間接強制申立事件

1 申立ての実情
本件は,債務者が,大阪家庭裁判所平成16年‘ (家イ)第xxxx号子の監護に関する処分(養育費減額請求)調停事件の執行力ある調停調書に基づき,未成年者c(以下「未成年者」という。)の養育費として.平成17年3月から同人が20歳に達する月まで, 1か月3万円ずっと,同年4月から平成21年4月まで,毎月2万円ずつを,それぞれ支払うべき債務を有しているにもかかわらず,その債務を履行せず,平成17年4月から8月分までの未払金が合計20万円に達しているため,債務者がこれを履行しないときは,債務者は債権者に対し,本決定送達日の翌日から履行済みまで1日につき3000円の割合による金員を支払う旨の決定を求めた事案である。
2 当事者双方の審尋結果を含む一件記録によれば,申立ての実情の他,次の事実が認められる。
(1) 債権者(昭和37年×月xx日生)及び債務者(昭和36年×月xx日生)は,夫婦であったが,平成10年8月17日,母である債権者を未成年者の親権者と定めて離婚し,以後,債権者が未成年者を養育監護している。
(2)債務者は,平成14年11月,現妻Dと再婚し,平成15年×月xx日,長男Eをもうけ.現在. 3人で賃貸マンションで生活している。
(3) 債務者は,平成16年11月29日, 当庁に子の庇護に関する処分(養育費減額詰求)調停事件を申立て,平成17年3月3日.債務者が債権者に対して,未成年者の挺育費として,同年3月から同人が満20歳に達する月まで. 1か月3万円ずつ支払うことなどを内容とした調停が成立した。
(4)債権者は,平成17年6月7日,当庁に同年4月分以降の未成年者の養育費の支払いが遅滞しているとして履行勧告を申し立てたが,自己が経営する会社の経営状態が悪化し,収入が減少していることを理由に支払いには応じなかった。
(5)債権者は,未成年者と共に生活している。未成年者は,現在,高校生である。
(6) 債務者は,現在株式会社○○の代表取締役であるが,同社は平成17年9昂2日,大阪地方裁判所に破産を申し立て,同年9月9・日,破産開始決定を受けた。また,債務者は,本件の審専において,既に債務者個人としても破産を申し立てたと述べている。ffl務者提出の資料によれば.同社の負債は,総計約7000万円以上あり,債務者個人の負債も総計約2400万円以上ある他.同社の連帯保証債務が総額約1720万円あるとのことである。債務者の平成17年分給与所得の源泉徴収票による役員給与の支払金額は192万7925円である(但し,平成17年7月末日まで)。債務者個人の破産申立宮の財産目録制には,現金39万円(口ロ口口生命保険の解約分).預貯金・積立金4358円,賃借保証金・敷金20万円,有価証券1万円の合計60万4358円が債務者の個人財産として記載されている。
(7) 債務者は,本件の審尋において.r前記養育費減額の調停成立後も会社の業績が下がり,破産するに至ったもので,債務者の収入は不安定であり,現段階で一定の金額を支払うことを約束できない。ギリギリの生活をしており,生活費を切り詰められる部分はない。J旨述べた。
3 当裁判所の判断民事執行法167条の15に基づく間接強制の制度は,同法の平成16年改正(f民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律」平成16年i1月26日法律第152号)により創設された規定であるが,その立法趣旨は養育費を含む扶養義務等に係る金銭債躍は権利者の生計の維持に不可欠であり,特に保護の必要が高いことから,その権利の性質にかんがみ,裁判所がこれらの義務の履行をしない債務者に対して,金銭の支払いを命じることで心理的強制を加え,権利実現の円滑化を図ることにある。しかし,間接強制はこれらの義務に基づく金銭の支払いが真に困難である者に対して行われるとその者にとって過酷な事態を招く危険性があることから,同法は,債務者が支払能力を欠くためにその慌矛寿を弁済することができない場合又は弁済をすることによって生活が著しく窮迫する場合には間接強制の決定をすることができないと規定する(同条1項ただし暫)。そこで,債務者の流動資産を基礎として,資力を欠くために弁済できなし、場合及び弁済することで生活が著しく窮迫する場合か否かを検討することになる。本件における審理の過程で明らかになった債務者の収入,資産の状況,生活の現状等によれば,本件債務者には資力がないことが推認され,上記ただし書に規定されている,支払能力を欠くためにその債務を弁済することができない場合文は弁済をすることによって生活が著しく窮迫する場合に当たるから,間接強制を決定することは相当ではない。よって,本件申立てはこれを却下することとし,主文のとおり決定する。なお,養育費の支払義務は非免責債権(破産法253条)であり,債務者が個人として破産,免責決定を受けたとしても養育費の支払義務が免除されるわけではない。また,債権者が直接強制の方法で債務者の所有する財産を差し押える余地は残されている。債務者が未成年者の養育費の支払いを怠っていることは未成年者の生活保持義務者としての自覚を欠くものとして強く責められるべきことであり,債務者は,一部の支払いであったとしてもできるだけ速やかに養育費の支弘いを行うべきであることを付言しておく。(裁判官太田寅彦)

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ