養子縁組許可申立事件(趣旨変更後の事件名特別養子縁組申立事件)

第1 申立ての趣旨
主文同旨
第2 認定事実家庭裁判所調査官0000の調査報告書を含む一件記録によれば,以下の事実が認められる。
1 申立人(養父となる者) A (以下「申立人A」という。)と申立人(盤母となる者) B (以下「申立人B」という。)は, 1987年×月×日に婚姻した夫婦である。
2 申立人Aは,アメリカ合衆国a州で出生し,現在も実母と妹は同州内に居住しているが,父はb州に居住している。そして申立人A自身は, 1987年にテネシー州内の高校を卒業し,そのころ同州内で申立人Bと婚姻し, 00ゃ00で勤務した後,同州内にある00学校に入学して, 1995年に同校を卒業した。その後は口口として活動するようになり,1996年(平成8年)ころには申立人Bと共に来日の上, 00県00市内で生活するようになって,今日に至っている。申立人Aは,その本国法がアメリカ合衆国テネシー州であることを前提に本件申立てを行っている。申立人Bは,アメリカ合衆国テネシー州で出生し,同州内の高校を卒業し,そのころ同州内で申立人Aと婚姻し, 1995年には同申立人と問機,口口としての資格を有するに至った。申立入Bの実父は既に他界したが,実母や兄,妹は,現在もテネシー州内に居住している。申立人Bは, 1996年(平成8年)ころ,申立人Aと共に来日し, 00県00市内で生活するようになって,今日に至っている。申立人Bも,その本国法がアメリカ合衆国テネシー州であることを前提に本件申立てを行っている。申立入らは,現時点では,無期限で00県00市内での生活を継続する予定であって,アメリカへの帰国予定は有していない。また,申立入らは,現在, 00から相当額の報酬を受領し,借財は特になく,経済的に安定した生活をしている。
3 申立人らには,1988年×月×日生まれの長女E,1990年×月×日生まれの二女F,1994年x月×日生まれの三女Gの3人の実子がいる。申立入らの長女は, 2007年夏以降アメリカに帰国して大学に通学しているものの,高校生の二女,中学生の三女は,現在も申立人らと同居して生活している。
4 申立人らは, 3人の娘に恵まれ,養育してきたものの,かねて男児が欲しいという希望を有しており,また恵まれない子に愛情のある家庭環境を与えたいという思いから, 2年位前から養子を迎えたいと考えるようになり,知人を通じて,養子縁組希望者リストへの登録を行っていた。
5 事件本人Cは,平成18年(2006年) x月×日,00県00市内の00病院において,事件本人Dの非嫡出子として出生した。事件本人Dの供述舎によれば,事件本人Cの実父とは1回の付き合いだけで妊娠したとのことであり,実父の氏名職業等,その人となりは不明であって,実父からの認知も受けていない。
6 事件本人Dは,事件本人Cの妊娠中から,精神的な疾患を抱えて通院していた上,事件本人Cの兄に当たる非嫡出子H (平成14年×月x日生)を既に施設に預けていて,体調快復後は同児を引き取って養育するつもりであったことから,事件本人Cについては,妊娠当時から,自ら養育することは困難と考えていた。そして,事件本人Cの出生後は, 00市内在住のIが主宰する民間の養子縁組斡旋機関「口口口口」のスタッフを通じて,同児を養子縁組に出すことを決意した。事件本人Cは,低出生体重児で誕生したほか,貧血などの治療のため,出生後も病院で過ごしていたが,平成18年(2006年) x月×日に退院し,そのまま「口口口口」のスタッフに預けられた。なお,退院時点の事件本人Cには, 00の障害が残っていた。
7 事件本人D は,平成18年(2006年) x月×日には,自宅を訪ねてきた「口口口口」 のスタッフに対して,申立人らと事件本人C との特別養子縁組に同意する内容の特別養子縁組同意書,また事件本人Cが,申立人らと養子縁組をしてアメリカに移民すること,養子縁組成立時までは申立入らに事件本人Cの後見人を依頼する内容の孤児養子縁組並びに移民説渡証明書等に署名して交付し,また事件本人Cの幸せのために養子縁組を希望し,将来これに対する異議申立てはしないこと,この養子縁組によって事件本人Dの事件本人Cに対する賀任と親権がすべて終了することを承諾,同意することを含む内容の供述書を作成して,本件養子縁組に対する同意を表明した。
8 他方,「口口口口」のスタッフから,事件本人Cの事情を知らされた申立入らは,平成18年(2006年) x月には事本人Cを引き取り,養子として養育していくことを表明し,同月×日に,実際に「口口口口」スタッフから事件本人Cを引き取って,以後現在まで同児と同居して生活している。そして申立人らは,平成18年(2006年) x月×日には,当裁判所に対し,テネシー州法に基づき,事件本人Cを養子とすることの許可を求める本件申立てを行ったが,その後その申立ての趣旨を,日本法上の特別養子縁組申立てに変更する旨の申立てを行った。
9 事件本人Cは,申立人らに引き取られた後,申立入らや3人の娘たちに大変かわいがられて養育されており,その家庭環境にもすっかりなじんで,安定した生活を送っている。事件本人Cには00の障害があるものの, これについては医師の診察の下,近年中に手術で治療する予定であり,それ以外には特に健康上の問題もない。成育状況は順調であり,年齢相応の発途段階にあると見受けられる。申立人らは,今後とも事件本人Cを実子問機養育するつもりであるが,養子縁組の事実について隠し立てをするつもりはなく,成長に応じて説明をするつもりである。なお,事件本人Cに対しては,将来的には大学課程まで含めた教育の機会を与えるつもりでいる。これまでの経過に照らして,申立人らの監護養育態度,生活環境には何の問題もなく,申立人ら及びその娘たちと,事件本人Cとの適合性は十分である。
10 なお,本件申立後,事件本人Dは,家庭裁判所調査官からの電話連絡に1度だけ応対したことがあったものの,その後電話(携帝電話)は不通となり,また4回にわたる文書送付に対しでも何の反応も示さなかったが,現在に至るまで,本件養子縁組に対する反対の意向を表明したことがない。
第3 当裁判所の判断
1 申立人ら及び事件本人Cは,いずれも日本国内に居住していることから,本件についての国際裁判管轄権は我が固にあると認められる。
2 本件養子縁組に関する準拠法は,法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。) 31条1項前段により,養親となるべき者,すなわち申立人らの本国法が適用される。申立入らはいずれもアメリカ合衆国の国籍を有しているが,同国は地域(州)各申立人の本国法が同国内のどの州法となるベきカか、を検討すべきところ,同国内には,その適用法を統一して指定する規則がないと認められるから,当事者に最も密接な関係がある地域の法が,その本国法になると解すべきである。認定事実によれば,申立人Aは,その出生地こそテネシー州ではないものの,同州内の高校を卒業し,同州出身の申立人Bと同州内で婚姻し,同州内での00学校も卒業して同州内で口口としての資格を得,申立人A自身も同州法を自身の本国法として本件申立てを行っているのであるから,同申立人と最も密接な関係がある地域とはテネシー州であると認められ,同申立人の本国法は,アメリカ合衆国テネシー州の州法であると認める。また,申立人Bは,テネシー州で出生し,同州内の高校を卒業し,同州内で申立人Aと婚姻し,現在も実母や兄,妹は同州内に居住しており,同申立人自身が同州法を自身の本国法として本件申立てを行っているのであるから,同申立人と最も密接な関係がある地域もテネシー州であって,同申立人の本国法も,アメリカ合衆国テネシー州の州法であると認める。
3 ところで,申立人らはいずれも平成8年(1996年)ころから日本国の00県00市内に居住し,現時点では,無期限で同所での生活を続けるつもりであって,アメリカに帰国する予定はないというのであるから,英米法上にいうところの住所(そこを本拠(home) とする意思〔永住意思〕をもって居住する地域)たるドミサイル(domicile) は,日本国内にあると認められる。そして,申立人らの本国法であるアメリカ合衆国テネシー州法(36-1-114) では,養子縁組の場合の裁判管轄権は,①養子縁組の申立人の居住地,②子の居住地,③子が公的機関による保護を受けるに至った時の居住地, ④子の監護権又は後見の権利を有する公認機関もしくは子の引渡を受けている公認機関の所在地,のいずれかにあることが規定されており,他方で,アメリカ合衆国のアメリカ抵触法第2リステイトメント(Restatementof The Law Second Conflict of Laws 2 d)289条によれば,裁判所は,養子縁組の裁判につき,常に,当該法廷地法を適用する旨定めているところである。そうすると,養親となるべき申立入らのドミサイルも,また養子となるべき事件本人Cの住所(すなわち,英米法上のドミサイル)も日本国内にあり,他方で事件本人Cの監護権や後見業務に携わっている公認機関があるとはいえない(少なくとも,テネシー州内に,かかる公認機関はない)本件においては,テネシー州法上も, その裁判管轄権は我が国のみにあることとなる(したがって,現にテネシー州内に居住しておらず, ドミサイルも日本国内に有している申立人らとしては,現状のままでは,本国であるアメリカ合衆国テネシー州において,本件養子縁組を求める裁判を提訴することができず,当然準拠法をテネシー州法とする養子縁組裁判も受け得ない可能性が高い。)。かかる場合においては,裁判管轄権を有する法廷地法をもって事件審理の準拠法とする旨定めた前記アメリカ抵触法第2リステイトメント289条の法理に従い,本申立てについてのいわば専属的な裁判管轄権のある日本法が,その準拠法として適用される(すなわち,いわゆる「隠れた反致J理論により,申立人らの本国法(テネシー州法)上,日本法への反致が成立する。通則法41条)と解するのが相当である。またこのように解しでも,それが申立人らの本国法(テネシー州法)上の公序に反するとは認められないし,養子となるべき者の保護,利益を勘案して決されるべき日本法に基づく養子縁組裁判の結果は,申立入らの本国法(テネシー州法)上も十分承認され得るものと解される。となれば,結局本件養子縁組に関する準拠法は,日本法ということになる。
4 申立人らは,日本法の適用を前提とする場合,事件本人Cを特別養子とすることを希望してその旨の趣旨変更申立てをしたので,日本国民法817条の2以下の規定により,その特別養子縁組(養子と実親その他の実方との親族関係が終了する縁組) を成立させることが相当であるかを検討する。前記認定事実によれば,申立人らはいずれも満25歳以上であり,事件本人Cは平成18年(2006年) x月×日の本件申立時点で未だ6歳未満であることが明らかであるから,その年齢要件はいずれも満たしている。事件本人Cの実母である事件本人Dは,本件申立て以前の平成18年(2006年) x月×日の時点で,既に申立人らと事件本人Cの特別養子縁組に同意する旨の意思表明をして,その旨の文書も作成しており,その後現在までには,当家庭裁判所調査官からの連絡にも何ら返答を答こさないなど,同女との連絡自体が困難な状態に陥っているが,いずれにしても現在に至るまで,その同意の意思を撤回したと認められる事情はなく, 同女は現在もなお本件特別養子縁組に同意しているものと認められる。さらに,事件本人Dは,事件本人Cの出産以来,同児を自ら養育したことはなく,またその意思もなく,経済的にも環境的にも,養育が可能な状況にあるとも認められないから,実母たる事件本人Dによる監護は,著しく困難かつ不適当であって,事件本人Cの利益のため,特に特別養子縁組をする必要性があると認められる。そして,申立人らは,平成18年(2006年) x月×日の本件申立て後,既に6か月以上の間,手ずから事件本人Cを監護養育してきたところ,これまでの期間中における申立人らと事件本人C,また申立入らの実子である長女,二女,三女と事件本人Cとの関係は大変良好で,申立人らと事件本人Cとの適合性には申し分がない。
5 以上によれば,本件では,特別養子縁組を認めるための法的要件はすべて充足しており,事件本人Cの利益のためにも,同人を申立人らの特別養子とすることが特に必要であると認めるから,本件申立てを認容するものとし,主文のとおり審判する。(家事審判官荻原弘子)

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