間接強制申立事件

第1 事案の概要
(申立ての趣旨及び債務者の主張の要旨等)
1 本件は,債権者が,①広島高等裁判所岡山支部平成19年(ラ)第○○号子の監護に関する処分(面接交渉)審判の執行力ある決定正本に基づき,債務者は債権者に対し,当事者聞の長女C,二女D,三女E(以上3名を併せて,以下「未成年者ら」という。)を平成20年× 月×日までに面接させること,②債務者が,上記期間内にこれを履行しないときは,債務者は債権者に対し.履行期限の翌日から履行に至るまで1日当たり5万円の支払を求めた事案である。
2 これに対し,債務者は,①未成年者らは,これまで債権者から怒鳴られたことなどから精神的にめいってしまい債権者を怖がり,また,長女C,二女Dと債権者との試行的面接交渉の場面でも,債権者との面接を嫌がり,その後も動揺が見られたとして,未成年者ら自身が債権者と会うことを嫌がり,裁判所外での面接交渉は未成年者らの精神状態を悪化させること,②債権者は.未成年者らの養育貨を支払っていないこと,③債権者は,面接交渉に際して必要な債権者の交通費を債務者側で負担するよう求めるなど不当な要求をしていること,④債権者は,繰り返し,債務者や未成年者らにとって不要な物品であることを認識しながら,それらの物品を債務者宅に着払いで送りつけるなどの嫌がらせをしていることを理由に挙げて,面接交渉を拒否している。
3 現在,債権者は.東京都内に居住し,債務者及び未成年者らは,岡山県口口口市内に同居している。
第2 当裁判所の判断
1 本件記録,関連事件記録(子の監護に関する処分(面接交渉)審判事件(当庁平成18年同第○○号ないし第○○号事件),同事件の即時抗告事件(広島高等裁判所岡山支部平成19年(ラ)第○○号),履行勧告事件(当庁平成20年(家ロ)第○○号),離婚等請求事件(当庁平成18年(家ホ)第○○号,岡本件の控訴審(広島高等裁判所岡山支部平成19年同第○○号,同事件の上告審(最高裁判所平成20年同第○○号))及び審尋の結果(書面によるもの)によれば,以下の事実が認められる。
(1) 債権者と債務者は,平成11年×月×日に婚姻の届出をし,二人の聞には未成年者c(平成11年×月× 日生),未成年者D (平成13年×月× 日生)及び未成年者E(平成17年× 月×日生)がいる。
(2)債務者は,平成18年離婚調停を申し立てたが,同年×月× 日不成立となり,同年×月× 日当庁に離婚等を.求める訴訟を提起し,当庁は,平成19年×月× 日,未成年者らの親権者を債務者と定め,離婚する旨等の判決をし,債権者において控訴したが.広島高等裁判所岡山支部は, 同年× 月×日,離婚と親権者の部分については控訴棄却の判決をし.同判決は,平成20年×月×日,最高裁判所の上告棄却決定により,同日確定した。
(3) 債権者は,平成18年×月×日当庁に面接交渉を求める審判を申し立て,その後,同審判は調停に付されたが,その調停は,平成19年×月×日に不成立となった。そして,当庁は,平成19年×月×日,債権者と未成年者らとの面接交渉に関して,要旨,①回数について,毎月1回,②日時について,毎月第1日隔日の午前10時から午後2時までとする(ただし,未成年者らの急病等で,上記日時に面接交渉できない場合は,翌週の日曜日に実施するものとする。).③方法について,面接交渉の開始時に,債務者の住所地又は債務者が指定する場所において,未成年者らを債務者から債権者に号|き渡し,面接交渉の終了時に,債務者の住所地文は債務者が指定した場所において,未成年者らを債権者から債務者へ引き渡す,といった事項を定めて面接交渉を認める旨の審判をした(以下「第一次審判」という。)。
(4) 債務者は,第一次審判に対し即時抗告の申立てをしたが,広島高等裁判所岡山支部は,平成20年×月×日,第一次審判の内容の一部を変更したものの,債務者が債権者に対し,別紙面接実施要領のとおり(以下「本件要領」という。).未成年者らを債権者と面接させる義務があることを定めるとともに,債権者及び債務者は,本件要領を遊守し,本件要領を履行せよとの決定をした(以下「第二次決定」という。また,第二次決定は,間決定後,債務者が任意に面接交渉に応じない場tぎには,これまでの経緯に照らして,まず家庭裁判所の履行勧告手続の中で,更に面接交渉に関する調整活動を実施することが適当である旨勧告している。)。
(5) 債権者は,平成20年×月×日付けで,債務者に対し,同年×月中の期間の中で,債権者と未成年者らを面接させる日時,場所を指定するよう求めたが,債務者は弁護士を通じてこれを拒否する姿勢を示した。その後,当庁は,家庭裁判所調査官を通じて,債務者に対して本件要領に従って債権者を未成年者らに面接させる旨の履行勧告を行ったが(当庁平成20年(家ロ)第(x)号).債務者がこれに応じる姿勢を見せず,同履行勧告事件は平成20年×月×日に終了した。そして,現在に至るまで,本件要領に基づく債権者と未成年者らとの面接交渉は実施されていない。
2 検討
(1) 第二次決定は,上記のとおり,面接交渉の権利者,義務者,子,面接交渉の時期及び一定期間内における面接交渉を行うべき回数(頻度)のみならず,面接交渉の場所. 1回あたりの面接交渉の時間(開始時刻及び終了時刻).面接日時場所の指定,面接交渉(号|渡し)の方法,第三者の立会いなど債権者の面接交渉権についての内容を具体的に特定して定めたものであるから,面接交渉義務を負う債務者が,面接交渉義務を履行しない場合には,債務者に対し,間接強制として,その義務の履行を確保するために相当と認める額の金銭を債権者に支払うべき旨を命じることができる。
(2) この点,債務者は,上記のとおり,要旨,①未成年者ら自身が,債権者を怖がり,試行的面接交渉の場で見られたように債権者との接触を拒否しており,裁判所外で面接交渉を行うことは未成年者らの情操に悪影響を及ぼすこと,②債権者は,未成年者らの袈育費を支払わないこと,③債権者は,面接交渉の為の交通費の負担を債務者に求めるなど不当な要求をしていること,④債権者は,債務者宅へ,着払いで債務者らが不要な物品を送りつけるなどの嫌がらせをしていることを理由に挙げて,面接交渉を拒否している。しかし.家庭裁判所調査官の調査も含む審理を経た結果,本件要領が審判事項として決定され,その内容は,上記のとおり面接交渉実施に関して必要かつ重要な事項が特定されており.債務者としては.本件要領に従って未成年者らを債権者に面接させる債務を負っているのだから,債務者が面接交渉を拒否することにつき正当な理由として挙げる事情は,請求異議の事由として主張し得るにとどまるし,第二次決定後に生じた新たな事情によって面接交渉を行うことが子の福祉を害することになったなどという理由も.事情変更による面接交渉禁止文は内容の変更を求める調停,審判の中で,その具体的事情を明らかにして主張すべきものである。そうすると,本件において,債務者が本件要領に従って債権者と未成年者らを面接させない場合には,間接強制として債務者に一定の金銭給付を求めること自体は許されるというべきである。
(3) 次に債務の不履行に際して債務者が支払うべき金額について検討する。この点,本件要領の面接交渉の回数が3か月に1回と比較的少ない頻度であり. 1回あたりの面接交渉の時間も2時間30分と決して長時間とはし、えないこと,その場所も債務者及び未成年者らの居住地である岡山県口口口市からそう遠く離れていない同県△△△市内及びその周辺とされていること,面接日時場所の指定や引渡しの方法については債務者が前もって決定することができ,かつ,債務者が指定した第三者の立会いが可能とされるなど,その内容は,面接交渉によって未成年者らの情操に悪影響を与えないよう,かつ,面接交渉に際しての債務者,未成年者らの時間的.経済的負担が過重にならないように配慮されると同時に面接交渉の方法についても債務者側の意向を反映できるものであるといえる。それにもかかわらず,債務者は,これまで面接交渉を拒否し続けており,このような債務者側の姿勢に照らすと,債務者が今後,任意に面接交渉義務を履行する可能性が高いとはいえないし,このような債務者側の拒否的な姿勢は.履行確保のために必要な金額の算定にあたって軽視することはできない事情の一つとして考えられる。しかしながら,第二次決定が,債権者が未成年者らの一部との試行的面接交渉の場面では.未成年者らの年齢や親子の関係を度外視したいわば形式的対当を主張するなど,債務者との従来の協議においても,対当の名の下に自己の主’張に沿った結論を正当化しているのではないかと窺われる面がある旨摘示するように,このような債権者の態度弘債務者側の事情を相当程度配慮したうえで本件要領が慎重に定められた主な要因のーっといえる。そして,養育費の支払と面接交渉の実施は直ちに対価関係に立たないが,現段階,債権者が債務者に対して,未成年者らの護育費等の名目で定期的な経済的給付を行っているような事実は認められず,逆に,債務者や未成年者らにとって,必要とは言い難い物品までを着払いで債務者方に送りつけて,債務者に経済的負担をかけていることすら窺われる。そうすると,本件で・面接交渉が実現していないことについては,債務者の拒否的な姿勢のみならず,債権者側の上記のような態度にも起因するところがあるといわざるを得ない。以上によれば,不履行の場合の金銭支払額は,債務者の拒否的な姿勢のみを重視するのではなく,債務者の現在置かれている経済的状況や一回あたりの面接交渉が不履行の場合に債権者に生じると予測される交通費等の経済的損失などを中心に算定するのが相当である。この点,一件記録によれば,債務者は未成年者らの年齢が幼少期から学宜期にあることなどから.就労することができず,その生活費の多くを児童扶養手当等の公的な扶助や親族からの援助等から賄っている状況にある。また,面接交渉を行う際に債権者が負担すべき一回当たりの費用(なお,本件要領によれば,面接交渉は,東京都内に居住する債権者が債務者及び未成年者らが居住する岡山県口口口市からそう遠く離れていない岡県△△△市内及びその周辺まで移動して行うとされ,それに伴う交通費等の諸費用の負担について特別の定めがない以上,その諸費用は債権者側において当然負担すべきものである。)のうち,交通費(新幹線代・高速パス代)は往復三,四万円であることが認められる。そして,上記諸事情を総合考慮すれば,不履行1回につき, 5万円の限度で定めるのが相当である。
(4) 以上によれば,本件間接強制の申立ては, これを認谷し,本決定の告知を受けた日以後に期日が到来する面接交渉義務につき,その履行を確保するために相当な金額の支払を債務者に命じるべく.その金額は,不履行1固につき, 5万円と定めるのが相当と認め,主文のとおり決定する。(裁判官角田康洋)

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