遺留分減殺請求事件

上告代理人0000ほかの上告受理申立て理由第2について
l 本件は.被上告人が,亡Aがその遺産の多くを上告人に相続させる旨の遺言をしたことにより.Aの養子である被上告人の遺留分が侵害されたと主張して.上告人に対し民法1041粂l項に基づく価額の弁償及び遅延損害金の支払を求める事案である。
2 原審の適誌に確定した事実関係の概要は.次のとおりである。
(1) Aは,大正6年9月17日.Bとの聞で.同人を養親とする養子縁組をし同人が戸主である家(以下iB家Jという。) に入か大正8年6月8日.同人の死亡によりその家督を相続した。
(2) 被上告人は.昭和14年8月30日実姉であるAとの聞で同人を養親とする養子縁組をした。
(3) Aは,同年11月2日隠居した上.同月29日.Cと婚姻してB家を去った。
(4) Aは,平成10年11月17日長男である上告人にAの遺産の多くを相続させることなどを内容とする公正証住造言をした。
(5) Aは.平成15年5月24日死亡した。
(6)被上告人は,平成16年5月13日,上告人に対し遺留分減殺の意思表示をした。
3 原審は.上記事実関係の下において.被上告人がAの盛子であることを前提として被上告への上記意思表示による遺留分減殺の効果を認め,被上告人の請求を一部認容した。
4 しかしながら.原審の上記判断は是認することができない。その迎由は.次のとおりである。.昭和22年法律第222号による改正前の民法730粂2項は.i養親カ養家ヲ去リタルトキハ其者…ト聾子トノ親抜関係ハ之二国リテ止ムjと定めるところ.養親自身が婚姻又は養子縁組によってその家に入った者である場・合に.その養親が養家を去ったときは. この規定の定める場合に該当すると解すべきである(最高裁昭和42年(オ)第203号同43年7月16日第三小法廷判決・裁判集民事91号721頁参照)。前記事実関係によれば.Aは.Bとの養子縁組によりB家に入った者であって,被上告人と養子縁組をした後.Cと婚姻してB家を去ったというのであり.Aの去家により. 同項に基づき.Aと被上告人との養親子関係は消滅したものというべきである。
5以上と異なり,被上告人がAの養子であるととを前提として被上告人の前記意思表示による遺留分減殺の効果を認めた原審の判断には.判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。 論旨は理由があり,以上説示したとこ 原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして.ろによれば.被上告人の請求を棄却した第 l 審判決は結論において正当上記部分につき.被上告人の控訴を棄却すべきである。裁判官全員一致の意見で,であるから主文のとおり判決する。(裁判長 よって.竹内行夫) 古田佑紀 中川了滋 裁判官 功 今井 裁判官

上告人の上告受理申立て理由
(中略)
第 2 原審が法定相続人でない者に遺留沿を認めた点について
1原判決の判示内容
原判決は,本件の被相続人たる亡Aと遺留分請求者である相手方とl の相続関係について,相手方が亡Aの法定相続人である こと を前提に「控訴人(相手方) の亡Aに対する相続権は,戦後の相続法の改正によっこれを軽々に否定 民法が認める効果であって,する ことができない。 Jと述べる。て生じたものであり,この判断は.相手方を亡Aの法定相続人として相続権をそしかし認めている点で旧民法730 条 2 項の解釈適用を誤ったものであり .の点で,法令の解釈にl 刻する重要な事項について誤りがある。その理由を以下に述べる。旧民法(明治民法)の養子制度の概要申立人の主張) – ( 2 「家」は,戸主と家. 族から構成されに記載され,同じ「家Jに属するか否かは,その「家Jの戸籍に記載されているか否かにより定まつ手。当時の戸籍は.r 家Jの構成員は現在のように二世代に限られず.r 家Jの構成員すべてがひと戸主を中心とした 「 家J制度のひとつの家はひとつの戸籍旧民法の親族・相続法の目的は,維持で、あった。.つの戸籍に記載され,制度的に「家Jと戸籍は完全に一致していた。そして 「家」の中心的存戸である戸主には. r 家」の統宇者として戸主権が与えられ.家族に対する扶養の義務を負担するとともに,家族の婚姻・養子縁組に対する同意権や家族の居所指定権を有し.戸主の同意なしに居所を定めた家族や婚姻 ・ 養子縁組をした家族に「家」の戸籍から離籍させることすらできる権限を有し 対してはていた。この戸主の地位は家督相続により承継され. そじて. これによっ家の再興等て「家」が存続することが予定されていた。一旦戸主となった者は,本家を継承するとか. また.もとの 「 家Jを離脱して家を廃する ( 元 の正当な理由がなければの家すなわち戸籍を消滅させる) ことは許されていなかった(ただし戸主が自分で家を興した場合は別。 ) 。戸主が結婚のために他家に入ることも許されず,家督相続人がいない場合は養子をとるな戸主の地位を譲るために裁判所 どして家督相続人を定めたうえで,の許可を得て隠居しなければできなかったのである。このように旧民法は. r 家Jの存続を至上命題としており,これに資するためのもの‘であった。当然,法定の推定家督相続人である男子がある者は,男子を養子とするこたとえば,①他家の家督承継者を奪うことを防止する趣旨から.養子縁組制度は,とは禁止され, ・②家の存続を容易にす7るため遺言による養子縁組を可能にしていた。また.このような家制度のもとでは,異なる家に所属している者の間で養親子関係が成立あるいは存続することはなく, 家を異にした場合は.当然に養親子関係は消滅するものとされていた。この点は改正後民法が家制度を廃止して.夫婦とその間の子という新しい家族関係を前提とした統しい養子制度理念とは,基本的に制度目的を異にするのである。
(2) 旧民法730条2項の内容及び立法趣旨!日民法730粂2項は,「養親が養家を去りたるときは其の者及び其実方の血族と養子との親族関係は之に因りて止むJ. 同3項は.r養子の配偶者,直系卑属又は其の配偶者が養子の離縁に因りて之と共に養家を去りたるときは其の者と差養E親及び之に因りて止む」と規定している。ここで「養家を去りたる」とはー養家の戸籍から離れることであり, これを「去家Jという。参考のためにまず第3項を説明すると. 離縁しでも.養子の配偶者.直系卑属またはその配偶者が,当該養子に追随して養家を去る場合(随伴去家という)は. それら去家する者と養親お£びそのi血族との親族関係も消滅するという意味である。旧民法では.いったん養子にともなつで「家Jの構成員となった場合は,その者を保護する見地から, 原則としてその意思に反して「家Jの構成員たる地位を奪われることはなく, 養子に従って去家するのた養子と雌婚するなどして「家Jにとどまるのかを選択することができる。しかし養子の配偶者.直系卑属またはその配偶者が,養子とも|姐伴去家して.他家に帰属することを選択した場合は,養家どの親族関係は全て終了することになっていたのである。これもまさに旧民法の家制度の現れであってきには説明できない規定である占当時の家制度を抜そしてその養親及び養親の実方の血族と養子との親族関係は終了すると規定されている。2項では養親が婚姻等により養家を離脱した場合,同条2項は,養親子関係は,あくまで「家」存続のための制修であるから養親の養家からの離脱の場合に闘から離れて会親子関係を継続させる意味がないために養親及びその実方の血族と養子との親族関係を終了させる趣旨である。これもまさに家制度を象蝕する規定である。
(3)本件の事実経過
本件に関連する嬰実経過の概略は次のとおりである。
大正6年×月×日A (生後約6カ月).Bと養子縁組。実父母たるD’Eが代諾。A. B姓に。
同年9月17日同年11月2日A出生。
大正8年6月8日B死亡。A (2歳)がB家を家督相続。
昭和4年×月×日F出生。(Aの妹,本件相手方
昭和14年8月30日)F (9歳).実姉であるA (22歳)と養子縁組。(本件養子縁組〉実父母たるD’Eが代諾。F B姓』こ。
同年11 月29 日A婚姻のため隠居届出。F がB 家を家督相続。Cと結婚。 A. C 姓に。B 家から離籍。これにより .旧民法によりAとF の相続関係を金皇盟韮関係が消滅。
Gと結婚。G 姓に。F. 今 昭和28 年×月×日A. 00 発症。
平成 9 年×月×日 C 死亡。平成 9年
平成15 年5月24 日A死亡。
旧民法730 条2 項の本件への適用
(4 ) 本件養子縁組の養親たる亡Aは.昭和14 年11 月29 日この事実は.r 養親が養家を去りたるときJ(旧民B 家の戸籍から に亡C と結婚しC の戸籍に入籍することによって除籍されており.したカf って,法730 粂2 項)に該当する。亡Aと養子たる相手方との養親子関係は,昭和 その効果として,14 年11 月29 日に消滅した。民法の改正による本件への影響
( 5 ) 亡Aの去家に この旧民法の去家による養親子関係消滅の効果は,ょっτ 確定的に生じた効果であって, 昭和23 年の民法「親族編J.r 相続編Jの改正によって養親子関係が復活する ものでもない。なぜなら.車rr 法令施行前に生じた事由により旧法令が適用されるその後に成立施行された新法令を適用することは,法律秩序 のにを混乱させ.社会生活を著しく不安定にすることから厳に禁止されそし-hH4 4 時世 -TJ , q 勾『dMU 々 人 み HC づ 基 れ そそのようにj 押さなければ,当時の家制度のもと. ている。また.れなりに首尾一貫した法制度が確立し過去ピ消滅した養親子 ていたにもかかわらず.民法の改正により . 関係が突如として復活することになってしまうからである。本件についていえば,そもそも家制度を前提として.戸主である亡Aが結婚してC 家に入ろうとすれば隠居するほかなく. そのためべき者を定め7 その承認を得る必要があった ( 1 日法75 4 条 l 項 753 条)。 その場合には,家督相続人候補者と養子縁組をするのが当然には,法定の家督相続人がいない場合はあらかじめ家督相続人たるの前ゃあり 本件もそのようなスキームにしたがい 養子縁組をして隠居することによって.B 家に新たなる戸主を得て 家督が相亡AがB家を去ったことによって養親子関係は存続の意味がなく当然に消滅したのである。これは主に亡Aと相手方の両.親が主導して行ったものではあるが,亡Aらの両親も明治民法の法制下でその概要は認識して行動し当時の民法にしたが:っ 亡Aが結婚すればその時点で相手方との護親子関係が消滅することを認識してい て,たはずであか亡Aの嫁ぎ先であるC 家の財産について相手方が相続上の権利主張をすることなとe 予想だにしなかったはずである。ま続されたが故に.亡Aカ沼家から去ったのである。そして.ていたのであるから本刊二縁組があくまでB家の存続のために その認識及び期待はなされたものであり.亡Aと相手方を親子とすることは意図していた.なかったこ・ ととも一致すぶものである。現行の家族法は,戦後.アメリカの占領政策と新憲法の成立によって,新しい家族制度の導入が必要であったため制定されたものであるが・現行家族法は,旧民法と同一性をもった法律であり・特別に旧民法の適用を排除し現行民法を遡友 して適用するなどの特別の経過措置規定がない限ι過去に一度発生した旧民法の効力を否定

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