扶養審判に対する即時抗告事件

抗告人は,原審判主文第2項の被扶養者の扶養に要する費用のうちの被扶養者の収入額を超える部分の負担者につき,抗告人から相手方に変更することを求め,その理由として,別紙抗告理由啓記載のとおり主張した。
第2 当裁判所の判断
当裁判所も.被扶養者の扶養については,グループホーム〇〇〇〇○に入所させる方法により扶養し.抗告人がその入所中に要する費用のうち被扶養者の収入額を超える部分を負担するものと定めるのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり付加するほかは,原審判の理由記載のとおりであるから,これを引用する(なお,原審においては,後記二女及び三女も当事者とされていたところ,抗告人は,相手方のみに対して抗告を提起し,上記のとおりの裁判を求めたものである。本件については,抗告審において他の2名を相手方としなければならないとはいえない。)。
(抗告人の抗告理由について)
1 事実関係
記録によれば,概要,次の事実が認められる。
(1)家族関係
被扶養者は,大正10年10月25日生まれで満83歳の女性であり,昭和18年3月10日,cと婚姻し,長男である抗告人,長女(乳児期に死亡に二女.三女及び二男である相手方をもうけた。
被扶養者の夫は,東京都大田区〇〇3丁目○×番△所在の宅地141.56m^2 (以下「本件土地」という。)を所有し家族は同土地上の建物で生活していたようであるが,抗告人は,昭和48年に本件土地上に住居を兼ねた鉄筋コンクリー卜造陸屋根2階建の共同住宅(1, 2階の床面積各81.03m^2。以下「□□マンション」という。)を建築し,所有するに至った。三女及び二女はそれぞれ昭和47年及び同49年に婚姻し,相手方も家を出ていたことがうかがわれる。被扶養者の夫は,昭和53年3月10月に死亡し,本件土地は被扶養者が相続した。なお,抗告人は,口□マンションの敷地である本件土地を使用貸借により使用している旨主張し,被扶養者に対してもその使用の対価を支払っていない。
(2) 被扶養者の生活の経過
ア被扶養者は,昭和53年に夫と死別した後は,口口マンションにおいて抗告人(独身) と同居していたが平成3年ころに抗告人が肩書住所地に自宅を取得して転居し,以後.被扶護者は単身で・□□マンションに居住していた。その後,被扶養者は,平成7年ころから相手方と同居し,相手方が平成8年に婚姻してからは相手方夫婦と住んだが,平成9年12月ころ相手方が他に移って再び被扶養者が1人となった。そして.平成10年ころ,抗告人が笠間市の自宅に引き取ったが,平成11年ころからは,被扶養者は再び口ロマンションに居住するようになり,抗告人と三女が交代で被扶養者を介護していた。
被扶養者は, 三女による介護が困難となったこともあり,平成14年8月24日から埼玉県鳩ヶ谷市に所在するxxxxxに入所したが,同年10月1日抗告人に引き取られてxxxxxから抗告人と共に口ロマンションに戻った。同年12月6日には,硬膜内血腫で入院して手術を受けたが,平成15年1月21日に退院し,その後は,抗告人が介護へルパーを依頼するなどして被扶養者の介護に当たっていた。なお,被扶養者は,平成14年12月20日以降.要介護状態区分2 (軽度の介護を要する)から要介護状態区分5(最重度の介護を要する)の認定を受けている。
イ抗告人は,要介護状態が重度となった被扶養者の今後の扶養も考慮して,ロロマンションを改築し,平成15年9月27日,△△保健生活協同組合との聞において,敷金40万円,月額賃料22万円,期間20年とし,口口マンションをグループホームとして使用することとして賃貸する旨の建物賃貸借契約を締結した。同協同組合は,痴呆性高齢者施設としてグループホーム〇〇〇〇コを開設した。そして,被扶養者は,平成15年12月1日,△△保健生活協同組合との間において,痴呆対応型共同生活介護契約を締結し,同日以後,ロロマンションを改築して開設されたグループホーム〇〇〇〇○において,介護スタッフの援助を受けながら,他の利用者とともに共同生活を送っており.今後,医療措置が必要でない限り,終身入所する予定である。
(3) 被扶養者の経済状況等
被扶養者は無職であるが,共済組合遺族年金として年額106万4200円,厚生年金として年額16万5000円,高額介護サービスに係る大田区からの給付金として年額約16万8000円(月額約l万4000円).以上合計約140万円(月額約11万6000円)の収入がある。
一方,被扶養者のグループホーム〇〇〇〇○の入所中に要する費用は,毎月,介護施設利用料10万7000円(家賃3万7000円,食費4万5000円,共益費5000円,修繕積立金5000円.光熱費1万5000円).介護保険自己負担分2万9000門,医療費4000円及び税金等9000円,以上合計14万9000円であり,抗告人がこれを管理し,上記収入額を超える部分(月額約3万3000円)を抗告人が負担している。
(4) 抗告人の経済状況等
抗告人は,茨棋県の肩思住所地に居住し,建築設計の仕事に従事している。平成15年分の確定申告書によれば,同年度の収入金額は530万円(不動産収入170万円,給与収入360万円).所得金額は312万8006円(不動産所得78万8006円,給与所得234万円)とされているが,さらに,平成15年12月以降は.△△保健生活協同組合との建物賃貸借契約に基づき,口口マンションの賃料として毎月22万円(年額264万円)の収入を得ている。
一方,平成15年3月5日付けで抗告人が作成した生計費収支一覧表によれば,抗告人の支出額(1か月の平均額)は,公租公課等6万6403円,水道・光熱費4万0226円,食費5万2573円,衣料費1万4452円,通勤費用4万9306円,生命保険掛金2万7660円,その他修繕費・手数料7万2050円,図書費・会費4万6426円,以上合計約37万円とされている。
(5) 相手方の経済状況等
相手方は,妻とともに肩書住所地に居住しており.○△株式会社においてタクシー運転手として稼働し年額478万4604円の給与を受けている(平成15年分と考えられる。給与所得控除後の金額は328万7200円である。)。なお,平成15年3月5日付けで相手方が作成した生計費収支一覧表によれば,妻にも1か月5万円程度のパート収入がある。
一方,上記生計費収支一覧表によれば,相手方の支出額(1か月の平均額)は,住居費11万5000円,水道・光熱費3万1000円,食費6万円,衣料費5000円,医療費3000円,通勤費用3万円,生命保険掛金1273円,借金返済(弁護士費用を含む) 3万7000円,電話代3万4000円(ドコモ.AU.家)とされており,その合計額は約32万円となる。なお,上記生計費収支一覧表においては,相手方の給与等の手取月額が22万円と記載されているところ,これは,上記の支出額には含まれていない社会保険料,住民税,組合費等を給与から天引した金額として記載されたものと認められるところ,少なくとも,相手方の手取月額が30万円を超えるものとは認め難い(記録によれば.平成13年時点における組合費等の控除額は,月額5万5000円の借入金の返済を含め月額約10万円程度に及んでいたことが認められるが,この借入金が後記の相手方の破産によりどのような影響を受けたかは判然としない。しかし,この借入金返済分を除いたとしても,社会保険料,住民税,組合費等の控除額を合計すれば,月額10万円程度の控除があったものと認められる。)。
(6) 被扶養者らと相手方との訴訟など
ア被扶護者及び抗告人は,相手方に対し,相手方が被扶養者と同居していた間やその解消後に種々の不法行為を行い,また,相手方に対する貸金や立替金があるなどとして訴訟を提起し,東京地方裁判所平成10年(ワ)第○×○×号ほか事件について平成13年6月18日に言い渡された仮執行宣言付判決(以下「本件地裁判決」という。)及びその控訴審である東京高等裁判所平成13年同第△□△口号事件について同年11月19日に言い渡された判決(以下「本件高裁判決」という。)に基づく債権を有している。
本件地裁判決は,相手方が被扶養者に対して30万円及びこれに対する遅延損害金を,抗告人に対して390万5303円及びこれに対する遅延損害金をそれぞれ支払うよう命じたもの,本件高裁判決は,相手方が被扶養者に対して377万7000円及びこれに対する遅延損害金を,抗告人に対して396万2198円及びこれに対する遅延損害金をそれぞれ支払うよう命じたものである。
イ抗告人は,平成13年8月28日,本件地裁判決に基づいて,相手方を債務者.相手方の勤務先である○△株式会社を第三債務者とする債権差押命令を得て.相手方の給与債権を差し押さえたが,相手方は,同年9月7日,破産宣告を受け,同年11月26日.免責許可決定を受け,間決定は平成14年1月31日に確定した(なお,本件地裁判決及び本件高裁判決において
認容された債権の一部は,悪意による不法行為に基づく損害賠償債権である。)。また,被扶養者は,本件高裁判決に基づいて,相手方を債務者,相手方の勤務先である06株式会社を第三官務者とする債権差押命令を申し立て,平成16年6月23日,同命令を得て,相手方の給与債権を差し押さえた。
(7) 二女及び三女の経済状況等
被扶養者の二女及び三女は,いずれも結婚し,夫や子らと同居しているが,二女は専業主婦として夫の扶穫を受けており,三女には年額300万円程度の収入があるが,自らの債務や夫の債務により家計はひっ迫している。
2 被扶養者の扶養の方法及び費用の負担について
上記事実関係によれば,被扶養者について今後もグループホーム〇〇〇〇○に入所させる方法により扶養することが相当であることは,原審判説示のとおりである。
そして,被扶養者のグループホーム〇〇〇〇〇)の入所中に要する費用のうち,被扶養者の収入額を超える部分については,次のとおり,抗告人に負担させるのが相当である。
上記事実関係からすれば,被扶養者の二女及び三女に上記費用を負担させるのは相当ではない。相手方についても,年額478万4604円(月額約40万円)の給与収入があり,その妻のパート収入があるところであるが, その手取月額は多くとも月35万円程度であること,相手方の1か月当たりの支出額が約32万円であること,被扶養者が本件高裁判決に基づいて相手方の給与債権を差し押さえていることなどを考慮すると.その収入額をもって,直ちに,相手方に経済的な余力があると認めることは困難である。これに対し,抗告人には,年額530万円(月額約44万円)の収入があるほか,平成15年12月以降は,ロロマンションの賃料として月額22万円の収入を得ていること,抗告人の1か月当たりの支出額が約37万円であることからすれば,抗告人には上記の費用を負担し得る経済的な余力があると認められる。そして,被扶養者の資産としては本件土地があるが,本件土地はロロマンションの敷地として使用されており,抗告人が被扶養者に対して本件土地使用の対価を支払っていないこと,抗告人が被扶養者の信頼を受けてその財産管理を行っていることなどを考慮すると,被扶養者のグループホーム〇〇〇〇〇の入所中に要する費用のうち,被扶養者の収入額を超える部分は,これを抗告人に負担させるのが相当である。
3 抗告人の主張について
(1) 抗告人は,被扶養者の収入について,高額介護サービスの給付金は,被扶養者がグループホーム〇〇〇〇〇に入所した後は,月額1万円程度減少した旨を主張する。しかし,これを認めるに足りる的確な資料はないし,仮に,そのような給付金の減額があり,抗告人が負担すべき扶養額が月額1万円程度上昇することがあるとしても,これをもって,上記の判断を左右するものとはいい難い。
(2) 抗告人は,被扶養者の介護に時間と労力を取られたため,平成16年8月から,月額30万円の収入が皆無になった旨を主張する。しかし,これを認めるに足りる的確な資料はないし,むしろ,被扶養者がグループホーム〇〇〇〇○に入所した後は,抗告人による直接的な介護の労は減少したことがうかがわれるところであり,抗告人の収入の減少が継続的なものか否かは判然としない。
また,抗告人は,被扶養者が抗告人所有の□□マンションで長年無償で、生活してきたことからすれば,被扶養者は本件土地の使用の対価を十分に得ており,抗告人が本件土地の使用料を支払っていないことを考臨すべきではない旨を主張する。確かに,被扶養者は,相当期間,特に家賃等を負担することなく, 口口マンションで生活してきたことがうかがわれるところであるが,これが直ちに本件土地使用の対価の性質を有するものであったとはいい難く,少なくとも,抗告人が,グループホーム〇〇〇〇〇を開設し,ロロマンションを△△保健生活協同組合に賃貸して賃料を得るようになってからは,被扶養者は家賃等を支払っているのであり,なお抗告人が本件土地を無償で使用する状態が継続しているものといわざるを得ない。
これらの点に関する抗告人の主張は,採用することができない。
(3) 抗告人は,相手方の1か月当たりの支出額につき,通勤費用,電話代は高額にすぎるし,弁護士費用を含む借金返済は長期にわたって継続するものではないし,いずれもその裏付けを欠く旨,相手方の給与の差押えについては.破産における非免責債権50万円の限度にすぎないから,考慮に値しない旨を主張する。しかしながら,相手方がタクシー運転手として稼働していること,電話代には自宅の電話と扱帯電話が含まれていることがうかがわれることなどからすれば,上記生計費収支一覧表記載の通勤費用及び電話代が直ちに高額にすぎるとはいい難いし,弁護士費用を含む借金返済や給与債権の差押えが,その返済額等からみて,必ずしも短期間で完了するものとはいい難い。
また,抗告人は,相手方の世帯には,相手方とその妻以外にも働き手がいる旨を主張するが,これを認めるに足りる的確な資料はない。
さらに,抗告人は,相手方がかつて被扶養者を扶養する約束をした旨を主張するが,これを認めるに足りる的確な資料はないし,仮にかつて何らかの合意がなされたことがあったとしても,そのような合意が現時点においても効力を有するものとはいい難く,この点を考慮して,現在の被扶養者の扶養の方法を定めるのが相当であるともいえない。なお,抗告人は,相手方が過去に被扶養者や抗告人らに種々の迷惑をかけ,その分の利益を得ているなどと主張するが,そうした利益が現存しているものともいい難く,この点を現在の被扶養者の扶養の方法を定めるに当たって考慮すべきであるともいえない。
この点に関する抗告人の主張は,採用することができない。
4 結論
以上によれば,原審判は正当であるから,本件抗告を棄却することとし,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 岩井俊 裁判官 及川憲夫 竹田光広)

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