離婚等本訴、認知無効本訴、損害賠償反訴請求控訴事件

第1
当事者の求めた裁判
1 控訴人A
(1) 原判決中控訴人A敗訴部分を取り持す。(2) 控訴人Aと被控訴人Cとを離婚する。(3) 被控訴人Cは,控訴人Aに対し, 1000万円及びこれに対する平成19年×月×日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(4)ア主位的申立て主文第3項と同旨イ予備的申立て控訴人Aと被控訴人Cの長男B(平成7年×月× 日生)の62・10-68裁判例( 家事)親権者を被控訴人Cと定める。(5) 控訴人Aと被控訴人Cの二男E(平成14年×月× 日生)の親権者を控訴人Aと定める。ー(6) 上記(1)の取消部分に係る被控訴人Cの請求を棄却する。(7) 主文第6項と同旨(8) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 控訴人D(1) 原判決中控訴人D敗訴部分を取り消す。(2) 前項の取消部分に係る被控訴人Cの請求を棄却するo(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人Cの負担とする。
3 被控訴人ら(1) 本件各控訴をいずれも棄却する。(2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第2.事案の概要
l 本件の事案の概要停次のとおりである。
(1) 第1事件は,夫である控訴人Aが,妻である被控訴人Cに対し,民法770条l項1号及び5号に基づく離婚,慰謝料1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年×月×白から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,二男の親権者を控訴人Aと定めーるよう求めた事案である。
(2) 第2事件は,控訴人Aが,戸籍上の長男である被控訴人Bに対し,平成14年×月×日付け届出による認知の無効確認を求めた事案である。なお,控訴人Aは,原審において,被控訴人Bの親権者を被控訴人Cと定めるよう申し立てていたが,当審においては,同申立てを第2事件の芦求が棄却された場合に備えた予備的なーもlDした。
(3) 第3事件は,被控訴人Cが,控訴人A及び控訴人Dに対.し,控訴人らが肉体関係を持ったことが被控訴人Cに対する共同不法行為を構成するとして,連帯して慰謝料3000万円及びこれに対する反訴状送達の日の後の日である平成19年×月×白から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案(第1事件の反訴)である。
(4)ー第4事件は,控訴人Aが被控訴人Bに対して認知の無効確認を求めたことによって,同人を事実上の養子として成人に達するまで養育していく旨の約束に違反したとして,被控訴人Bが,控訴人Aに対し,満12歳から満20歳までの8年間の養育費相当額1920万円(月額20万円)の損害を被ったとして,同額の損害賠償及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成19年×月×日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案(第2事件の反訴)である。
(5) 原審は,控訴人Aが控訴人Dと肉体関係を持った有賀配偶者であるとして第l事件の離婚請求及び損害賠償請求をいずれも棄却し被控訴人Cの控訴人らに対する第3事件の損害賠償請求を連帯して慰謝料500万円及びこれに対する反訴状送達の日の後の日である平成19年×月×日から支払済みまで民法所定の年5分の1lIJ合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した。また,原審は,控訴人Aは, ・自らが被控訴人Bの実父ではないことを認識しながら任意に認知をしたのであるから,被控訴人Cとの婚姻関係が継続する以上,認知の無効確認を求めることはできないとして第2事件の請求を棄却し,被控訴人Bの控訴人Aに対する第4事件の損害賠償請求は,第2事件の請求が棄却されることを解除条件とする予備的な反訴請求であるとして,請求の当否について判断しドかった0.そこで,控訴人らが各自の敗訴部分を不服として控訴を申し立てた。
2 前提事実及び当事者の主張
の要旨は,次のとおり付加訂正し,当審における当事者の主張を3に付加するほかは,原判決「事実及び理.由」中の第2のlないし3(原判決3頁11行目から7頁16行固まで)に記載のとおりであるから,これを引用するov (1) 原判決4頁7行目. 5頁6行自の各「証人FJ. 同5頁7l子自の「同証人」をいずれもrFJに改める。(2) 原判決5頁2行目「周年」を「平成17年」に改める。(3)原判決5頁21行自及び同7頁5行自の各「不貞行為J. 同5頁22行自の「不貞関係」をいずれも「肉体関係」に改める。
3 当審における当事者の主張
(1) 控訴人Aの主張ア離婚請求及び慰謝料請求次のとおり,控訴人Aを有責配偶者で・あると非難することは妥当ではなく,被控訴人Cとの婚姻関係は既に破綻しているのであるから,離婚請求は何ら信義に反するものではなく,認容されるべきである。
(ア) 婚姻関係の破綻時期控訴人Aと被控訴人Cの婚姻関係は,平成17年夏以前の早い段階で破綻していた。写真(乙10. 11)によって,節目節目に家族揃って控訴人Aの自宅(以下rA宅」という。)で祝い事をしたり零族旅行をしたことが認められでも.,円満な夫婦関係が継続していたことまでが証明されるものではない(上記写真は被控訴人Cによって日付等に工作が加えられている疑いが濃厚である。)。また,上記写真には平成18年×月×日の被控訴人Bの誕生日のもの等も含まれるのに,原判決は「少なくとも平成17年夏ころまでは」夫婦関係が円満であったと認定しており,時期の区分の根拠が不明である。そもそも控訴人Aと被控訴人Cは,婚姻後,別居状態が続いていたのであり,その事情が吟味されるべきである。
(イ) 被控訴人Cの不員Fが平成18年×月×日から×日にかけて被控訴人Cの自宅マンション(以下rc宅」という。)に宿泊したことに関する被控訴人Cの説明は,明ちかに不自,然、であり虚偽である。それまで個人的な相談をする間柄ではなかったFに対し. 10年振りに突然相談をすることは通常あり得ないし,当日も大人数で飲食を重ねており個人的な相談をする状況になかった。Fが宿泊した理由も.c宅にいなかったはずの被控訴人Cの母Gが,飲酒運転になるので宿泊を勧めたというものであるし.Fも.c宅やG宅からかなり離れた場所に自動車を駐車させるなど,最初からC宅に宿泊することを前提とする行動をとっ?いた。そして. 10年振りに会ったという男女が深酒をして深夜に男が女の肩を抱いて女の家に宿泊するというのは,通常は男女関係にあるからである(Fは,上記以外にもC宅に宿泊したことがあった。)。また, 甲8 (同年×月に被控訴人Cがピルを飲んでいた旨の会話の録音)及び甲12(被控訴人Cの自動車の位置情報)は.Fとの不貞を甚付けるものである。イ認知無効確認請求控訴人Aが被控訴人Bを認知したのは,被控訴人Cとの円満な夫婦関係を前提-としていたのであり,婚姻関係の破綻を理由に離婚請求が認められるべきである以上,控訴人Aが真実に反する認知の無効を主張することは何ら信義則に反七ない。
(2) 控訴人Dの主張被控訴人Cの異常な性格傾向により,控訴人λとの婚姻関係は,婚姻直後のころより破綻していた(被控訴人Cは,原判決が認定した夫婦の破綻時期より前からFと交際している。)仮にそうではないとしても,両名の別れ話のけんかから,控訴人Dが,控訴人Aに妻子があることを知った平成15年秋ころには,夫婦関係は完全に破綻していた。控訴人Aが温情豊かな大人の男性であることにかんがみれば,クリスマスや子らの誕生日等の節目に子らとの面接交渉を重ねてきたのは当然であtJ.そのことをもって被控訴人Cとの夫婦関係が円満であったと推認することはできなし、。被控訴人Cは,控訴人Aのこのような性格を見透かして子らを利用し,夫婦の関係が円満であるかのように装っていたにすぎないのであり,夫婦関係の認定においては,控訴人Aと披控訴人Cが一度も同居していない事実を等閑視すべきではない。よって,控訴人Dには,賠償貸任はない。
(3) 被控訴人Cの主張控訴人Aと被控訴人Cの婚姻関係が円満であったことは,写真だけではなく. DVDによっても証明されている。平成17年や平成18年にも正月の会や誕生日の会が催されてーおり,控訴人Aと被控訴人Cは,二人の子ともども時聞を作つては交流していた。なお,両者の婚姻関係は現在も完全には破綻していない。控訴人らは,長期にわたって何度もニ人で海外旅行に行くなどして肉体関係を持っていた。他方,被控訴人CがFとの間で不貞行為をしたことを裏付ける的確な証拠はない(なお,甲7は, プライパシーを侵害玄る違法収集証拠として排除されるべきものである。)0Fが被控訴人Cと肩を組んだとしても,酒に酔っていたからにすぎない。また,平成18年×月×自の他にFがC宅に宿泊したのは,被控訴人Cの兄やその友人も来た際のことである・0したがって,有賀配偶者である控訴人Aの離婚請求は認められず,控訴人らは500万円の損害賠償義務を負う。被控訴人Bの主張認知した本人である父が自らの認知の無効確認請求をするのは,民法785条に反するもので,認められない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
(1) 証拠(甲1, 5,7 のし2,甲17のlないし3,乙A2,8ないし10, 11のlないし7,乙A15ないし18,37ないし40,44のlないし乙A45,乙B1,丙1, 3, 4,証人F,控訴人A本人,被控訴人C本人,控訴人D本人〔これらの人証はいずれも原審におけるものである。以下閉じ。))及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。ア控訴人Aと被控訴人Cは,平成10年春ころ被控訴人Cがホステスとして勤務していた00のクラブに控訴人Aが客として訪れたことから出会い, それから半年程したころ,大阪府Oム市にあるA宅で初めて肉体関係を持ち, その後,被控訴人CがA宅をしばしば訪れるようになって交際を深めていった。控訴人Aは,平成12年×月には被控訴人Cと被控訴人Bを連れて遊園地に出かけたり, A宅で被控訴人Bの誕生祝いをしており, また,平成13年×月にはA宅で被控訴人Bを交えて被控訴人Cの誕生祝いをしたことがあった。被控訴人Cは,平成14年×月×日ころ,控訴人Aの子(戸籍上は両者の聞の二男であるE) を懐妊したことに気付いた。控訴人A,被控訴人C及び被控訴人Bは,同月×日ころから周年×月×日ころまで, 000に旅行した。控訴人Aは,平成14年×月×日, 0ム市役所において,被,湾訴人Cとの婚姻及び被控訴人Bを認知する旨の届出をした。この認知の届出は,控訴人Aが,被控訴人Cとの婚姻に伴い,被控訴人Cの子である被控訴人Bを家族の一員として養育していく意思でなされたものであった。控訴人Aは婚姻後もA宅で一人暮らしを続け,被控訴人C及ぴ被控訴人Bは口口のC定で暮らしながら, A宅に通うという生活となった。控訴人Aは,被控訴入Cに対し,毎月の婚姻費用として, 50万円程度を渡すようになった。被控訴人Cは,平成14年×月×日, 二男Eを出産したが,その数日前にはA宅で被控訴人Bの誕生祝いを行った。控訴人D (昭和44年×月×日生)は,平成12年ころ,被控訴人Cが勤務していた00のクラブに入庖し,控訴人A及び被控訴人Cと面識を持つようになった。控訴人Aと控訴人Dは,平成14年×月X日から同月.X日ころまで000に旅行し,その際に肉体関係を持ち,両者の交際が始まった。両者は,平成15年×月,平成16年×月,同年×月,同年×月,平成17年×月及び同年×月にも一緒に海外旅行をLた。控訴人Dは,上記交際中,遅くとも平成J5年秋ころには,控訴人Aには,被控訴人Cという妻があることを明確に認識した。この間,控訴人Aは,平成14年×月にA宅において控訴人A.被控訴人C.被控訴人B及び二男Eの家族4人でクリスマスパーティーをし,平成15年×月×日には被控訴人Cと二人で大阪のムムホテルに宿泊し, 同年×月× 日から同月×日ころまで家族4人で000に旅行し,周年×月×自には’A宅において家族で二男Eの誕生祝いをし,同年×月には家族でクリスマスノfーティーをし,平成16年×月には被控訴人Bの誕生祝いをし,同年×月には被控訴人Cの誕生祝いやクリスマスパーティーをし平成17年×月には家族でム口に泊まりがけで遊びーに行くなどした。ウ被控訴人Cは,平成17年×月ころ,控訴人Aが当時控訴人Dの住んでいたO口のマンションに出入りしていることを知り.両名が交際しているのではないかと疑うようになっナこが,両名が関係を否定したことから確証を得られなかった。ただ,被控訴人Cは,同年×月ころ,控訴人Dの勤務先に複数回電話をかけたり,控訴人Dの自宅マンションを訪問して同人を詰問し,同人が警察官を呼んだこともあった。-控訴人Aは,調査会社に依頼して被控訴人Cの身辺を調査していたところ,平成18年×月×白から×日にかけてFがC宅に宿泊したことを知った。エ控訴人Aは,大阪家庭裁判所に夫婦関係調整調停事件(平成18年(家イ)第xx号)を申し立てたが,平成19年×月×日,同調停は不成立となった。なお,被控訴人Cは,同調停において,調停委員から離婚に応じる場合の条件を尋ねられ,取得を希望する不動産の折り込みチラシを裁判所に持参したほか,養育費とし裁判例( 家事)て9000万円を一括で支払うことを求める旨の回答をした。控訴人Dは,同月中旬ころ, 0臼のマンショシから現住所地のマンションに転居したが,被控訴入Cは,同月×日ころの深夜,控訴人Aが転居先マンションから出てきた現場を押さえ,控訴人Aと誇いになった。このため,控訴人Dは.0ム署の警察官を呼んだ。被控訴人Cは,この誇いの際に控訴人Aから暴行を受けたとしてOム署に被害屈を提出した。控訴人Aは,同年×月×日,被控訴入Cを相手方として大阪地方裁判所平面談強要禁止仮処分命令の申立てをしたが(平成、.19年(ヨ)第xxx号),同月×日,同事件の審等期日において,被控訴人Cが,その代理人弁護士を通じでする以外は,控訴λAに直接接触しないことを約束したため,控訴人Aは同申立てを取り下げた。
(2) 控訴人らは,被控訴人CがFと肉体関係を持った旨主張する。証拠(甲7の1, 2. 甲29. 証人F. 当審証人G,被控訴人C本人)によれば,被控訴人Cが.Fのxxを訪問し平成18年×月×日から×日にかけ.Fと深夜まで飲食を共tごした後.Fの運転する自動車でC宅まで送ってもらい,FをC宅に泊めたこと,上記自動車の駐車場所からC宅へ向かう途中,酪町していたFが被控訴人Cの・肩を抱いたことがあったこと, 上記訪問の何日か後にも.FがC宅を訪問したことがあったことが認められる。これらの状況からすると,控訴人らが,被控訴人CとFに男女関係があると主張することも理解できなくはない。しかしながら,証拠(証人R 当審証人G,被控訴人C本人)によれば,Fと被控訴人Cは.Fの後輩と被控訴人Cの兄が友人であったことから10等以上前からの知人であったこと,平成18年×月×日の深夜に被控訴人CがFを伴って帰宅した際, C 宅には,被控訴人Cから依頼されて被控訴人B及びEの世話をしていたG (被控訴 . 人C の母)がいたことγG は,飲酒により酷前していたFをそのまま帰宅させると飲酒運転をさせることになってしまうためh F に対.Fは子供部屋で,被控訴 してC宅に泊まっ・ ていくよう勧めたこと,人C;G 及び子らは別の和室で別々に就寝したことが認められ,上記認定に反する証拠はなし、。そして,これらの認定事実によれば,Fと被控訴人Cとが深夜まで飲食を共にして, F が被控訴人Cを自その際に被控訴人Cの肩を抱いたという行動があったからといって,直ちに両者が男女関係にあったとまで推認す宅まで送り届け,同日に被控訴人CがFと肉体関係を持つ まして, ることはできず,たことを認めるに足りないというべきである。(平 なお,控訴人Aは,被控訴人C の不貞の証拠として,成18 年×月に被控訴人Cがピんを飲んで=いた旨の会話の録音),甲8甲12 ( 被控訴人Cの自動車の位置情報)を提出するが,いたことや被控訴人Cが自動車でFの自宅付近等を通行したことがピルを飲んで直ちにFとの肉体関係を推認させるものということはできない。ま甲34 ,38 ( 同年×月 ×日に被控訴人CがFO)X X近くの飲食 f こ,居前に自動車を駐車していた写真)も,直ちに被控訴人CとFとが男女交際していたことを推認させるものではなし、。甲7 が違法収集証拠であるから排除される また,被控訴人Cは,べきである旨主張するが,調査会社に依頼して行動を調査することが著しく反社会的な手段であるということはできず,被控訴人Cの上記主張は採用する ことができない。2控訴人Aの離婚請求及び慰謝料請求(第 l 事件)について上記のとおり,被控訴人Cに不貞な行為があったとは認め られな ) – (いから,民法770 条 l 項 l 号に基づく控訴人Aの離婚請求は理由がない。
(2)控訴人Aは,被控訴人Cとの婚姻関係は,被控訴人Cの浪費癖,嫉妬心, 暴力及ひー暴言等によって平成14 年夏前ころには完全に破綻するに至った旨主張し,控訴人A本人も同旨の供述をする。しかしながら,被控訴人Cが控訴人らの男女関係を疑い出した平成17 年×月より前の時点における被控訴人Cの暴力及び暴言等の・事実を認めるに足りる的確な証拠はないし(甲28 も, それ自体から衣服等の損壊時期や損壊布為の主体を示す証拠ではない。) ,上記 lの認定事実によれば,控訴人Aは,平成14 年×月 ×日の婚姻後も被控訴人C ,被控訴人B 及びFと同居したことはなかった. ものの,夫 ・ 父として毎月婚姻費用を50 万円程度負担し,平成17 年 ×月に至るまでの 3 年以上にわたって度々被控訴人Cや子らの誕生祝いや家族旅行等の交流を重ねていたのであるから,実質的な婚姻共同生活が営まれていたというべきである振り返って控訴人Aが被控訴人Cの平成17 年×月より前の過去の(したがって,仮に現時点から言動に不満を有することがあったとしても,婚姻関係を破綻させるほどのものではなかったと評価せ古るを得ない。 ) 。同月以降,被控訴人Cが, そして,上記 l の認定事実によれば,控訴人ちの男女関係について疑いを深めていったことによって被控訴人Cと控訴人Aの婚姻関係が円満を欠く状態になっていったことは明らかであるが,控訴人らの男女関係がそれより 3 年前の平成14年×月から継続していたものであることからすれば,婚姻関係がもっぱら控訴人Dと 上記のように円満を欠く状態になった責任は,の交際をした控訴人Aにあるというべきである。
(3 ) 離婚請求は,信義誠実.の原則に照らしでも容認されうるものでなければならないが,男IJ居が年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び,未成熟子が存在しない場合には,相手方配偶者が離婚により極めて過酷な状態に置かれる等著しく社会正義に反する特段の事情がない限り,有賀配偶者からの離婚請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない(最高裁昭和62年9月2日大法廷判決・民集41巻6号1423頁参照)。これを本件についてみると,控訴人Aと被控訴人Cの婚姻関係は,当初から同居を伴わないものであったものの,平成17年×月ころまでは順調なものであったのであり,その後円満を欠く状態になってから現時点までの期間は4年程度にすぎないし,両者の聞の実子であるEが現在7歳にすぎないことを考慮すると,自ら不貞行為をした控訴人Aが,現時点において被控訴人Cに対して離婚を求めることは,信義誠実の原則に照らして容認されないというべきであり,控訴人Aの民法770条1項5号に基づく離婚請求も理由がなし、。したがって,控訴人Aの離婚請求及び離婚に伴う慰謝料の請求はいずれも理由がなし、。
3 被控訴人Cの慰謝料請求(第3事件)について
(1) 上記1の認定事実のとおり,控訴人らは,平成14年×月以降a少なくとも平成17年×月ころまでの3年近くにわたって男女関係を継続し,控訴人Dにおいても遅くとも平成15年秋ころには,控訴人Aに被控訴人Cという妻があることを知っていたのであるから,その後も控訴人Aとの男女関係を継続したことは,被控訴人Cの婚姻共同生活の平和の維持という権利文は法的保護に値する利益を違法に侵害した共同不法行為を構成するというべきである。
(2) そ.して,上記認定の平成17年×月までの被控訴人Cと控訴人A62・10-80裁判例( 家事)の婚姻関係の状況及びそれより.後の婚姻関係の悪化の状況に,上記判示のとおり控訴人Aからの離婚請求が棄却されるべきものであー弘法律上の婚姻関係は今後も継続していくこと等,本件における一切の事情を考慮すると,上記共同不法行為による被控訴人Cの精神的苦痛に対する慰謝料としては. 150万円をもって相当と認められる。したがって,被控訴人Cは,控訴人らに対し,連帯して慰謝料150万円及びこれに対する反訴状送達の日の後の日である平成19年×月×日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。4 控訴人Aの認知無効確認請求(第2事件)について(1) 前提事実及び上記1の認定事実によれば,控訴人Aと被控訴人Bとの聞には,血縁上の父子関係がないにもかかわらず,控訴人Aは,被控訴人・Cとの婚姻に伴い,同人の子であった被控訴人Bの父として養育する意思で認知をしたということができる。
(2) 上記のような認知(不実認知)の無効を認知者自身が主張することができるかについては,認知者自身による認知の取消しを否定する民法785条との関係で, これを消極に解する見解もあり得るところでtある。しかしながら,認知が,血縁上の父子関係の存在を確認し,その父子関係を法律上の実親子関係にするための制度であり,同法786条が,子その他の利害関係人が,認知に対して反対の事実を主張すること(不実認知の無効確認を求めること)ができる旨規定することからすれば,認知者自身も不実認知の無効を主張することができると解するのが相当である。そして, このことは,上記認知が母との婚姻に伴って子を養育する意思てなされたもので・あり,認知者と81母との法律上の婚姻関係が継続しているといった事情があっても同様で・ある(ただし, このような事情が,認知者が被認知者の母である妻に対して負担するべき婚姻費用の金額の算定において,民法760条の「その他一切の事情」として考慮されるかどうかは別の問題であり,認知者が認知の際に自分の子として養育する意思を有していた以上,婚姻費用の増額事由として考慮されるべきであると解される。)。
(3) したがって,控訴人Aは,被控訴人Bに対し,認知の無効確認請求をすることができる。
5 被控訴人Bの.損害賠償請求(第4事件)について
(1)控訴人Aは,被控訴人Bの損害賠償請求は,本訴である認知無効確認請求の請求原因事実と関連性がなく,不適法であると主張する。しかしながら,上記反訴請求は,本訴である認知無効確認が認容されて控訴人Aと被控訴人Bとの聞の実親子関係が否定されることを請求原因事実としているのであるから,本訴の目的である請求と関連するものであると解するのが相当である。
(2) そこで,上記損害賠償請求が認められるかを検討すると,仮に認知の際に認知者が子として養育していく意思を有していたとしても,本来無効である不実認知について無効確認を求めることが違法な行為ということはできないし,上記判断のとおり,仮に認知が無’効であることが確認されたとしても,婚姻に伴って養育する意思で認知がなされた事実は,認知者が被認知者の母である妻に対して負担するべき婚姻費用(夫婦聞に未成熟子がある場合には当然にその設育費を含むものとして算定される。)を算定する際に増額事由として考慮されるべき場合があると解されるから,認知が無効とされ62・10-82裁判例( 家事)ることによって養育費相当額’の逸失利益が生じるとの主張は採用できない。.
(3) したがって,被控訴人Bの控訴人Aに対する損害賠償請求は理由がなし、。6 結論以上の次第で,第l事件及び第4事件の請求はいずれも棄却すべきであり,第2事件の請求は認容すべきであり,第3事件の請求は控訴人らに対して連帯して慰謝料150万円及びこれに対する反訴状送達の甲の後の日である平成19年×月×日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容するべきである。よって,当裁判所の上記判断と一部異なる原判決を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官安原清議裁判官坂倉充信和田健)・

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