預託金返還請求事件

上告代理人○○,○○の上告受理申立て理由について
l 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) Aは,平成8年10月13日死亡した。その法定相続大は,妻である被上告人のほか,子である上告人, B, C及びD (以下,この4名を「上告人ら」という。)である。
(2) Aの遺産には,第l審判決別紙遺産目録1(l)-(In記載の不動産(以下「本件各不動産」という。)がある。
(3) 被上告人及び上告人らは,本件各不動産から生ずる賃料、管理費等について.J.註産分割により本件各不動産の帰属が確定した時点で清算することとし,それまでの期間に支払われる賃料等を管理するための銀行口座(以下「本件口座」という。)を開設し,本件各不動産の賃借入らに賃料を本件口座に振り込ませ,また.その管理費等を本件口座から支出してきた。
(4) 大阪高等裁判所は,平成12年2月2日,同裁判所平成11年(ラ)第xx×号遺産分割及び寄与分を定める処分審判に対する抗告事件において.本件各不動産につき遺産分割をする旨の決定(以下「本件遺産分割決定」という。)をし,本件遺産分割決定は,翌3日,確定した。
(5) 本件口座の残金の清算方法について,被上告人と上告人らとの聞に紛争が生じ.被上告人は,本件各不動産から生じた貨ネぽf権は,相続開始の時にさかのぼって,本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張し,上告人らは,本件各不動産から生じた賃料債権は,本件i立産分宮IJ決定確定の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属し,本件逃産分筈IJ決定確定の日の・翌良から本件各不動産を取得した各相続人に帰属するものとして分配額を算定すべきであると主張した。
(6) 被上告人と上告人らは,本件口座の残金につき,各自が取得することに争し、のない金額の範囲で分配し,争いのある金員を上告人が保管し(以下,この金員を「本件保管金」という。).その帰属を訴訟で確定することを合意した。
2 本件は,被上告人が,上告人に対し,被上告人主張の計算方法によれば.本件保管金は被上告人の取得すべきものであると主張して,上記合意に基づき,本件保管金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年6月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
3 原審は,上記事実関係の下で\次のとおり判断し,被上告人の請求を認容すべきものとした。遺産から生ずる法定果実は.それ自体は遺産ではないが,遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属するのであるから,遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上,遺産分割によって特定の財産-を取得した者は,相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる。そうすると,本件各不動産から生じた賃料噴権は,相続開始の時にさかのぼって,本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして,本件口座の残金を分配すべきである。これによれば,本件保管金は,被上告人が取得すべきものである。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの問,共同相続人の共有に属するものであるから,この聞に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は.追産ーとは別個の財産というべきであって,各共同相続人がその相続分に応じて分割l単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料般権の帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。したがって,相続開始から本件遺産分割l決定が確定するまでの聞に本件各不動産から生じた賃料債権は,被上告人及び上告λらがその相続分に応じて分筈IJ単独債権として取得したものであり,本件口座の残金は,これを前提として清算されるべきである。そうすると,上記と異なる見解に立って本件口座の残金の分配額を算定し.被上告人民本件保管金を取得すべきであると判断して,被上告人の諮求を認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして.本件については,更に審理を尽くさせる必要があるから,本件を原審に差し戻すこととする。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官才口千晴裁判官横尾和子甲斐中辰夫泉徳治島田仁郎)

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