遺産分割審判に対する即時抗告事件

抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨は,原審判を取り消し,被相続人の遺産を適正な方法で分官Fする旨の裁判を求めるというものであり,抗告の理由の要旨は以下のとおりである。
(1) 原審判は, αコ生命保険相互会社の生命保険(契約者は彼相続人。)①保険金額5000万円(証券番号xxx一xxxx一xxxx。平成7年8月8日に受取人がDから抗告人に変更。抗告人が5007万6582円を受領。)②保険金惣5000万円(証券番号x0x 0 x 0 x – 0x 0 x 0平成5年12月15日に受取人をDか.ら苧告人に変更。抗告人が5122万3498円を受領。)及び③生命保険(ムムムム。平成5年四月20日.411万6650円を支払って契約(被保険者・被相続人・,受取λ・被相続人)。保険期間5年。満期保険金500万円。平成8年5月22日,契約者,受取人を抗告人に変更し,同年11月14日,死亡保険金受取人をEと変更。相続開始時の解約返戻金は449万4500円で源泉徴収税を控除した残額は441万8931円.である。) をいずれも抗告人の特別受益と認め,持ち戻し免除の意思表示を認めなかったが,以下めとおり不当である。(2) 死亡保町金請求権は,受取人が固有に取得するものであって,贈与や贈与に類似するものではなく.CXコ生命保険①,②は抗告人が固有の権利により保険金を受領したものである。また,受取人を変更する行為が民法903条に定める贈与又は巡目白に該当し私いことも明らかである。そして,仮に,特別受益に当たるとしても,被相続人の妻Dは平成7年7月11日に死亡しており,被相続人は.00生命保険②はそのl年7か月前に受取人を抗告人に変更し.同①はDの死亡の1か月後に,相手方が相続人として受取人になることを嫌って,受取人を抗・告人と変更したものであり,抗告人に被相続人夫婦や被相続人の老後の世話を委せようと考えてなされたものであり,持ち戻じ免除の意思表示があったと考えるのが自然である。cxコ生命保険③は,被相続人の希望により,抗告人が被相続みから買い取ったものであり,特別受益となるものではない。
(3) 相手方は, αχわ大学に入学し,卒業後も被相続人から費用負担イ|を受け,平成8年に35歳で医師免許を取得した。そのために要した以下の費用合計6784万7413円は,被相続λ計の資本とする趣旨で負担したことが明らかであるから,相手方の特別受益である。(ア) 高校留年期間1年間の生活費(月額6万円) 72万円予倣の授業料(研数学館) 3年分断円|予備校3年間の生活費400万3200円. I大学受験料(3年間) 64万3200円卒業時の教授への謝礼. 200万円付) 大学通学等の費用5年分の授業料,国家試験受験料1120万円生活費の援助2154万2800円国家試験予備校授業料410万円国家試験資料費60万円(ウ) 自家用車2台402万3000円上記車両の相続開始時までの維持費等599万7315円マンションの賃料(1年) 430万円ガレージ工事費,部匿改装費100万円同遺産である借地の借地料平成9年8月分から平成13年11月分190万5748円同社団法人CD区医師会からの弔慰金120万円中小企業小規模共済金259万5000円(カ) 平成8年の準確定申告による還付請求権9万7150円イしかるに,原審判が裁量により3000万円を相手方の特別受益と認定したのは不当であり,相手方の怠惰により被相続人が上記負担を強いられたものであるから,全額を特別受益と認めるべきである。
(4) また,原審判の認定によっても,相手方の特別受益は3379万円であ’り(上記3000万円に社団法人Cわ区医師会からの弔慰金120万円及び中小企業小規模共済金259万円を加えたもの。).みなし相続財産は2億4462万円に鑑定費用を加えた金額となる。
2 抗告の理由についての相手方の反論
(1) 生命保険金が特別受益となるか否かは,相続人聞の公平を図るか否かにあり.CXコ生命保険①ないし③は,受け取った保険金額や受取人変更の経緯等に照らし,これに該当することが明らかである。
(2) また.抗告人はCD生命保険②の受取人変更が被控訴人夫婦の老後介護を抗告人にしてもらうためであったと主張するが.被相続人がそのように依頼したことに沿う証拠ばなく,当時.Dが入退院を繰り返し肝硬変に伴う肝性脳症(意識障害)をきたし,受取人を変更する必要があったためにすぎない。
(3) 原審判が相手方の特別受益と認めたものも,実際の評価は次のとおりであり,その合計額ほ1447万円であり,原審判が特別受益を3000万円としたことは高額にすぎる。予備校の費用30万円一大学受験料27万円大学授業料等850万円大学5年の生活費360万円国家試験関連費180万円
3 当裁判所の判断
(1) 当裁判所弘被相続人の遺産は相手方が取得し,抗告人に以下に認定する代償金を支払うのが相当であると判断する。
(2) 相続の開始,法定相続人,法定相続分及び本件で分割すべき遺産の範囲については,次のとおり抗告理由に対する判断を付加するほか,原審判理由説示(第3の1, 2) に記載のとおりである(ただし.「別紙遺産目録」とあるのをすべて「原審判別紙遺産目録Jと改める。)から,これを引用する。抗告人は,原審判が預金額を79万円としたことにつき,鑑定費用分を加えるべきであると主張する。しかし,抗告人は,遺産である建物及び借地権の価格につき鑑定を申し立てたが,費用質担を望まず,原審第6回審判期日において,鑑定費用につき預金の取り崩しにより負担するか,相手方と半額ずつを負担することを希望し.第7回期日においては預金の取り崩し等遺産により負担することを希望し,相手方が,上記希望につき検討し,第8回期日においてこれに同意したものである。そして,第4回期日において迫産として分割対象とすることを確認していた4口の預金のうち,口口口口銀行ムム支庖(現口O口。銀行)の預金から払い戻して必要額を予納金に充て,これが鑑定費用として支出されたものであり,そのことについて当事者双方代理人が合意書(乙29)を作成した。そして,当事者双方は,第22回期日において,上記預金の残高が相続開始時及び遺産分割時において15万7912円であることを確認している。そうすると第4 回~び第22回審判期日において確認された預金額が79万円(1万円未満端数切り捨て)であり,これが分割対象となる預金であることが明らかである。また,抗告人は,原審判別紙遺産目録4記載の口ム海上の長期総合保険(火災保険)につき,満期金450万円と評価すべきであると主張するようであるが,原審において,当事者双方がこの保険契約上の地位をどのように扱うかにつき検討を求められ,第21回審判期日において,平成14年10月当時の解約返戻金額が91万5510円であること(乙41) を確認したことから,この額をもって遺産と扱うこととしたものであり,この保険契約は被相続人が平成5年4月25日に締結した保険期間を10年間とする本件建物及び建物内の什器備品類を対象とする保険であり,保険料が年間47万8950円で平成8年4月に支払期のきた保険料まで被相続人において支払っていたものであるからよこれを遺産と扱うこと,上記額により評価するのが相当であることが明らかである。
(3) 特別受益にづいてア抗告人の特別受益抗告人は.被相続人が契約した(x)生命保険①②(保険金額各5000万円)につき受取人となることで,固有の権利として死亡保険金請求権を取得し保険金を受領したものであり,これは民法903条1項に規定する逝蛸文は贈与に当たらない.と解されるが, i保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との聞で生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。J(最高裁平成16年10月29日決定民集58巻7号1979頁)。本件においては,抗告人が00生命保険q渇により受領した保険金額は合計l憶0129万円(1万円未満切捨)に及び,遺産の総額(相続開始時評価額1億0134万円)に匹敵する巨額の利益を得ており,受取人の変更がなされた時期やその当時抗告人が被相続人と同居しておらず,被相続人夫婦の扶養や療養介護を託するといった明確な意図のもとに上記変更がなされたと認.めることも困難であることからすると,一件記録から留められる,それぞれが上記生命保険金とは別に各保険金額1000万円の生命保険契約につき死亡保険金を受取人として受領したことやそれぞれの生活実態及び被相続人との関係の推移を総合考慮しても,上記特段の事情が存することが明らかというべきである。したがって,(わ生命保険①②について抗告人が受け取った死亡保険金額の合計1億0129万円(1万円未満切捨)は抗告人の特別受益に準じて持戻しの対象となると解される。また,抗告人は,平成8年5月22E.,保険料が全納されていたOO生命保険③の契約者.受取人となることにより,被相続人から契約上の地位の移転を受けたものであり,これが生計の資本としての贈与にあたるものであり,その相続開始時の解約返戻金額441万円をもって特別受主主頒と評価するのが相当である。抗告人は,同③の契約上の地位を被相続人の求めに応じ買い取ったと主張するが,その事実を認めるに足りる証拠はない。そして,抗告人は,上記変更等による利益の付与につき,被相続人から持ち戻し免除の意思表示がなされたと主張するが.その事実を認めるに足りる証拠はない。すなわち,抗告人は,平成3年5月には歯科医師国家試験に合格し.上記付与の当時歯科医師として稼働しており,被相続人において,抗告人の生活を保障する趣旨で上記利益を付与したとは考えがたく,また,相手方と抗告人とを対比し,抗告人に被相続人や被相続人夫婦の扶養や療養介護を託するといった明確な意図のもとに上記利益を付与したとみることも困難である。そして,一件記録によれば,被相続人は,抗告人とは良好な闘係にあったが,相手方とは暴力を振るわれるといった事態に至るなど関係に苦慮していたことが認められるが,遺言訟を作成したり.遺産の相続について特別の意思を表明した事実は認められないのであって,被相続人が上記持ち戻し免除の意思表示をしたと認めることは困難である。相手方は,上記以外の特別受益として,0606を転換してムOムOとして契約した保険契約により支払われた50万7625円.エレクトーンの個別指導に関連して要した費用及び歯科医師免許取得後被相続人から受けたとする経済的援助を主張するが,これらが特別受益にあたると認めることはできない(原審判理由説示の当該部分を引用する。)。したがって,抗告人の特別受益額はl億0570万円である。イ相手方の特別受援について(その1)社団法人Cわ区医師会から被相続人死亡に対する弔慰金120万円が相手方に支給され, 00事業団から小規模企業共済法に基づく共済契約により個人事業主である被相続人の死亡を原因として共済金等259万5000円が相手方の口座(ムム銀行ムム支庖}に振り込まれた。相手方は,これらについては,抗告人が取得した保険金が特別受益と評価される場合には特別受益と評価されてもやむを得ないと主張しているから,その相続開始時における評価額を受領額とし,その額の特別受益があったと認めるのが相当である。したがって,この特別受益額は合計額379万円(1万円未満切捨)である。ウ相手方の特別受益について(その2)一件記録によれば,相手方につき次の事実が認められる。
(7)相手方(昭和36年×月xx日生)は,昭和51年4月,(わ高校に入学し,1年で中退後に都立66高校に入学し,昭和55年3月同校を卒業し,大学受験に失敗し3年間浪人し,大学受験予備校であるOム口に通った後,昭和58年4月,0000大学に入学し,留年したり卒業できなかったことから,在学生活が長引き.平成6年3月に卒業し(通常は6年間で卒業できるところ, 5年間余計に在学期聞を要した。),歯科医師国家試験に2年続けて不合格となり,国家試験予備伎に通い(2年間余計に期聞を要した。),平成8年4月に歯科医師の免許を取得したが,相続開始時までの間,無収入であり,被相続人から上記歯科医師になるため,抗告人に要したような通常要する費用以上の負担をしてもらった。また,被相続人は,代金を負担し昭和58年に乗用自動車(口口口口口),平成5年に乗用自動車(C丈AX:X))を購入し,もつばら相手方に上記自動車を使用させていたものであり,いずれも生計の資本として付与されたものというべきであるから,以下の合計額3001万円(相続開始時における評価額)が特別受益と認めることができる。付) その具体額は次のとおりと認められる。a 大学受験予備校に通学した学費(3年分)b 大学受験料3年分c 大学授業料(平成元年度から平成5年度までの授業料・) 850万円192万円• 64万円d 大学5年間の生活費月額12万円720万円e 国家試験受験予備校の費用(授業料年額180万円の2年分。夏期講習20万円) 380万円f 国家試験受験中(2年間)の生活費月額12万円288万円g 自動車2台402万円維持費(自動車税等) 105万円合計3001万円(ウ) 他方,抗告人は,相手方が要した高校留年期間1年聞や予備校3年間の生活費を特別受益に当たると主張するが,高校を卒業するのに4年を要し歯科大学合格のために3年程度を要することは一般にありうることであり,被相続人が開業医であったことを考慮、すると,その聞の生活費の負担は扶養義務の範囲というべきであり,生計の資本としての贈与には該当しない。抗告人が主張する補欠入学時に入学金を負担した事実は認めるに足りる的確な証拠がなく,抗告人と相手方の大学学貨の差額(正規の課程である6年間の分)はやむを得ない負担であり,いずれも特別受益に当たらず,卒業時の教授への謝礼を負担した事実は認めるに足る証拠がない。また.マンション賃料(1年分)は,相手方にもつばら使用させるため被相続人がマンションを賃借したとまで認めることができないのであり,その賃借が相手方への利益の提供であるとは認められなし、。歯科医師国家試験の資料費は,生活費として考慮し,ガレージの鉱張工事費用及び部屋改装費の負担は具体的な支出額を認めるに足りる証拠がなく,生計の資本としての贈与といえるものであるか明らかではなし、。抗告人が主張する生計の資本の贈与にあたる動産類の贈与があったと認めることはできないし,遺産である借地につき相続後に支払;った借地料が特別受益に当たらないことは明らかである。また,抗告人が主強する平成8年の準確定申告により生じた還付請求権は,可分債権であって,逃産として分割帰属すべきものであり,特別受益となるものではなし、。したがって,抗告人が主張する前記認定以外ーの相手方の特別受益は認めることができなL、。エ相手方の特別受益額は,以上の合計3380万円(379+3001)であlili- -る。(4) 遺産の分割ア遺産の相続開始時の評価額は①本件建物(9893万円)②預貯金(79万円)③電話加入権(9-万円)④ロム海上の長期総合保険(91万円)⑤家財道具(62万円)の合計1億0134万円であり, みなし相続財産は,これに特別受益(抗告人の特別受益1億0570万円,相手方の特別受益3380万円)を加えた2億4084万円であり, 各自の具体的相続分は1億2042万円となり,抗告人の未取得分は,具体的相続分から特別受益分を控除した1472万円であり,相手方の未取得分は8662万円となる。イ遺産の逃産分割時の価格は,①本件建物(8700万円)となるほかは,相続開始時と閉じであるから,その総額は8941万円であり,これを,前記未取得分の割合で分けると,抗告人が1298万7124円(8941万円x (1472/10134),円未満切り捨て),相手方が7642万2875円(8941万円x(8662/10134),円未満切り捨て)となる。ウ相手方が本件建物に居住していることからすると,相手方に本件建物を含め全ての遺産を取得させた上,抗告人に対し代償金を支払.わせるのが相当である。したがって, 抗告人が取得する代償金額は上記抗告人の取得すべき額の1万円未満を切り捨てた1298万円となる。
(5) よって,原審判は,結論において相当であるから.本件抗告を棄却することとし, 主文のとおり決定する。(裁判長裁判官西田美昭裁判官犬飼良二小池喜彦)

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