児童の福祉施設入所承認申立事件

1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 本件申立ての経緯
平成17年1月21日.鳥取県中央児童相談所は,事件本人A (以後「事件本人」という)の虐待被害を認定すると同時に一時保護を決定し,事件本人は鳥取県中央児童相談所に一時保護された。同年2月4日,鳥取県中央児童相談所は,児童福祉施設入所が相当との方針を決め,親権者B (以後「実母」という)から児童福祉施設入所に関する同意書を受理した。同年2月7日,児宜養護施設xxxxに委託一時保護となり,空き定員を待って,正式にxxxxに入所することになっていた。
ところが,実母は,同年3月25日から同月27日にかけ, x x x xに事件本人の引き取りを求める電話をかけ, 3月31日にも鳥取県中央児童相談所において,同様の意向を示した。鳥取県中央児童相談所は,児童福祉施設入所に関して.保護者が同意を撤回したと判断し,本件申立てをすることになった。
(2) 事件本人に対する虐待の実情等
ア児童の生活歴及び心身の状況
① 生活歴
事件本人は,平成2年12月24日, 実父Cと実母の三男として大阪市で出生した。平成4年11月13日.cの暴力から逃れるために,事件本人は,実母及び兄等と母子生活支援施設△△△△に入
所した。平成15年11月,事件本人は,実母,次兄と共に,実母の現住所に転居した(正式な母子生活支援施△△△△からの退所は平成15年12月5日。)。
転居後,事件本人は, しばらく,口口中学校に汽車通学をしていたが,平成16年2月,鳥取市立○×中学校に転校した。平成16年11月頃.D (以下「同居人」としみ。)が事件本人宅で同居を始めた。
② 平成17年1月20日の暴行と傷害の事実
平成17年1月20日. 18時15分頃.事件本人の帰宅が約束より遅かったこと,事件本人が煙草を所持していたことを理由に,実母は,同居人と共に,事件本人を殴る,蹴る,首もとを足で押さえ
つける等の暴行を加え,全治約10日を要する顔面,背部,腹部の打撲,口唇裂傷の怪我を負わせた。その経緯は,以下のとおりである。
同日の放課後,事件本人は,友達宅に立ち寄り,午後6時45分頃,帰宅した。同居人が玄関先に出てきて. 「何故,帰るのが遅いのか」と言って,拳骨で殴り,さらに胸ぐらをつかんで,居間に連れ込んで拳骨で顔面を強く殴った。事件本人は綾々謝ったが,実母や同居人は,事件本人への暴行を緩めることはなかった。途中,実母の指示で通学鞄を聞けると煙草が出てきた。同居人は,いきなり近づいてきて,殴ったり,突き倒したりした。同居人が殴ったのは合計で10発くらいである。実母が止めに入ったので,同居人が手を離した。事件本人は実母と共に2階に上がった。そこで,立ったまま,実母が,帰宅が遅くなったことについて叱り始めた。事件本人は,友達の所に寄ったと伝えたが,実母は,事件本人の顔面を平手で強く叩いた。事件本人は顔をガードしたが,手をつかんで更に叩こうとした。倒れ込んで,足でガードをしようとすると,腹部を3発くらい足蹴りされた。暴行が終わって事件本人は1階に下りて. 1人で夕食を食べ風呂に入った。そして,再び,実母と2階に上がり帰宅が遅くなったことについて説教が始まり平手で殴られた。午後10時頃,同居人が2階に上がってきて,両親が床についたので終わった。結局,実母が平手で殴ったのは,合計で10発くらいである。
③ 1月16日頃の同居人の暴行
上記暴行に先立ち,同月16日,事件本人は,友達とボーリングに行き,帰宅が遅れ,午後8時30分頃になった。階段から下りてきた同居人が. 「何故遅い」と怒り. 2 -3発.平手で顔面を叩いた。実母も側にいたが口は出さなかった。
④ 1月20日以外の実母による暴行
母子生活支援施設△△△△にいる時,実母は怒ると, 事件本人に対し,智の柄や孫の手で, よく叩いた。床に座ったり,寝ころんでいる時に強くはないが,脇腹を蹴り上げることがあった。実母には, 口よりも先に手が出るところがある。平成15年11月に鳥取に住所を移して後は,帰宅が遅くなったことやゲームをし過ぎた時に平手で叩かれていた。頻度は,月に1度あるかないかである。
同居人が同居するようになってから,実母が手を出すのは,同居人が不在の時であるが,暴力の回数は減った。
(3) 保護者の生活状況
実母は,鳥取県○×□郡xx村の出身で,中学校卒業後,兵庫県で生活したが交通事故に遭い実家に戻った。18歳の時,再び大阪に出て,Cと結婚し,事件本人外2子を得たが,平成4年11月13日.cの暴力から逃れるために,事件本人等と共に,母子生活支援施設△△△△に入所した。平成8年3月15日.事件本人の親権者を実母として離婚した。平成15年11月, 母子生活支援施設△△△△を退所し,現住所にアパー卜を借りて現在に至っている。家族は,現在,実母,二男E. 同居人との3人である。生活保護で生活している。同居人は,平成16年11月から同居しているが経済的には別所帯の形となっている。
(4) 実母の虐待についての認識等
実母は.1月20日の暴行の動機について. 「カッとなってしまったから。」.「事件本人が言うことを聞かないから。」. 「もし,誰かが止めてくれたら止めることができたかもしれない。」などと述べているところ,実母は,感情のまま振る舞うことが,習慣とさえなっており,自分の感情をコントロールする自信も意思も欠けていることが窺える。1月20日の暴行については,思い通りにならない事件本人に対して,感情のままに手を挙げたというのが実情であり. 「躾」という意識すらも窺えない。
さらに,事件本人の精神的な被害の深刻さや暴力に対する不安についての理解が欠けている。1月20日の暴力について,事件本人の身になって考えた形跡はなく,その被害がどの程度深刻なものか,どの程度,許されないことであるかという点については.理解できているとは言えない。
また,実母自身,虐待とも言える暴力的な環境で育ち,結婚後も暴力にさらされていたためか,暴力による被害の痛みや精神的被害に対する感受性が鈍磨しているものと窺える。さらには,同居人との生活を維持するために同居人を庇いたいという気持ちが,虐待という認識を持つことを妨げているとも推測される。
実母は,事件本人の施設入所に対して不同意の意思を示しているが,不同意の理由は,実母の暴力的な行為や鳥取県中央児童相談所の判断を否定するものではなく,親としての感情を強調するものであり,事件本人の福祉の立場から述べたものとは考えられない。
2 事件本人の児童福祉施設入所の必要性
1月20日の暴行は,同居人及び実母の複数の大人によって,事件本人に対し,顔面, 口唇部を中心に殴打し全治約10日を要する打撲傷を負わせたものであること,その後,事件本人に治療等の手当がないこと,事件本人自身,暴力の再発を恐れ,暴力の無い環境での生活を望んでいること等の事実が認められ,上記暴行は.援の限度を超えた暴行であり,児童虐待と言わざるを得ない。尤も. 1月20日のような暴行は,常習的に行われていたわけではないが,実母は短気な性格で,子どもに対する支配の手段として暴力的な手段に頼りがちであること,保護者の暴力による事件本人の精神的被害の深刻さについて認識がないこと,事件本人の性格的負因についての理解がないこと,今後も同居人との生活を望んでいること等から,今後も,1月20日と同様の虐待行為が行われるおそれが高い。
また,事件本人は,平成17年1月21日に一時保護の措置の決定を受け,鳥取県中央児童相談所の一時保護やxxxxで生活しているが,家庭に戻ると暴力の被害にあうとの不安が強く,児童福祉施設での生活を希望している。
3 結論
現時点においては.実母に事件本人を監護させることは,著しく事件本人の福祉を害すると言わざるを得ない。当分の間,事件本人と保護者の分離を図り,児童相談所の指導によって,実母に事件本人に対する態度を反省させるとともに,事件本人に自分を守るだけの主体性を培うことが必要であある。
よって,児童福祉法28条1項の承認をするのが相当であり,主文のとおり審判する。(家事審判官 永井ユタカ)

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