認知請求控訴事件

第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人(1) 原判決を取り消す。(2) 控訴人がA (略)の子であることを認知する。(3)控訴費用は,第1. 2審とも,国庫の負担とする。2 被控訴人主文と同旨。
第2 事案の概要(略)
第3 当裁判所の判断
l 当裁判所も,控訴人の本件請求は理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり訂正し,文は付加するほかt:t原判決の事実及び理由欄の「第3 争点に対する判断Jに記載のとおりであるから,これをここに引用する。(1) (略)(2)原判決22頁4行目(編注111頁7行自) 冒頭から同12行目(編注111頁16行目)の「附ところで.Jまでを次のとおり改める。「け) 前記第2の2(1)イの各認定事実.証拠(申44. 控訴人法定代理人親権者母)及び弁論の全趣旨によれば本件父札-生前,同人の凍結精子を使用して本件母が3回にわたって受けた体外受精についてはこれらに同意し,これらにより(略)子が俺胎され,出生することを期待していたことが認められる。また,本件父の死亡後に,同人の凍結精子を使用して本件母が健外受精を受けることに関して.控訴人法定代理人親権者母は.Ii’本件父には.本件医院を訪れる前から.自己の死亡後も,本件母に(略)子誕生のために努力を続けてもらいたいという意思があったJ 旨供述している。しかしながら,この供述自体に具体性がないこと,本件匁’は,本件母が第1回目の体外受精を受けた直後の平成xx年×月初旬ころ危篤状態に陥ったととがあること,また,平成xx年×月×’自に本件遺言書を作成しているところ,その中に(略)子を予想した記述がないこと等(前記第2の2(1)イ)に照らすと,上記供述は採用し難い。したがって.本件父が自己の死亡後に自己の凍結精子が使用され,本件母が体外受精を受けることを予定していた事実を認めることはできないし, このことから,死亡後の凍結精子の使用に同意していた事実も認めることはできないといわざるを得ない。(イ) もっとも.J(3)原判決22頁20行自(編注111頁26行自)の「疑問があるうえ.Jから同22行目(編注112頁2行目)までを「疑問がある。Jに改める。(4)原判決23頁15行自(編注112頁24行目)末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。「ところで,平成15年4月28日付けの医療部会報告岱(乙1)は,『精子提供者の死亡が確認されたときには,提供された精子は廃棄する。実施医療施設は.提供された精子等による生殖補助医療の実施の度ごとに,その実施について,夫婦それぞれの書面による同意を得なければならない提供からl’年以上の期聞を空けて使用される場合には.再度,精子等の提供者及びその配偶者から同意を得る必要がある。』などと指摘する。本件体外受精は,上記報告書が公表される以前に行われているので,上記報告告で指摘されていることを根拠として論ずることはできないにしても,生殖補助医療にたずさわる者は,同医療を受ける者に対して十分な説明を行って,理解してもらうことが必要であり,か.つ,問医療を実施するに当たっては,その都度,ー関係者の意思を.確認して,慎重な姿勢を保つことが求められていることは,上記報告書による指摘を待つまでもなく当然に求められるところということができる。しかるに,証拠(控訴人法定代理人親権者母?によると,実施医療施設である本件医院は,本件父及び本件母の双方に対して,体外受精を実施する都度,その意思、を確認することをせず, 体外受精が精子提供者の生前に限られるとの説明もしていなかったというのであるから.本性医院のー本件母及び本件父に対するインフォームドコンセントであるとか,精子提供者に対する意思確認に関しては不十分なものがあったものと推認できるところである。仮に,本件医院において,上記のような本件父に対する説明ないし意思確認が十分に行われていたならば,本件のような事態は生じなかった‘と考えられ,生殖補助医療に携わる医師の役割の重要性が痛感されるところである。J(5) 原判決24頁25行目(編注114頁12行自)の「また.Jからー同25責1行目(編注114頁14行目)の「自然的な態様に照らし.Jまでを「したがって,精子提供者が死亡した後,同人の精子を使ーって生殖補助医療が行われて,懐胎し,子を出産したとしみ場合において,これを自然的な性交渉を補助するものに当たるとか,あるいは,自然的な性交渉に代わるものと理解することは困難怠ことというほかはない。言い換えbと,上記のような事実関係のもとで,懐胎し,子を出産することは,生存している男女の性行為に基づいて子を出産する場合と比べて大きくかし、離しているものといわざるを得ず.」に改める。(6) 原知決25頁15行自(編注115頁4行目)末尾の次に続けて「控訴人は, 自然的な生殖とのかし、離を強調することは正しくない主して,人工心臓を使って生命を維持している患者の例を挙げて主張するが(前記第2の4(3)エ).適切な例ではなく,採ることができない。Jを加え,同21行自(編注115頁11行目)の「本件関係者は.Jから同23行目(編注115頁13行目)の「これに賛同している。」までを「本件関係者のうち,本件父の(略)であるcxxx)及びCわζわ,本件父の(略)であるcxxわ,本件父の(略)であるCわcxコとその(略)のCXXJ,コ,本件父の(略)であるa::xxコの合計6名は,いずれも本件父と控訴人との聞に親子関係を成立させることについて賛同するとの意見を述べているが.その他の者は,特に,積極的に意見を述べておらず,更に,本件父の(略)であるOCX:XJ及びCXXY:Jもその賛否を明らかにしていないのである。Jに改める。.(7)原判決26頁3行目(編注115頁19行目)の「本件関係者が.Jから同4行目(編注115頁21行目) 末尾までを「本件関係者のうちの6名が,本件父と控訴人との聞に親子関係を成立させることに賛成し, これ以外には,異論を唱える者が現れていないからといって,上記判断が左右されるものではない。Jに改める。(8) 原判決27頁10行目(編注117頁5行自)冒頭から同28頁12行目(編注118頁11行目)末尾までを「従前,代襲相続人は,代製原因ーが発生したときに存在しなければならなかったが,昭和37年の民法改正により,代襲相続人となる者は,相続開始のときに被代襲者の子として生存しているか,文は胎児として存在していれば足りると定められたのであるから本件父の父母若しくは(略)の各相続にー闘し,控訴人が代襲相続権を有するものと解釈する余地もないわけではない。そして,控訴人は,代襲相続が,血縁の流れに従って,上から下へ死者の財産を受け継がせようとする制度であり,控訴人と本件父との聞に父子関係が認められれば,本件父の父母,本件父,控訴人といった血縁の流れに従って財産は承継されると被代襲者が相続人排除や相続欠格を理由として相続権を失った場合と同じく,本件の場合も控訴人について代襲相続権が認められなければならないとも主張する。しかし,本件父と控訴んとの間に法律上の親子関係を認め士をしても,控訴命財本伸世の相続人となる余地はなく,控訴人において,本件父の父母り財産を,本件父q父母,本件父,控訴人という順序に承継することが観念できるといったものではなし、。そして,控訴人が本件父の相続人となる余地が認められないことは上記のとおりであるから,控訴人が本件父の父母の相続に関して本件父を代襲すること自体があり得ないことであり,控訴人が代襲相続人となることもできないと解することにも相応の理由があるというべきである。控訴人の上記主張は採ることができない。」に改める。(9)原判決30頁16行目(編注120頁22行目)冒頭から同19行目(編注120頁25行目)の「問題があること.Jまでをr4 以上の3(1)ないし(5)の検討結果によれば,本件において,本件父の死亡後における凍結精子の使用(第4回目の体外受精)について同人の同意があったとは認められない上,そもそも本件父の死亡後である第4回目の体外受精の実施時において,本件父の意思を観念すること自体に疑問があり,生前,その意思があったことをもって死後にも体外受精を行うことにつき同意していたと擬制するよとにも疑問があるといわざるを得なL、。そして.Jに改める。(10).原判決31頁5行自(編注121頁13行且) 冒頭から同13行目(編注121頁22行自)末尾までを「控訴人は,上記判断をするに当たって,法律上の親子関係が成立した場合の法的効果を認める余地があるか否かを問題にし,その観点から,親子関係の成否を論じることは適当でないとも主張するが(前記第2. ’4 (3)ア).当裁判所は,上記のとおり,総合的な判断を行って,親子関係の成否を論じているのであるから,控訴人の上記主張は理由がない。Jに改める。
2 以上の次第で,控訴人の本件請求は理由がないから,これを棄却すべきであり,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は正当であって,控訴人の本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。(裁判長裁判官宮崎公男裁判官上原裕之今泉秀和)

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ