児童の福祉施設入所承認申立事件

1 申立ての趣旨
主文同旨
2 申立ての実情
事件本人は,親権者である父B(以下「父Jという。)の下では養育が困難であるとして,平成14年4月30日・児童養護施設への入所を承認する旨の審判がなされ,児童養護施設rCXXXX)J(以下「本件施設Jという。)において監護されてきた。事件本人は,精神的不安定な状態から学校や本件施設での暴力行為等の問題行動が悪化したため,指導等によりその更生を図ってきたが,内省のないまま問題行動が激化してきていて児童養護施設-での処遇は困難となっている。父は,気が向くと本件施設を訪れ,事件本人との面会等を行っていたものめ,平成17年3月の面会を最後に全く連絡がとれない状態となり,児童相談所の再三にわたる来訪も拒んで、いる状態で,事件本人の養育困難な状況には変わりないが事件本人の児童自立支援施設への措置変更については,同意しない。そこで,申立入は本件申立てに及んだ。
2 当裁判所の判断(1) 杢信己録及び平成14年闘第xxx号,同第xxQ号児童福祉施設入所承認申立事件記録によれば,以下の事実が認められる。① 事件本人は平成5年12月19日に,その妹Cは平成7年7月9日に,父と母Dとの聞に出生し,平成7年12月20日に父と母が離婚し父がその親権者となった。② 事件本人及び妹c(以下両名を「事件本人らJという。)は,平成8年2月に父の養育閤難を理由に口口児童相談所によりにわ会乳児院Jへ措置入院され,翌3月には父が事件本人らを引き取れないので死ぬしかないなどとして自宅車庫に石油をまき放火して逮捕され自己所有建造物等以外放火罪で罰金刑に処せられ,同年8月には口口児童相談所に置き去りにされるなどして児童養護施設に措置入院となったが,父が児童相談所の対応を非難するなどしたうえ事件キ人らを引き取り自ら養育することを強く求めて措置解除となった。しかし,父はその後も児童相談所に自殺をほのめかしたり,飲酒のうえ児童相談所の職員等に対する攻撃的な言動に出たり,あるいは養育悶難な状況となると自ら事件本人らの施設入所を希望するなどして,その都度,事件本人らは児童養護施設に一時保護されたり措置入院となるも,しばらくすると,父が事件本人らの引き取げを強く求めでかかる措置が解除されるということが繰り返ーされた。平成14年4月30日には,ムム児童相談所長の申立.てに基づき,事件本人らを児童養護施設に入所させることを承認する旨の審判がなされ(当庁平成14年隊)第xxx号,同第xxQ号).以後,事件本人らは,本件施設で監護養育された。なお,同審判は,事件本人らの健全な成長のために,父が自己の性格特徴上の問題点に関する認識や飲酒について内省を深め,飲酒に頼らなくても精神的に安定した生活を営めるようになるまで,事件本人らを児童養護施設に入所させることが相当であるとしている。③ 父は,事件本人らの本件施設入所後は,事件本人らの家庭復帰を目標に児童相談所からの指導等を受け,平成15年6月ころまでは児童相談所に連絡のうえ事件本人らと定期的な面接等を行い,事件本人らの家庭復帰に向けて順調に推移していた。しかし,父はその後には事件本人らを伴い外出中に飲酒して車を運転するなどして本件施設職員から注意を受けたり,酔余のうえ児童相談所や本件施設に対し架電したり赴いたりして怒号するなど攻撃的な言動を繰り返すなどし,平成16年秋ころからは事件本人らとの面接も途絶えがちとなり,平成17年3月を最後に面接しなくなり,以後,本件施設や児童相談所からの連絡にも応じない状態となっている。父は,児童相談所や本件施設に対して極めて攻撃的であり,事件本人を児童自立支援施設に移すことも妹Cを引き続き児童養護施設に入れておくことも同意できず,いずれは事件本人らを引き取りたいとは述べるが,そのための準備や現在の生活状況等については,関係ないことであるとしてこれを明らかにしていない。いずれにしても,未だ,父の下で事件本人を健全に監護養育で‘きる環境が整えられているとはし、えない。事件本人は.0ム市立O口小学校6年生(学内での問題行動が多発したことにより平成汀年4月からは普通学級から特殊学級に移籍④となっている。)であるが,これまでにも暴力行為, 万引き,女児の身体に触るなどのわいせつ行為等様々な問題行動に及び,級友に対する暴力等も頻発し級友の中には不登校となったものも現れた。少年関係裁判例事件本人には,本件施設内での心理療法や児童相談所への通所指’導などが行われてきたが,改善傾向は見られないまま, 同年1Q月18日tこ,tま同年8月ころから本件施設内の小学2年生の女児を事件本人が無理矢理に裸にして性器を触ったり祇めたりするなどの強制わいせつ行為を繰り返していたことが発覚し,事件本人は同月20日に一時保護され,以後.0ム中央児童相談所の一時保護所で生活している。自らの行為についての問題意識がほとんどない状態”"G.内省は極めて乏しく,これまでの指導等にもかかわらず悪化傾向にあることなどからしても,しかし,ー事件本人は,もはやこのまま児童養護施設での処遇を総統することが有効であるとはいえず,児童自立支援施設において専門家の手によるより手厚い指導を施す必要がある。以上によれば,前記審判で指摘された父の問題点は改善しておらず,事件本人の健全育成のためには,事件本人を児童自立支援施設に入所させることが相当である。よって.本件申立てを認容することとし,主文のとおり審判する。(家事審判官安藤範樹)

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2012年2月27日 | コメント/トラックバック(0) |

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遺産分割申立却下審判に対する即時抗告事件

第I 本件抗告の趣旨及び理由
抗告の趣旨及び理由は,別紙即時抗告申立書記載のとおりである。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,以下の事実が認められる。(1) 被相続人は,平成16年1月7日死亡し,相続が開始した。(2) 抗告人:Aは被相続人の夫であり,抗告人B,同C,同D及び同E並びに相手方はし、ずれも被相続人の子である。(3) 被相続人の遺産は,目録記載のとおりいずれも定額郵便貯金(額面額合計1000万円)である。目録記載1の定額郵便貯金は平成12年10月26日に, 目録記載2のそれは平成13年4月2日に, 目録記載Sーのそれは同年1月29日にそれぞれ預け入れられたものである。’(4) 抗告人Eは平成17年5月30日に,同B及び同Cは同年’6月1Bに,同Dは同月2日に,いずれもその相続分の全部を抗告人Aに譲渡し,本件遺産分割手続から脱退した。これにより,抗告二人Aの相続分は10分の9,相手方の相続分は10分のlとなった。
2 ところで,郵便貯金法7条第1項3号は,被相続人の遺産である定額郵便貯金につし、て,一定の据置期聞を定め,分割払戻しをしない条件で一定の金’頒を一時に預入するものと定めている。すなわち,定額郵便貯金は,その預入時において,分割払戻しができないという契約上の制限が,法律の定めにより付されていることになる。そして,この契約上の制限は.その.後の相続によっても何らー影響を受けることなく,当然相続人に承継されるものである。それ故,定’傾郵便貯金の貯金者が死亡した場合に,その共同相続人が可分債権であ移管額郵便貯金債権をその法定相続分に応じて承継取得しても,そのうちの一人がする法定相続分に応じた払戻請求は,上記許されていない分害IJ払戻しを認めたのと同じことになるから.同じ可分債権である銀行預金債権とは異なり,許されないと解するのが相当である。その結果,逃産である定額郵便貯金については,f也の可分債権と異なり,実質的に逃産の準共有と同様な事態が継続することになる。定額郵便貯金は,同法57条1項の定めにより通常預金となる,預入の日から起算して10年が経過するまでの聞は,遺産の共有状態解消の手続である遺産分割lの対象となるというべきである。そうすると,本件において,目録記載の各定額郵便貯金は,いずれも預入の日から10年を経過していないから,未だ定額郵便貯金としての性質を失っておらず,本件遺産分割の対象として取り扱うのが相当ということになる。そして,上記のとおり定額郵便貯金の分割払戻請求が許されないことからすれば,遺産分割に当たり1個の定額郵便貯金を共同相続人の1人に単独で取得させる方が望ましいことはいうまでもない。そこで,相手方の法定相続分10分のlに相当する額面額100万円の目録記載1の定額郵便貯金は相手方に抗告人の法定相続分10分の9に相当する額面額550万円の目録記載2の定額郵便貯金及び額面額350万円の目録記載3の定額郵便貯金は抗告人Aに,本件遺産分割でもってそれぞれ取得させるのが相当である。
3 よって,家事審判規則19条2項に基づき,金銭債権は相続開始とともに相続分の割合で分割され,遺産分割の対象とならないとして目録記載の各定額郵便貯金の遺産分割申立てを却下した原審判を取り消した上,審判に代わる裁判をするのが相当であると認めi主文のとおり決定する。( 裁判長裁判官中山弘幸裁判官岩木宰伊丹恭)

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児童福祉施設入所措置等の期間更新の承認申立事件

(申立ての要旨)
主文同旨
(当裁判所の判断)1 一件記録によれば.以下の事実が認められる。(1) 事件本人は,本件本人親権者母(以下「実母」という。)の非嫡出子であり,実父は不明である。平成15年2月27日,東京家庭裁判所において,実母は事件本人の監護養育を著しく怠り,また身体的虐待もあったとして,申立人が事件本人を児童養護施設に入所させることを承認する旨の審判がされ(原審判J),同年3月18日,同審判は確定した。(2) 平成15年3.d26日,申立人は,事件本人を児童j養護施設に入所させる措置を採った(以下「本件入所措置」という。)。・その後,事件本人は,同施設における集団生活の中で問題行動が頻発したため,平成17年3月31日, 家庭的な雰囲気を持つ別の児童養護施設に入所させる措-置が採られた。事件本人は,入所当初に比べるとやや落ち着いてきたものの,施設内におし、て,挑発的な言動が多く,かんしゃくを起こして物を投げたり,相手をかんだりすることや,.1泣いてパニックになることがありー,また,職員との関係でも,男性職員にはべたべたと甘える反面.女性職員には攻撃的な言動をするなどの問題行動がみられる。なお,事件.?京大は,同年4月から施設近くの小学校に通っており何年に在籍),W~入当初は他の生徒とトラフ・ルがあったものの, 特に問題なく過ごしてし、る。事件本人は,実母と一緒に暮らすことについ毛は,消極的な態度を示している。(3) 実母は,原審判の際,家庭裁判所の調査及び審聞にe出頭しなかった。また,本件入所措置後,申立人は,手紙及び家庭訪問,福祉事務所の生活保護ケースワーカーを通ーじての状況把握という方法により,実母への働き掛けを試みてきたが,実母からは全く連絡がなく,指導はもとより接触することすらできなかった。本件の審理においても,家庭裁判所調査官からの調査の呼出しに応じず,家庭裁判所調査官が同人の肩書住所地を訪問をしたが,全く応答がなかった。
2 以上の事実に基づいて検討する。実母は,本件入所措置後申立人との接触を拒否し続けており,家庭裁判所の調査にも応じない。そのため,現在の同人の生活状況や事件本人の養育に対する考え方を把握することはできないが,少なくとも改善したと認めることはできず,事件本人を同人の元に返すと,再ぴ虐待等を受けるおそれがあると考えられる。そして,事件本人は施設及び学校において落ち着いた生活をしているものの,問題行動もあり,その年齢,君、向等も考え併せると,引き続き現在の施設において監護養育していく必要があることは明らかである。したがって,本件入所措置を継続しなければ著しく事件本人の福祉を害するおそれがあると認められ,措置の期聞を更新することが相当である.
3 本件入所措置は,平成;15年3月26日に採られたものであるが,児童福祉法の一部を改正する法律附則4条により,平成16年4月1日に措置が採られたものとみなして改正後の児童福祉法28条2項を適用することに・』主るので,平成18年4月1日から措置の期間を更新することになる。よって,主文のとおり審判する。(家事審判官岡健太郎)

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推定相続人廃除申立事件

第1 事案の概要
本件は,申立人がその長男である相手方を推定相続人から廃除する審判を求める事案であり,申立人が主張する廃除事由ほ,別紙「申立の実情Jのとおりである。関係記録によれば,本件の経緯について,次の事実が認められる。

1 当事者(1) 申立人〈大正羽生存×月x’Ei壬γ註.c及ち妻Dの長女である。申立人は,昭和21年3月25日. E (大正10年×月xx日生)と婿養子縁組婚姻の届出をして,その間に長男の相手方(昭和22年×月×日生)をもうけたものの,昭和29年12月27日,相手方の親権者を申立人と定めて協議離婚の届出をした。Dは,昭和61年1月17日死亡し, cほ,昭和62年5月24日死亡した。(2) 相手方は,昭和52年11月5日,F (昭和23年×月xx日生)と婚畑の届出をして,その聞に長女G及び二女H (し、ずれも昭和53年×月×日生)並びに三女1(昭和57年×月×日生)をもうけた。相手方は,平成4年10月15日,長女,二女及び三女の親権者をいずれも相手方と定めて調停離婚し.平成8年9月9日, J (昭和35年×月×日生)と婚姻の届出をした。(3) 申立人に相手方以外の子はなく,相手方が唯一の推定相続人である。相手方が廃除により相続権を失ったときは,相手方の長女,二女及び三女が代襲して相続人となる。
2 紛争の経緯(1) 申立人の父Cは,特定郵便局である00郵便局の局長を務めていた。申立人は,昭和42年にCを継いで同郵便局の局長となった。相手方は,昭和45年に大学を卒業し,郵便局で勤務した。相手方は,昭和52年11月にFと結婚して実家に戻り,昭和54年ころから,相手方家族が自宅母屋で暮らし.申立人とC及びDが自宅離れで暮らすようになった。相手方は,昭和57年3月に申立人を継いで00郵便局の局長となった。同郵便局の局舎は申立人の所有であり,同局舎は申立人の前記自宅と同一敷地内にある。(2)相手方は,平成4年10月にFと調停離婚し,長女,二女及び三女は.親権者となった相手方との生活を統けた。自宅母屋は,平成6年に建て替えられ,相手方につき持分5分の4,申立人につき持分5分の1とする所有権保存登記がされた。申立人は,平成7年7月に自宅を出て(以下r1回目の家出Jという。),同年11月に自宅に戻った。申立人は,平成10年7月ころ,再び自宅を出て(以下r2回目の家出」という。),その後口口市内めマンションで・暮らすようになったところ,平成11斧1・月に自宅に連れ戻されたものの,同年7月に自宅を出た(以下r3回目の家出Jという。)。相手方は,平成14年6月30日,郵便局を定年前に退職し,同年8月,大阪府Aム市のJ名義の自宅に転居した。相手方の二女及び三女も相手方と暮らしてし、る。申立人は.相手方の転居後,00の自宅の離れに戻った。
3 調停,審判及び訴訟の経緯(1) 申立人は,平成11年11月22日,和歌山家庭裁判所に対し,相手方を申立人の推定相続人から廃除することを求める調停(平成11年(家イ)第xxx号,以下「前件調停」という。)を申し立てた。そゐ申立書に記載された廃除事・自は,相手方の申立人に対する暴力であった。前件調停は,平成12年4月14日,調停が成立しないものとして終了し,審判手続(平成12年俸)第xxx号,以下「前件審判]という。)に移行した。申立人は,前件調停の係員中,相手方が申立人の郵便貯金を不法に取得したとの廃除事由も主張するようになり,郵政監察局に対し,相手方がm類を偽造して申立人の預金を横領したなどとする平成13年7月13日付け告発状を提出した。ヘーー相手方は,平成14年12月19日,前件審判の第12回審判期日において,申立人に関する遺留分放棄許可の申立てをすると述べ,申立人は,前件審判の申立てを取り下げた。しかし,相手方は,同許可の申立てをしていなし、。(2) 申立人は, 和歌山地方裁判所に対し,平成14年7月10日,相手方が申立人の郵便貯金を不法に取得したと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求として,6959万0588円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴え(平成14年(ワ)第xxx号,以下「前件訴訟」という。)を提起した。前件訴訟については,平成16年1月78,申立人の請求を一部認容し,相手方に3621万2399円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じる判決がされた。申立人及び相手方の双方が前記第1審判決を不服として控訴したものの,平成16年7月27日,各控訴を棄却する旨の判決がされ,前記各判決は,同年8月12日確定した。前記各判決の理由は,同旨であり,相手方は,申立人の主張する郵便貯金の一部について,権利者である申立人の意思に反して払戻しを受け,あるいはこれを担保に借入れをして, 申立人に3621万2399円の損害を与えたというものである。また,前記各判決では.1回目の家出及び2回目の家出の前に相手方の申立人に対する暴力があったこと,2回目の家出から連れ戻された後にも相手方の暴力が統いたことが理由中で認定されている。
4 申立人の精神障害ないし入格異常をいう相手方の主張ないし行動(1)相手方は,平成13年10月10日, 0ムO町長に対し, 申立人に精神的疾患の症状があり,家庭内でのその言行態様は全く異様であるとして,Aの資産等に関して,本人及び家族以外の代理人が各種届出・照会をした場合は,相手方に連絡をしてほしいとの哲面を提出した。相手方は,前件調停ないし審判においても,申立人に妄想性障害や統合失調症などの精神障害があるほか,申立人は人格異常であるなどと主張し,裁判所に,その旨の言い分を記載した書面を提出した。また,相手方が平成14年7月18日ころ申立人の郵便受けに投かんした手紙には,申立人について, r今までの2、考態様,行動等からみれば,妄想性人格障害,妄想性精神分裂症,老年期痴呆Jであるとの記載がある。-(’2) 相手羽ま,前性語訟心第l審においても平成15年5月8日付け上申書を書証として提出したところ,向上申書にも,申立人に「心の異常性」ないし「人格の異常性」があるとする相手方の言い分が詳細に記載されている。また,相手方は,前件訴訟の控訴審において,平成16年4月12日付け上申魯乞提出したが(控訴審で提出された書証はこの上申容のみである。),申立人が「妄想性人格障害J「妄想性統合失調症Jr老年期痴呆」であるとする相手方の言い分が詳細に記載されている。(3) 相手方は,平成16年H月1日の本件第2回審判期日においても,出頭した申立人の面前で,申立人に精神障害ないし人格異常がある旨を繰り返し述べた。
第2 当裁判所の判断
1 前記第1の事実及び関係記録によれば,①相手方は,平成4年4月に申立人に無断でその定期預金を担保として借入札をしたものの,返済をしなかったため,平成6年4月7日に申立人の預金が解約されて39万1291円が控除されたこと,②相手方は,平成8年10月から平成11年11月までの間, 自らが局長を務めるCわ郵便局において,申立人の承諾なくその郵便貯金合計3582万11Q8円の払戻しを受け, これらの金員を取得したことが認められる。
2 前記第1の事実及び関係記録中の申立人の供述によれば,相手方の暴力について,後記(1)ないし(3)の事実が認められる。相手方は,この点に関する申立人の供述は,精神障害などによる申立人の妄想というのであるが,関係記録によれば,相手方は,前件訴訟において,申立人の主張中,前記lの認定に沿う部分についても申立人の妄想で・あるとの弁解をしていたことも認められる。このような相手方の態度に照らせば,暴力を否定する関係記録中の相手方の供述は信用できない。(1) 相手方は,平成4年10月Fと離婚した後;申立人に暴力を振るうようになり,申立人は,平成7年7月ころ,留守番電話に申立人.を脅す相手方の芹Jが入っているのを聞き. 1回目の象出をした。(2) 申立人が1回目の家出から戻った後,平成9年になると.相手方は,再び申立人に暴力をふるうようになり,申立人は,平成10年7月ころ. 2回目の家出をした。申立人は,平成11年1月8日, 留置にしていた郵便物をOムO郵便局て・受け取った際,申立人あての郵便物を誤って自宅へ配達したと言われ,相手方は日中不在にしているだろうと考えていたことから.CXコの自宅へ寄ったところ,帰宅した相手方に見っかり,申立人は,同月9日,αコの自宅へ連れ戻された。(3) 相手方の暴力はいったんやんだものの,平成11年5月ころから.相手方の申立人に対する暴力が始まった。申立人は,同年7月3日午後6時ころ,相手方からの電話で・呼ばれて母屋へ行ったところ,相手方は,母屋の仏間で申立人の髪の毛をわしづかみにして,顔を平手打ちし,さらに申立人を押し倒して身体の上に覆いかぶさり,その首を絞めるなどした。申立人は,同年7月18日. 3回目の家出をして,弁護士代理人に委任の上,同年11月22日,前件調停の申立てをした。
3 相手方は,本件審判においても,申立人に精神障害があり,また.申立人は人格異常である旨を述べる。しかし,申立人は,そのような医師の診断を受けたことはないことが認められ, この点は相手方も自認するとごろである。かえっ・て,申立人は,平成13年11月29日にムO郡口O町所在のロム口病院において診察,心理テストを受け,精神障害は認められないとの診断を受けていることが認められる。平成16年11月1日の本件審判期日の申立人の発言内容にも,申立人の精神障害を疑わーせるような事情は認められない。そうすると,相手方が申立人の精神障害について述べるところは,何の根拠もないものというほかなく,相手方が申立人の人格異常をいう点についても,これを肯定できる根拠は見当たらない。4 前記第1の事実及び前記1ないし3に認定判示したところからすれば,相手方は,申立人に虐待をし,重大な侮辱を加えたほか,著しい非行に及んだものであるといえる。これにより.申立人と相手方の相続的協同関係は破壊されたものといわぎるを得ないから.相手方を申立人の推定相続人から廃除するのが相当である。この点を補足Uて説明すると,次のとおりである。(1) 前記2のとおり,相手方は,平成4年10月にFと離婚した後,申立人が平成11年11月に前件調停を申し立てるまで,申立人に対する暴力を断続的に繰り返している。相手方ほ,暴力は申立人の妄想であるというばかりで具体的な事実関係を述べようとしない.ため,その背景事情は必ずしも明らかではないが,これが一時の激情に出たものセないことも明らかであり,これらの暴力は申立人に対する虐待に当,たる。また,前記1のとおり,相手方は,平成8年10月から平成11年11月までの間,申立人に無断で,その郵便貯金合計3582万1108円の払戻しを受けて取得している。その額は多額である上,記録によれば,相手方は現時点でこれを返済する意思もないことが認められるから,この相手方の行為は著しい非行に当たるといわざるを得ない。(2) 相手方は,根拠もなく,前記第1・4のとおり,前件調停の申立てがされてから,申立人の精神障害ないし人格異常をいう主張ないし行動を続けている。相手方のこのような態度には,相手方が申立人の一人息子であり,年老いた申立人が自分の意のままに動き,その財産も自由になるという考えがあったにもかかわらず,申立人が相手方の暴力を廃除事由と主張して前件調停を申し立てたことや,その後,申立人が郵政監察局への告発を行い,相手方が郵便局を退職することになったこと,申立人が前件訴訟を提起したことなど, 3回目の家出の後,申立人が相手方に対して強い対応をしたことへの反発があるようにも思われる。しかし,前記1,2に認定判示したところからすれば,申立人の前記対応が根拠を欠くものではなく,前記のような事態は相手方が自ら招いた結果であるともいえる。それにもかかわらず,相手方は,根拠もなく..申立人の精神障害ないし人格異常をし、う主張ないし行動を続けているのであって,相手方は押立人に重大な侮辱を加え続けたというほかない。(3) 前記(1)の虐待及び非行そのものは平成11年以前のことであるが,相手方は,これを申立人から問題にされると,現時点に至るまで前記(2)の重大な侮辱を続けているのであり,これらの行為により,相続的協同関係は破壊されるに至ったことは明らかである。関係記録によれば,申立人も前件調停ないし前件審判の際には,相手方の戸籍に推定相続人廃除の記載がされた場合,相手方の子への迷惑になるのではないかという思し、から,廃除を求めるととをためらう気持ちもあったことが認められるものの,現時点においては,廃除を求める意思は固いことも認められる。
5 以上によれば,本件申立ては理由がある。(家事審判官奥山豪)

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2012年2月27日 | コメント/トラックバック(0) |

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退去強制令書発付処分取消等請求控訴事件

第一控訴の趣旨
主文同旨
第2 被控訴人の請求の趣旨被控訴人が日本国籍を有することを確認する。
第3 事案の概要
l 本件は,外国人女性を母とし, 日本人男性を父親として本邦で出生した被控訴・人(平成9年xx月xx日生まれの男児)が,出生後父親から認知を受けたことを理由に法務大臣宛に国籍取得屈を提出したところ,被控訴人が国籍取得の条件を備.えているものとは認められないとの通知を受けたことから,控訴人に対し.日本国籍を有することの確認を求めた事案である。なお,被控訴人の母(フィリピン国籍)は,被控訴人の出生当時本邦における在e留資格を有していなかったことから,被控訴人及びその母に対して退去強制手続が行われ,本件訴訟に併合して,出入国管理及び難民認定法第49条第l項に基づく被控訴人及びその母の異議の申出は理由がない旨の法務大臣裁決及び東京入国管理局主任審査官の両者に対する退去強制令書発付処分の適法性がそれぞれ争われていたが(東京地方裁判所平成i4年(行ウ)第×ー××号,同xxQ号事件).平成16年12月28日,被控訴人及びその母に期間1年間の在留資格が付与されたことから,上記の両事件は,平成17年1月18日,訴えの取下げによって終了した。
2 被控訴人は,本訴において,出生後に父の認知を受けたことにより,選択的に.(1) 国籍法(以下,単に「法」という。)第2条第1号に基づいて,出生時に遡って日本国籍を取得した.(2) 出生後の父の認知及び父母の婚姻を日本国籍の取得要件として規定する法第3条第1項の規定が違窓無効であるから,父母の婚姻という要件を具備していなくとも日本の国籍を取得した旨を主張して, 日本国籍を有することの確認を求めているところ,原判決は,被控訴人の上記(2)の主張について,法第3条第1項は,準正子と,父母が法律上の婚姻関係を成立させてはし、ないが内縁関係(重婚的内縁関係を含む。)にある非嫡出子との間で,国籍取得の可否について合理的な理由のない区別を生じさせている点におい,て窟法第14条第1項に違反する旨を判示して,被控訴人の請求を認容したので,これを不服とする控訴人が控訴を提起した。
3 法令の定め,前提事実及び当事者双方の主張は,原判決「事実及び理由」欄「第2 事案の概要」の1ないし4 (原判決1頁24行自から同17頁9行固まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決5頁11行目から13行固までを以下のとおり改める。「ア) 認知の効力は遡及するから,被控訴人は,生後認知を受けたことにより,法第2条第1号に基づき,出生時に遡って,日本国籍を取得した。イ) 生後認知を受けた嫡出でない子につし、て,父母が婚姻したときに限り日本国籍の取得を認める法第3条第1項は,憲法第14条第l項に違反し.無効である。そして,被控訴人は,認知のときに日本国籍を取得したというべきであり,そうでないとしても,本件届出により日本国籍を取得した。」
第4 当裁判所の判断
1 現行の法は, 日本国籍の取得について,父又は罪が日本人である子は日本国民であるとする扱いが我が国の国民感情に合致していることを前提に,血統主義を採用したが,その中でも,交母左もに日本人であることを要件とするのではなく,両性平等の観点、から,父か母のどちらかが日本人であれば足りるとする考え方を基調としているということができる。そして, 日本国籍取得の要件として,出生時に父文は母が日本人であること(法第2条第1号)を原則としかつ,法第2条第1号は,単なる人間の生物学的出自を示す血統が証明されれば足りるとすることなく,子の出生時に日本人の父又は母と法律上の親子関係があることを要する旨を規定するものと解され,同号の適用上.認知の遡及効が否定される結果(最高裁判所第二小法廷判決平成9年10月17日民集51巻9号3925頁,最高裁判所第二小法廷判決平成14年11月22日裁判所時報1328号l頁参照).父が日本人である子であっても,出生時において,父と子との聞に法律上の親子関係がない場合は,たとえ,生後認知を受けた者て-あっても,同号による日本国籍取得が認められず,このような者が日本国籍を取得するには,本来であれ.ば,帰化の手続を経なければならないものであるところ,特に,法第3条第1項を設けることによって,出生時に日本人である父との法律上の親子関係を有し七いなかった嫡出でない子においても,父母の婚姻と父による認知としみ要件を満たせば.届出による日本国籍取得の途を閉し、たものであって同項は,血統主義を採用した法において,出生時に日本人である父との法律上の親子関係を有していなかJた嫡出でない子につき,準正(法例第四条,民法第789条)を理由とする日本国籍の取得を認める補完的手段であると位世づけることができる。
2 ところで,先ず,被控訴人は,法第2条第1号に基づいて,出生後父による認知を受けたことにより,出生時に遡って日本の国籍を取得したとして,被控訴人が日本国籍を有することの確認を求めているところ,同号は.単なる人間の生物学的出自を示す血統が証明されれば足りるとするものではなく,子の出生時に日本人の父又は母と法律上の親子関係にあることを要する旨を規定するものと解され,同号の適用上.認知の遡及効が否定される結果,出生時に日本人の父と法律上の親子関係がない場合は,父が日本人である子であっても,生後認知を受けた者が日本国籍を取得するには,帰化の手続を経由するか,そうでなければ,法第3条第1項所定の要件を具備しない限り,日本陸籍を取得することはできないというべきであるところ,本件全証拠によっても,被控訴人につレては民法第783条所定の胎児認知がされた事実はなく, したがって,被控訴人とその父との聞には,被控訴人め出生時において,法律上の親子関係にあったことは認められないから,被控訴人が法第2条第1号に基づいて日本国籍を取得することはあり得ないというほかない。したがって,被控訴人の上記主張は失当というほかな.い。
3 次いで,被控訴人は,法第3条第1項の規定が,同じく日本人である父の認知を受けた子でありながら,父母が婚姻した者には日本国籍の取得を認め,父母が婚姻していない者にはこれを認めないことが,憲法第14条第1項に違反することを理由に,法第3条第1項が無効であることを主張して,被控訴人が日本国籍を有することの確認を求めている。しかしながら,被控訴人の本件請求は,法第3条第1項の規定が,同じく日本人で・ある父の認知を受けた子で・ありながら,父母が婚姻した者には日本国籍の取得を認め,父母が婚姻していない者にはこれを認めないことが,態法第14条第l項に違反するJZとを理由に.法第3条第1項が無効である旨を主張し,被控訴人が日本国籍を有することの確認を求めるものである。父文は母が日本人である子の日本国籍取得に関する法の構造は前記のとおりであって,その第2条第l号において,子が出生のときに父又は母が日本国民であるときに当骸子を日本国民とすると規定しているが,その規定の趣旨からすると,出生時に子と法律上の親子関係がなかった父が子が出生した後に認知をしたとしても,当該子が日本の国籍を取得することにはならず,法第3条第l項において,父母の婚姻及び父による認知により嫡出子たる身分を取得した子が届出をした場合に初めて当該子が日本の国籍を取得することができることとされているところ,父の認知を受けたが父母が婚姻をしないため嫡出子たる身分を取得しない子が,同項により日本の国籍を取得することができる者に含まれていないことは,同項の文言及び趣旨に照らして明らかであるから,法において,出生した後に父から認知を受けたが,父母が婚姻をしないために嫡出子の身分を取得しない子が日本の国籍を取得する制度は規定されていないことは明らかといわざるを得ない。被控訴人は,出生後の父による認知を受けたが父母が婚姻をしないために嫡出子たる身分を取得しない子についても, 日本の国籍を取得するべきである旨の主張を根拠として,法第3条第1項に規定する父母の婚姻及び父による認知という要件を具備した場合に当該子が日本のー国籍を取得する制度を規定している同項が態法に違反して無効である旨主張するが,上記のような国籍法の規定内容に照らすと,仮に同項の規定が無効であるとすれば,父母の婚姻及び父による認知要件を瓦備した子において日本の国籍を取得する規定の効力が失われるだけであって,そのことから,被控訴人の主張するような出生した後に父から認知を受けたが,父母が婚姻をしないために嫡出子たる身分を取得しない子が日本の国籍を取得する制度が創設されるわけで・はないことも明らかといわざるを得ない。しかも,被控訴人の主張するように,仮に法第3条第1項の規定が無効であるとなれば,同項所定の要件を具備する子が日本の国籍を取得することができるのに対して,出生した後に父から認知を受けたが,父母対婚姻をしないために嫡出子たる身分を取得しない子が日本の国籍を取得できないことが不合理であるとの主張を維持することができなくなるととも明らかである(なぜならば,法第3条第1項の規定が無効であるならば,同項所定の要件を具備した子であっても日本の国籍を取得することができなくなるからである。)。そうすると,被控訴人が,出生した後に父から認知を受けたが,父母が婚姻をしないために嫡出守主たる身分を取得しない子についても, 日本の国籍を取得することができると解すべきであるとの主張を前提として,法第3条第1項の違憲無効を主張することは,法理論的に明らかな矛盾を含む主張であり,したがって,被控訴人の上記憲法違反の主張は,控訴人の立法不作為の責任を追及する趣旨のものにはなり得ても(なお,前記第二小法廷判決平成14年11月22日の事案と異なり,本件においては被控訴人は国家賠償法に基づく損害賠償請求をしていない。).被控訴人の日本国籍を有することの確認を求める本件請求を認める根拠とはなり得ないといわなければならないから,それ自体が失当というほかない。
4 もっとも,被控訴人の主張するところの真意、を割酌すれば,法第3条第1項が, 日本人である持~生後認知を受けた子において,父母の婚姻によって準正が成立した場合に, 日本国籍の取得を認めているのであり,かつ,被控訴人の父母は婚姻関係はないがι事実上婚姻と同視し得る内縁関係にあるのであるから, 日本人である父による生後認知を受けた被控訴人についても,同項を類推適用し,あるいは,同項の拡張解釈によって,被控訴人にも日本国籍の取得を認めるべきであるとの主張とみる余地もないではないので,以下には,この観点から検討をすることとする6確かに,ある法律を本来予定されたのと類似の事項に適用したり(類推適用).条文句語句を広義に従って解釈すること(拡張解釈)が相当な場合があり得ることは否定することがで-きない’(前記最高裁判所第二小法廷判決平成9年10月17日,最高裁判所第一小法廷判決平成15年6月12日裁判所時報1341号178頁参照)。しかしながら,そのような場合においても,立法者の意思を離れてこれを行うことは許されないというべきであり,したがって,特に,本件においてその解釈が争点とされている国籍法については,規定する内容の性質上, もともと,法律上の文言を厳密に解釈することが要請されるものであり,立法者の意思に反するような拡張ないし類推解釈は許されないというべきである(最高裁判所第二小法廷判決昭和48年11月16自民集27巻10号1333頁参照)。上記最高裁判所第二小法廷平成9年10月17日判決及び同第一小法廷平成15年6月12日判決は,法律上の夫がある外国人女性が懐胎した子について, 日本人である父が適法に胎児認知をすることができなかった場合において,子の出生後速やかに当該子と母の夫との親子関係がないことを確定する手段が緋じられ,かつ,同親子関係不存在が確定した後に父が子を認知したとし、う事案において,胎児認知がされた場合に準じて,当該子が法第2条第1号により, 日本国籍を取得したことを認めたものであっで法第3条第1項により日本国籍を取得したとし、うために生後認知があったというだけでなく,父母の婚姻をしたことを要するにもかかわらず,被控訴人の父と母との聞において,現実に婚姻が成立していない本件とは事案を異にするものといわざるを得ない。また,法第3条第1項は.r父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子Jとそり要件を明示し,「婚姻J.r認知」あるいは「嫡出子Jとし、う慨念によって,立法者の意思が一義的に示されてしごるものである上,同項が.血統主義に基づく日本国籍の取得における原則を定めた法第2条第1号の適用のない者について, 日本国籍取得を認める例外的,補完的な性質を有する規定であって,本来むやみに拡張を許すべきものでないことを考えれば,法第3条第1項の類推解釈ないしは拡張解釈によって,被控訴人:の日本国籍取得を認めることはできないものというほかない。そしてJ法第3条第1項は,国籍取得の要件として,父母の「婚姻Jを規定し,しかも,父母の婚姻及びその認知により「嫡出子Jたる身分を取得した子と規定しているところ,被控訴人の主彊するような事実上の婚姻関係(内縁関係)を同項が国籍取得の要件として規定している「婚姻」に含まれるとの拡張ないし類推解釈をすることは許されないというべきである。なお,被控訴人の法第3条第l項の違踏無効の主張を,同項のうち「婚姻」ないし「嫡出子」を要件とする部分だけを違憲無効とし,もって同項を上記のように拡張ないし類推解釈するべきであるとの主張として解する余地もないではないが.同項の「婚姻Jが事実上の婚姻関係(内縁関係)を含むものと解釈し得ないことは上記のとおりであって,被控訴人の主張を上記のように解したとしても,それは.結局,裁判所に類推解釈ないしは拡張解釈の名の下に国籍法に定めのない国籍取得の要件の創設を求めるものにほかならないというべきと・ころ,裁判所がこのような国会の本来的な機能である立法作用を行うことは許されないものというほかない。したがって,被控訴人の主張右上記のようなものと解したとしても,理由はなく,失当といわざるを得ない。
5 以上のとおり,仮に法第3条第1項が,憲法第14条第1項に違反し,その一部瓦は全部が無効であったとしても,そのことから当然に被控訴人が日本国籍を取得することにはならないし,また.被控訴人が法第3条第1項の類推適用ないしは拡張適用によごって, 日本国籍を取得したということもできない。
6 本件においては,被控訴人は,前記のとおり,出生後に父の認知を受けたことにより,選択的に.(1) 法第2条第1号に基づいて,出生時に遡って日本国籍を取得した。(2) 出生後の父の認知及び父母の婚姻を日本国籍の取得要件として規定する法第3条第1項の規定が違憲無効であるから,父母の婚姻とLづ要件を具備していなくとも日本の国籍を取得した旨を主彊して, 日本国籍を有することの確認を求めているところ,原審以来,被控訴人は,法第3条第l項の違憲無効を主張しており,本件における主要な争点とされてきた経緯があるけれども,上記(1)を前提とする請求については,被控訴人の法第3条第l項についての違憲無効の主張は何ら関連性がないことは明らかであるのみならず,上記(2)の主張を前提とする請求についても,上記違憲無効の主張は,仮にこれが肯定されたとしても,上記請求の根拠となり得ないことは前記のとおりであり,したがって,止記違憲無効の主張に対する判断を裁判所が示すことは,具体的な紛争の解決に直接かかわりのない事項について一般的に窓法判断を示すこととなり,違憲立法審査権を規定する憲法第81条の趣旨に反することとなり,許されないというべきである(最高裁判所大法廷判決昭和27年10月8日民集6・巻9号783頁参照)。
第5 結論以上のとおり,被控訴人の本件請求は理由がなし、から棄却すべきところ,これを認容した原判決は,不当といわなければならず,本件控訴は理由がある。よって,原判決を取り消し,被控訴人の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官瀕野慢裁判官高世三郎長久保尚善)

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2012年2月27日 | コメント/トラックバック(0) |

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婚姻費用分担申立事件

第1 申立ての趣旨
相手方は,申立人に対し,婚姻費用の分担として月額50万円を支払え。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 申立人は,平成6年11月22日,相手方と婚姻し,平成7年8月29日長女Cを,平成10年5月5日,二女Dをそれぞれもうけた。
相手方は,平成16年1月中旬ころまで,申立人.長女及び二女とともに,本籍地のマンションで居住していたが,申立人との婚姻関係について悩んでいたことから,現住所にマンションを借り,それ以降,同所と本籍地のマンションとを行き来するようになり,同年3月上旬ころ,専ら現住所に居住するようになり,別居状態となった。
申立人は,同年2月ころには,相手方と離婚することは考えていなかったが,相手方との話し合いが進まないことから.同年5月1日本籍地のマンションを退去し,長女及び二女を連れて,住所地に転居した。申立人は,現在,住所地において,長女(現在9歳)及び二女(現在6歳)とともに居住している。
(2) 申立人は,同年6月18日,婚姻費用の分担調停事件を申し立て,同調停事件は,同年8月2313,合意が成立する見込みがないことから,不成立となり,本件審判事件に移行し,審問期日において,当事者は.調停段階での証拠を提出し主張を述べた。
(3) 申立人は,住所地に転居後.アパレル関係の会社に勤務し,同年6月16日以降,毎月23万円の給与を受け,今後,同額の給与を受けることが見込まれるが,賞与が見込めないことから,総年収としては12倍をした276万円の収入が見込まれる。相手方は,歯科医師であり,平成7年7月ころ,歯科医院を開業し,平成10年10月ころ,医療法人を設立して,現在,同医療法人の代表者である理事長兼院長として稼働している。
同医療法人は,申立人に対し,設立当初から理事としての報酬を支払っており(所得税法57条に規定する青色事業専従者に対する給与であり,以下, 「専従者給与」という。),同専従者給与はこれまで当事者の婚姻費用として費消されてきたが,申立人が平成16年3月31日理事を辞職し,同年5月以降,申立人が転居したことを契機に支給されていない。一方でこれに対応して新たな雇用もされてい
ないため,その利益分は医療法人に帰属している。
(4) なお,同医療法人は,相手方の両親が所有する不動産を賃借しており,相手方の両親に対し月額30万円を支払っている。また,相手方の父が代表者をつとめる有限会社は,相手方の父に対して,年間300万円の,相手方の母に対して,年間264万円の,それぞれ給与を支給している。
2 判断
(1)相手方の収入について
申立人は,相手方の収入が年収3204万円であると主張し,その理由として,ア平成14年度,平成15年度市民税・県民税特別徴収税額の通知容によれば. 1800万円の給与所得があり,別居以降の資料は信用できないこと,イ申立人は,平成14年度,平成15年度市民税・県民税特別徴収税額の通知書によれば,医療法人から年間840万円の給与を受けていたことになっていたが,これは税務対策のために専従者給与を計上していたのであり,今後,専従者給与として計上しなくとも,相手方は代表権を有する理事長であるから,なんらかの別の名目で相手方の実質的な収入とすることが可能であること,ウ医療法人は,相手方の両親に対し,相手方の両親の所有する不動産を賃借しているとして賃料月額30万円を支払っていることとなっているが,これらの賃料の振込先の預金通帳は相手方が管理をしているから,実質的には相手方の収入となっていること,エ相手方の父が代表者をつとめる有限会社は,医療法人の税務対策用のトンネル会社であるが,同有限会社は,相手方の両親に対し.これまで・年間300万円及び年間264万円をそれぞれ支給したこととなっているが,現実には相手方の両親は稼働しておらず,かつ,給与振込先の預金通帳は,いずれも相手方が管理しているから,実質的には相手方の収入となっていることなどを挙げる。
これに対し,相手方は,ア平成16年1月1日以降の医療法人からの理事長の報酬額は月額110万円であり,賞与がないことから.理事長報酬の年間総収入としては12倍をした1320万円であること,イ申立人に対して支給していた専従者給与は医療法人における人件費の減少となるのみであり,相手方の収入とはならないこと,ウ医療法人が支払う賃料は,相手方の両親の収入であって,相手方の収入ではないこと,エ有限会社が支給する給料は,相手方の両親の収入であって,相手方の収入ではないなどと反論する。
そこで検討するに,まず,医療法人から受ける報酬額については,年間1320万円であると認める。なぜなら,医療法人の議事録によれば.別居前の平成15年12月25日に,相手方にとって不利となる従来の月額100万円から月額110万円に引き上げられていることから,信用できると考えられるからである。次に,申立人が平成16年5月まで受給していた月額60万円(年額
720万円)の専従者給与相当額については,その額を相手方収入に加算するのが相当と考える。なぜなら,まず,申立人がこれまで受給していた専従者給与の額については,医療法人の議事録によれば,別居前の平成15年12月25日に,相手方にとって不利となる従来の月額50万円から月額60万円に引き上げられていることから,信用できると考えられ,次に,この専従者給与額に相当する利益は,平成16年5月以降,医療法人に帰属しているところ,同医療法人は,相手方により設立され,自ら理事長となって業務を総理していることからすると,医療法人の財産は,現在,実質的に相手方に帰属し,最終的にも相手方が取得する可能性が高いと評価できること,その上,これまで専従者給与は婚姻費用として費消されてきたことも考慮すると,これを婚姻費用の分担額を定める収入とするのが相当と考えられるためである(分担義務者が個人会社の代表取締役である場合において,収入を単に源泉徴収票による報酬によるのではなく,会社の売り上げを考慮した実質的な報酬とし,その認定については,推認によった例として東京家裁昭和40年5月10日審判・家裁月報第17巻10号112頁)。もっとも,相手方は,今後,医療法人の収入を明らかにして反論するととも考えられるが,専従者給与を加算した額を相手方の収入としたのは,平成16年5月時点において,当該時点の医療法人の収入がいくらであるかにかかわらないものであり,また,それ以降の医療法人の一般的な減収を理由とするのであれば,その事情は流動的であるから,数か月間の減少を示すだけでは足りないため,相手方が現在の収入を明らかにしても反論としては意味がない。
次に,申立人は相手方の両親が受けていた収入が相手方の収入となると主張するが,現在の資料によっては,これを認めることができない。なぜなら, これが認められるかどうかについては,相手方及び相手方の両親の説明について審理し,客観的な証拠を踏まえた上,説明の合理性.整合性を吟味する必要があるところ,申立人において,早期の支払いを求めるため,これ以上の立証を希望せず,相手方も自ら証拠を提出しないというのであるから,結局,証拠が十分ではないといわざるをえない。
(2) 申立人の収入については,年収276万円と認められる。
(3) 以上の年収を前提にして,当事者聞の未成年子の数及び年齢並びに現在の監護者を前提にして,現実の婚姻費用の分担額を定めるために, 目安となる標準的な婚姻費用の分担額を求めることとし,それについては,基礎収入の認定について,税法等で理論的に算出された原準的な割合と統計資料に基づいて推計された標準的な割合をもって推計することとし(家裁月報55巻7号155頁),標準的な割合を,申立人について40パーセント(概ねの数値として採用する。),相手方について34パーセント(給与所得者の最も高額者の場合の値として研究が本文中に掲げる数値)として,基礎収入は,申立人について,約110万円(276万円xO. 4),相手方について約694万円(2040万円x0.34) であり申立人世帯に振り分けられる婚姻費用は, (110万円+694万円) x(100+55+55) + (100+100+55+55) =約545万円であり義務者から権利者に支払うべき婚姻費用の分担額は435万円(545万円-110万円)である(月額36万円)。
(4) 申立人及び相手方の主張する特に考慮すべき事情について申立人は,平成16年4月から6月の月額支出平均として約66万円の支出があり,今後も同額が必要であると主張し,相手方は,月額支出として同年5月に約105万円の支出が必要であったと主張している。しかしながら,世帯を別にすることにより発生する収入に応じた公租公課,職業費及び特別経費は既に考慮、しているところであり,特にそれを超えて支出する必要性は見あたらない。特に申立人において主張する多額の子の補習教育費については,子の監護に関する事柄であって,相手方の了承がなく,このままその必要性を認めることができない。もっとも,相手方が本籍地所在のマンションの費用を支払っていることについて,そのいく分かは申立人においても負担すべきものとも考えられるが,相手方の現住所が本籍地マンションに近く転居が可能であることや,相手方と申立人との収入に著しい差違があることからすれば,特に考慮すべき事情には至らないと考える。また,当事者双方が互いに主張している子の保険掛金については,当事者双方が任意に支払っているものと評価され確実性が認められないから,甚酌することができない。なお,相手方は面接交渉の実施がされていないことをも減額の理由にするようであるが,この面接交渉の実施の可否,方法は別途の申立てによって審理されるべきであり,何ら定まっていない状況では特に考慮すべき事情とはいえない。
(5) 縦命
以上のとおりであり,双方の収入に応じて求められる標準的な婚姻費用分担額を一応の目安として参考にした上. 1で認定した事実その他記録上現れた申立人及び相手方の生活状況,資産その他一切の事情を考慮すると,婚姻費用分担額としては月額35万円とするのが相当であり.その始期としては,調停申立日である平成16年6月18日とするのが相当であり,平成16年6月の13日間分15万円(月額35万円の日割計算,千円以下四捨五入)と.同年7月及び8月分の合計70万円を合算した合計85万円を即時に,平成16年9月分以降については,離婚又は別居状態解消まで,毎月35万円を毎月末日限りそれぞれ支払う義務が相手方にはあるから,主文のとおり審判する。(家事審判官小西洋)

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児童の福祉施設入所承認申立事件

1 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1) 事件本人は,平成12年3月30日, 事件本人親権者母(以干「実母」という。)と某との間の子として,山形県内において出生した。
事件本人出生後まもなく,実母は事件本人親権者養父(以下「養父」という。)と交際を始め,平成14年1月30日婚姻し,同年4月9日養父及び実母と事件本人とは養子縁組をした。
(2) 実母は,昭和56年9月17日,山形県内において出生したが,実母が小学校4年生のころ両親は離婚して実母は父と生活するようになり,その後実母は情緒不安定となって対人関係等でトラブルを起こすことが増えた。中学生時代には恐喝等で何度も補導され.2年生の5月から卒業間際までxxxxに入所し,中学卒業後は水商売に従事するようになった。そして.18歳のころ遊び仲間であった某の子である事件本人を出産した。このような実母に対し,実母の父は厳しく対応し,時にはしつけとして暴力を振るうことがあった。
養父は,昭和41年7月29日,山形県内で出生し,高校まで進学したが中退した。養父は,平成12年ころ水商売をしていた実母と知り合い,一緒に生活を始めたが,その当時から暴力団に所属していた。
(3)実母は,事件本人を実家に預けて養父と暮らしていたが,平成13年6月ころから何度か山形県福祉相談センターを訪れ,事件本人を乳児院に預けたいと相談していた。事件本人は,平成14年1月22日,緊急一時保護され(一時保護時の事件本人の様子として.38度の発熱があり,体に数か所の傷が確認されている。).同年3月8日, 口口乳児院に同意入所措置が採られた。
養父は,平成13年12月に脅迫罪で逮捕され,平成14年2月に懲役8月の実刑判決を受けて△△刑務所に収監されたが, その間に,前記のとおり,事件本人は一時保護の上乳児院に入所し,養父と実母の婚姻届が提出された。同年4月3日事件本人は家庭引取となったが,実家に預けられ,同月9日刑務所に収監中の養父及び実母との養子縁組届が提出された。
養父は同年9月26日に刑務所を出所しその後実母は事件本人を引き取って3人で暮らし始めた。そのころから,養父は事件本人を叩くようになり,また, 実母も事件本人に対して,しつけとして暴力を振るうようになった。
平成16年2月ころ,養父が暴力団関係でトラブルを起こしたことから,一家は山形を離れて埼玉県和光市に転居し,同年5月には東京都立川市に転居した。実母が水商売をして家計を支える一方で,養父は定職に就かず,覚せい剤に手を出すようになり,自宅内でも覚せい剤を使用していた。
同年9月ころ,一家は東京都港区のマンションに号!っ越した。実母は,グラブでホステスとして働くようになり,養父は,相変わらず自宅内で覚せい剤を使用していたが,覚せい剤が切れるといらいらして,物を投げるなど実母とのけんかが絶えず,腹を立てた実母が包丁を持ち出して養父に切りつけることもあった。事件本人は,幼稚園や保育園に通うことなく, もっぱら自宅で養父らと過ごす毎日であった。
(4) 同年10月末ころ, 実母は,自宅内において,事件本人がガスコンロをいじっていたことに腹を立て,調理に使用していてまだ熱い状態にあるフライパンを事件本人の左ほほと右足ふくらはぎに押し付けるなどし,事件本人に熱傷を負わせた(医師の診察・治療は受けさせていない。)。また,このころ,養父は,自宅内において, 事件本人が養父の説教をよそ見をして聞いていない様子であることに腹を立て,事件本人の頭部にスプーンを投げつけ,事件本人に傷を負わせた。
(5) 同年11月3日午前3時ころ,養父と実母が夫婦げんかをしていた際,実母は自宅前にあった交番に駆け込み,警察官に対し「夫が覚せい剤をやっている。夫が事件本人をいじめる。」などと訴えた。そして,事件本人を連れて実母を追い、かけてきていた養父と路上で更に言い争いになったことから,駆け付けた警察官らは,当事者らを○×警察署に同行した。同署において,実母は,前記同様の供述をしたほか,事件本人の身体の傷について問われたのに対し.「自分もしょっちゅうやっている。フライパンのほかに蹴ったりしている。夫からの暴力等でストレスがたまり,こどもに八つ当たりした。」などと述べた。
このような事実が判明したことから,同日.○×警察署長は,児童福祉法25条により,申立人に対し事件本人を通告した。通告を受けた申立人は,同日,事件本人を東京都児童相談センター内に一時保護した。
(6) 同月18日付け東京都児童相談センター医師□△□△作成の診断書によると,事件本人について,①右下腿内側に円形の皮膚潰癒(径4.5×5.0センチメートル)を認め,表皮なく,真皮が桃色に露出し,熱傷2度,同月4日から全治1か月余,②頭皮内,左前頭寄りに前後方向にえんじ色線状傷口(長さ4センチメートル,幅2ミリメートル)があり,同日から全治約1週間,③その他複数の傷痕(左ほほ耳前の薄桃色の楕円形の皮膚変化(径4x 5センチメートル)等頭部,顔面,左腕,腹,足に8か所)の傷害が認められている。
事件本人は,一時保護当初は,他の児童に対し首を絞めるなど粗暴な行為,大人に対しての関わり方のぎこちなさ,身体的・心理的距離の取り方の不自然さがあった。また,大人の態度への過敏さ,音への過度の恐怖感(パニック状態でその場から逃げ出す)が認められ,家族の話をして過去の虐待体験の想起があるとぼうっとした表情になったり,虐待時に受けた熱傷について「痛くなかった」と述べるなど解離症状があり,いらいら感,集中力の低下過覚醒,回避などから,PTSDと診断できる状態にあった(児童票(6)医学的所見)。
(7) 事件本人は,平成17年3月29日から児童養護施設に一時保護委託されており,同年4月9日からは同施設から幼稚園に通っている。現在は,他の児童とも落ち着いて過ごすことが多くなり,また.PTSDに関係する症状はさほど顕著ではなくなっている。
事件本人は,右足と左ほほの熱傷については「ママがやった。」と述べている。実母と養父については,好きと述べる一方で,家に帰ってまた怪我をしたり熱傷をしたりするのは嫌だと述べているが,実母らに関する気持ちや施設における生活に関する意向等は明らかではない。
(8) 養父は,平成16年12月14日覚せい剤取締法違反で逮捕され,平成17年2月16日同罪(自己使用所持)により懲役2年の実刑判決を受け,現在□□刑務所で服役中である。本件については,自宅内に覚せい剤を使用していたことや事件本人に暴ー行したことがあることは認めているものの, これらの行動について真撃な反省の態度はみられない。また,実母との婚姻及び事件本人との養子縁組については継続する気持ちであり,事件本人を実母のもとに帰してほしいとの意向である。
実母は,同年1月で・ホステスの仕事はやめ,同年4月から生活保護を受給し始め,同年6月から現在住所地で一人で生活している。本件については.事件本人にフライパンを押し付けたのは火遊びをして危ないからしつけのためにやったことである,それを除けばそれほど大きな暴力を振るったことはないと述べている。そして,平成16年11月に事件本人が一時保護された直後から申立人に対し事件本人の引き取りを強く要求しており,早く一緒に生活したい,施設に入れるのは反対であるとの意向である。
2 以上の事実に基づいて検討する。
(1) 身体的虐待について
平成16年10月末ころ,実母は,事件本人がガスコンロをいじっていたことに腹を立て,熱したフライパンを事件本人の右足ふくらはぎと左ほほに押し付けるなどして,事件本人に全治1か月余を要する熱傷等を負わせ,養父は,事件本人が養父の説教をよそ見をして聞いていない様子であることに腹を立て,事件本人にスプーンを投げつけ,頭部に全治約1週間余を要する傷害を負わせた。
また,事件本人は,実母及び養父から日常的に暴行を受けていたものと認められる。実母は審聞において日常的な暴力については否定しているが,一時保護時に前記の熱傷等のほかにも接数の傷跡があったこと,養父は家裁調査官に対し実母が体罰を用いてしつけを行っていたと述べていること, 実母も,延父とけんかしていらいらした際には事件本人に八つ当たりしていたことやしつけのつもりで暴力を振るったことがあることは認めていること,養父は覚せい剤の常習使用者であり.覚せい剤が切れると自宅内で暴力を振るうなどしていたことなどの事実に照らすと,事件本人は,実母及び養父の双方から,しつけと称して,文は八つ当たり等の理由で, 日常的に暴行を受けていたものと認めるのが相当である。
これらは,事件本人に対する身体的な虐待であると認められる。
(2) 保護者の監護能力等について
養父は,前記認定のとおり,定職に就かず、暴力団関係者であり,また.覚せい剤の常習使用者であって,覚せい剤が切れると自宅内でも暴力を撮るっていた。また,現在覚せい剤取締法違反の罪により刑務所に服役中であるが.家裁調査官の調査結果によると,事件本人にかわいそうなことをしたと述べるなど一応の反省の言葉はロにしているものの,覚せい剤にしろ日常生活にしろ,真摯に反省しているとは認められない状態である。
実母は,現在無職であり,中学卒業以来これまで水商売以外の仕事をしたことがない。また,原因は覚せい剤を常習的に使用していた養父にあるものの,自宅内で養父としばしば喧嘩となり,喧嘩の際には包丁で切りつけるなど実母も激しい暴力を振るっていた。実母はその生育過程において父から暴力を受けていた経験があることなどもあって,安易に暴力を振るう傾向が認められ,また,家裁調査官の調査結果によると,情緒が不安定で感情統制が弱い.ストレスをためやすく,ある程度たまると爆発してしまう傾向も認められる。このようなことから,実母は,事件本人に対する愛情はあるものの,暴力を振るうこともしつけと誤解しており,また,自らの感情を抑えきれずに事件本人に悪影響を与える行動に及んでしまっていたものである。
また,事件本人に対する直接の暴行のほかに,事件本人の面前で,養父と実母がしばしば喧嘩し,時には激しい暴行が行われていたことは,それ自体事件本人の成長発達に極めて悪い影響を与えていたものと考えられる。
(3) 事件本人の状況について
事件本人が一時保護された時点における状態は,前記認定のとおりであって,身体的に多数の悔害が認められたほか,精神面においても実母らによる暴行や父母の喧嘩が絶えない等の家庭環境による影響が認められた。保護されて半年以上施設における生活を過ごし,現在は相当程度落ち着いてきているものの,家裁調査官の調査の際に,あちこち動き回ってほとんど落ち着いて話すことができず「殺す」といった言葉が自然に出ていた等なお不安定な部分があり,今後も落ち着いた環境において継続的に専門的な手当てを行うことが必要と認められる。
(4) まとめ
以上のとおりであって,事件本人は,実母及び養父から暴行を受け,また養父が覚せい剤の影響で暴れたり,父母聞の暴力を伴う喧嘩を日常的に目の当たりにするなどの生活環境にいたものであるところ,実母はこれまでの暴力等を反省しており,袈父は服役中で当面は家庭に戻らない状況ではあるものの,実母は定職に就かず,生活は極めて不安定であり,またこれまでの安易に暴力を振るう傾向は直ちに解消されるものではないと考えられること,養父は従前の生活態度に対する反省が深まっておらず.出所後事件本人らと生活するようになるとこれまでと同様の事態となる可能性が高いことなどの諸事情に照らすと,現時点において事件本人を保護者に監護させることは著しく事件本人の福祉を害するものといわざるを得ない。
したがって,事件本人を児童養護施設に入所させることが相当である。
3 そして,施設入所措置を終了して事件本人が家庭において健全な養育を受けることができるようにするためには,実母については,子の養育に対する考え方(特に「しつけ」の問題)や自らの生活態度を改善することが必要であり,また,養父については,実母と同様,子の養育に対する考え方の改善ほか,覚せい剤等薬物との関係を断ち切り,定職に就くなど健全な社会生活を送るようすることが必要である。実母らは事件本人に対する愛情は持っており,事件本人も暴力は嫌であるものの,実母らに対する親和性はあるのであって,実母らの状況が改善すれば,健全な親子関係を作ることは可能と考えられる。したがって,施設入所措置中に児童相談所による実母らに対する適切な指導が実施されることが重要となる。
そこで,申立人が事件本人の入所措置を採ることを承認するのに併せて,申立人に対し,これらの点について実母らに対し必要な指導措置を採ることを勧告する。
4 よって,主文のとおり審判する。(家事審判官岡健太郎)

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2012年2月27日 | コメント/トラックバック(0) |

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児童の福祉施設入所承認申立事件

1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 本件申立ての経緯
平成17年1月21日.鳥取県中央児童相談所は,事件本人A (以後「事件本人」という)の虐待被害を認定すると同時に一時保護を決定し,事件本人は鳥取県中央児童相談所に一時保護された。同年2月4日,鳥取県中央児童相談所は,児童福祉施設入所が相当との方針を決め,親権者B (以後「実母」という)から児童福祉施設入所に関する同意書を受理した。同年2月7日,児宜養護施設xxxxに委託一時保護となり,空き定員を待って,正式にxxxxに入所することになっていた。
ところが,実母は,同年3月25日から同月27日にかけ, x x x xに事件本人の引き取りを求める電話をかけ, 3月31日にも鳥取県中央児童相談所において,同様の意向を示した。鳥取県中央児童相談所は,児童福祉施設入所に関して.保護者が同意を撤回したと判断し,本件申立てをすることになった。
(2) 事件本人に対する虐待の実情等
ア児童の生活歴及び心身の状況
① 生活歴
事件本人は,平成2年12月24日, 実父Cと実母の三男として大阪市で出生した。平成4年11月13日.cの暴力から逃れるために,事件本人は,実母及び兄等と母子生活支援施設△△△△に入
所した。平成15年11月,事件本人は,実母,次兄と共に,実母の現住所に転居した(正式な母子生活支援施△△△△からの退所は平成15年12月5日。)。
転居後,事件本人は, しばらく,口口中学校に汽車通学をしていたが,平成16年2月,鳥取市立○×中学校に転校した。平成16年11月頃.D (以下「同居人」としみ。)が事件本人宅で同居を始めた。
② 平成17年1月20日の暴行と傷害の事実
平成17年1月20日. 18時15分頃.事件本人の帰宅が約束より遅かったこと,事件本人が煙草を所持していたことを理由に,実母は,同居人と共に,事件本人を殴る,蹴る,首もとを足で押さえ
つける等の暴行を加え,全治約10日を要する顔面,背部,腹部の打撲,口唇裂傷の怪我を負わせた。その経緯は,以下のとおりである。
同日の放課後,事件本人は,友達宅に立ち寄り,午後6時45分頃,帰宅した。同居人が玄関先に出てきて. 「何故,帰るのが遅いのか」と言って,拳骨で殴り,さらに胸ぐらをつかんで,居間に連れ込んで拳骨で顔面を強く殴った。事件本人は綾々謝ったが,実母や同居人は,事件本人への暴行を緩めることはなかった。途中,実母の指示で通学鞄を聞けると煙草が出てきた。同居人は,いきなり近づいてきて,殴ったり,突き倒したりした。同居人が殴ったのは合計で10発くらいである。実母が止めに入ったので,同居人が手を離した。事件本人は実母と共に2階に上がった。そこで,立ったまま,実母が,帰宅が遅くなったことについて叱り始めた。事件本人は,友達の所に寄ったと伝えたが,実母は,事件本人の顔面を平手で強く叩いた。事件本人は顔をガードしたが,手をつかんで更に叩こうとした。倒れ込んで,足でガードをしようとすると,腹部を3発くらい足蹴りされた。暴行が終わって事件本人は1階に下りて. 1人で夕食を食べ風呂に入った。そして,再び,実母と2階に上がり帰宅が遅くなったことについて説教が始まり平手で殴られた。午後10時頃,同居人が2階に上がってきて,両親が床についたので終わった。結局,実母が平手で殴ったのは,合計で10発くらいである。
③ 1月16日頃の同居人の暴行
上記暴行に先立ち,同月16日,事件本人は,友達とボーリングに行き,帰宅が遅れ,午後8時30分頃になった。階段から下りてきた同居人が. 「何故遅い」と怒り. 2 -3発.平手で顔面を叩いた。実母も側にいたが口は出さなかった。
④ 1月20日以外の実母による暴行
母子生活支援施設△△△△にいる時,実母は怒ると, 事件本人に対し,智の柄や孫の手で, よく叩いた。床に座ったり,寝ころんでいる時に強くはないが,脇腹を蹴り上げることがあった。実母には, 口よりも先に手が出るところがある。平成15年11月に鳥取に住所を移して後は,帰宅が遅くなったことやゲームをし過ぎた時に平手で叩かれていた。頻度は,月に1度あるかないかである。
同居人が同居するようになってから,実母が手を出すのは,同居人が不在の時であるが,暴力の回数は減った。
(3) 保護者の生活状況
実母は,鳥取県○×□郡xx村の出身で,中学校卒業後,兵庫県で生活したが交通事故に遭い実家に戻った。18歳の時,再び大阪に出て,Cと結婚し,事件本人外2子を得たが,平成4年11月13日.cの暴力から逃れるために,事件本人等と共に,母子生活支援施設△△△△に入所した。平成8年3月15日.事件本人の親権者を実母として離婚した。平成15年11月, 母子生活支援施設△△△△を退所し,現住所にアパー卜を借りて現在に至っている。家族は,現在,実母,二男E. 同居人との3人である。生活保護で生活している。同居人は,平成16年11月から同居しているが経済的には別所帯の形となっている。
(4) 実母の虐待についての認識等
実母は.1月20日の暴行の動機について. 「カッとなってしまったから。」.「事件本人が言うことを聞かないから。」. 「もし,誰かが止めてくれたら止めることができたかもしれない。」などと述べているところ,実母は,感情のまま振る舞うことが,習慣とさえなっており,自分の感情をコントロールする自信も意思も欠けていることが窺える。1月20日の暴行については,思い通りにならない事件本人に対して,感情のままに手を挙げたというのが実情であり. 「躾」という意識すらも窺えない。
さらに,事件本人の精神的な被害の深刻さや暴力に対する不安についての理解が欠けている。1月20日の暴力について,事件本人の身になって考えた形跡はなく,その被害がどの程度深刻なものか,どの程度,許されないことであるかという点については.理解できているとは言えない。
また,実母自身,虐待とも言える暴力的な環境で育ち,結婚後も暴力にさらされていたためか,暴力による被害の痛みや精神的被害に対する感受性が鈍磨しているものと窺える。さらには,同居人との生活を維持するために同居人を庇いたいという気持ちが,虐待という認識を持つことを妨げているとも推測される。
実母は,事件本人の施設入所に対して不同意の意思を示しているが,不同意の理由は,実母の暴力的な行為や鳥取県中央児童相談所の判断を否定するものではなく,親としての感情を強調するものであり,事件本人の福祉の立場から述べたものとは考えられない。
2 事件本人の児童福祉施設入所の必要性
1月20日の暴行は,同居人及び実母の複数の大人によって,事件本人に対し,顔面, 口唇部を中心に殴打し全治約10日を要する打撲傷を負わせたものであること,その後,事件本人に治療等の手当がないこと,事件本人自身,暴力の再発を恐れ,暴力の無い環境での生活を望んでいること等の事実が認められ,上記暴行は.援の限度を超えた暴行であり,児童虐待と言わざるを得ない。尤も. 1月20日のような暴行は,常習的に行われていたわけではないが,実母は短気な性格で,子どもに対する支配の手段として暴力的な手段に頼りがちであること,保護者の暴力による事件本人の精神的被害の深刻さについて認識がないこと,事件本人の性格的負因についての理解がないこと,今後も同居人との生活を望んでいること等から,今後も,1月20日と同様の虐待行為が行われるおそれが高い。
また,事件本人は,平成17年1月21日に一時保護の措置の決定を受け,鳥取県中央児童相談所の一時保護やxxxxで生活しているが,家庭に戻ると暴力の被害にあうとの不安が強く,児童福祉施設での生活を希望している。
3 結論
現時点においては.実母に事件本人を監護させることは,著しく事件本人の福祉を害すると言わざるを得ない。当分の間,事件本人と保護者の分離を図り,児童相談所の指導によって,実母に事件本人に対する態度を反省させるとともに,事件本人に自分を守るだけの主体性を培うことが必要であある。
よって,児童福祉法28条1項の承認をするのが相当であり,主文のとおり審判する。(家事審判官 永井ユタカ)

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扶養審判に対する即時抗告事件

抗告人は,原審判主文第2項の被扶養者の扶養に要する費用のうちの被扶養者の収入額を超える部分の負担者につき,抗告人から相手方に変更することを求め,その理由として,別紙抗告理由啓記載のとおり主張した。
第2 当裁判所の判断
当裁判所も.被扶養者の扶養については,グループホーム〇〇〇〇○に入所させる方法により扶養し.抗告人がその入所中に要する費用のうち被扶養者の収入額を超える部分を負担するものと定めるのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり付加するほかは,原審判の理由記載のとおりであるから,これを引用する(なお,原審においては,後記二女及び三女も当事者とされていたところ,抗告人は,相手方のみに対して抗告を提起し,上記のとおりの裁判を求めたものである。本件については,抗告審において他の2名を相手方としなければならないとはいえない。)。
(抗告人の抗告理由について)
1 事実関係
記録によれば,概要,次の事実が認められる。
(1)家族関係
被扶養者は,大正10年10月25日生まれで満83歳の女性であり,昭和18年3月10日,cと婚姻し,長男である抗告人,長女(乳児期に死亡に二女.三女及び二男である相手方をもうけた。
被扶養者の夫は,東京都大田区〇〇3丁目○×番△所在の宅地141.56m^2 (以下「本件土地」という。)を所有し家族は同土地上の建物で生活していたようであるが,抗告人は,昭和48年に本件土地上に住居を兼ねた鉄筋コンクリー卜造陸屋根2階建の共同住宅(1, 2階の床面積各81.03m^2。以下「□□マンション」という。)を建築し,所有するに至った。三女及び二女はそれぞれ昭和47年及び同49年に婚姻し,相手方も家を出ていたことがうかがわれる。被扶養者の夫は,昭和53年3月10月に死亡し,本件土地は被扶養者が相続した。なお,抗告人は,口□マンションの敷地である本件土地を使用貸借により使用している旨主張し,被扶養者に対してもその使用の対価を支払っていない。
(2) 被扶養者の生活の経過
ア被扶養者は,昭和53年に夫と死別した後は,口口マンションにおいて抗告人(独身) と同居していたが平成3年ころに抗告人が肩書住所地に自宅を取得して転居し,以後.被扶護者は単身で・□□マンションに居住していた。その後,被扶養者は,平成7年ころから相手方と同居し,相手方が平成8年に婚姻してからは相手方夫婦と住んだが,平成9年12月ころ相手方が他に移って再び被扶養者が1人となった。そして.平成10年ころ,抗告人が笠間市の自宅に引き取ったが,平成11年ころからは,被扶養者は再び口ロマンションに居住するようになり,抗告人と三女が交代で被扶養者を介護していた。
被扶養者は, 三女による介護が困難となったこともあり,平成14年8月24日から埼玉県鳩ヶ谷市に所在するxxxxxに入所したが,同年10月1日抗告人に引き取られてxxxxxから抗告人と共に口ロマンションに戻った。同年12月6日には,硬膜内血腫で入院して手術を受けたが,平成15年1月21日に退院し,その後は,抗告人が介護へルパーを依頼するなどして被扶養者の介護に当たっていた。なお,被扶養者は,平成14年12月20日以降.要介護状態区分2 (軽度の介護を要する)から要介護状態区分5(最重度の介護を要する)の認定を受けている。
イ抗告人は,要介護状態が重度となった被扶養者の今後の扶養も考慮して,ロロマンションを改築し,平成15年9月27日,△△保健生活協同組合との聞において,敷金40万円,月額賃料22万円,期間20年とし,口口マンションをグループホームとして使用することとして賃貸する旨の建物賃貸借契約を締結した。同協同組合は,痴呆性高齢者施設としてグループホーム〇〇〇〇コを開設した。そして,被扶養者は,平成15年12月1日,△△保健生活協同組合との間において,痴呆対応型共同生活介護契約を締結し,同日以後,ロロマンションを改築して開設されたグループホーム〇〇〇〇○において,介護スタッフの援助を受けながら,他の利用者とともに共同生活を送っており.今後,医療措置が必要でない限り,終身入所する予定である。
(3) 被扶養者の経済状況等
被扶養者は無職であるが,共済組合遺族年金として年額106万4200円,厚生年金として年額16万5000円,高額介護サービスに係る大田区からの給付金として年額約16万8000円(月額約l万4000円).以上合計約140万円(月額約11万6000円)の収入がある。
一方,被扶養者のグループホーム〇〇〇〇○の入所中に要する費用は,毎月,介護施設利用料10万7000円(家賃3万7000円,食費4万5000円,共益費5000円,修繕積立金5000円.光熱費1万5000円).介護保険自己負担分2万9000門,医療費4000円及び税金等9000円,以上合計14万9000円であり,抗告人がこれを管理し,上記収入額を超える部分(月額約3万3000円)を抗告人が負担している。
(4) 抗告人の経済状況等
抗告人は,茨棋県の肩思住所地に居住し,建築設計の仕事に従事している。平成15年分の確定申告書によれば,同年度の収入金額は530万円(不動産収入170万円,給与収入360万円).所得金額は312万8006円(不動産所得78万8006円,給与所得234万円)とされているが,さらに,平成15年12月以降は.△△保健生活協同組合との建物賃貸借契約に基づき,口口マンションの賃料として毎月22万円(年額264万円)の収入を得ている。
一方,平成15年3月5日付けで抗告人が作成した生計費収支一覧表によれば,抗告人の支出額(1か月の平均額)は,公租公課等6万6403円,水道・光熱費4万0226円,食費5万2573円,衣料費1万4452円,通勤費用4万9306円,生命保険掛金2万7660円,その他修繕費・手数料7万2050円,図書費・会費4万6426円,以上合計約37万円とされている。
(5) 相手方の経済状況等
相手方は,妻とともに肩書住所地に居住しており.○△株式会社においてタクシー運転手として稼働し年額478万4604円の給与を受けている(平成15年分と考えられる。給与所得控除後の金額は328万7200円である。)。なお,平成15年3月5日付けで相手方が作成した生計費収支一覧表によれば,妻にも1か月5万円程度のパート収入がある。
一方,上記生計費収支一覧表によれば,相手方の支出額(1か月の平均額)は,住居費11万5000円,水道・光熱費3万1000円,食費6万円,衣料費5000円,医療費3000円,通勤費用3万円,生命保険掛金1273円,借金返済(弁護士費用を含む) 3万7000円,電話代3万4000円(ドコモ.AU.家)とされており,その合計額は約32万円となる。なお,上記生計費収支一覧表においては,相手方の給与等の手取月額が22万円と記載されているところ,これは,上記の支出額には含まれていない社会保険料,住民税,組合費等を給与から天引した金額として記載されたものと認められるところ,少なくとも,相手方の手取月額が30万円を超えるものとは認め難い(記録によれば.平成13年時点における組合費等の控除額は,月額5万5000円の借入金の返済を含め月額約10万円程度に及んでいたことが認められるが,この借入金が後記の相手方の破産によりどのような影響を受けたかは判然としない。しかし,この借入金返済分を除いたとしても,社会保険料,住民税,組合費等の控除額を合計すれば,月額10万円程度の控除があったものと認められる。)。
(6) 被扶養者らと相手方との訴訟など
ア被扶護者及び抗告人は,相手方に対し,相手方が被扶養者と同居していた間やその解消後に種々の不法行為を行い,また,相手方に対する貸金や立替金があるなどとして訴訟を提起し,東京地方裁判所平成10年(ワ)第○×○×号ほか事件について平成13年6月18日に言い渡された仮執行宣言付判決(以下「本件地裁判決」という。)及びその控訴審である東京高等裁判所平成13年同第△□△口号事件について同年11月19日に言い渡された判決(以下「本件高裁判決」という。)に基づく債権を有している。
本件地裁判決は,相手方が被扶養者に対して30万円及びこれに対する遅延損害金を,抗告人に対して390万5303円及びこれに対する遅延損害金をそれぞれ支払うよう命じたもの,本件高裁判決は,相手方が被扶養者に対して377万7000円及びこれに対する遅延損害金を,抗告人に対して396万2198円及びこれに対する遅延損害金をそれぞれ支払うよう命じたものである。
イ抗告人は,平成13年8月28日,本件地裁判決に基づいて,相手方を債務者.相手方の勤務先である○△株式会社を第三債務者とする債権差押命令を得て.相手方の給与債権を差し押さえたが,相手方は,同年9月7日,破産宣告を受け,同年11月26日.免責許可決定を受け,間決定は平成14年1月31日に確定した(なお,本件地裁判決及び本件高裁判決において
認容された債権の一部は,悪意による不法行為に基づく損害賠償債権である。)。また,被扶養者は,本件高裁判決に基づいて,相手方を債務者,相手方の勤務先である06株式会社を第三官務者とする債権差押命令を申し立て,平成16年6月23日,同命令を得て,相手方の給与債権を差し押さえた。
(7) 二女及び三女の経済状況等
被扶養者の二女及び三女は,いずれも結婚し,夫や子らと同居しているが,二女は専業主婦として夫の扶穫を受けており,三女には年額300万円程度の収入があるが,自らの債務や夫の債務により家計はひっ迫している。
2 被扶養者の扶養の方法及び費用の負担について
上記事実関係によれば,被扶養者について今後もグループホーム〇〇〇〇○に入所させる方法により扶養することが相当であることは,原審判説示のとおりである。
そして,被扶養者のグループホーム〇〇〇〇〇)の入所中に要する費用のうち,被扶養者の収入額を超える部分については,次のとおり,抗告人に負担させるのが相当である。
上記事実関係からすれば,被扶養者の二女及び三女に上記費用を負担させるのは相当ではない。相手方についても,年額478万4604円(月額約40万円)の給与収入があり,その妻のパート収入があるところであるが, その手取月額は多くとも月35万円程度であること,相手方の1か月当たりの支出額が約32万円であること,被扶養者が本件高裁判決に基づいて相手方の給与債権を差し押さえていることなどを考慮すると.その収入額をもって,直ちに,相手方に経済的な余力があると認めることは困難である。これに対し,抗告人には,年額530万円(月額約44万円)の収入があるほか,平成15年12月以降は,ロロマンションの賃料として月額22万円の収入を得ていること,抗告人の1か月当たりの支出額が約37万円であることからすれば,抗告人には上記の費用を負担し得る経済的な余力があると認められる。そして,被扶養者の資産としては本件土地があるが,本件土地はロロマンションの敷地として使用されており,抗告人が被扶養者に対して本件土地使用の対価を支払っていないこと,抗告人が被扶養者の信頼を受けてその財産管理を行っていることなどを考慮すると,被扶養者のグループホーム〇〇〇〇〇の入所中に要する費用のうち,被扶養者の収入額を超える部分は,これを抗告人に負担させるのが相当である。
3 抗告人の主張について
(1) 抗告人は,被扶養者の収入について,高額介護サービスの給付金は,被扶養者がグループホーム〇〇〇〇〇に入所した後は,月額1万円程度減少した旨を主張する。しかし,これを認めるに足りる的確な資料はないし,仮に,そのような給付金の減額があり,抗告人が負担すべき扶養額が月額1万円程度上昇することがあるとしても,これをもって,上記の判断を左右するものとはいい難い。
(2) 抗告人は,被扶養者の介護に時間と労力を取られたため,平成16年8月から,月額30万円の収入が皆無になった旨を主張する。しかし,これを認めるに足りる的確な資料はないし,むしろ,被扶養者がグループホーム〇〇〇〇○に入所した後は,抗告人による直接的な介護の労は減少したことがうかがわれるところであり,抗告人の収入の減少が継続的なものか否かは判然としない。
また,抗告人は,被扶養者が抗告人所有の□□マンションで長年無償で、生活してきたことからすれば,被扶養者は本件土地の使用の対価を十分に得ており,抗告人が本件土地の使用料を支払っていないことを考臨すべきではない旨を主張する。確かに,被扶養者は,相当期間,特に家賃等を負担することなく, 口口マンションで生活してきたことがうかがわれるところであるが,これが直ちに本件土地使用の対価の性質を有するものであったとはいい難く,少なくとも,抗告人が,グループホーム〇〇〇〇〇を開設し,ロロマンションを△△保健生活協同組合に賃貸して賃料を得るようになってからは,被扶養者は家賃等を支払っているのであり,なお抗告人が本件土地を無償で使用する状態が継続しているものといわざるを得ない。
これらの点に関する抗告人の主張は,採用することができない。
(3) 抗告人は,相手方の1か月当たりの支出額につき,通勤費用,電話代は高額にすぎるし,弁護士費用を含む借金返済は長期にわたって継続するものではないし,いずれもその裏付けを欠く旨,相手方の給与の差押えについては.破産における非免責債権50万円の限度にすぎないから,考慮に値しない旨を主張する。しかしながら,相手方がタクシー運転手として稼働していること,電話代には自宅の電話と扱帯電話が含まれていることがうかがわれることなどからすれば,上記生計費収支一覧表記載の通勤費用及び電話代が直ちに高額にすぎるとはいい難いし,弁護士費用を含む借金返済や給与債権の差押えが,その返済額等からみて,必ずしも短期間で完了するものとはいい難い。
また,抗告人は,相手方の世帯には,相手方とその妻以外にも働き手がいる旨を主張するが,これを認めるに足りる的確な資料はない。
さらに,抗告人は,相手方がかつて被扶養者を扶養する約束をした旨を主張するが,これを認めるに足りる的確な資料はないし,仮にかつて何らかの合意がなされたことがあったとしても,そのような合意が現時点においても効力を有するものとはいい難く,この点を考慮して,現在の被扶養者の扶養の方法を定めるのが相当であるともいえない。なお,抗告人は,相手方が過去に被扶養者や抗告人らに種々の迷惑をかけ,その分の利益を得ているなどと主張するが,そうした利益が現存しているものともいい難く,この点を現在の被扶養者の扶養の方法を定めるに当たって考慮すべきであるともいえない。
この点に関する抗告人の主張は,採用することができない。
4 結論
以上によれば,原審判は正当であるから,本件抗告を棄却することとし,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 岩井俊 裁判官 及川憲夫 竹田光広)

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2012年2月27日 | コメント/トラックバック(0) |

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特別縁故者に対する相続財産分与申立却下審判に対する即時抗告事件

1 本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告申立書」記載のとおりで
ある。
2 当裁判所の判断
(1) 本件記録によれば,次の事実が認められる。
ア抗告人は,平成14年1月25日頃に死亡したB (昭和23年7月11日生)の父方叔母(昭和6年11月23日生)であるところ. Bに相続人のあることが明らかでないとして,平成14年5月22日,福岡家庭裁判所小倉支部に相続財産管理人の選任を申し立てた(同庁平成14年岡第xxxx号事件)。
その選任申立書には. 「申立人(抗告人)は.Bと姉弟のように暮らし.Bが死亡するまで生活上の世話をし,死亡後は葬儀を行ったり,遺産の管理もしている。今後,特別縁故者として相続財産の分与を請求する予定である」旨記載されている。
イ前記申立てを受けて,同裁判所は.平成14年6月25日,亡Bの相続財産管理人として抗告人の子であるCを選任する旨の審判をした上,その旨の公告をし,さらに一切の相続債権者及び受造者に対する詩求申出の公告が行われた後,なお相続人の存在が明らかでないとして上記管理人の申立てによって相続人捜索の公告をし,その公告期間が平成16年1月31日に満了した。
ウ抗告人は.上記公告期間が満了したときから約9か月が経過した平成16年11月2日,同裁判所に本件相続財産分与の申立てを行った。これに対し,同裁判所(原審)は,抗告人の本件申立てが民法958条の公告期間満了日から3か月(民法958条の3第2項)経過後になされていることを理由に,本件申立てを却下した。
(2)ア抗告理由の第1点は.「本件申立ては.形式的には民法958条の公告期間満了日から3か月経過後になされているが,抗告人は,特別縁故者の資絡で相続財産管理人の選任申立てを行っているから,その選任申立て時に特別録故者としての相続財産分与の申立ても行っていると評価するべきである。そうすると,同申立ては相続権主張催告(相続人捜索)の公告期間満了前になされていることになるが,同期間満了後もなお相続権を主張する者が現れない場合は,その蔵抗が治癒され適法な申立に転化する(大阪家裁昭和40年11月25日審判)から,抗告人の上記申立ては適法である。」というものである。
イしかし,相続財産管理人の選任申立てと相続財産分与の申立ては,法律上も明らかに別個の手続とされているのであって.手統の明確性,安定性の見地からしても,いかに特別縁故者の資格でもって相続財産管理人の選任申立てをしたからといって,これを相続財産分与の申立てと評価することはできない。しかも, 抗告人がした相続財産管理人の選任申立曹には,前記(1)アの後段で認定した記載があるにとどまるのであって,抗告人が亡Bの特別縁故者として同申立てをすることが明確にされているわけではない。すなわち,同申立書記載の前段の事情は抗告人が民法952条所定の「利害関係人」であることを主張する趣旨のものにすぎないことは記載の体裁からして明らかであり, また,間後段部分の記載は,抗告人自身も.別途相続財産分与の申立てをなす必要があることを認識していたことを示している。
したがって,抗告理由の第1点は理由がない。
(3)ア抗告理由の第2点は,相続財産管理人が残余の相続財産を国庫に引き継いでいない聞は,相続財産管理人に知れている特別縁故者に対しては財産を分与しうると解するべきである, というものである。
イしかし,特別縁故者であると主張する者に対して相続財産を分与するか否かは,家庭裁判所が審判によって判断するのであって,そのように主張する者が相続財産管理人に知れているか否かは,分与の是否とは関係がない。また,民法958条の3第2項は,分与の請求は相続人捜索の公告期間満了後3か月以内にしなければならないと明確に規定しているのであって抗告人の上記主張は独自の見解というほかなく,到底採用することができない。なお,抗告人は,この点に関して最高裁昭和50年10月24日判決(民集29巻9号1483頁)を援用するが,同判決は,特別縁故者に分与されなかった相続財産の国庫帰属の時期等について判断したもの(「相続財産管理人が国庫に引き継いだ時に国庫に帰属する」とした。)にすぎず,抗告人の上記アの主張を理由あらしめるものでないことは多言を要しない。
したがって,抗告理由の第2点も理由がない。
(4) 相続財産管理人選任の申立告に「今後,特別縁故者として相続財産の分与を請求する予定である」旨の記載までした抗告人が,何故民法958条の3第2項の期聞を徒過したのかは記録上つまびらかでない。それにしても,抗告人が,期間徒過の故をもって,亡Bの相続財産の分与を請求できないということはまことに気の毒な結果ではあるが, もはやこの結果を覆すことはできないものというほかはない。
3 結論
以上によれば.抗告人の本件申立てを却下した原審判は相当であり.本件抗告は理由がないことに帰する。(裁判長裁判官 西理 裁判官 内藤正之 吉岡茂之)

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