面接交渉申立却下審判に対する抗告事件

第1 事案の概要
1 抗告人(原審申立人。昭和49年×月×日生)と相手方(原審相手方。昭和49年×月×日生)は,平成13年×月x日に婚姻し,平成14年x月×日,長女c(未成年者C)が出生し,平成15年×月×日,二女D(未成年者D)及び三女E (未成年者E)が出生した。その後,抗告人と相手方は不仲になり,平成16年×月から別居している。
2 本件は,抗告人が相手方に対し,相手方が監護している未成年者らとの面接交渉を行う時期,方法などについて審判を求めた事案である。
3 原審は,抗告人が未成年者らと面接交渉をすることで,未成年者らに悪影響を及ぼす可能性があることを理由に,抗告人の申立てをいずれも却下した。そこで,抗告人が本件の抗告をして,ー抗告人が未成年者らと面接交渉をすることを認めること及びその時期,方法などを定めることを求めた。抗告の理由は,別紙抗告理由書に記載のとおりである。
第2 当裁判所の判断
l 当裁判所は,原審判と異なり,抗告人の未成年者らとの面接交渉を主文2項及び3項のとおり認めるのが相当であると判断する。その理由は以下のとおりである。
2 本件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1) 抗告人と相手方は,平成13年x月×日に婚姻し, 3人の子をもうけたが,相手方の実家で相手方の両親と同居していたこともあり,嫁姑間の葛藤などが原因で婚姻当初から不和であった。抗告人と相手方は,平成16年×月に相手方の実家を出てアパートを借りたが,その後も不和は続き,平成16年x月に近隣から抗告人が未成年者らを虐待しているとの通報があったのをきっかけに児童相談所が介入し,抗告人は精神疾患により00病院に約1か月間入院し,相手方は未成年者らを連れて相手方の実家に戻り,それ以降,相手方が相手方の実家において,相手方の両親とともに未成年者らを監護している。
(2) 抗告人は,平成17年×月, x月及び×月に相手方宅を訪れ,未成年者らと対面したが,その際,未成年者らは不安な態度を示し,抗告人は,相手方の説得に応じて短時間で退去した。抗告人は,その後は相手方宅を訪れることを自粛している。
(3) 未成年者らは,出生から平成16年×月に抗告人と相手方が別居するまでの間,主として抗告人に監護されていた。抗告人による未成年者らの監護状況は,抗告人と相手方の不和や抗告人の精神的な不安定さのため,家事が十分に行われず,育児にも行き届かない面があったことが窺われるが,抗告人が未成年者らに身体的な暴力を加えたことはなく,抗告人と相手方が別属した当時に,来成年者らの心身に問題があった事実は認められない。未成年者らの年齢を考慮すると,未成年者らは抗告人と同居していた当時の具体的な記憶を有していないものと考えられる。
(4) 抗告人と相手方の別居後は,未成年者らは,相手方及びその両親による監護の下,保育園に通園しているが,心身の発達に問題はなく,概ね安定した生活状態にある。
(5) 抗告人は,平成17年×月から生活保護を受給している。上記のとおり精神疾患を患っており,平成16年×月の00病院への入院後も数度にわたり同病院に入退院していた。平成19年×月×日,抗告人が飲酒の上, 00病院を訪れたため,警察に保護されるところとなり,抗告人は,これをきっかけに,借りていたアパートの立退きを要求された。抗告人は,住居の確保の必要性もあって,平成19年×月×日からは口口病院に任意で入院し,薬物療法,精神・作業療法等を受けているが,許可を得て外出することは可能である。口口病院の担当医師は,抗告人が未成年者らと会うことで母親としての意識が芽生えることが期待され,未成年者らと会うことが認められない場合,病棟で抑うつの訴えが増すと思われる旨述べている。
(6) 平成19年9月×日, 00家庭裁判所において,抗告人と未成年者らとの面接交渉の試行が,相手方及び抗告人代理人の立会いの下で約50分間行われた。抗告人は,面接交渉の試行前には,緊張感も高まり,自分の感情を統制できるか不安を抱いていたが,実際の面接交渉の場面では大声を出したり,涙を流したりなどの感情的な言動は見られず,行動は抑制的であった。抗告人は,未成年者らの一人一人に関心を向け,身体の接触時にも未成年者らのペースを乱すことなく対応した。抗告人は,事前に説明した留意事項や面接時間等を遵守し,同席した家裁調査官や代理人の指示に素直に従った。未成年者Cは,抗告人が母であるとの認識があり,緊張した様子であったが,抗告人の問いかけにはうなずくなどして反応しており,抗告人が遊びを手伝ったり抱きかかえたりするときにもいやがる態度は見せなかった。未成年者D及び未成年者Eは,やや緊張している様子は見られたものの,抗告人を過度に警戒することなく,自分たちのペースで遊びを継続していた。
3 そこで,面接交渉の可否及びその時期,方法等について検討する。
(1 ) 本件記録及び上記事実経過によれば,①抗告人が相手方及ぴ‘未成年者らと同居していた時期に,未成年者らの監護について不適切な面があったこと,平成17年に抗告人が未成年者らと短時間面接したときに未成年者らが不安な態度を示したことが認められるが,既にその頃から相当期間経過しており,未成年者らが相手方の下で安定した生活をしていることからすると,ぞれらの事情が現在まで未成年者らの情緒面に悪影響を及ぼしているとは考えられないこと,②抗告人は精神疾患で入院中であるが,面接交渉の試行の際には抑制的に撮る舞い,未成年者らのペースを乱すことなく対応し,定められたルールや面接時間を遵守することができたこと,③相手方は,原審においては抗告人との面接交渉によって未成年者らが怯えるなど情緒の安定を害する懸念があることなどから面接交渉には拒否的であったが,当審においては,審問期日,家裁調査官による調査,そして家庭裁判所における試行的面接交渉を経て,試行的面接交渉の終了の時点では,抗告人の抑制的な態度を踏まえて,子どもたちが慣れるまでは回数を少なくするなとaの条件の下で面接交渉を認めるとの意向を示すようになり,面接交渉後の未成年者らの心身について配!置をするつもりであると言明したこと,以上の事実が認められる。そうすると,抗告人が未成年者らと面接交渉をすることによる未成年者らへの具体的な悪影響は考え難く,むしろ,抗告人と未成年者らとの面接交渉は,未成年者らの健全な発達のために有意義であると考えられる上,面接交渉後の未成年者らへの配慮を相手方に期待することもできるから,抗告人と米成年者らとの面接交渉を認めることが相当である。
(2) 他方,抗告人が未成年者らと最後に会ってから2年以上経過し,その後に1回面接交渉の試行が行われたにすぎないこと,相手方には面接交渉につき協力的な姿勢がみられるが抗告人と相手方の聞には十分な信頼関係が形成されているとはいい難いこと,抗告人には精神的に安定していない面があることにかんがみると,当面の面接交渉は,抗告人が未成年者らの成長ぶりを直接見聞するとともに,しばらく途絶えていた母子の接触,交流を回復することを主な目的として実施されるのが相当である。加えて,抗告人の未成年者らとの面接交渉の試行は,相手方及び抗告人代理人の立会い,協力のもとに実現したこと,未成年者ら3名はいずれも就学前であり,その情緒面や健康面に配慮する必要があること,未成年者ら3名の相手を同時にすることは容易ではなく,補助者が必要であることを併せて考慮すれば,面接交渉の頻度及び時間は3か月に1回1時間程度が相当であり,面接交渉の際には相手方の立会いを認める必要がある。また,抗告人には精神的に不安定なところがあることからすると,面接交渉の際に抗告人を適切に支えることのできる第三者の立会いを条件とするのが相当である。当面の第三者としては, 本件調停,審判を追行し,面接交渉の試行にも立ち会った抗告人代理人が相当であるが,将来的には抗告人と相手方の間で協議の上,抗告人のことを理解できる第三者を相手方が指定することが望ましい。なお,抗告人には,面接交渉は未成年者らの福祉のための制度であり,面接交渉に当たっては未成年者らの情緒面や健康面に十分配慮する必要があることや,相手方が抗告人との別居後,仕事をしながら未成年者らの監護を行ってきたものであることを理解し,相手方と未成年者らの安定した養育環境を揺るがすことのないよう,十分に配慮した対応をすることが求められる。他方,相手方には,抗告人と未成年者らの面接交渉は,未成年者らの健全な心身の成長にとって有益であることを理解した上,抗告人との面接交渉に協力することが期待される。
第3 結論よって,原審判は相当ではないからこれを取り消すこととし,当裁判所として審判に代わる裁判をすることが相当であるから,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官安倍嘉人裁判官片山良広後藤健)

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