財産分与審判及び請求すべき按分割合に関する処分申斗却下に対す る抗告事件,同附帯抗告事件

第l 本件抗告及び本件附帯抗告それぞれの趣旨及び理由
l 本件抗告
抗告人は,原審が,平成21年4月17日,平成20年開第1307号事件(以下「第l事件」としづ。)につき,相手方に対し,抗告人に対ずる財産分与として52万円の支払を命じ,同第1467号事件(以下「第3・事件Jという。)につき,抗告人と相手方との閣の原審判別紙2記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めることを求めた申立てを却下する審判をしたのに対して抗告し,①原審判中第l事件に関する部分を取り消し,相手方に対して506万円の支払を命じ,②第3事件に関する部分を取り消し,抗告人と相手方との閣の康審判別紙2記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるとの裁判を求めた。第1事件についての抗告理由の要旨は,原審判が,相手方が抗告人に対して財産分与として支払うべき506万円から,実際に支払った婚姻費用のうち標準的な額(月額20万円,年額240万円)を上回る額が454万円余りになるとして,これを事後的扶養というべき財産分与の前渡しとして控除したが,①扶接的財産分与は,清算的財産分与や慰謝料だけでは離婚後の生活保障として不十分であるような要扶養状態にある場合に,扶養能力ある扶盤義務者に対して支払わせるものであり,清算的財産分与から控除するのは扶養的財産分与の趣旨に反する,②平成6年×月の別居後に相手方が支払った婚姻費用は,相手方がその都度相当額を判断してきたもので,家賃だけみても変動しているように,婚姻費用算定の条件はそのときどきで異なるから,平成17年×月の調停合意の存在をもって,過去に遡って婚姻費用が過大であったなどと判断するのは本末転倒である,というものである。第3事件についての抗告理由の要旨は,別居していても, 夫婦が共同して保険料を負担していることを基本認識とする年金分割の制度趣旨に加えて,平成20年×月以降は第3号被保険者期間は自動的に2分の1に分割されるから, これと異なる解釈が採用されるべきではなしず, というものである。
2 本件附帯抗告
相手方は,原審が,平成21年4月17日,第l事件につき,相手方に対し,抗告人に対する財産分与として52万円の支払を命じ,平成20年関第1308号事件(以下「第2草件」という。)につき,抗告人と相手方との聞の原審判別紙l記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定める審判をしたのに対して抗告し,これらを・いずれも取り消し,抗告人の各申立てをいずれも却下するとの裁判を求めた。第l事件についての附帯抗告の理由の要旨は,①財産分与においては,夫婦の一方が過大に負担した過去の婚姻費用の償還を考慮すべきであるところ,二女は高校卒業後進学せず,要扶養状態を脱していたから,平成8年に成年に達する前でも,この点を考慮すべきである,②平成17年×月に調停合意した以降の婚姻費用の相当額b 客観的にみて相当な額であるか否かを判断すべきであり,相手方が抗告人に対して分与すべき財産はない,③抗告人は過大な婚姻費用の支払を受けてきたから十分な財産を形成しているはずである上,扶養すべき者もいないから要吠盤状態にあるとはいえず,他方,相手方は再婚した妻を扶養しなければならない上:老母とも同居しているから,抗告人を扶養する能力はない”というものである。第2事件についての附帯抗告の理由の要旨は,①抗告人は相手方と同居中も宗教活動に専念、して相手方との家庭生活を顧みることがなし相手方には筆舌に尽くし難い心労があり,精神的にも物質的にも抗告人は相手方の保険料納付に寄与したとはいえない, ②年金分割では個別具体的な事情を考慮した清算的要素が重視されているので,過62・10-56裁判例( 家事)剰な婚姻費用を取得し続けた抗告人は,保険料納付に寄与したどころか,経済的な障害でさえあった,というものである。
第2 当裁判所の判断
1 事実関係次のとおり付加訂正するほかは,原審判(2頁4行目から4頁2行目)のとおりであるから,これを引用する。
(1) 2頁11行自の「婚姻費用分担分担」を「婚姻費用分担」に改め,同頁14行自の「調停」の次にI(以下「婚姻費用分担調停」という。)Jを加える。
(2) 2頁16行自の「年金分害IJ (jの次に「原審判別紙l記載の情報に係るもの。」を,同頁刊行自の「年金分割Jの次にI(原審判別紙2記載の情報に係るもの。)Jをそれぞれ加える。
(3) 3頁7行自の11030万3700円」の次にI(ただし,税引き後の額は1013万7100円)Jを加える。
(4) 3頁11行自の「平成6年×月からは」の次に1,賃貸住宅である」を力日える。
(5) 3頁13行自の13月まで」の次に1,以下,平成10年度まで同じ。」を加え, 1252万7910円Jを1252万6392円」に, 1246万7932円」を1246万7032円」に,同頁14行自の1255万3114円」を1255万3814円」に, 同頁16行自の1180万7358円」を1230万0104円〉にそれぞれ改め,1平成12年」の次にI(周年1月から12月まで,以下,閉じ。)J を,同頁19行目から20行自にかけた1240万円」の次に1,平成20年×月には20万円Jを, 1送金していた」の次にI(平成6年×月から平成20年×月までの送金額の総計は3919万9880円となり,平成17年×月分以降は,婚姻費用分担調停に基づ.いて,.月額20万円の割合による送金がなされた。なお,相手方の給与明細が提出された平成11年×月去での相手方の送金額は,賞与を除く給与の手取額の2分のlをやや下回る額であった。)Jをそれぞれ加える。
(6) 3頁21行自の「葬儀や」を「葬儀の連絡をせず,また,相手方は」に改める。
(7) 4頁2行目末尾を改行の上,r相手方の給与収入は,平成6年度(同年4月から翌年3月まで,以下,平成10年度まで同じ。)が728万7910円,平成7年度が979万0613円,平成8年度が1004万7150円, 平成9 年度が1143万07 1 8 円, 平成1 0年度が1137万88~9円,平成11年(同年4月から12月まで)が926万2897円,平成12年(同年l月から12月まで, 以下, 同じ。)が1086万9929円,平成13年が~O?O万0200円,平成14年が1107万4113円,平成15年が1118万0813円,平成16年が1103万3094円,平成17年が1106万5225円,平成18年が1073万4103円,平成19年が1099万4350円であった。」を加える。
2 以上認定の事実を前提に,本件財産分与の申立て(第l事件)について検討する。
(1) 財産分与の対象となるのは,同居中に形成された夫婦財産に限られるところ,抗告人と相手方は,相手方が平成6年×月に目宅を出て実家で生活をするようになり,以来,離婚判決が確定するまでの約14年間別居し,ほとんど交流する’ことなく生活していたことにがんがみると,財産分与の対象となる財産は,相手方が婚姻後に就職して平成6年×月×日に退職した口口から支給された退職金受領額1013万7100円及び00銀行00支庖の相手方名義の普通預金の周年×月×日付け残高18万5427円の合計1032万2527円である。
(2) そして,抗告人が昭和59年×月ころから宗教活動に多くの時間を割くようになったものの.平成5年×月までの間,.長女及び二62・10-58、、裁判例( 家事)女を養育し, それなりに家事をこなしていたことが認められるから,上記(1)の財産の形成についての抗.告人の寄与は, 2分のlと認められる。
(3) 相手方は,抗告人に対して送金した婚姻費用のうち,抗告人にも.賃金センサスに基づく相応の稼働能力を推計した上で算定される標準的な婚姻費用の額を超える分は,財産分与の前渡しと評価すべきであると主張するので, この点について検討する。相手方は,平成6年×月から平成20年×月までの13年10か月(166か月)の婚姻費用として合計3919万9880円を送金し,このうち,平成17年×・月から平成20年×月までの28か月は月額20万円の割合により送金(20万円x28か月=560万円〉しているから, 平成6年×月から平成17年×月までの138か月に合計3359万9880円を送金したことになり,これを月平均すると,24万3477円(円未満切捨て)となり,この額は,賞与を除く給与の月額手取額の2分のlをやや下回る額に相当する。ところで,別居中の夫婦の婚姻費用分担については,その資産,収入その他一切の事情を考慮して定められるものであり(民法760条),当事者が婚姻費用の分担額に関する処分を求める申立てをした場合(家事審判法9条l項乙類3号)には,調停によ手合意をするか,審判をすることになる(同法26条l項)。したがって,当事者が自発的に,あるいは合意に基づいて婚姻費用分担をしている場合に,その額が当事者双方の収入や生活状況にかんがみて,著しく相当性を欠くような場合であれば格別,そうでない場合には,当事者が自発的に,あるいは合意に基づいて送金した額が,審判をする際の基準として有用ないわゆる標準的算定方式(判例タイムズ1111号285頁以下)に基づいて算定した額を上回るからといって,超過分を財産分与の前渡しとして評価するζ とは相当ではない。そして,本件では,抗告人は相手方と婚姻後,家事?育児に専念し,婚姻して10年ほど経ったころから宗教活動に多くの時聞を割く’ようになったが,更に12年ほどは相手方と同居し,宗教活動をしながら育児や家事をする生活を続け,長期間就労していなかったこと,相手方が抗告人や子らを残して出た自宅には家賃を要したこと.などにかんがみると,相手方が送金していた,賞与を除く給与・の月額手取額の2分のlをやや下回る額(平成17年×月以降はこれを更に下回る月額20万円)が著しく相当性を欠いて過大であったとはいえない。ちなみに,抗告人の収入ーをOとして,標準的算定方式に基づく標準的算定表に相手方の各年度の収入を当てはめると,婚姻費用の標準月額は,平成6年が14万円から16万円の範囲内,平成7年が18万円から20万円の範囲内,二女が成年に達した平成8年×月以降は14万円から16万円の範囲内,あるいは, 16万円から18万円の範囲内であるから,ーこの点でも,相手方が抗告人に対して送金した婚姻費用が著しく相当性を欠いて過大であったとまではいえなし、。したがって,相手方の上記主張は,理由がない。
(4) 以上によれば,抗告人が00銀行00支庖の相手方名義の口座を管理していることにかんがみ,相手方が財産分与として抗告人に対して支払手べき額は,以下のとおりである。1032万2527円ー2ー18万5427円=497万5836円(円未満切捨て)
3 次に,原審判別紙l及び同2記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合について検討する。
(1) 年金分筈1は,被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障と62・10-60裁判例(家事)しての社会保障的機能を有する制度であるから,対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は,特別の事情がない限り,互いに同等とみて,年金分割についての請求す今き按分割合を0.5と定めるのが相当であるところ,その趣旨は,夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法78条の13(し、わゆる3号分割)に現れているのであって,そうでない場合であっても,基本的には変わるものではないと解すべきである。そして,上記特別の事情については,保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られるのであって,抗告人が宗教活動に熱心であった,あるいは,長期間別居しているからといって,上記の特別の事情に当たるとは認められなし、。したがって,第2事件についての相手方の抗告理由①は理由がない。
(2) 相手方の抗告理由②については,前記2(3)のとおり,相手方が抗告人に送金した婚姻費用が過大であったとはいえないから,理由がなし、。
4 よって,本件抗告は上記説示の限度で・理由があるから第l事件及び第3事件について家事審判規則19条2項により原審判を変更することとし,本件附帯抗告は理由がないから棄却することとし,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官松本哲也裁判官田中義則永井尚子)

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