特別養子縁組成立申立事件

1 一件記録によれば,次の各事実が認められる。
(1) 申立人A及び同B (以下,それぞれ「申立人(夫)」「申立人(妻)」といい,両者をあわせて「申立人夫婦」という。)は,平成3年×月×日に婚姻した,いずれも25歳以上の夫婦である。申立人夫婦は,実子に恵まれなかったことなどから,平成8年×月×日○○児童相談所に里親登録をした。申立人夫婦の聞には,平成10年×月×日,長男F(以下「実子Jという。)が出生したが,同人らは,数年間にわたって里親としての研修等を受ける中で\虐待されたり育児放棄を余儀なくされる子らの実態を知り,なお生育環境に恵まれない子を実子同様に育てたいとの考えを持つに至り,里親登録を継続した。
(2) 事件本人D(以下「実父」という。)及び同E(以下「実母」という。)は,平成11年×月×日に婚姻し,両者の聞には,平成12年×月×日,長男G(以下「実兄」とし、う。)が,平成14年×月×日,事件本人c(以下「事件本人」という。)が出生した。・事件本人は,平成15年×月×日ころ,風邪のため,実母方祖父母に連れられて病院で受診したところ,体重が生後11か月で7.5キロと少なく(乳幼児[男子]体重発育パーセンタイル曲線のー分布から外れる。).必要な予防接種等も受けていなかったことなどから.co児童相談所に通告され,その後,同年×月×日に乳児院に緊急一時保護,同月×自に同院に入所措置となった。なお,実兄についても,平成12年×月と平成13年×月に児童相談所にいわゆるネグレク卜で通告され,平成14年×月×日,乳児院に入所措置となり,その後,児童養護施設を経て,平成16年×月以降.co市内の里親に里親委託されている。
(3) 実父と実母は,平成15年×月× 日,離婚し,実母が実兄及び事件本人の親権者となった。実母は,離婚後,交際相手である当時17歳の少年宅に身を寄せるなどしていたが,平成16年×月ころ.0ム県に転居し,弁当の製造作業やファストフードのアルバイト等をしつつ,別の男性と同棲するなどの生活を送っている。実母は,事件本人が申立人夫婦と特別養子縁組をすることについて,同意書を提出してこれに同意している。実父は,平成15年×月ころ,実母の交際相手で・あった少年の姉であるH及びその連れ子であるIとムム県に転居し,平成16年×月×日,Hと婚姻するとともに同年×月×日にHが出産したJと養子縁組した(なお,実父は,平成20年×月×日.Jを.Hとの聞の長女として認知した。)。実父とHの聞には.平成18年×月×日,二女K (同年×月×日死亡)が,平成19年×月×日,三女Lが,平成20年×月×日,長男Mが出生した。実父は,家族らと岡県内で転居を繰り返しつつ,派遣会社やガソリンスタンド等で稼働している。実父は.事件本人を引き取りたい旨述べ,事件本人と申立人夫婦との特別養子縁組に同意していない。
(4) 事件本人は, 平成16年×月×日から,申立人夫婦に里親委託され,現在まで引き続き申立人夫婦に監護養育されている。申立人(夫)はCわ県職員,申立人(妻)は専業主婦で,住所地に実子及び事件本人のための部屋がある二階建て家屋を所有している。申立人(妻)は,事件本人の主たる養育者として,常におおらかな態度で、事件本人の養育にあたっており,事件本人はかけがえのない家族の一員で,その成長につれて様々なことが起こると思うが家族で力を合わせて乗り越えてゆきたし、旨述べている。申立人(夫)も,事件本人の養育に対して協力的で,実子と事件本人が兄弟として相乗効果を発揮しつつ育つことを期待する旨及び家族の粋の大切さを教えていきたい旨述べている。事件本人は,体格的にやや小柄であるが,運動面,言語面,身辺処理能力等において年齢相応の発達をしており,申立人らに強い愛着を示し,実子とも突の兄弟のように親和している。事件本人は,平成21年4月より,小学校に入学し,元気に通学している。
(5) なお,申立人夫婦は,平成16年×月×日,事件本人を特別養子とする審判の申立てをしたが(当庁平成16年(家)00号特別養子縁組事件,以下「前件」という。),実父の同意、が得・られなかったことから,平成18年×月×日,特別旋子縁組の年齢制限を踏まえて再度の申立てをすることを前提にして,前件を取り下げた。
2 以上によれば,申立人夫婦は,経済的・社会的に安定しており,共に事件本人に対する十分な愛情に裏付けられた強い養育意欲を示しつつ,事件本人に対して適切な監護旋育を継続している。事件本人は,そのような申立人夫婦及び実子も含めた良好な家族関係の中に在って, 1歳10か月の時から現在まで5年以上の聞にわたって,順調に生育している。他方,上記のような実父及び実母の各実情(実父については後述の点も含む。)からすれば,実父文は実母が事件本人を監護することは著しく困難又は不適当であると認められ,事件本人を申立人夫婦の特別養子とすることがその利益のために特に必要であるといえる。
3 実父の同意がない点について,当裁判所は以下のように判断する。
(1) 実方血族との親族関係が終了するとし、う特別養子縁組の効果からして,養子となる者の父母の同意が得られない場合,軽々に特別養子縁組が認められるべきでないことはし、うまでもない。しかし,本件においては,以下のような事情が認められる。前記1(2)記載のように.事件本人及びその実兄は,実父母の下において,いわゆるネグレクト状態に置かれ,共に児童相談所への通告や乳児院への入所措置等が繰り返されている。また.一件記録によれば,Hの連れ子であるIは,平成17年×月ころ,ムム児童相談所に虐待通告され,その後も児童養護施設への入所等を繰り返しており,さらに, 実父とHの長女であるJについても,平成18年ころから児童養護施設への入所や,里親委託等がなされている。実父は,本件手続の当初においても.事件本人の特別養子縁組に反対し,親権者変更の手続をするつもりである旨の回答をしているが,実際には,前件で同様の回答をして以降,現在まで,何ら引取りのための手続をしていない。実父は,その後.家庭裁判所調査官からの, △△家庭裁判所文は実父方に調査官が出向いて面会するための日時場所等の意向を閉し、合わせる照会話(平成20年×月×日付及び同年×月×日付)や電話連絡等に全く応答しなくなり,また,家庭裁判所調査官において,事前に,日時場所を指定し,不都合であれば連絡を諾う旨記載した連絡文書(平成20年×月×日付)を送達の上,平成20年×月×日,△△家庭裁判所に出張調査に赴いた際も,何らの連絡もなく出頭せず,さらに,平成21年×月×日,実父の陳述を聴くために指定された審判期日にも連絡なく出頭しない。なお,一件記録によれば,実父は,前件における家庭裁判所調査官とのやりとりや,本件における申立人夫婦からの実父宛の手紙等を通じて,事件本人の良好な生育状況についてある程度の情報を得ているものと推認される。
(2) 以上の各事実からすれば,現状において,事件本人を5年以上も安定的に護育してきた申立人夫婦らの家庭から引き離すことは,事件本人に混乱と打撃を与えるだけでその福祉に沿わない反面,実父の過去の事件本人及び実兄に対する監護状況並びに現在の家庭における子らに対する監護環境は.子の福祉という観点からは問題があるといわざるを得ず,また,同意、できないとする実父の意向は,親としての気持ちの表れである面を否定はできないものの,事件本人を引き取ると言いながら何らの手続もしないのみならず,事件本人の将来にとって極めて重要な本件における調査や審判期日に何らの応答もせず,事件本人の良好な生育状況をある程度認識しながらいたずらに特別養子縁組に反対する実父の行動は,その気持ちに反して,事件本人の将来にわたっての安定的な生育環境を阻害する結果をもたらしかねないもので,いわば同意権の濫用にあたるものである。不同意を巡るこれらの事実関係は,養子となる事件本人の健全な生育の著しい妨げとなるもので,その利益を著しく害する事由がある場合に該当するというべきである。
(3) そうすると,本件については,実父の同意なしに特別養子縁組を成立させるのが相当である。4 よって,本件申立てを相当と認め,主文のとおり審判する。(家事審判官小川直人)

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