養育費減額申立事件

第1 申立ての趣旨
申立人・相手方間のCD法務局所属公証人口口口口作成平成16年第xx号離婚給付契約公正証書(以下「本件公正証書」という)により,申立人が相手方に支払うべきものとされる養育費の額を毎月3万円に減額する。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,次の事実を認めることができる。
(1) 申立人と相手方(以下「両名」という)は,平成15年×月×日婚姻し,同年×月×日,事件本人をもうけたが,平成16年×月×日,事件本人の親権者を相手方と定めて協議離婚した。
(2) 両名は,相手方の求めにより,同年×月×日,概要次のとおりの本件公正証書を作成した。ア申立人は,相手方に対し,次のとおり,事件本人の養育費を毎月末日限り支払う(以下「本件養育費条項」という)。(ア)平成16年4月から平成17年9月まで毎月3万円あて(イ)同年10月から平成28年7月まで・毎月6万円あて(ウ)同年8月から平成35年11月まで毎月12万円あて(エ)前記(ア)ないし(ウ)のほか事件本人が入学・入院等特別の出費を必要とする場合には,相手方の申出により,当事者協議の上,その必要費用について申立人の分担額を定め,申立人はその分担額を遅滞なく相手方に支払う。イ申立人は.相手方に対し,離婚に伴う慰謝料及び財産分与として. 842万円の支払義務があることを認め,これを次のとおり148回に分割して,毎月末日限り支払う(以下「本件慰謝料等条項」という)。(ア)平成16年4月から平成17年9月まで毎月3万5000円あて(イ)同年10月から平成28年6月まで毎月6万円あて(ウ) 同年7月5万円あて同申立人が前記(ア)ないし(ウ)の分割金を期限に支払わないときは直ちに期限の利益を失い,申立人は相手方に対し,即時に残額及びこれに対する期限の利益を喪失した日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う。ウ申立人は,本証書記載の金銭債務を履行しないときは,直ちに強制執行に服する旨陳述した。
(3)ア両名は,約6年前に知り合い,その約1年後に相手方が申立人の子を妊娠したが,両名とも年齢が若く子供を育てられないとの理由で中絶し, その後,相手方が事件本人を妊娠したことから,両名は結婚することとなった。しかし,両名が入籍する前に申立人の浮気が発覚し,申立人は,当初,浮気相手と一緒になるとの意向を示したが,家族会議の結果,浮気相手とは別れて,相手方と婚姻することが確認された。イ両名は,平成15年×月×日に婚姻し,相手方は,申立人の実家に入り,事件本人を出産することとなったが,同年×月ころ,申立人が前記の浮気相手と関係を続けており,浮気相手が妊娠していることが判明した。この時も,申立人は,浮気相手とはもう会わない旨を相手方に話したが,相手方は申立人を信頼することができなくなって両名の関係は悪化し,事件本人が誕生した後もその状況は変わらず,平成16年×月には離婚の話が出て,本件公正証書が作成された。ウこの間の平成15年×月×日,両名の結婚式が行われたが,その費用合計206万6295円と事件本人の出産費用40万4620円は,相手方の両親が負担した(なお,結婚式のお祝い金のうち43万円は,相手方家族が受領したが,その余のお祝い金の行方は判然としない)。本件慰謝料等条項の金額は,前記の結婚式費用及び出産費用に慰謝料相当額を加算したもので,相手方が提示した額に申立人が同意して,合意されたものである。
(4) 申立人は,平成19年×月× 日.Dと婚姻し,同年×月×日, 長男Eをもうけた。
(5) 申立人は,株式会社○○に勤務しており,平成18年分の給与収入は. 322万3665円(支給総額)であった。Dは,平成19年6月×日から平成20年4月×日まで育児休暇を取得しており,現在収入はない。申立人は、D及びEと賃貸物件に居住しており,家賃・共益費・駐車場代,食料費,光熱費等,医療費,被服費,雑費,生命保険(月額4185円). 自動車経費(うち自動車ローン月額1万8600円).Dの奨学金返済(月額1万円).公租公課等を負担している。
(6) 相手方は,株式会社△△に勤務しており,平成18年分の給与収入は. 145万5278円(支給総額)である(なお,相手方は,同年中に2回転職している)。相手方は,実家に事件本人,両親,祖父母,曾祖母と居住しており,住居費,食料費,光熱費は負担していないが,実家に生活費として月額4万円を入れているほか,教育費,医療費,被服費,雑費,学資保険(月額5万2246円).自動車経費(うち父による自動車購入費の立替金の返済として月額l万円).両親からの婚姻中の借入金の返済(月額5万円).公租公課を負担している。
(7) 申立人は,相手方に対して,本件費育費条項及び本件慰謝料等条項の履行として,平成17年7月以降,月に5万円を支払うなどしたが,相手方は,平成19年4月×日付けで.本件養育費条項の未払分(履行期到来分全額)及び本件慰謝料等条項の未払分718万円を請求債権とする債権差押命令により,申立人の給料を差し押さえた。
(8) 申立人は,同年6月×日,相手方に対し,本件養育費条項減額の調停を申し立て,同年×月× 日,審判に移行した。
2 本件申立ては,申立人が相手方に対して,本件養育費条項について,再婚をし第1子も生まれ現在の給料の支給額では生活が困難であるとして,その減額を求めるものであるところ,そのような事情変更に基づく養育費の減額(民法880条)は,当初の協議の際,当事者が予見し得ない事情の変更が後になって生じ,協議が実情に合わなくなった場合にのみすることができると解するのが相当である(なお,申立人は,審尋期日において,本件慰謝料等条項の減額も求めたい旨陳述しているが,同条項についていわゆる一般的な事情変更の原則が適用されるか否かはともかく,かかる変更は,家事審判でなく民事訴訟の対象であるから.本件養育費条項の減額の当否についてのみ判断する)。前記認定によれば,本件養育費条項が合意された平成16年4月×日時点では,相手方が再婚し,子をもうけることは抽象的には想定されるものの,具体的な事情として存在していたとは認められず,現実に予想することはできないから,申立人が,平成19年×月×日,Dと婚姻し,同年×月×日, Eをもうけたという事情は,本件養育費条項を変更すべき事情に当たるとするのが相当である。
(1) そこで検討するに,申立人は,相手方に対して,本件養育費条項により.平成17年10月から平成28年7月まで毎月6万円あて,同年8月から平成35年11月まで毎月12万円あての養育費を支払うことを約している。
(2) ところで,子の養育費については,養育費の支払義務者(本件では申立人)と子が同居していると仮定した場合に捻出することができる生活費を基準に算出すべきものであり,そこでは,成人の生活費の指数を100,15歳未満の子のそれを55とするのが相当である。すると,現時点において,申立人と事件本人が同居していると仮定した場合の事件本人の生活費の割合は, D及びEの存在を考慮しなければ55/(100 + 55) となるのに対し, D及びEの存在を考慮すれば55/(100 x 2+55 x 2) となり,後者は前者の2分のlの割合となっている。これによれば,本件養育費条項は,現時点において,その額を2分のlに変更するのが相当ということになる。
(3) 他方,以上の検討は,Dに収入がなく, Eの養育費全額を申立人が負担することを前提としたものである。前記認定のとおり,Dの育児休業期間は平成20年4月×日まであり,その後はDもEの養育費を負担できるようになることが予想されるから,本件で本件養育費条項の減額を認める期聞は,同月までとし,その後必要があれば申立人において再度減額等の申立てをするのが相当である。
(4) なお,前記認定のとおり,相手方は実家の援助を受けているが,これは好意に基づく贈与であって,養育費の額を定めるに当たって考慮すべきでなく,また,両名の支出について,一般家庭の平均的な支出を越えるものはなく,養育費の額を定めるに当たって特別に考慮すべき事情はない(この点,申立人は,本件慰謝料等条項の支払を負担しているが,前記認定によれば,両名の婚姻関係が破綻した主たる理由は,申立人の不貞行為にあるどするのが相当であり,本件慰謝料等条項の内容が.社会通念上著しく合理性を欠き公序良俗に反するとまですることはできず,その負担を理由に本件養育費条項の額を減額するのは相当でない)。
3 以上によれば,本件養育費条項については,本件調停申立てのあった日の属する月の翌月である平成19年7月から平成20年4月までの間,月額3万円に減額するのが相当であるから,主文のとおり審判する。
(家事審判官増永謙一郎)

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