判管轄に属すると解される。
3 準拠法親権者の指定又は変更や子の監護に関する処分については,法の適用に関する通則法32条にしろ親子聞の法律関係に当たり.子の本国法が父文は母の本国法と同一である場合には,子の本国法によると解される。本件においては,未成年者及び当事者双方の本国法はし、ずれも中国法であるから,中国法が準拠法になると解される。
4 判断
(1) 中国法においては, 日本法における「親権」に相当する統一的,集合的な概念はなく,r監護人」の地位に基づく未成年の子女に対する法定代理権,未成年子女の身分上,財産上その他の合法的な権益を保護する権利及び義務,子女に対する撫義教育の権利義務という個々の権利義務の内容ごとに個別の規定が設けられているにすぎない。したがって,親権者であるとか,その指定又は変更ということは,観念することができなし、。
(2) 中国法には,子の監護養育に関し,以下の規定がある。離婚後は,父母は,子に対し依然として撫袈及び教育の権利及び義務を有する(中国婚姻法36条2項)。離婚後は,晴乳期内の子女は,授乳する母が撫養を為すのが原則である。l浦乳期後の子女は,双方の聞に扶養問題で争いが発生し協議を達成することができないときは,人民法院が,子女の権益と父母双方の具体情況に根拠して判決する(同条3項)。そして,ここに「撫養」とは,義務のみならず権利としての側面も有するものであるから,未成年者に対する経済的な扶養にとどまらず,監護養育を含む概念であると解される。
(3) 中国婚姻法36条3項にいう人民法院の判決については,事件が日本の国際裁判管轄に属するために日本の家庭裁判所に申立てがされた場合には,家庭裁判所が家事審判法9条1項乙類4号の審判により代行することができると解することが相当である。
(4) 以上のような前提に立って,本件について検討をする。1 (9)で認定のとおり,相手方は食事を作っていないなど,未成年者に対する監護状況は良好なものとはし、L、難いことや, 1 (5)で認定のとおり,申立人は,別居はしているものの,相手方のいない時間帯に本件アパートを訪れ,掃除,洗濯等を行っていること, 1 (6)で認定のとおり,経済的にも申立人の方が余裕があること,1 (8)で認定のとおり,未成年者はむしろ申立人に親愛の情を抱いていると認められることからすれば,申立人が未成年者を本件アパートに残す形で別居に至ったことや,当該別居後に未成年者が相手方の下で養育される状態が相当期間継続していることなど,相手方にとって有利な事情を考慮したとしても.旗護者を相手方から申立人に変更することが未成年者の将来的な福祉に適うものと判断される。
(5) なお,相手方は,離婚の際に当事者聞の協議によりし、ったん撫護者が相手方と定められた以上,後に撫護者を変更することはできないはずである旨の主張をする。しかし,中国法においては,父母は離婚後も子に対し撫養の権利義務を有するとされており(中国婚姻法36条2項).離婚の際に撫養者にならなかった側であっても,後に撫養者になるとしみ事態が想定されているということができる。また,そうである以上,同条3項にいう撫養問題の争いは,離婚後においても発生し得るものであるから,同項は,離婚時のみならず離婚後において父母の聞に撫養問題の争いが発生した場合にも適用されると解することが相当である。そうすると,離婚の際にいったん当事者の協議により撫護者が定められた場合であっても,離婚後に撫養者の変更をすることは可能であり,撫養者の変更について協議が調わないときは,撫護者を変更する旨の裁判をすることができると解される。したがって,相手方の当該主張は,採用できない。
(6) よって,本件申立ては理由があるから,主文のとおり審判する。(家事審判官岩松浩之)
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子の監護者の指定審判及び子の監護に関する処分(子の引渡し)申立却下審判に対する抗告事件
第1 抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨及び理由は, 別紙即時抗告申立書(写し)記載のとおりである。
第2 事案の概要
1 本件は,①本件未成年者の祖父母である相手方らが,相手方らと同居している本件未成年者について, その監護者を相手方らと指定することを求め,これに対し,②本件未成年者の親権者である抗告人が,相手方らに対し,本件未成年者を引き渡すことを求めた事案である。
2 原審判は,本件未成年者の監護者を相手方らと定め,かつ,抗告人の本件申立てを却下する旨の審判をした。
3 抗告人は,原審判の上記判断を不服として本件抗告を申し立てた。
第3 当裁判所の判断
1 職権をもって判断する。
(1) 家庭裁判所は,法が定める事項について審判を行う権限を有する。家事審判法第9条第1項が家庭裁判所の審判事項を定めるほか,同条第2項により,家庭裁判所は,他の法律において特に家庭裁判所の権限に属させた事項についても,審判を行う権限を有する。上記のとおり,法により家庭裁判所の審判事項として定められ,及び審判を行う権限を特に付与された事項以外の事項については,家庭裁判所は審判を行う権限を有しないのであり,家庭裁判所に対して上記の事項以外の事項について審判の申立てがされた場合は,これを不適法として却下すべきである。
(2) 相手方らの申立てについて相手方らは,家事審判法第9条第1項乙類第4号を根拠として相手方らを本件未成年者の監護者として指定することを求める申立てをしているが,本件記録によれば,本件未成年者には母である抗告人と父とがあり,その協議離婚に際し両名の協議により母である抗告人を本件未成年者の親権者と定めたこと,相手方らは抗告人の両親であり,本件未成年者の祖父母であるて本件未成年者を現に監護する者であるが, 未成年後見人その他の法令に基づく権限を有する保護者ではないことが認められる。家事審判法第9条第1項乙類第4号は,その文言(「民法第766条第1項又は第2項(これらの規定を同法第749条,第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分」) 及びその趣旨によれば,民法の上記各規定が,未成年の子の父母が離婚その他婚姻関係を解消するに際し,両者の間の未成年の子の監護者を指定し,及び監護に関する処分をするについて家庭裁判所がこれを定める旨を規定していることを受け,上記のとおり審判事項を定めているというべきであるから,本件のように,未成年の子に父母があり,その一方が親権者として定められている場合に,未成年の子の父母以外の親族が自らを監護者として指定することを求めることは,家事審判法第9条第1項乙類第4号の定める審判事項には当たらないというべきである。その他,同法その他の法令において上記の場合に未成年の子の父母以外の親族が自らを監護者として指定することを求めることを家庭裁判所の審判事項として定める規定はない。したがって,相手方らの本件申立ては,法により家庭裁判所の審判事項として定められていない事項について家庭裁判所の審判を求めるものというほかはないから,不適法として却下すべきである。(3) 抗告人の申立てについて抗告人は,家事審判規則第53条を根拠とし,相手方らに対して本件未成年者を引き渡すことを命ずる旨の審判を求める申立てをしているが,同条は家事審判法第9条第1項乙類第4号が上記のとおり規定していることを受け,家庭裁判所が,同号に基づき子の監護者の指定その他子の監護について必要な事項を定め又は子の監護者を変更し,その他子の監護について相当な処分を命ずる審判において,子の引渡しを命ずることができる旨定めているのであり,家事審判法第9条第1項乙類第4号が上記のとおり定める審判事項以外の事項を家事審判規則第53条が審判事項として定める趣旨のものではないことが明らかである。その他民法及び家事審判法が審判事項として定める事項以外の場合に,親権者が未成年者を現に監護する者に対して家庭裁判所が審判により未成年者の引渡しを命ずることができる旨を定める法令上の規定は存しない。したがって,抗告人の本件申立ては,法により家庭裁判所の審判事項として定められていない事項について家庭裁判所の審判を求めるものというほかはないから,不適法として却下すべきである(本件未成年者の親権者である抗告人が相手方らに対して未成年者の引渡しを求めるには,所定の要件を満たす限り,人身保護法及び人身保護規則が定める所定の手続により救済を求めるべきである(最高裁昭和61年同第644号同年7月18日第二小法廷判決・民集40巻5号991頁参照))。
2 以上と異なる原審判は法令に違反することが明らかであるから,原審判を取り消して本件各申立てを却下すべきところ,抗告人の本件申立てについては,原審判が結論においてこれを却下しているので,原審判中抗告人の本件申立てに関する部分については抗告人の本件抗告を棄却することとし,原審判中その余の部分(相手方らの本件申立てに関する部分)についてはこれを取り消して相手方らの本件申立てを却下すべきである。
3 よって,主文のとおり決定する。( 裁判長裁判官渡野慢裁判官高世三郎西口元)
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婚姻費用分担審判に対する抗告審の変更決定に対する特別抗告事件
憲法32条所定の裁判を受ける権利が性質上固有の司法作用の対象となるべき純然たる訴訟事件につき裁判所の判断を求めることができる権利をいうものであることは,当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和26年紗)第109号同35年7月6日大法廷決定・民集14巻9号1657頁,最高51裁昭和37年例第243号同40年6月30日大法廷決定・民集19巻4号1114頁参照)。したがって,上記判例の趣旨に照らせば,本質的に非訟事件である婚姻費用の分担に関する処分の審判に対する抗告審において手続にかかわる機会を失う不利益は,同条所定の「裁判を受ける権利」とは直接の関係がないというべきであるから,原審が,抗告人(原審における相手方)に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず,反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことが同条所定の「裁判を受ける権利」を侵害したものであるということはできず,本件抗告理由のうち憲法32条違反の主張には理由がない。また,本件抗告理由のその余の部分については,原審の手続が憲法31条に違反する旨をいう点を含めて,その実質は原決定の単なる法令違反を主張するものであって,民訴法336条1項に規定する事由に該当しない。なお,本件は,家事審判の手続において妻である相手方が夫である抗告人に対して婚姻費用の分担金の支払を求める事案であり,原々審が,抗告人の負担すべき分担金として,抗告人に対し,過去の未払分95万円と1か月12万円の割合による金員の支払を命ずる審判をしたのに対し,原審は,抗告人の負担すべき分担金として,過去の未払分167万円と1か月16万円の割合による金員の支払を命ずる決定をしたものである。原審は,抗告人が相手方に対して正式に離婚が決まるまでの問婚姻費用として支払う旨約した月額5万円の仮払金の既払分を原々審の審判と同じく25万円であるとしているが,本件抗告理由において,抗告人は,原決定までの聞に更に仮払金を支払ったと主張している。仮に抗告人の主張するような仮払金支払の事実があったとすれば,抗告人は,原決定の執行力を排除するために,その事実を異議の事由として請求異議の訴えを提起することができるものと考えられるが,本来,仮払金支払の事実の有無については,原審において審理されるべきものである。ところが,本件記録によれば,原審においては,抗告人に対して相手方から即時抗告があったことを知らせる措置が何ら執られていないことがうかがわれ,抗告人は原審において上記主張をする機会を逸していたものと考えられる。そうであるとすると,原審においては十分な審理が尽くされていない疑いが強いし,そもそも本件において原々審の審判を即時抗告の相手方である抗告人に不利益なものに変更するのであれば,家事審判手続の特質を損なわない範囲でできる限り抗告人にも攻撃防御の機会を与えるべきであり,少なくとも実務上一般に行われているように即時抗告の抗告状及び抗告理由書の写しを抗告人に送付するという配慮が必要であったというべきである。以上のとおり,原審の手続には問題があるといわざるを得ないが,この点は特別抗告の理由には当たらないところである。よって,裁判官那須弘平の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官田原睦夫の補足意見がある。裁判官田原睦夫の補足立見は,次のとおりである。本件は,家事審判法9条l項乙類の審判の抗告審手続における相手方に対する手続保障と憲法31条. 32条との関係及び、審理手続の法令違反の有無が問題とされている事案である。憲法31条の定める適正手続の保障は,同条が直接規定する生命若しくは自由に対する規制の場面だけではなく,国又は国家機関が,国民に対して一定の強制力を行使する場合に守られるべき基本原則というべきものであり,刑事手続だけでなく,民事手続や行政手続においても同条は類推適用されるべきものである。また,憲法32条の定める裁判を受ける権利は,憲法31条の定める適正手続の保障の下での裁判を受ける権利を定めたものであって,裁判手続において適正手続が保障されていないときには,憲法違反の問題が生じ得る。本件は,家事審判法9条1項乙類の審判手続の問題であるところ,同手続は多数意見引用の判例が判示するとおり,本質的には,非訟事件手続であるから, 憲法32条, 31条が直接規律する範囲外の手続である。しかし,上記のとおり憲法31条は,国又は国の機関が国民に対して強制力を発動する場合には類推適用されるべき基本的な規定であり,また,非訟事件手続は裁判手続ではないものの,裁判所が関与する手続である以上,憲法32条の趣旨は,非訟事件手続の性質に反しない限り,その手続の中に反映されるべきものである。そこで,家事審判法9条1項乙類にかかる審判手続についてみるに, 憲法31条の定める手続保障の根幹をなすのは当事者の手続関与権であるところ,同手続では当事者の出頭義務(家事審判規則5条)や利害関係人の審判手続への参加(同規則14条)を定め,また, 参考人又は当事者を審尋する場合には,当事者双方が立会うことができる審尋期日においてなすものとされていて(家事審判法7条,非訟事件手続法10条,民事訴訟法187条),当事者の手続関与権,審問請求権が一応保障されているのであって,憲法32条,31条の趣旨は,反映されているものといえる。ところで,本件では,乙類審判事項の抗告審手続において,相手方に主張の機会を与えなかったことの適法性が問題となっているところ,抗告審の手続については,その性質に反しない限り,民事訴訟法の抗告審の規定を準用すべきものとされている(家事審判法7条,非訟事件手続法25条)が,民事の抗告審の手続は,第1審の決定手続の性質に準ずるものであり,当事者の手続関与権や審問請求権が民事訴訟法に明定されているわけではない。しかし,憲法32条, 31条が要請する当事者の手続関与権,審問請求権の保障の問題は,当該手続全体の中で捉えられるべきものであり,その手続の一部において手続保障が充足されていなくても,手続全体としてみたときにそれが確保されているときには,憲法32条, 31条の趣旨は反映されているものといえるところ,上記のとおり,家事審判法9条1項乙類の審判手続には,当事者の手続関与権, 審問請求権が一応充足されている以上,その抗告審の手続において,その保障を欠いていることをもって,上記の憲法各条違反の問題は生じないものというべきである。なお,抗告審の手続において,相手方の手続関与権,審問請求権が法定されていなくても,抗告審は職権による審理をなすに当たり,申立人の主張と相手方の主張とが対立していることが原審の記録から明らかなときには,即時抗告申立書の副本又は写しを相手方に送付する等, 相手方に即時抗告の申立てがなされた事実を通知して,相手方に反論の機会を与えるべきであり,相手方にかかる機会を与えないまま原審判を相手方に不利益に変更した場合には,審理不尽の違法の謗りを免れ得ないものというべきである。裁判官那須弘平の反対意見は,次のとおりである。
l 私は,本件処理のために家事審判規則,家事審判法,非訟事件手続法及び民事訴訟法を解釈するに際し, 憲法32条(「裁判を受ける権利」に関する規定)を念頭におきこれを解釈指針とすることにより即時抗告の抗告状及び抗告理由書(以下一括して, 「即時抗告の抗告状等」という)の送達ないしこれに準じる送付が必要であったとの結論に到達でき,原審もこれを前提として決定をすべきであったと考える。原決定はこれと異なる立場に立って処理されたものであり,裁判に影響を及ぽすべき明らかな法令の違反があったと判断されるので,当審において職権により破棄し原審に差し戻すのが相当である。
2 家事審判規則18条は家事審判の即時抗告につき「その性質に反しない限り」審判に関する規定を準用すると定め,家事審判法7条本文は特別の定めがある場合を除き審判に関し「その性質に反しない限り」非訟事件手続法第1編の規定を「準用」する旨定めている。また,非訟事件手続法25条は「抗告ニハ特ニ定メタルモノヲ除ク外民事訴訟ニ関スル法令ノ規定中抗告ニ関スル規定ヲ準用ス」と定める。そして,民事訴訟法331条本文は,抗告及び抗告裁判所の訴訟手続には, 「その性質に反しない限り」控訴の規定を準用すると規定している。しかし,これら法律及び規則の規定を見ても即時抗告の抗告状の送達の要否について,控訴状の送達を規定する民事訴訟法289条1項が準用されるか否かについては明らかでない。そこで,裁判所の実務としては,家事審判法上に特段の規定がないこと,家事審判手続が職権主義・裁量主義を採っていることなどを理由として法的には原則不要とする立場に立ちつつ,争訟性の強い乙類審判事件については相手方に不利益に変更される場合であって相手方の反論を聴取する等実質的な意味がある場合等を中心に,即時抗告の抗告状等を相手方に普通郵便等の方法で送付する運用が慣行として広く行われているようである。
3 問題は,実務における上記慣行を超えて,家事審判規則,家事審判法,非訟事件手続法及び民事訴訟法の解釈として,即時抗告の抗告状等の送達ないし送付を義務的なものと認めるべきかどうかという点にある。この場合,法律や規則に明文の規定がないことだけを理由にして法的義務がないと即断することは条文至上主義の弊を挙げるまでもなく相当でないことが明らかである。家事審判法9条の定める乙類審判事件の中にも強い争訟性を有する類型のものがあり,本件で問題となっている婚姻費用分担を定める審判もこれに属する。私は,少なくとも,この類型の審判に関しては,憲法32条の趣旨に照らし即時抗告により不利益な変更を受ける当事者が即時抗告の抗告状等の送付を受けるなどして反論の機会を与えられるべき相当の理由があると考える。このような当事者の利益はいわゆる審問請求権(当事者が裁判所に対して自己の見解を表明し,かつ, 聴取される機会を与えられることを要求することができる権利)の核心部分を成すものであり,純然たる訴訟事件でない非訟事件についても憲法32条による「裁判を受ける権利」の保障の対象になる場合があると解する。この点,多数意見は昭和35年7月6日の最高裁大法廷決定(以下「昭和35年最高裁決定」という)及び昭和40年6月30日の最高裁大法廷決定(以下「昭和40年最高裁決定」という)を引用して,審判事件が本質的に非訟事件であって純然たる訴訟事件ではないことを理由に,抗告審において手続にかかわる機会を失う不利益は「裁判を受ける権利」とは直接の関係がないとの立場を採っている。しかし,昭和35年最高裁決定(家屋明渡請求事件及び占有回収請求事件につき,裁判所が戦時立法の一環として制定された金銭債務臨時調停法に基づき調停に代わる決定を非公開の手続でした案件)及び昭和40年最高裁決定(婚姻費用の分担に関し家事審判法の規定に従い非公開で審判がされた案件)は,いずれも手続が当時の法律の定めに従い非公開で行われたことを問題とするものであるのに対し,本件は,即時抗告により不利益変更を受けた当審抗告人に即時抗告の抗告状等の送付・送達がなく反論の機会も与えられなかったことが問題とされている案件であって,真の争点は憲法82条の公開原則の問題とは直接の関係を有しない。憲法82条が要求する公開の対象となる事件の範囲を区切る基準(同条2項では,裁判官の全員一致で非公開とする例外的処理の途も認められている)と憲法32条が要求する審問請求権ないし手続保障の適用範囲を区切る基準とは同一とは限らない。それゆえ,昭和35年最高裁決定及び昭和40年最高裁決定を根拠にして,本件が「裁判を受ける権利」と無関係と切り捨てる考え方には賛同できない。昭和35年最高裁決定は,同種事案につきそれまでの判例(昭和31年10月31日最高裁大法廷決定等)を変更して裁判の非公開が一定の場合に憲法違反となることを明らかにした点については大きな意義があったと認められるものの,憲法32条の適用範囲を「純然たる訴訟事件」に限定するかのごとく判示した点については学説を中心にして強い批判があることも周知のとおりである。「純然たる訴訟事件」以外にも乙類審判事件を中心にして憲法32条の審問問求権ないし手続保障の対象となるべき類型のものが存在することは否定しがたく,この点に関するかぎり,昭和35年最高裁決定はいずれ当審において変更されるべきものであると考える。4 以上検討したところにより家事審判規則,家事審判法及び非訟事件手続法に基づく手続にも憲法32条の理念が及ぶ場合があることについて積極的な見解を採る立場からすれば,上記各法律及び規則の解釈としても即時抗告により不利益変更を受ける抗告人に対して反論の機会を与えるために即時抗告の抗告状等を送逮ないし送付する必要があると解すべきことになる。このような考え方を排斥する理由として家事審判手続における職権主義・裁量主義の原則が引用されることがあるが,これらの原則は当事者の審問請求権や手続保障の機会を一般的に奪う根拠としては抽象的に過ぎて説得力を欠く。また,実務における運用状況は,むしろ審問請求権及び手続保障を採霊する方向にあり,本件について原決定を破棄するための理由とはなっても,抗告を棄却する理由とはならない。ところが,本件では原審において即時抗告の抗告状等の送達も送付もないままに抗告人に不利益に変更がなされたというのであるから,決定に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があったというべきである。
5 なお,本件は憲法違反を理由とする特別抗告事件であり,法令違反を理由とする許可抗告として係属しているものではないことから,多数意見のように結論として抗告棄却を採りつつ,なお書きで原審の手続上の問題点を指摘するにとどめる選択も論理的にはあり得よう。しかし,この方法では,不利益変更を受ける抗告人に対し即時抗告の抗告状等が送達ないし送付されないまま原決定が維持されるという現実が放置されることになる。私の採る立場からすると,このような状況の下で原決定をそのまま残せば憲法32条違反の疑念を解消できないことになる。この問題を解消するためには,原審の手続につき裁判(決定)に影響を及ぼすべき法令の違反があったことを理由として,職権で原決定を破棄することが最低限必要であると考える。特別抗告につきこのような措置を執ることは,特別抗告制度の趣旨に照らせば特殊例外的な場合にとどめるべきではあるが,若干の当審先例があることでもあり,本件についてはそのような例外的処理が許されると解する。(裁判長裁判官那須弘平裁判官藤田宙靖堀範幸男田原睦夫近藤崇晴)
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離婚無効確認請求上告事件
上告代理人0000,同000の上告理由について
原審の適法に確定した事実関係によれば, (ー)被上告人と中野勇作(以下「勇作」という。)とは昭和15年11月25日婚姻の届出をした夫婦であったところ,同48年2月20日付で協鵠離婚の届出(以下「本件離婚」という。)がされ,その旨戸籍に記載されている, (二)勇作と上告人は昭和48年2月21日婚姻の届出(以下「本件婚姻」という。)をした, (三)勇作は昭和56年8月26日死亡した, (四)彼上告人は,昭和56年10月15日00地方検察庁検察官(以下「検察官」という。)及び上告人を共同被告として訴えを提起し,検察官に対する関係においては,本件離婚を無効とする旨の判決色上告人に対する関係においては,本件婚姻を取消す旨の判決をそれぞれ求めた, というのである。
ところで、本件離婚の無効確認鯖求と本件婚姻の取消請求とは,法律上それぞれ独立の附求であって,固有必要的共同訴訟に当たらないのはもとより,いわゆる類似必要的共同訴訟にも当たらないと解されるから,本件訴訟の目的が検察官及び上告人の両名全員につき合ーにのみ確定すべき場合には当たらないとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は,独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず,採用することができない。
よって,民訴法401条,95条,89条に従い,裁判官全貝一致の意見て、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官谷口正孝裁判官角田穂次郎高島益郎大内恒夫佐藤哲郎)
上告代理人0000,同000の上告理由
ー原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈,適用を誤った違法がある。以上,その理由を述べる。
二原判決までの経過概要
1 本件訴は,被上告人が検察官と上告人を共同被告として,対被告検察官との関係においては,被上告人と亡中野勇作(以下,亡勇作という)聞の離婚の無効確認を鵬求し,又対被上告人との関係においては被上告人と亡勇作との右離婚が無効であることを前提とした重婚を理由に,上告人と亡勇作との後婚たる婚姻の取消を鯖求したものである。
2 一審の審理では,被告検察官は,冒頭に答弁舎を提出しただけで,ぞれ以降判決に至るまで何らかの主張立証はおろか,弁論への出頭すらせず,上告人において,検察官が被告とされている離婚無効確認精求事件についても,事実上司直) 反証してきたものである。一審においては,特に,本件二つの筒求に関し,共同訴訟ないし補助参加等の関係の求釈明もなされず,又分離されることもないまま共同訴訟として訴鐙追行され判決に至った。
3 上告人は,被上告人の右鰭求をいずれも包容した一審判決に対し, 彼役訴人の敗訴部分について取消す。被控訴人の精求を棄却する」旨の位訴を申立てた。の第一審判決が確定し,上告人においても人事訴絞手続法18粂1項の地問により右判決の効力を受け,本件離婚が無効であることを争い得ない,としてこれを理由に,重婚の関係にある亡勇作と上告人の婚姻の取消餅求が認められる旨判示し, 上告人の往訴を棄却したものである。
三離婚無効の部分に関する判決の確定の遮断
1 原審において,上告人は,原判決のいう離婚無効の判決部分の確定の成否に関し,本件離婚無効の矧求と,この離婚無効による重婚を理由とした婚姻取消の簡求は必要的共同訴E去の関係にあり,従って.上告人による婚姻取i自の部分の判決に対する控訴(本件控訴)によって,本件離婚無効に関する判決部分についても確定は遮断されている旨主張してきた。
2 これに対し,原判決は.本件の各附求は,本件離婚無効が本件婚姻取消鮪求の前縫問題(先決事項)となっているとはいえ.現行法制のもとにおいては,いまだ論理的要求にすぎないものというべきであるから.本件各Il’f求が検察官及び鐙訴人の両名全員につき合ーにのみ確定すべき場合には当らない旨示し,前記のとおり,本件離婚無効の部分の判決の確定を認定した。
3 しかしながら,後配のとおり,原判決は,必要的共同訴松の範囲に闘し,民事訴訟法第62粂に規定する「合ーにのみ確定すべき場合Jの解釈を怒り,その結果判決確定のがカに関する法令の適用を誤ったものである。
四必要的共同訴訟の成否
l 民事訴際法第62粂の「合ーにのみ確定すべき場合jの解釈については変遷があり,現在においても様々な異論がある。「合一確定」とは. 一般に.判決が法律上合ーにのみ確定すべき場合,すなわち共同訴訟人の1人についてなされた判決の既判カがいに他に及ふ・関係があって,その問矛盾した判決をなしえない場合と解されている。しかし.こうした一般的抽象的基滋による判例理論に仏具体的訴訟において必らずしも一貫したものがなし結局具体的事件における偲別決定的になっているのが実情である. (例え.共有関係訴11)実際の具体的訴訟にあっては,必要的共同訴訟と通常共同訴訟の中間に位置する訴訟が多数存在する。そうした現状にあって,司法の効率的な運営あるいは具体的事案の解決の妥当性と合理性からみて. 偲の訴絞1個の判決で解決されるべきものが多々あるとき,従前の「共同訴松人間に互いに判決の既判カが及ふ・場合」という基単で必要的共同訴去の範囲を形式的に函することは不合理な結果を招いている.
2 原判決は.合ーにのみ確定すべき場合とは,訴の縫起あるいは判決が各共同訴松入金貝につき合ーにのみなされるべきであり,区々となってはならない法律上の必要がある場合をいうのであって,単に事実上,又は論理上合一確定の要慨があるというだけでは足りないと解すべき」と判示している。しかしながら,右にいう「法律上の必要」について,必らずしも既判力の抵触回避という訴松法的観点からのみならず,訴訟の目的が共同訴訟人につき実体法上合ーに裁判されなければならない場合を含むと解すべきである。
3 以上のことを前提に,本件二つの筒求の関係を具体的に分析してみる。
(1) 能婚無効の餅求と婚姻取消の鯖求一般的には必らずしもl個の事実関係にあるわけでなく,原判決のいうように.法律上はそれぞれ別倒独立の紡求として別個独立の訴訟物であ」る。
(2) しかしながら,本件事案のように,縫婚無効による窓婚を理由とした婚姻取消鯖求の場合は,前者は後者の簡求の前提間短(先決事項)となっているのであり,まさに実体上1個の事件であり,笑体法上は合ーに確定すべき必要がある。
(3) しかも,離婚無効の判決は既判力が拡張され,対世的効力が法律上められることになっている(人事訴管法18条)。
(4) 原判決は当事者適格もそれぞれ法定されていること,訴提起も判決も別個独立になされうることをその理由に挙げているが,これは一般論としてはともかく,本件具体的事案に関する「合一確定の必要Jの成否の判断に際しては,聞をもって聞に答える式の論法で,何ら理由とならない。
(5) 原判決め判示するように,仮に,本件において,綾上告人が前婚の夫を相手に前婚の離婚無効確包の筒求を別個独立して先に提起し,判決を確定させた場合,右離婚無効の裁判に全〈関与し得ない後婚の配偶者(上告人の立場)には,何らの反論防禦の機会が与えられないまま,婚姻取闘の求に敗脈しなければならなくなる。
(6) 前例の場合に, 夫が生存しているならば,後婚の配偶者lま前婚の離婚無効確認の公の存在を知り,それに参加しうる途は残されているともいえるが,本件の如」が死亡した後に縫起された検察官を被告とする離婚無効確認の訴が別途に提起された場合には,その訴松の存在すら知らないまま,第三者間の裁判の結呆の効力のみを受忍せざるを得ないことになり,このことの不合理性,不公正さは明らかであろう。しかも,本件の如被告たる検察官が,一片の答弁舎の徒出のみでその他一切の訴訟追行,調査すらもなされずに終結されたような場合を考えるとその不合理性は一層明らかであろう。
4 (1) 以上のとおり.一般的に離婚無効と婚姻取消の二つの荷求が「合一確定すべき場合」にあたるとはいえないとしても,前婚の荷量婚無効の筒求と,それに基づく盤婚を理由とした後婚の婚姻取消の請求との聞については.単に鈴理上にとどまらず,両公当事者に爽体法上,公法上合一確定をする必要が臨められるのであって,間有必要的共同訴訟にあたると解すべきである.
(2) 仮に固有必要的共同訴鮫でないとしても,会社合併無効の訴(商法104条)や株主総会決犠無効確ftA.の訴(商法252条)などにuめられているように,人事訴訟法18条の準用によって判決の既判力が拡張され対世的効力が認められる離婚無効確認の楕求と,それを前提とした婚姻取消の概求については類似必要的共同訴訟と解されるべきである。
(3) 更に,これが従前の必要的共同訴伝の範囲に認められないとしても.前記3で指摘した重大な不合理性を有した本件二つの附求について,原判決も包めている「鈴理上の合一確定の要鰍jは勿論,実体法上も合一確定が認められるべきである以上,民事訴訟法第62条と同第61粂の規定の中間領域の訴伝として,必要的共同訴訟の規定を準用して,取扱うべきである.右ニつの筒求が別訴として縫起きれればともかし本件のように, 同一郎松手続において審理される場合には,民訴法第62粂を準用して各筒求につき実体法上論理的に合一的判断がなされるべきであって,そのことは民訴法第71粂がすでに認めているところの手続きでもある。
五原判決の鋲りしかるに,判決は,本件二つの務求の特殊な事情を深〈検討することなし必要的共同訴訟の範聞について抽象的形式的な基調高に拘泥し,民隊法第62条の「合ーにのみ確定すべ〈場合jの具体的解釈を鋲り.判決確定の効力の適用を絞った違法がある。しかも,本件は複雑な背景的事情と被上告人らの虚偽の主張や偽装工作など極めて難解な事実関係があるにもかかわらず.審ではこれについて上告人において請求したにもかかわらず金〈主張立証をする機会を与えず事実審理をしないままに,前記のとおり,事実関係につき判断することもなく鐙訴棄却の判決を下したものである。従って,右法令解釈適用の限りが判決の結果に影響を及ぽすものであることは明白であり.よって原判決は違法であって破棄されるべきものである。
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2012年2月25日 | コメント/トラックバック(0) |
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親権者変更申立事件
1 申立ての趣旨及び実情
(1) 申立ての趣旨未成年者らの各親権者を相手方から申立人に変更する。
(2) 申立の実情申立人と相手方とは,平成5年×月×日,婚姻届けを了して夫婦となり,平成6年×月×日,未成年者Cを.平成9年×月×日,未成年者Dを,平成17年×月×日,未成年者Eを,それぞれもうけた。相手方は,平成20年×月×日,申立人の同意を得ることなく未成年者らの親権者を相手方と定める協議離婚届を提出し,その旨を戸籍に記載せしめた。申立人は,未成年者らを監護養育しているので,未成年者らの各親権者を申立人に変更することを求める。
2 当裁判所の認定した事実本件記録並びに平成20年(家ロ)第○○○号及び同年(家イ)第○○○号各事件記録によると以下の事実が認められる。
(1) 申立人と相手方とは,平成5年×月×日,婚姻届けを了して夫婦となり,平成6年×月×日,未成年者Cを,平成9年×月× 日,未成年者Dを,平成17年×月×日,未成年者Eを,それぞれもうけた。申立人と相手方とは,申立人の消費者金融からの借入れや相手方名義のクレジットカードにより購入した高額商品の換金を巡って諦いが絶えず,平成20年×月後半ころから,離婚の話をするようになり,同年×月ころ,離婚協議哲(乙1)及び協議離婚届(以下「本件離婚届」という。) (甲1)を作成し,それぞれ署名押印した。但し,申立人が本件離婚屈に署名押印したときに夫が親権を行う子の欄に未成年者らの名前が記載されていたか否かについては当事者の主張は対立する。申立人は,平成20年×月×日,未成年者らを連れて一時実家に戻り,ときどき自宅に身の回りの物などを取りに帰っていたが,相手方が,同年×月×日, 自宅の錠を変更したため,自宅に帰れなくなり,そのまま未成年者らと実家に留まることとなった。相手方は,平成20年×月×日,本件離婚屈を○○市○○区長に提出し,受理された。受理された本件離婚屈の夫が親権を行う子の欄に未成年者らの名前が記載されていた。申立人は,平成20年×月×日○○市○○区役所に不受理願を提出しようとしたが,既に○○区長に本件離婚屈が受理されていたことが判明した。
(2) 申立人は,平成20年×月×日,申立人の両親に未成年者Eを預けて,当庁に赴き未成年者らの親権者を相手方から申立人に変更する旨の調停を申し立てたが,相手方は,同日.申立人が留守の聞に申立人の実家に赴き,未成年者Eを連れ去った。申立人は,平成20年×月×日,当庁に未成年者Eの引渡しを求める審判及び審判前の保全処分を申し立てた(平成20年(家)第○○○号,同年(家ロ)第○○○号)。上記審判事件は,平成20年×月×日,調停に付され(平成20年(家イ)第000号).同日,申立人は,未成年者C及び同Dと相手方との面会交流を妨害しないこと,相手方と未成年者Eとの原則として週1回程度の宿泊を伴う面会交流を認める旨の調停が成立し,同月×日,相手方は任意に申立人の下に未成年者Eを戻し,申立人は,同年×月×日,上記保全処分の申立てを取り下け.た。上記親権者変更の調停は,平成20年×月×日,不成立となり,審判に移行した。
(3) 申立人は,相手方との婚姻前の平成5年×月.消費者金融4社から90万円を借り入れ,月5万円程度返済していたが,平成6年×月ころ,相手方に告白し,相手方はこれを数か月分割弁済した後一括弁済した。申立人は,さらに,平成8年ころから消費者金融やカード会社から借入れをするようになり, (乙4,同5の1,2,同6の1, 2,同7の1ないし3,同9のし2,同10の1ないし3,同11ないし14,同15の1, 2),平成17年×月ころには,それまでの返済額総額が1000万円近くになり(乙3),毎月の返済額が約10万円以上になっていた。相手方は,平成17年×月,消費者金融やカード会社からの上記の借入金300万円以上を一括して返済した(乙9の1,同10の2,同11,同13,同14,同15の2)。申立人は,平成16年×月ころから,相手方に買ってもらった貴金属やプランド品のパックを質入れし,相手方名義のデパート系カードやクレジットカードを使用して,平成16年×月ころから平成19年×月にかけて,宝飾品,貴金属,高級時計を合計1900万円以上購入し,その多くを質入れして換金した(乙8の1, 2,同17,同18の1, 2)。
(4) 申立人は,平成19年×月,相手方の父親から500万円を借り入れ,クレジットカード等の支払いに充てたが,相手方の父親への返済はしていない(乙2の1ないし3)。
(5) 申立人は,未成年者ら,申立人の両親,姉,犬2匹と賃貸マンション(6畳2間, DK,パス, トイレ)に居住している。申立人は.相手方との婚姻後は専業主婦として専ら未成年者らの日常の世話を行っていたが,平成20年×月から歯科医院のマネージャー兼助手の仕事をし,週5日;から6日,午前8時から午後5時半まで勤務している。収入は月額15万から20万円である。申立人の父親は,年金を受給しているほか,駐車場でアルバイトをして.午後4時から午後10時過ぎまで62・1ー108裁判例(家事)稼働している。年金収入は1か月約20万円である。申立人の母親は,人材派遣会社の電話受付事務をして,午前10時から午後3時まで勤務している。
(6)相手方は,敷地約220平方メートル.延床面積約130平方メートルの2階建ての自己所有の建物(以下「相手方自宅」とし、う。)に居住している。相手方の両親は.月の半分を相手方自宅で過ごし,未成年者らを引き取った場合には,相手方自宅に転居する予定である。相手方は,相手方自宅から車で約10分の距離にある会社に勤務し,火曜日,水胞日,隔週日随日が休日である。平成18年分の給与収入は1330万7118円である。相手方は,給与全額を銀行口座ごと申立人に管理を任せていたが,申立人の家計管理能力に不信を抱くようになり,平成16年ころから,住居費,光熱費,未成年者らの授業料・教育費は相手方の銀行口座からの自動引落しとし,食費として申立人に毎月一定額(申立人によれば7万円程度,相手方によれば10万から12万円程度)を渡し,家族旅行や外食などの臨時の出貨を別予算として負担していた。相手方は住宅ローンも負担している。
(7) 未成年者Cは私立中学校2年生である。未成年者Dは,○○小学校に通学していたが,申立人と現住居に転居してからは,電車通学となり欠席が増えたため,平成20年×月×日,現住居から徒歩10分の○△小学校に転校し,現在同校5年生である。夏休み明けの平成20年8月×日からは欠席も遅刻もない。未成年者Eは平成21年4月から幼稚園に入国する予定である。未成年者らは発育,発達は普通で,健康であり,姉妹3人仲が良L、。未成年者C及び同Dはし、ずれも申立人と暮らすことを希望している。相手方と未成年者Eとの面会交流は,病気を理由に中止されたことが数回あったが,概ねトラフ.ルなく実施されている。1093 当裁判所の判断以上認定した事実によれば,申立人は,相手方との同居時から未成年者らの日常の世話を専ら行っていたもので,母親としての監護能力に問題はなく,相手方との別居後は申立人の両親の補助を受けながら,未成年者らは安定した生活を送っていると認められること,未成年者C及び同Dはいずれも申立人と暮らすことを希望していること,未成年者Eは,未だ3歳の幼児で,身辺の十分な監護を必要とする年齢で-あり,女児であることからも母親の下で養育されるほうがより適切であること等の事情を考慮すれば,未成年者らの監護については現時点では母親である申立人に任せるのが未成年者らの福祉に適うものである。しかしながら,申立人は,消費者金融から多額の借入れをなし,高額高品をクレジットカード等で購入して質入れ等して換金しているが,入手した金の使途は不明である(その多くの部分を消費者金融の返済やクレジットカードの支払いに充てるという自転車燥業に陥っていたものと推認される。)。申立人は上記のような行動を取ったのは生活費に窮したためと主張するが,相手方は,平成16年ころから,住居世.光熱費,未成年者らの授業料・教育費は相手方の銀行口座からの自動引落しとし,家族旅行や外食などの臨時の出費のほか住宅ローンも負担しており,申立人が必要としていた生活費は,食費(米は申立人の両親から様白ってもらっていた。)や衣類・日用品,医療費,稽古事の費用などであり,申立人の主張によっても,相手方は平成12年ころからは少なくとも月7万円程度の.費用を負担しているにもかかわらず,申立人は,月々の生活費の不足のために安易に消費者金融からの借入れに頼り.さらには多数回の高額商品の購入・質入れとし、う通常の日常家事債務の域を超えた方法による現金の入手(実質的には金利について法的規制のある消賢者金融からの借入れよりもはるかに高利を負担する借入れ)としみ方法を取るなど,申62・1-110裁判例( 家事)立人の金銭管理能力に大きな不安がある。親権者の職務には財産管理も含まれることを考慮すれば,未成年者らの親権者を父親である相手方とし,監護権者は申立人とするのが相当である。親権者変更の申立ては,とくに反対の意思がうかがわれない限り,監護者変更の申立てを内包しているものと解されるので,以上の理由により,本件申立てについては.親権の内容の一部である監護権のみを申立人に行使させることとして.未成年者らを監護すべき者を申立人に変更し,その余は理由がないから却下することとして,主文のとおり審判する。(家事審判官押切睦)
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2012年2月25日 | コメント/トラックバック(0) |
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