遺産分割申立却下審判に対する即時抗告事件

第I 本件抗告の趣旨及び理由
抗告の趣旨及び理由は,別紙即時抗告申立書記載のとおりである。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,以下の事実が認められる。(1) 被相続人は,平成16年1月7日死亡し,相続が開始した。(2) 抗告人:Aは被相続人の夫であり,抗告人B,同C,同D及び同E並びに相手方はし、ずれも被相続人の子である。(3) 被相続人の遺産は,目録記載のとおりいずれも定額郵便貯金(額面額合計1000万円)である。目録記載1の定額郵便貯金は平成12年10月26日に, 目録記載2のそれは平成13年4月2日に, 目録記載Sーのそれは同年1月29日にそれぞれ預け入れられたものである。’(4) 抗告人Eは平成17年5月30日に,同B及び同Cは同年’6月1Bに,同Dは同月2日に,いずれもその相続分の全部を抗告人Aに譲渡し,本件遺産分割手続から脱退した。これにより,抗告二人Aの相続分は10分の9,相手方の相続分は10分のlとなった。
2 ところで,郵便貯金法7条第1項3号は,被相続人の遺産である定額郵便貯金につし、て,一定の据置期聞を定め,分割払戻しをしない条件で一定の金’頒を一時に預入するものと定めている。すなわち,定額郵便貯金は,その預入時において,分割払戻しができないという契約上の制限が,法律の定めにより付されていることになる。そして,この契約上の制限は.その.後の相続によっても何らー影響を受けることなく,当然相続人に承継されるものである。それ故,定’傾郵便貯金の貯金者が死亡した場合に,その共同相続人が可分債権であ移管額郵便貯金債権をその法定相続分に応じて承継取得しても,そのうちの一人がする法定相続分に応じた払戻請求は,上記許されていない分害IJ払戻しを認めたのと同じことになるから.同じ可分債権である銀行預金債権とは異なり,許されないと解するのが相当である。その結果,逃産である定額郵便貯金については,f也の可分債権と異なり,実質的に逃産の準共有と同様な事態が継続することになる。定額郵便貯金は,同法57条1項の定めにより通常預金となる,預入の日から起算して10年が経過するまでの聞は,遺産の共有状態解消の手続である遺産分割lの対象となるというべきである。そうすると,本件において,目録記載の各定額郵便貯金は,いずれも預入の日から10年を経過していないから,未だ定額郵便貯金としての性質を失っておらず,本件遺産分割の対象として取り扱うのが相当ということになる。そして,上記のとおり定額郵便貯金の分割払戻請求が許されないことからすれば,遺産分割に当たり1個の定額郵便貯金を共同相続人の1人に単独で取得させる方が望ましいことはいうまでもない。そこで,相手方の法定相続分10分のlに相当する額面額100万円の目録記載1の定額郵便貯金は相手方に抗告人の法定相続分10分の9に相当する額面額550万円の目録記載2の定額郵便貯金及び額面額350万円の目録記載3の定額郵便貯金は抗告人Aに,本件遺産分割でもってそれぞれ取得させるのが相当である。
3 よって,家事審判規則19条2項に基づき,金銭債権は相続開始とともに相続分の割合で分割され,遺産分割の対象とならないとして目録記載の各定額郵便貯金の遺産分割申立てを却下した原審判を取り消した上,審判に代わる裁判をするのが相当であると認めi主文のとおり決定する。( 裁判長裁判官中山弘幸裁判官岩木宰伊丹恭)

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ