離婚請求控訴事件,同反訴請求事件

第1
当事者の求めた裁判
1控訴人
(控訴の趣旨)主文同旨(反訴事件の請求の趣旨)離婚請求が認容されたときに予備的に次の附帯処分を求める。被控訴人は,控訴人に対し,財産分与として相当額の金銭を支払う。
2 被控訴人本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。事案の概要本件は,平成14年×月×日に婚姻届出をした夫婦の夫である被控訴人が,妻である控訴人に対し,平成16年×月×日以降別居状態が継続していて,婚姻関係が破綻していると主張して,民法770条1項5号に長男C (平成14年×月×日生)の親権基づき離婚を求めるとともに,親権者を被控訴人と定めることを求めた事案である。控訴人は,婚姻関係は破綻しておらず,婚姻を継続し難い重大な事由はない旨,仮に婚姻関係が破綻していたとしても,被控訴人の母からの様々な干渉と執劫な嫁いびりにより精神的な虐待を受け,被控訴その結果,人に助力,協力を求めても被控訴人がこれに理解を示さず,控訴人は抑うつ状態に一陥って婚姻関係が悪化したものであって,婚姻関係破綻の責任は被控訴人にあり,有責配偶者である被控訴人からの離婚請求は許されない旨を主張して, これを争った。原審は,控訴人と被控訴人との婚姻関係は既に破綻しており,婚姻を継続し難い重大な事由があると認めた上, 別居当時の控訴人の言動はうつ病の強い影響を受けていたところ,控訴人がうつ病となった原因に,被控訴人の母の言動や被控訴人の控訴人に対する配慮不足があることは否定できないが,過剰に「良い嫁,かわいい嫁」を意識した控訴人にも相応の原因があり,婚姻関係の破綻につき,被控訴人に離婚請求が許されないほどの有責性があるとはいえないとして,被控訴人の離婚請求を認容し,長男の親権者を控訴人と定めたところ,控訴人が離婚請求が認容されたことを不服として控訴をした。なお,控訴人は,当審において,離婚が認められたときは予備的に附帯処分として財産分与を求める旨の反訴請求をした。
2 前提となる事実関係,控訴人の主張及び被控訴人の主張は,以下のとおり, 当審における双方の各主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由J欄の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから, これを引用する。(控訴人の当若手における主張)
(1) 控訴人と被控訴人の婚姻関係は,以下のとおり,いまだ破綻していない。ア夫婦は,互いに協力しなければならない義務を負っているのであって,一方が相手を気に入らなければ,相手の協力要請を無視し,婚姻関係を破壊,破綻するに任すことができるような「悪い事をやったもの勝ち」「破綻させたもの勝ち」のような事態は許されるべきではない。被控訴人の婚姻関係修復の意欲が低下しでも,被控訴人には,夫婦不和の原因が何かを解明し,これを理解し,その原因を取り除く努力をすべき義務が依然として残っているのであり,被控訴人が婚姻関係修復の意欲を失ったと軽々に認定することは不当である。控訴人は,被控訴人の母とのあつれきがある中,被控訴人の言動や控訴人を理解しない,受け入れないという不作為により精神的に傷つき,ストレスを増加させていき,うつ病による抑うつ状態と診断される状態になったのであり,控訴人の上記の精神状態や別居の原因は,被控訴人が控訴人の言葉を聞く耳を持たず,控訴人の気持ちを受け入れず,理解しようとしないことにあるのであって,被控訴ムには夫婦問の協力義務に対する違反がある。イ本件における控訴人と被控訴人の対立・不和は,被控訴人の母の言動という外在的要因に基づくものであり,このような外在的要因に夫婦が共同して対処していくことはすべての夫婦に与えられた謀題であり,使命である。控訴人は婚姻関係継続に向けてどんな努力でもすると決意しており,このことからすれば,控訴人と被控訴人の婚姻関係の修復は,あとは今後の控訴人の実際の努力と,被控訴人の心の持ち方知何にかかっている。被控訴人の婚姻関係修復への意欲喪失は, うつ病に対する無理解に由来しているのであり,被控訴人は,その正しい理解を得れば,再び婚姻関係修復への意欲を持つことは十分に可能である。また,配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないときに裁判上の離婚を認める民法770条1項4号との均衡を考えれば,うつ病に催思した直後の控訴人の言動により被控訴人が一旦婚姻関係修復の意欲を失ったことをもって,婚姻を継続し難い重大な事由があると認めるのは相当ではない。被控訴人の母と控訴人とのあつれき及びそれにより控訴人が発症したうつ病は,いずれも婚姻関係破綻の原因とはいえないものであり,本件の当事者夫婦に婚姻を継続し難い重大な事由があるとはいえない。
(2) 仮に婚姻関係が破綻しているとしても,被控訴人からの離婚請求は,以下のとおり,有責配偶者からの離婚請求であって許されるべきではない。原判決は,①被控訴人の母の言動,②それに対する被控訴人の控訴人への配慮の不足,③控訴人が過剰に「良い嫁,かわいい嫁Jを意識したことが,控訴人のうつ病を招いた原因であり,控訴人がうつ病となったことについて被控訴人にのみ責任があるとはいえず,婚姻関係破続につき被控訴人に離婚鵡求が許されないほどの有賀性があるとはいえないと判断しているが,控訴人にとって初めての土地である00県00市で夫の実家の直近に住み,夫の家族以外に頼れる人がいない状況で,姑によく思われたいというのは人として自然な感情であり,それに向けての努力が過剰になってしまうことも理解できるところであるから,上記③の控訴人の態度は責められるべきものではない。仮に,控訴人が過剰に「良い嫁,かわいい嫁」を意識したことに有責性が認められるとしても,その有責性は,上記の被控訴人の母の言動及び被控訴人の控訴人に対する配慮不足に比べれば,とるに足らないほどの小さいものである。一方,被控訴人の母の言動及び被控訴人の配慮不足は,妻への思いやりを欠き,その人絡を悔つけ踏みにじるものであり,結果的に控訴人をうつ病に陥らせるほど深刻なものであった。本件は,姑である被控訴人の母が控訴人に対し嫁いびりをし,その結果夫婦に不和が生じた場合であるから,被控訴人の母の言動す・なわち姑の嫁いびりは,夫である被控訴人の有賀性として評価されるべきである。そして,夫として積極的に家庭内の円満を取り戻すように努力する態度が見られない場合には,夫からの離婚請求は許されるべきではないところ,被控訴人は,控訴人との別居からたった4か月で雛婚鯛停申立てをしていることに見られるとおり,夫として積極的に家庭内の円満を取り戻すよう真鯵に努力していないことが明らかである。(被控訴人の当審における主張)
(1) 控訴人と被控訴人との婚姻関係は,以下の点からも,既に破綻していることが明らかである。ア控訴人は, 00県00市00町所在の居宅(以下「oo市の居宅」という。)に居住して,その近くの被控訴人の実家に居住する被控訴人と別居状態にあったところ,平成19年×月×日,長男と共に, 00市の居宅から控訴人の実家近くである口口県口口市口口所在の居宅に転居している。このように,控訴人も被控訴人との関係を修復することが困難であると考えるに至っている。イ控訴人と被控訴人が別居したのは平成16年×月×日であり,別居までの婚姻期間は約2年4か月であるのに対し,別居期間は平成19年×月×日時点でも3年3か月余りに及んでおり,婚姻後の同居期間より別居期間の方が長い。民法770条1項3号は,配偶者の生死が3年以上不明の場合に離婚を認めているが,本件で別居期間は3年以上に及んでおり,この期間からも離婚原因があるというべきである。ウ婚姻関係破綻の原因は,控訴人にある。平成16年×月に最初に離婚を言い出し別居をしたのは,控訴人であって,被控訴人ではない。控訴人は,離婚話を切り出しただけではなく,弁護士に依頼して慰謝料請求をするなどと言って被控訴人を脅した。被控訴人は,当初,控訴人に対し, 帰ってくるよう求めて話し合いを続けたが,控訴人は,離婚を主張して同居にも応じず,大声で, 自殺するなどと口走り,被控訴人を一方的に非難し続けた。被控訴人は,控訴人に対し,被控訴人の実家に近い00市の居宅とは別のところに家を借りたり,社宅に住むのはどうかという提案もしたが,控訴人は,社宅に住むのは嫌だと述べてこれを拒否し,被控訴人に対し,被控訴人の勤務先00株式会社の仕事を辞め,関東方面で仕事を探して生活できないか,被控訴人の両親と全く縁を切った形で生活できないかなどと無理な要求をした。このようなやり取りを経て,被控訴人は離婚を決意し,婚姻関係が破綻したのであるから,婚姻関係破綻の原因は,専ら控訴人にあり,被控訴人には責任はない。エ控訴人と被控訴人はいずれも昭和52年生まれで,いまだ若く,離婚後の再出発に支障が少ないと考えられる。また,控訴人は,離婚後は,口口県にある控訴人の実家で生活すると述べており,離婚後,母子手当を受給し,被控訴人から長男の養育費が支払われることを考えると,離婚によって生活に困窮するという事情はない。
(2) 被控訴人は,上記(1)ウのとおり,夫婦の協力義務を履行しており,むしろ協力義務を履行しなかったのは控訴人である。したがって,被控訴人が夫婦協力義務に違反している旨の控訴人の主張は理由がない。
(3) 控訴人が主張する被控訴人の母の言動に閲する事実関係は誤っている上,控訴人及び被控訴人は,被控訴人の母と同居していたわけではない。本件は,嫁姑が同居していた事業ではないから,嫁姑問題をことさらに問題とする控訴人の主張は理由がない。控訴人が被控訴人の母の言動に否定的な感情を持ったとしても,それは,専ら控訴人の受け止め方によるものであり,被控訴人あるいは被控訴人の母に特段の帰貫性はない。第3 当裁判所の判断当裁判所は,原判決と異なり,控訴人と被控訴人の婚姻関係はいまだ破綻しておらず,婚姻を継続し難い重大な事由があるとは認められないから,被控訴人の控訴人に対する本訴隊婚請求は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。(中略)
2 (1) 以上認定の事実によれば,被控訴人が平成16年×月×日に離婚調停の申立てをして以来約3年3か月間(当審における口頭弁論終結日まで),控訴人と被控訴人は,別居状態にあり,調停や訴訟の機会を除くとほとんど話し合いの場を持つことができないこと,被控訴人が,婚姻関係を修復する意欲を相当程度失っており,離婚の意思を強くしていることが認められる。
(2) しかし,それにもかかわらず,控訴人は,婚姻関係の修復に強い意欲を有していることは前記認定のとおりである。控訴人は,△△県△△市での当事者夫婦だけを中心とし,被控訴人の母との接触が少なかったころの婚姻生活が円満なものであったことから,今一度,環境を整え,夫婦,親子三人で同じような生活をしたいという強い希望を有していることが窺える。控訴人は,△△市居住当時と現在の生活の逃いをもたらしているのは,主に被控訴人の母の存在であるとの思いを抱き,同人の影響を受けない環境を確保できれば,控訴人及び被控訴人は,かつてのような円満な婚姻関係を取り戻すことができるはずであるとの気持ちが強い。また,控訴人は,被控訴人の職場の所在地が被控訴人の実家に近いことから上記のような環境整備をすることが現実には困難であることも踏まえ,被控訴人の実家近くで生活するとしても,控訴人自身が気持ちを強〈持ち,これまでは彼控訴人の母から言われることは無理難題であっても従ってきたが,これからは被控訴人の母に憎まれることを恐れず,被控訴人の母にも言いたいことを言うなどしてストレスを貯めないようにしたい旨の窓向を示している(乙2,3,原審の被控訴人本人)。そして,控訴人は,△△県△△市に居住していたころの婚姻生活や控訴人の良き理解者であった被控訴人の態度を顧みれば,被控訴人の母の存在が被控訴人の態度や判断に影響を与えており,それを直すことができれば婚姻関係を修復することができるとの考えを抱いている(乙2, 3)。控訴人のこの思いの強さは,被控訴人が離婚調停を申し立てた後の平成17年×月に控訴人自身の実家からあえて00市の居宅へ戻り,控訴人と婚姻関係修復の方向での話し合いの機会を持とうとしたことからも窺える。
(3) 以上のような控訴人の認識については,前記認定のうつ病の影響もあって客観的な事実認識に支障が生じ,被控訴人の母の言動に過剰な反応をしている面があり,客観性を欠くものではないかが懸念される。ただし,控訴人は,現在もうつ病の治療のために通院をし投薬治療やカウンセリングを受けており,控訴人のうつ病は,今後改普,治癒する可能性がある。また,被控訴人は,医師からうつ病を根本的に治すために夫婦カウンセリングを受けることを勧められており,夫である被控訴人も夫婦関係や嫁姑関係等について医師のカウンセリングを受け,控訴人のうつ病についての認識理解を深めることで,控訴人に対する治療効果の増進も期待できるのみならず,これにより,控訴人及び被控訴人双方の嫁姑関係,夫婦関係,親子関係に対する認識の削婚がかなりの程度解消する可能性もある。そもそも,被控訴人と控訴人は,婚姻前の平成12年秋ころから同居し,円満な同棲関係から長男Cの出生を機に婚姻したものであって,相当期間円満な同居生活・婚姻生活を送ってきた夫婦であり,被控訴人は,平成16年×月に控訴人から00市の居宅へ帰りたくない旨を言われるまでは,控訴人との別居や離婚を考えたことはなく,控訴人の言動に離婚や別居を考えるほどの大きな不満は感じてはいなかったものであることを想起する必要がある。被控訴人が控訴人との離婚を考えるようになったのは,平成16年×月に控訴人が帰省先の控訴人の実家から00市の居宅に帰りたくない旨を言い出した後,同年×月に被控訴人が帰宅するよう控訴人を説得するために控訴人の実家に赴き,控訴人と話し合いをしたころであり,被控訴人は, これらの話し合いの中での控訴人の言動に搬気がさしたり不信感を感じるようになって離婚を決意するに至ったものであるが,上記の時期は,控訴人がうつ病に擢思しながら,いまだ治療を受けていないか,あるいは治療が開始したばかりのころであって,上記の時期における控訴人の被控訴人に対する感情的,攻撃的な言動は,うつ病の影響を受けたものでもあったと考えられる。また,控訴人は,治療により平成16年当時よりは症状が軽快しているとはいえ,現在もうつ病の治療中であり,現時点の被控訴人の母との関係等についての事実認識や言動も,うつ病の影響を受けている可能性が少なからず窺える。そうすると,控訴人のうつ病が治癒すれば,控訴人と被控訴人の関係や控訴人と被控訴人の親族との関係も改善し,婚姻関係は円満に修復する可能性もなおあるのではないかと考えられる。
(4) (3)のように修復可能性に期待するには,もちろん被控訴人に無理を強いる面があることは否定し難い。前記のような感情的で反発的な控訴人の態度に,被控訴人が疲れ果て嫌気がさし,控訴人とこの先認識の食い違いを抱えたまま一緒に生活していくことは困難であると考えることは,その心情としては理解できないところではない。ただ,これをそのまま是認するのは,いささか路踏を覚えるのである。というのも,被控訴人は,控訴人からうつ病に擢患している旨を聞かされていながらこの治療に協力したりその治癒を待つことなく,平成16年×月に事実上の別居状態が開始してから4か月程しか経たない同年×月に早くも離婚調停を申し立て,平成17年×月に口口県の控訴人の実家から00市の居宅に戻ってきた控訴人と正面から向き合わずに,同居や婚姻関係の修復を拒絶して,被控訴人の実家で生活をするようになり,同所から歩いてわずか15分の距離にある00市の居宅に居住する長男に会いに行くこともせず,現在まで控訴人らとの交流は避けているのであり,これはいささか感情に流された行動のように思われる。そして,被控訴人が離婚を考える原因となった控訴人の言動は,うつ病の影響を受けたものである可能性があるのであるから,控訴人の治癒を待ち,控訴人の病気の影響を取り除いた状態で,被控訴人に,控訴人及び長男Cとの今後の家族関係,婚姻関係に向き合う機会を持たせることが相当であると考えられる。
(5) 上記の(1)から(4)を総合すると,次のとおりにいラことができる。すなわち,控訴人と被控訴人の交流は平成17年×月ころからほとんどない状態となり,控訴人は,平成19年×月には,長男と共に控訴人の実家近くのマンションに転居するなど,控訴人と被控訴人の婚姻関係は破綻に瀕しているとはいえるが,控訴人は,現在も婚姻関係を修復したいという真訟でそれなりの理由のある気持ちを有していること,控訴人と被控訴人は平成12年秋ごろから平成16年×月までの3年余りの期間同居しており,同居期間中少なくとも被控訴人は,控訴人に対し大きな不満を抱くこともなく円満に婚姻生活を営んでいたのであるから,今後控訴人のうつ病が治癒し,あるいは控訴人の病状についての被控訴人の理解が深まれば,控訴人と被控訴人の婚姻関係が改普することも期待できるところである。以上の諸事情を考慮すれば,控訴人と被控訴人との婚姻関係は,現時点ではいまだ破綻しているとまではいえない。

3 したがって,控訴人と被控訴人との聞には,婚姻関係を継続し難い重大な事由があるとは認められず,被控訴人の本訴請求には理由がない。なお,上記のとおり,本訴の離婚請求は理由がなく,これを認容することはできないから,離婚請求が認容された場合の附帯処分として財産分与の申立てをする控訴人の予備的反訴請求については,判断を要しない。
第4 結論よって,被控訴人の控訴人に対する本訴請求は,理由がないから,これと結論を異にする原判決を取り消し,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官岡光民雄裁判官林道春山下美和子)

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