養子縁組無効確認請求控訴事件

第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
(1 )
(本案前の申立て)被控訴人らの本件訴えをいずれも却下する。
(本案の申立て)
(2)被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第一,二審とも,被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1 控訴人は,昭和18年×月×日に従兄弟の関係にあるD (平成10年x月×日死亡)と婚姻したが,婚姻当日, 自らと夫であるDとを養子とし,実の姉であるE(平成17年×月×日死亡)を養母とする旨の養子縁組の届出(本件縁組届)がされた。
2 本件は, Eとその夫のF (平成4年×月×日死亡)との聞の実子である被控訴人らが,控訴人に対し,上記養子縁組について, E, D及び控訴人には縁組意思も届出意思もなかったとして,同養子縁組が無効であることの確認を求めた事案である。これに対し,控訴人は,本案前の主張として. EとDが共に死亡している本件においては. E. D間の養子縁組の無効をいうためには,検察官を当事者(被告)とする必要があり,控訴人には本件の被告適格がないとして,本件訴えの却下を求め,本案の主張として,Eも控訴人Dも,縁組意思を有していたし,仮にそうでないとしても,その後縁組のことを知りながら長期間放置したので,黙示の追認をした(更に,控訴人は平成19年×月x日付け準備書面により改めて追認をした。)として,被控訴人らの諮求を争った。
3 原審は,次のとおり判示して,被控訴人らの請求をいずれも認容した。
(1) 養子が夫婦である夫婦共同縁組の場合,夫婦は共同してのみ縁組無効の当事者となり得るものであるから,あくまで全体で一つの縁組と捉えるのが原則であり,その結果,第三者が,養親が一人,養子が夫婦という養子縁組の無効の訴えを提起する場合には,原則として,養親・養子夫婦の当事者3名全員を共同被告とするべきことになる。そして,この当事者3名のうちに死亡した者がいる場合であっても,当該3名こそが当該縁組における最も緊密な利害関係者である以上,当事者中に未だ生存者がいる以上は,当該生存者にこそ当事者適格を認めるべきであり,敢えて検察官を控訴人とする必要性は認めがたい。
(2) 控訴人本人自身が,本件縁組届の存在を知ったのは終戦後Dが就職のために戸籍謄本を取り寄せた際であり. Dと共にその時に初めて認識した旨明確に供述しており,本件縁組届時点においてはD及び控訴人のいずれにもその認識が全くなかったことが明らかである。Eについても,本件縁組屈時点でその認識を有していたことを裏付ける証拠は何ら存在しない。本件縁組届は. Eの祖父母の長女の夫であったGが. Eが他家に嫁ぐ前にa家の家督をD控訴人夫婦に継がせることでa家の絶家を回避できると考え,独断で実行したものであり. E. D,控訴人という縁組当事者たちに何ら説明がされなかった可能性を否定できない。
(3) 届出当時縁組意思が認められなかった無効な縁組について,後日の追認が有効に認められるためには, ①届出当時に事実上の養親子関係がすでに成立している状況において,②追認権者が届出がなされていることを知った上で,縁組をする意思をもって追認の意思表示をすることが必要であるが,本件全証拠によっても. Eと控訴人Dとの間に,身分的生活事実が営まれたとの事実を認めることはできないし,また. Eによる追認の意思表示を認めることもできない。
4 上記判決を不服として,控訴人(被告)が控訴したものである。
5 前提事実及び争点(当事者の主張を含む。)は,次の(1)のとおり訂正し, (2)のとおり当審における主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の(2)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決の訂正
ア原判決2頁13行目から14行目にかけての「昭和4年当時,駅逓の廃止に伴い, 00郡00町に15万1074坪の土地を付与され.Jを「安政生まれで,郵便取扱所長などをしつつ農業に従事していたが,昭和2年に駅逓が廃止されたことに伴い,昭和4年.00郡00町に15万1074坪の土地を付与され,」と改める。イ同3頁15行自の123歳の被告及び24歳のDJ を122歳の控訴人及び23歳のDJと改める。
(2) 当審における主張(被告適格について)ア控訴人の主張(対配偶者のある者が養子縁組をする場合について夫婦共同縁組の原則を厳格に貫こうとする見解(合一説)は,戦後になって見直され,夫婦共同縁組は,共同一体的な身分行為ではなく,夫婦それぞれについて個別的に相手方との間で養親子関係が生じ,それぞれ単独縁組が複数同時に成立するものと理解すべきであるとする見解(個別説)が学説上の多数説になった。また,戸籍先例も次第に個別説を容認するようになり,最高裁も,従前の大審院の判例を変更し,合一説から個別説に変更することを明確にするに至った(最高裁昭和48年4月12日第一小法廷判決・民集27巻3号500頁〈以下「昭和48年最高裁判決」という。))。(イ) 上記のような考え方の傾向からすれば,本件縁組届に係る養子縁組は, E.控訴人間, E. D聞の2つの縁組を内包するものとしてとらえ,これらを区別して人事訴訟法12条2項, 3項を適用するのが相当であり,そうすると, E. D聞の養子縁組の無効をいうためには,検察官を被告とする必要があった。(ゥ) また,上記のように解さないと, Dの子であるH, 1及びJの3名が自らの全く関与しない訴訟において代襲相続人たる地位を左右されることになり,不当である。イ被控訴人らの主張(ァ) 夫婦共同縁組を全体で一つの縁組ととらえる立場(合一説)を採用すれば,第三者が夫婦共同縁組の無効の訴えを提起する場合には養親子双方全員を被告とすべきことが明らかであり,人事訴訟法12条2項, 3項が夫婦共同縁組の当事者全員について適用されるのは当然である。(イ) 仮に夫婦共同縁組を夫婦それぞれについて個別的に相手方との聞で養子縁組が成立しているものととらえる立場(個別説)を採用したとしても,昭和48年最高裁判決の立場からすれば,夫婦につき縁組の成立・効力は通常一体として定められるべきであるから,第三者が夫婦共同縁組の無効の訴えを提起する場合には,夫婦共同縁組の原則の趣旨に反しない特段の事情のない限り,養親子双方全員を被告とすべきであり,人事訴訟法12条2項, 3項は,夫婦共同縁組の当事者全員について適用すべきである。(ゥ) したがって,第三者が他人間の養子縁組の無効の訴えを提起するに当たって検察官を被告とする必要性が生じるのは,あくまで当該縁組の当事者全員が死亡したときのみであり,縁組当事者のいずれかが生存している以上は,人事訴訟法12条2項を適用して,当該生存当事者を被告とすべきものである。これを本件についてみると, E及びDが既に死亡しているから,被告適格を有するのは控訴人のみであり,かつ,控訴人のみを被告として訴えを提起すれば足りると解すべきである。(エ) なお,控訴人は,検察官を被告にしないと,Dの子であるH,I及びJの3名が自らの全く関与しない訴訟において代襲相続人たる地位を左右されることになり,不当であると主張する。しかし,人事訴訟法12条3項が検察官を被告とする訴えの提起を認めているのは,原告に確認の利益がある以上,訴訟を可能にすべく被告の不存在及び被告選択のリスクを原告に負わせないようするためであって,死亡した者や利害関係人の利益保護に目的があるものではなく,代襲相続人の手続保障は,基本的には,代襲相続人が自ら訴訟参加することにより実現されるべきものである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告適格)について(1) 前提事実記載のとおり,本件縁組屈は, EとD・控訴人夫婦との聞で昭和18年×月×日になされたものであり,その当時適用のあった昭和22年法律第222号による改正前の民法(以下「旧民法」という。)841条l項には「配偶者アル者ハ其配偶者ト共ニスルニ非サレハ縁組ヲ為スコトヲ得ス」とのいわゆる夫婦共同縁組の原則が規定されていた。上記のような旧民法下の夫婦共同縁組の原則の下においては,配偶者の一方に縁組をする意思がなかった場合には.縁組の意思のある他方の配偶者についても縁組は無効であると解すべきである。しかし,本来,養子縁組は,個人間の法律行為であって,夫婦が共同して他の夫婦と養子縁組をする場合にも,夫婦各自について各々別個の縁組行為があり,各当事者ごとにそれぞれ相手方との聞に親子関係が成立するととらえるべきものである(昭和48年最高裁判決,最高裁昭和53年7月17日第二小法廷判決・民集32巻5号980頁参照。)。このことは,旧民法841条1項の下における夫婦共同縁組についても,同様に解するのが相当であり,また,仮に旧民法における夫婦共同縁組が家制度の一環をなすものであることを重視し,同法の下で成立した夫婦共同縁組については,夫婦共同縁組全体を一つの縁組と解するのが相当であったとしても,昭和22年法律第222号による法改正後は,夫婦各自について各々別個の縁組行為が存在するものへとその法的性質を変容させたと解するのが相当である。
(2) 本件は,第三者である被控訴人らがEとD・控訴人夫妻との間の縁組の無効確認を求める訴えであるところ,このように人事に関する訴えであって当該訴えに係る身分関係の当事者以外の者が提起するものにおいては,当該身分関係の当事者の双方を被告とし,その一方が死亡した後は他の一方を被告とし,被告の双方が死亡し,被告とすべき者がいないときは,検察官を被告とすべきものである(人事訴訟法12条2項, 3項)。そして,旧民法下の夫婦共同縁組の場合であっても,養子縁組は,個人間の法律行為であるから,人事訴訟法12粂2項, 3項の適用に当たっては,夫婦それぞれの養子縁組に係る訴訟ごとに上記各規定を適用して,誰を被告とすべきかを検討すべきである。そうすると,Eと控訴人との聞の養子縁組の無効確認の訴えについては,同縁組の当事者の一方のEが死亡しているから,同条2項により,控訴人を被告とすべきであるが,EとDとの問の養子縁組の無効確認の訴えについては,同縁組の当事者双方が死亡しているから,同条3項により, 検察官を被告とすべきである。他方で, 前記のような夫婦共同縁組についての無効確認の訴えについては,夫婦について画ーに処理することが要請されるから,夫婦につき固有必要的共同訴訟になると解される。なお,被控訴人らは,夫婦につき縁組の成立,効力は通常一体として定められるべきであるから,人事訴訟法12粂2項, 3項は,夫婦共同縁組の当事l者全員について適用すべきである旨主張するが,同主張は,夫婦それぞれの訴訟についての同条項の適用の問題と両訴訟が固有必要的共同訴訟になるか否かの問題とを混同するものであるというべきである。
(3) 以上によれば,本件においては, EとDとの聞の養子縁組の無効確認の訴えについては検察官を被告とすべきであるから,控訴人に対する訴えは不適法であるといわざるを得ず,また, EとDとの問の養子縁組の無効確認の訴えとEと控訴人との聞の養子縁組の無効確認の訴えとは固有必要的共同訴訟であるから,前者の訴えが不適法である以上,本件の訴え全体が不適法になり,却下を免れないことになる。
2 よって,上記と異なる原判決を取り消し,被控訴人らの本件訴えをいずれも却下することとし,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官寺田逸郎裁判官辻次郎)裁判官森一岳は,転補につき,署名押印することができない。裁判長裁判官寺田逸郎

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ