親権者変更申立事件

1 申立ての趣旨及び実情
(1) 申立ての趣旨未成年者らの各親権者を相手方から申立人に変更する。
(2) 申立の実情申立人と相手方とは,平成5年×月×日,婚姻届けを了して夫婦となり,平成6年×月×日,未成年者Cを.平成9年×月×日,未成年者Dを,平成17年×月×日,未成年者Eを,それぞれもうけた。相手方は,平成20年×月×日,申立人の同意を得ることなく未成年者らの親権者を相手方と定める協議離婚届を提出し,その旨を戸籍に記載せしめた。申立人は,未成年者らを監護養育しているので,未成年者らの各親権者を申立人に変更することを求める。
2 当裁判所の認定した事実本件記録並びに平成20年(家ロ)第○○○号及び同年(家イ)第○○○号各事件記録によると以下の事実が認められる。
(1) 申立人と相手方とは,平成5年×月×日,婚姻届けを了して夫婦となり,平成6年×月×日,未成年者Cを,平成9年×月× 日,未成年者Dを,平成17年×月×日,未成年者Eを,それぞれもうけた。申立人と相手方とは,申立人の消費者金融からの借入れや相手方名義のクレジットカードにより購入した高額商品の換金を巡って諦いが絶えず,平成20年×月後半ころから,離婚の話をするようになり,同年×月ころ,離婚協議哲(乙1)及び協議離婚届(以下「本件離婚届」という。) (甲1)を作成し,それぞれ署名押印した。但し,申立人が本件離婚屈に署名押印したときに夫が親権を行う子の欄に未成年者らの名前が記載されていたか否かについては当事者の主張は対立する。申立人は,平成20年×月×日,未成年者らを連れて一時実家に戻り,ときどき自宅に身の回りの物などを取りに帰っていたが,相手方が,同年×月×日, 自宅の錠を変更したため,自宅に帰れなくなり,そのまま未成年者らと実家に留まることとなった。相手方は,平成20年×月×日,本件離婚屈を○○市○○区長に提出し,受理された。受理された本件離婚屈の夫が親権を行う子の欄に未成年者らの名前が記載されていた。申立人は,平成20年×月×日○○市○○区役所に不受理願を提出しようとしたが,既に○○区長に本件離婚屈が受理されていたことが判明した。
(2) 申立人は,平成20年×月×日,申立人の両親に未成年者Eを預けて,当庁に赴き未成年者らの親権者を相手方から申立人に変更する旨の調停を申し立てたが,相手方は,同日.申立人が留守の聞に申立人の実家に赴き,未成年者Eを連れ去った。申立人は,平成20年×月×日,当庁に未成年者Eの引渡しを求める審判及び審判前の保全処分を申し立てた(平成20年(家)第○○○号,同年(家ロ)第○○○号)。上記審判事件は,平成20年×月×日,調停に付され(平成20年(家イ)第000号).同日,申立人は,未成年者C及び同Dと相手方との面会交流を妨害しないこと,相手方と未成年者Eとの原則として週1回程度の宿泊を伴う面会交流を認める旨の調停が成立し,同月×日,相手方は任意に申立人の下に未成年者Eを戻し,申立人は,同年×月×日,上記保全処分の申立てを取り下け.た。上記親権者変更の調停は,平成20年×月×日,不成立となり,審判に移行した。
(3) 申立人は,相手方との婚姻前の平成5年×月.消費者金融4社から90万円を借り入れ,月5万円程度返済していたが,平成6年×月ころ,相手方に告白し,相手方はこれを数か月分割弁済した後一括弁済した。申立人は,さらに,平成8年ころから消費者金融やカード会社から借入れをするようになり, (乙4,同5の1,2,同6の1, 2,同7の1ないし3,同9のし2,同10の1ないし3,同11ないし14,同15の1, 2),平成17年×月ころには,それまでの返済額総額が1000万円近くになり(乙3),毎月の返済額が約10万円以上になっていた。相手方は,平成17年×月,消費者金融やカード会社からの上記の借入金300万円以上を一括して返済した(乙9の1,同10の2,同11,同13,同14,同15の2)。申立人は,平成16年×月ころから,相手方に買ってもらった貴金属やプランド品のパックを質入れし,相手方名義のデパート系カードやクレジットカードを使用して,平成16年×月ころから平成19年×月にかけて,宝飾品,貴金属,高級時計を合計1900万円以上購入し,その多くを質入れして換金した(乙8の1, 2,同17,同18の1, 2)。
(4) 申立人は,平成19年×月,相手方の父親から500万円を借り入れ,クレジットカード等の支払いに充てたが,相手方の父親への返済はしていない(乙2の1ないし3)。
(5) 申立人は,未成年者ら,申立人の両親,姉,犬2匹と賃貸マンション(6畳2間, DK,パス, トイレ)に居住している。申立人は.相手方との婚姻後は専業主婦として専ら未成年者らの日常の世話を行っていたが,平成20年×月から歯科医院のマネージャー兼助手の仕事をし,週5日;から6日,午前8時から午後5時半まで勤務している。収入は月額15万から20万円である。申立人の父親は,年金を受給しているほか,駐車場でアルバイトをして.午後4時から午後10時過ぎまで62・1ー108裁判例(家事)稼働している。年金収入は1か月約20万円である。申立人の母親は,人材派遣会社の電話受付事務をして,午前10時から午後3時まで勤務している。
(6)相手方は,敷地約220平方メートル.延床面積約130平方メートルの2階建ての自己所有の建物(以下「相手方自宅」とし、う。)に居住している。相手方の両親は.月の半分を相手方自宅で過ごし,未成年者らを引き取った場合には,相手方自宅に転居する予定である。相手方は,相手方自宅から車で約10分の距離にある会社に勤務し,火曜日,水胞日,隔週日随日が休日である。平成18年分の給与収入は1330万7118円である。相手方は,給与全額を銀行口座ごと申立人に管理を任せていたが,申立人の家計管理能力に不信を抱くようになり,平成16年ころから,住居費,光熱費,未成年者らの授業料・教育費は相手方の銀行口座からの自動引落しとし,食費として申立人に毎月一定額(申立人によれば7万円程度,相手方によれば10万から12万円程度)を渡し,家族旅行や外食などの臨時の出貨を別予算として負担していた。相手方は住宅ローンも負担している。
(7) 未成年者Cは私立中学校2年生である。未成年者Dは,○○小学校に通学していたが,申立人と現住居に転居してからは,電車通学となり欠席が増えたため,平成20年×月×日,現住居から徒歩10分の○△小学校に転校し,現在同校5年生である。夏休み明けの平成20年8月×日からは欠席も遅刻もない。未成年者Eは平成21年4月から幼稚園に入国する予定である。未成年者らは発育,発達は普通で,健康であり,姉妹3人仲が良L、。未成年者C及び同Dはし、ずれも申立人と暮らすことを希望している。相手方と未成年者Eとの面会交流は,病気を理由に中止されたことが数回あったが,概ねトラフ.ルなく実施されている。1093 当裁判所の判断以上認定した事実によれば,申立人は,相手方との同居時から未成年者らの日常の世話を専ら行っていたもので,母親としての監護能力に問題はなく,相手方との別居後は申立人の両親の補助を受けながら,未成年者らは安定した生活を送っていると認められること,未成年者C及び同Dはいずれも申立人と暮らすことを希望していること,未成年者Eは,未だ3歳の幼児で,身辺の十分な監護を必要とする年齢で-あり,女児であることからも母親の下で養育されるほうがより適切であること等の事情を考慮すれば,未成年者らの監護については現時点では母親である申立人に任せるのが未成年者らの福祉に適うものである。しかしながら,申立人は,消費者金融から多額の借入れをなし,高額高品をクレジットカード等で購入して質入れ等して換金しているが,入手した金の使途は不明である(その多くの部分を消費者金融の返済やクレジットカードの支払いに充てるという自転車燥業に陥っていたものと推認される。)。申立人は上記のような行動を取ったのは生活費に窮したためと主張するが,相手方は,平成16年ころから,住居世.光熱費,未成年者らの授業料・教育費は相手方の銀行口座からの自動引落しとし,家族旅行や外食などの臨時の出費のほか住宅ローンも負担しており,申立人が必要としていた生活費は,食費(米は申立人の両親から様白ってもらっていた。)や衣類・日用品,医療費,稽古事の費用などであり,申立人の主張によっても,相手方は平成12年ころからは少なくとも月7万円程度の.費用を負担しているにもかかわらず,申立人は,月々の生活費の不足のために安易に消費者金融からの借入れに頼り.さらには多数回の高額商品の購入・質入れとし、う通常の日常家事債務の域を超えた方法による現金の入手(実質的には金利について法的規制のある消賢者金融からの借入れよりもはるかに高利を負担する借入れ)としみ方法を取るなど,申62・1-110裁判例( 家事)立人の金銭管理能力に大きな不安がある。親権者の職務には財産管理も含まれることを考慮すれば,未成年者らの親権者を父親である相手方とし,監護権者は申立人とするのが相当である。親権者変更の申立ては,とくに反対の意思がうかがわれない限り,監護者変更の申立てを内包しているものと解されるので,以上の理由により,本件申立てについては.親権の内容の一部である監護権のみを申立人に行使させることとして.未成年者らを監護すべき者を申立人に変更し,その余は理由がないから却下することとして,主文のとおり審判する。(家事審判官押切睦)

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