離婚無効確認等請求控訴事件,同附帯控訴事件

第1 当事者の求める裁判
l 控訴人らの控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2)被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は;第1, 2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人の控訴の趣旨に対する答弁
(1) 控訴人らの控訴ぜいずれも棄却する。
(2) 控訴費用は,控訴人らの負担とする。
3 被控訴人の附帯控訴の趣旨
(1) 平成17年×月×日付けで00区長に対する届出によりされた控訴人Aと控訴人Bの婚姻が無効であることを確認する(当審における訴えの追加的選択的請求)。
(2) 附帯控訴費用は,控訴人らの負担とする。
4 控訴人らの附帯控訴の趣旨に対する答弁
(1) 本件附帯控訴による請求の変更に係る訴えを却下する。
(2) 予備的に本件附帯控訴に係る請求を棄却する。第2 事案の概要1 控訴人Aと被控訴人は,平成10年×月×日,婚姻の届出をした夫婦であり,その聞に長女D (平成13年×月×日生,以下「長女」という。)が生まれたところ,控訴人Aが被控訴人に無断で平成16年×月×日付けで00区長に対し,長女の親権者を控訴人Aとする協議離婚屈を提出して受理され,その後,同区長に,平成17年×月× 日付吋で控訴人Bとの婚姻届を提出して受理されたとして,被控訴人が,上記協議離婚(以下「本件雌婚」といい,届出を「本件離婚の届出Jとしみ。)の無効の確認及び控訴人Aと控訴人Bとの婚姻(以下「本件婚姻」としみ。)の取消しを求めた事案である。原判決は,本件離婚の無効を確認し.本件婚姻を取り消したところ,控訴人らが控訴し,被控訴人は,本件婚姻について無効の確認を求める請求を選択的に追加する附帯控訴をした。
2 当事者の主張
(1)被控訴人① 被控訴人は, 控訴人Aと婚姻後,長女をもうけ,控訴人Aの肩書住所地で3人で生活していたが,平成16年5月×日にcx:xコにより救急車で病院に搬送されて約3週間入院した後,中国で00手術を受けることとし.同年5月×自に単身で中国に帰国し,Cわ市内の病院に入院した。②’ところが,被控訴人は,00市内の病院に入院中に,控訴人Aから,病気が治らないのであれば帰ってくるななどと言われたため,平成16年7月×日に日本に戻ったところ.本件離婚の届出がされていたことが判明した。③ 本件離婚の届出は,被控訴人に無断で提出されたものであり,被控訴人には,控訴人Aとの離婚意思及び離婚届の届出意思がないから無効である。また,その後,控訴人らの婚姻届出がなされたが,本件婚姻は,重婚となる。よって.被控訴人は,控訴人Aに対し,本件離婚が無効であることの確認を求めるとともに,控訴人らに対し,本件婚姻について,無効の確認又は取消しを選択的に求める。
(2)控訴人ら① 控訴人Aは,被控訴人が中国に帰りたがり, 日本に戻ってくるか否か分からなかったため,やむなく被控訴人と離婚する旨の合意をした。②仮に被控訴人が控訴人Aと離婚していないと考えているのであれば, 日本に戻った後,控訴人Aのもとに来るはずであるのに,被控訴人は.控訴人Aのもとに戻らないばかりか,保育園から長女を連れ去ったまま居所を明らかにせず,長女の親権を要求している。③被控訴人が長女の親権を要求する目的は,婚姻の維持ではなく.在留資格の保持にあることは明らかであり,本件離婚の届出の前後を通じて婚姻継続の意思がなかったことは明らかである。④ したがって,本件離婚は有効であるから,本件婚姻もまた有効にされたことになる。⑤ 本件婚姻の無効の確認を求める訴えは,過去の法律関係の確認を求めることになるから,確認の利益がない。
第3 当裁判所の判断
1 本件は,下記2(1)のように. 日本国籍を有し, 日本に常居所を有する控訴人Aと,中国籍を有する被控訴人との離婚が成立してし4るかどうかの問題であるから,離婚の成立については,法の適用に関する通則法(以下「通則法」としみ。)27条により(なお,通則法附則2条参照), 日本法が準拠法となる。また,離婚の方式についても,通則法34条により(なお,通則法附則2条参照), 日本法が準拠法となるものである。したがって,以下では, 日本法により,離婚が成立しているかどうかを検討する。
2 証拠(甲1ないし4,甲5の1・2,甲6,7,被控訴人,控訴人A) 及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)被控訴人は中国の国籍を.控訴人Aは日本の国籍をそれぞれ有しているところ,両名は,平成10年×月×日, 日本において婚姻の届出をし,その後,長女が生まれ,控訴人Aの肩書住所地で3人で生活していた。
(2) 被控訴人は,平成16年5月×日に体調を崩し,救急車で病院に搬送された。そして.CわOよ診断され,約3週間入院した。その‘後,被控訴人は,中国で治療を受けることとし,同年5月× 日に単身で中国に帰国し.CD市内の病院に入院した。
(3)控訴人Aは,被控訴人に,手術費用として相当の額の金員を渡していたが.被控訴人の両親から更に多額の費用が必要だなどといわれたことなどから,被控訴人と離.婚 したL、と考丸被控訴人.に は無断で,協議離婚用紙に,長女の親権者を控訴人Aとする旨の記載をした上,被控訴人名義の署名をし,残されていた被控訴人の印鑑を利用してこれに押印して,平成16年×月× 日付けでCD区長にこれを提出した。
(4) なお,中国に帰国する前に.被控訴人と控訴人Aとの問で,離婚の話が出たことはない。
(5)被控訴人は.CD市内の病院に入院中,被控訴人の父から,平成16年6月×日ころに控訴人Aの母が電話で「長女が風邪を引いて保育園を休んでいる。ムム症の母が生んだ子供はいらない。おたくの娘もいらない。J という趣旨の話をしたことを聞かされ,不安になり.控訴人Aに電話をした。ところが,控訴人Aも.電話で「病気が治らないなら, 日本に帰らないでいい。」という発言をしたため,被控訴人は,控訴人Aやその母が被控訴人を追い出そうとしていると考え,同年7月× 日, 急漣.日本に戻った。しかし,控訴人Aとの電話のやりとりから,同居はあきらめて,控訴人Aの下には戻らず,保育園から長女を連れ出し.長女とともに生活している。
(6) 被控訴人は,同年7月半ばころ,控訴人Aからの手紙(甲5の1 . 2) とそこに同封してあった離婚届奮の受理証明書(甲4)から,本件離婚の届出がされたことを知り, その後,自分でも控訴人Aの戸籍謄本で本件離婚を確認した。控訴人Aの手紙には.r受理証明書の日付で正式に離婚が成立したことや,長女の親権が控訴人Aに帰すること,これらのことは被控訴人が望んだことだと思弘被控訴人はお金ばかり要求する,また.被控訴人が家事をしなし、こと.CDに病気があることを知りながら,被控訴人の父が控訴人Aと結婚させたのは.-詐欺であるJといったことが記されている。
(7) 被控訴人は,東京家庭裁判所に本件離婚の届出が無効であるとの確認を求める旨の調停(平成16年(家イ)第xx号)を申し立てたが,平成16年10月×日,当事者間に合意が成立する見込みがないとして不成立となった。
(8) その後,控訴人A及びぜ訴人Bは,平成17年×月×日付けでO0区長に対して本件婚姻の届出をした。
3(1) 以上によれば,控訴人Aが本件離婚の届出用紙を作成し, これを00区長に提出した際,被控訴人には,控訴人Aとの離婚意思はなかったものと認められる。
(2) なお,控訴人Aは,中国にいる被控訴仔電話で話したときに,離婚する旨の合意をしたので,本件離婚の届出用紙に被控訴人の署名をし,被控訴人の印鑑を押印したと供述する。しかしながら,この供述は,以下の点に照らし, 信用し難し、といわなければならない。すなわち.被控訴人が中国に帰国する前の段階では,被控訴人と控訴人Aとの間で離婚の話などは出ていなかったのであるから,控訴人Aの供述どおりだとすると,唐突に離婚の話になったということになるが,被控訴人は,当時Cだわの治療のため中国に戻っている状況にあったのであり,離婚となると生活上の不安もあるはずであるから,被控訴人が突然の離婚の話に電話でのやりとりだけで簡単に応じるということは非常に不自然である。しかも,両者のF聞にはまだ3歳にもならない幼い子供がし、たのであるから,離婚となれば,当然どちらが子供の親権者になって子供を育てるか話し合いがされるのが普通であるが,当時そのような話し合いがされたこともうかがわれないのである。こういった点を考えると,控訴人Aの上記供述は信用し難し、。なお,確かに,被控訴人は,中国からの帰国後控訴人Aの下に戻らず,別々に生活しているが,これは控訴λAとの電話のやりとりから同居することをあきらめた結果であるから,このことから,被控訴人が事前に離婚を承諾していた,あるいは追認したなどということはできないものである。むしろ,本件離婚届出は,控訴人Aが,被控訴人の治療費が更に必要だなどといわれ,病弱の被控訴人に嫌気がさして,被控訴人に無断で離婚届を提出しt~認めるのが相当である(控訴人A の手紙(甲5の1・2,甲6) の内容からも,そのことが十分うかがえるというべきである。)。
4 次に,被控訴人と控訴人Aとの本件離婚が無効であるため,控訴人Aと控訴人Bの婚姻は,重婚ということになる。ところで,既に他に配偶者がし、る者がした婚姻が有効なのか無効なのか,誰がその婚姻の無効を主張し得るかといった問題札、婚姻からどのような効果が生ずるかという婚姻の効力の問題でなく,婚姻の成立に関する問題であるから.’通則法24条(通則法附則2条参照)によって準拠法を判断すべきである。したがって,各当事者の本国法が適用されるところ,控訴人Aの本国法である日本法では,重婚は婚姻取消し事由になる1- (民法744条)のに対し,控訴人Bの本国法である中国法では,当然無効になる(中華人民共和国婚姻法10条)。このような場合,より厳格な効果を認める方の法律を適用すべきであるから,本件婚姻は当然無効になるというべきである。なお,本件で,婚姻無効の確認を求める訴えが不適法であるとする根拠はない(人事訴訟法2条1号参照。)。
5 以上によると本件離婚は無効であるとともに,本件婚姻も無効ということになる。したがって,被控訴人の附帯控訴に基づいて原判決主文2項を主文のとおり変更することとした._また,控訴人らの本件控訴はいずれも理由が沿いので,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。( 裁判長裁判官大坪丘裁判官宇田川基中山直子)

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