財産分与申立却下審判に対する即時抗告事件

第1 抗告の趣旨及び理由
〔抗告人〕
〔相手方〕
A
B
C
抗告人らの抗告の趣旨及び抗告の理由は.別紙即時抗告申立書写し中,各該当側記載のとおりである。
第2 当裁判所の判断
1 本件は,亡Dと死別した前妻Eとの間の子である抗告人らが,亡Dの後妻である相手方に対し,亡Dの相手方に対する財産分与請求権を相続したとして,相手方の財産の半分相当額の12分の5に当たるとする各1638万6459円の支払をそれぞれ求めるものである。
2 基礎となる事実(一件記録により認められる。)
(1)亡Dは,昭和32年3月26日に前妻Eと婚姻し,両者聞に抗告人らをもうけたが,昭和50年11月27日にEが病死した。亡Dは,昭和51年4月19日に相手方と再婚し,その後,相手方とその前夫との間の子であるFと養子縁組をした。
(2)亡Dは,平成11年12月に肝臓病で入院し,以後入退院を繰り返し.その聞の平成12年6月ころ,浦和家庭裁判所越谷支部に夫婦関係調整の調停を申し立てた(同庁同支部平成12年(家イ)第〇〇○号)。申立ての趣旨は調停の経過の中で変更あるいは追加がされ,平成13年1月12日の調停j明日の段階では,相手方との離婚並びに離婚に伴う財産分与として3932万7502円及び慰謝料500万円の各支払を求めており,それらの趣旨の記載された書面は,前向日相手方に送達されていた。
(3) 上記調停が成立しないままに,亡Dは平成13年1月16日に死亡した。
(4) 亡Dは,同年1月10日に公正証書追言をしており,同遺言には,相手方を相続人から廃除し,財産分与請求権を含む一切の財産について,抗告人らに各12分の5及び養子Fに12分の2の各割合で相続させるものとする等の記載がある。
(5)抗告人らは,平成13年3月30日,相手方に対し,東京家庭裁判所に財産分与請求調停事件を申し立て(同裁判所平成13年(家イ)第△△△△号).7固にわたり調停期日が聞かれたが,平成14年3月1日不成立となり,本件審判に移行した。
3 当裁判所の判断
(1) 夫婦が離婚したときは,その一方は,他方に対し,財産分与を詰求することができる(民法768条.771条)。この財産分与の権利義務の内容は,当事者の協議,家庭裁判所の調停若しくは審判又は婚姻関係の人事訴訟の付帯処分として判決で‘具体的に確定されるが,上記権利そのものは,離婚の成立によって発生し,実体的権利義務として存在するに至札前記当事者の協議等は,単にその内容を具体的に確定するものであるにすぎない(以上につき,最高裁判所第三小法廷昭和50年5月27日判決・民集29巻5号641頁参照)。そして,財産分与に関する規定及ひ’相続に関する規定を総合すれば,民法は,法律上の夫婦の婚姻解消時における財産関係の清算及び婚姻解消後の扶養については,出m婚による解消と当事者の一方の死亡による解消とを区別し,前者の場合には財産分与の方法を用意し,後者の場合には相続により財産を承継させることでこれを処理するものとしていると解するのが相当である(最高裁判所第一小法廷平成12年3月10日決定・民集54巻3号1040頁参照)。したがって, 離婚が成立するより前に夫婦の一方が死亡した場合には,離婚が成立する余地はないから,財産分与請求権も発生することはないものである。そのことは,夫婦の一方の死亡前に,その者から家庭裁判所に離婚を求めて調停が申し立てられ,調停申立ての趣旨の中に財産分与を求める趣旨が明確にされていた場合でも同様である。そうすると,亡Dの相手方に対する財産分与請求権は発生していないから,抗告人らがこれを相続により取得することはできない。
(2)ア抗告人らは,本件では,亡Dと相手方との間で,近い将来,調停あるいは訴訟で離婚が成立することが確実であったものであり,離婚が成立していなくても,実質的に離婚が認められることが確実で,具体的に当事者の一方から財産分与の意思表示がされている場合は,例外的に財産分与請求権は発生し,その相続人らに相続されると解すべきである旨主張する。しかし,離婚の成立によって発生する財産分与請求権を,例外的に抗告人らの主張するような場合には離婚が成立していなくても発生するものとするのは法律的な根拠がない。抗告人らの主張する財産分与請求権を,婚姻継続中の夫婦の一方が有している離婚した場合に財産分与諮求権を取得できる地位あるいは期待権と理解しても,そのような地位あるいは期待権は,その者の死亡によって消滅するものでこれを相続する余地はないというべきである。
イまた,抗告人らは,本件において,財産分与請求権の相続を認めないことは,正義.公平に反することは明白であり,離婚調停中に亡Dが死亡したという事実によって,相手方が取得すべきいわれのない財産を取得することまで認めることは,信義誠実の原則ないしその根底にある法の正義の観念に著しく反する旨主張する。
しかし,法律上要件となる事実の発生の先後により,法律を適用した結果が異なる場合があることはまれではないのであり,本件の場合,亡Dが離婚し財産分与により財産を取得した後に死亡したと仮定した場合と,実際に生起したとおり亡Dが離婚調停で財産分与を請求したけれども,離婚が成立する前に亡Dが死亡した場合で,抗告人らが亡Dの相続財産として承継する財産に差異が生ずる可能性があることは否定できないが,現在の法制度を前提とすれば,それは人生の運不運と言うべきものであり,正義,公平に反するとか,信義誠実の原則ないしその担底にある法の正義の観念に著しく反するということはできない。
ウ抗告人らは,東京家庭裁判所では,本件のような場合財産分与請求権の相続という法律構成での調停申立てが受理されて調停が行われており,本件でも財産分与請求権の相続を前提とする調停申立てが受理され.5期日にわたり,財産分与の対象になる財産とその分割割合について話し合いが行われてきたところ,一律に財産分与の制度は死亡による婚姻解消の場合に認めるべきではないとすれば,東京家庭裁判所が本件を調停として受理したこと,それを前提に調停が進められたことが全て否定されることになり,調停実務の運用が否定されるとしづ不合理なことになる旨主張する。しかし,調停の対象となる事項に当事者の処分権があることを前提に,厳密な意味での実定法令のみではなく,身分関係の非合理性,継続性という特性を踏まえ,対象事項に応じた条理,良識をも基準とした合意に基づく家庭に関する事件の解決のための制度である家事調停においては,特に財産関係の紛争については,当事者の法的構成がそのまま是認できるか否かはさておき,調停申立てを受理し,合意に向けての事実の調査,当事者の意向の調整をはかり.調停を成立させることができるのであり,死亡による婚姻解消の場合に財産分与請求権は発生しないと解することと死亡によって解消した婚姻の死亡当事者からの財産分与請求権の相続を主張してされた調停申立が受理されて調停が行われることとは相反するものではない。抗告人らの主張は採用できない。
エ 抗告人らは,協議離婚後に当事者が財産分与の話し合いをし,調停.審判の申立てをすることは極めて少なく,多くは離婚の申立てと共に財産分与の申立てをし,調停,判決の中で離婚と同時に財産分与も解決されるのであり,このような実態からすると,離婚が成立していないことの一事をもって,財産分与請求権の相続を否定することは,財産分与請求権の相続を認めることで公平を図ろうとした趣旨が生かされないことになる旨主張する。なるほど,夫婦関係調整の調停において.離婚と共に財産分与が請求され,離婚成立前に財産分与についての事実の調査や当事者の意向の調整が行われること,離婚訴訟において付帯処分として財産分与が請求された場合に,離婚の判決が確定する前に財産分与の当否,内容について審理することは,通常の手続運営である。それは.調停においては,離婚の合意が成立することを仮定してあるいは離婚の合意をするために当事者が必要と考える付随事項の合意に向けて事実の調査あるいは調盤が行われるのであり,離婚の合意と同時に財産分与の合意が成立することを前提としているのであり,訴訟においては,離婚認容の主文と財産分与を命ずる主文が同時に確定することを前提としているのであって,離婚が成立する前に財産分与請求権が発生することを前提とするものではない。抗告人らの主張は,採用できない。
(3) よって,本件抗告はいずれも理由がないので,これを棄却することとして,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 西回美昭 裁判官 森高重久 高野伸)

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