遺産分割審判等に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件

1 抗告代理人○○○○、同○○○○の抗告理由第1について
本件記録によれば,即時抗告の相手方である抗告人(原審における相手方。以下,単に「抗告人」とし、う。)は,即時抗告審における事件の追行を弁護士に委任するなど,即時抗告があったことを既に知っていたことがうかがわれる上,即時抗告の抗告状に記載された抗告理由も抽象的なものにとどまり,上記抗告状には抗告人に攻撃防御の機会を与えることを必要とする事項は記載されていなかったものというべきであるから,上記抗告状の副本の送達又はその写しの送付がなかったことによって抗告人が攻撃防御の機会を逸し,その結果として十分な審理が尽くされなかったとまではいえない。論旨は,結局採用することができない。
2 その余の抗告理由について所論の点に関する原審の判断は.正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
3 よって,前記1の点につき,裁判官那須弘平の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。裁判官那須弘平の反対意見は,次のとおりである。私は,最高裁平成19年(ク)第1128号同20年5月8日第三小法廷決定・裁判集民事228号1頁の中の反対意見において述べたとおり,家事審判規則,家事審判法及び非訟11J件手続法に基づく手続にも態法32条の理念が及ぶ場合があり,少なくとも,争訟性の強い乙類審判手続については,憲法32条の趣旨に照らし,即時抗告により不利益変更を受ける即時抗告の相手方に対して反論の機会を与えるために即時抗告の抗告状等の送達ないし送付をする必要があると解するのが相当と考えるものである。本件では原審において即時抗告の抗告状の送達も送付もないままに即時抗告の相手方である抗告人に不利益に変更がなされたというのであるから,原審の手続には裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があり,原決定が維持されるようなことがあれば,憲法32条違反の疑念が生ずることになるものといわざるを得ない。そして,原審の手続の法令違反が上記のとおり憲法32条の趣旨に反する極めて重大なものであることにかんがみると,抗告人が即時抗告があったことを既に知っていたことや,上記抗告状に記載された抗告理由が抽象的なものにとどまることなど,多数意見の指摘するような事情があるとしても,それだけでは即時抗告により不利益変更を受ける抗告人に対して反論の機会を与えるために即時抗告の抗告状等の送達ないし送付をする必要がなかったということはできないというべきである。原決定はその手続に裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるものとして破棄を免れず.抗告人の代償金の支払能力等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当であると考える。( 裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀簡幸男那須弘平田原陸夫近藤崇晴)

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ