養子縁組許可申立事件

1 申立ての要旨
申立人A(以下「申立人」という。)には実子がいないので,未成年者B (以下「未成年者」という。)を養子とし,同人に申立人の00家の家督を継がせたい。そして,未成年者の法定代理人親権者で、ある実父母は,本件養子縁組を承諾している。よって,申立人が未成年者を養子とすることの許可を求める。
2 認定できる事実
本件記録及び調査の結果によれば,次のような事実が認められる。すなわち,
(1) 申立人は,昭和27年×月×日にCと婚姻し,現在85蔵で,平成21年×月×日に同人が死亡した後は,独り暮らしをしており,血圧が高く,不整脈があるため,内科に月1回くらい通院しているが,炊事,洗濯等の身の回りのことはすべて自分で-行っている。
(2) Cの生家は,数百年続く○○神宮のいわゆる社家として,代々神官を輩出してきた家系て-あるところ.Cは,昭和xx年にCわ神宮の社家を承継し,年2回の○○神宮の大祭の支援をしたり,定期的な地域活動をしてきており.上記大祭においては.co神宮からOムまで御神体を運ぶ行列に参加するなと・の役割を担ってきた。
(3) 未成年者は,申立人の姪の長女に当たるD (現在37歳)の二男であり,現在10歳で,小学校4年生である。未成年者は,実家が経営する「株式会社○○○○」の取締役部長である実父のE(現在37歳)と,専業主婦である実母のDによって,実兄のF(現在13歳)とともに,適切に監護養育されている。
(4) 申立人は,未成年者が生まれてから現在までの間,未成年者の一家と親戚として交流をしてきており,未成年者の一家が,年に数回程度,盆や正月等に申立人宅を訪れ,食事をして過ごすなどしている。
(5) 申立人は,年金の支給を受けて生活をしているが,財産としては,○○県○○市内に○○家で先祖代々受け継がれている土地と建物を所有している。
(6) 申立人はCとの聞に実子がなく,平成21年×月×日.Cが体調を崩したため,代々続いてきた社家で・ある○○家を途絶えさせたくないとの思いから,後継者となる養子の候補者らに当たったが,いずれも養子縁組を断られた。そこで,申立人は,同月下旬ころ.Dに対し,未成年者との本件養子縁組の話を持ち掛けたところ,その承諾が得られたので,同年×月×日.Cとともに,本件養子縁組許可の申立てをした(なお,本件養子縁組許可申立事件のうちCの申立てに係る部分は.同人が申立てをした後に死亡したため,事件が終了している)。
(7) 申立人は,未成年者の年齢を考慮し,本件養子縁組後も,差し当たりは同居の予定はなく,これまでどおり実父母と一緒に生活してもらってよし、と考えてし、る。もっとも,申立人は,未成年者には○○氏を継いでもらい○○市内の○○家の不動産を譲り受け,将来は,できればそこに居住してもらい,社家としての役割を果たしたり,神官になってほしいとの希望を有しているが,未成年者の判断で,それらを断ってもらっても構わず,強制はしないとの意向である。
(8) 未成年者の両親は,以前にも申立人夫婦から未成年者の提子縁組の話があったが,他にも養子の候補者がし、ると聞いていたため,未成年者の養子縁組については余り現実的なものと考えておらず,これまで未成年者にその話を伝えたことはなく,平成21年×月下旬ころに申立人から連絡があった後,初めて未成年者に本件養子縁組の話をした。
(9)未成年者は,実母から,平成21年×月下旬ころに本件養子縁組のことを初めて聞いた時には,意味が分からず,嫌だと思ったが,申立人については,遊びに行くと優じくしてくれるということで好感を抱いており,実母から.r学校には,今までどおり△△の氏で通学できる。15歳になれば,ムムの氏に戻ることもできるJなどと説明を受け.15歳になった時に離縁じて△△の氏に戻りたいとの思いを前提に,現在では.15歳になるまで申立人の養子になるととも仕方がないと考えている。もっとも,未成年者は,社家に関する説明については,家庭裁判所調査官から初めて聞いたとのことであり,その意味も,十分に理解するまでには至っていない。
(10) 未成年者の両親は,未成年者が,本件養子縁組を渋々了解している様子なので,可哀想だとの思いはあるが,成長すれば,社家の役割等も理解し,その気持ちも変わるのではないかとの期待もあり,社家を途絶えさせたくないとの申立人の思いも理解できるので,本件養子縁組については,仕方がないものとして承諾している。
(11) 未成年者の両親は,本件張子縁組後も,未成年者とはこれまでどおり親子として一緒に生活して監護養育し,小学校には未成年者を引き続き△△の氏で通学させ○○神宮の大祭等の支援については,当面は,自分らが対応していきたいと考えている。
3 当裁判所の判断
以上認定した事実によれば,未成年者は,本件養子縁組により,申立入所有の不動産を相続等により譲り受けることになるとし、う財産上の利益がないではないものの, 他方で,将来は,その不動産に居住し, 社家を継いで○○神宮の大祭の支援や地域活動等に従事することが強く期待されることになるのであって,それが強制されるものでないとはいえ,未成年者の将来をかなり制約する可能性が生じることは否定できないところである。そして,未成年者は,未だ小学校4年生で.10歳と年若く,自らの将来設計について的確に判断し得るだけの能力を備えているということはできず,実際にも,本件養子縁組の目的や社家の役割等を十分に理解するには至っていないのであるから,未成年者が現時点で本件養子縁組を承諾するとの意向を示しているからといって,本件養子縁組を許可するに足る有効な縁組意思が存すると評価することはできない。しかも,未成年者は.これまでも両親の下で適切に監護養育されてきており,今後も,引き続き両親の下で適切に監護養育されることが十分に期待されるのである。してみると,未成年者が,少なくとも15歳又はこれに近い年齢になって,自らの将来設計について的確に判断し得るだけの能力を備えるようになり,かつ,代々続いたζわ神宮の社家の社会的な意義や役割等を十分に理解し,その家系に繋がりを有する者として,社家の役割を自らが果たしたいとの思し、から積極的に養子縁組を希望するような状況にでもなれば,養子縁組を許可することも考えられなくはないとしても,現時点においては,本件養子縁組は,民法798条がその立法趣旨として求めている未成年者の福祉に適うということができないのであるから,未成年者の法定代理人親権者である実父母が未成年者に代わって本件養子縁組を承諾しているからといって,本件養子縁組を許可することはできない。
よって,本件申立ては,相当でないから,これを却下することとし,主文のとおり審判する。(家事審判官服部悟)

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