親権者指定申立却下審判に対する即時抗告事件

第1 抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告の申立及び準備蓄面1 (いずれも写し)記載のとおりである。
第2 事案の概要
フィリピン国籍を有する抗告人は,我が国男性である相手方と婚姻し,両名の聞に事件本人(我が国の国籍の留保をしていなかったJため,フィリピン国籍を有する。)が出生したが,ぞの後相手方と協議離婚し,出生以来フィリピン圏内に居住する事件本λと共にフィリピン圏内に居住しており,他方相手方は我が固に居住しているところ,抗告人は,事件本人の親権者を自己と定めることを求めて原審裁判所に本件親権者指定申立て(以下T本件申立て」という’o) をした。本件申立てに対し,原審裁判所は,親権者指定に関する国際裁判管轄は特段の事情がない限り子の住所地文は常居所地の固にあるとの法解釈の下に,事件本人の場合はフィリピン国に同裁判管轄があり,我が固にはないとして,同申立てを却下した。本件は,抗告ー人が,同裁判管轄は我が固にあると主張して,当庁に原審判に対する即時抗告を申し立てた事案である。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所が認定する事実は,次のとおり付け方耽るほか,原審判「理由」中の「第2 当裁判所の判断Ji 1 J記載のとおりであるから,これを引用する。原審判1頁24行目の「事件本人(フィリピン国籍)Jを「両名の聞に事件本人(フィリピン国内で、同国籍を有する抗宮大の子として出生しているから,同国法に基づき同国籍を取得する’ととらに国籍法2条1号に基づき我が国国籍も取得したところ,国籍法12粂に基づく我が国国籍留保の意思表示が法定期間内にされなかったため,我が国国籍を出生時に遡って喪失している。)Jに改め.25行自の「生活し続けている。」の次に「これに対し,相手方は事件本人の出生以来同人と生活を共にしたことがない。」を. 2頁11行目の次に行を改め. i(6) 相手方は,事件本人の養育を現在事実上放棄している。」をそれぞれ加える。2 国際裁判管轄の有無について.以上認定した事実によれば,抗告人と事件本人は,フィリピン圏内に居住する同国の国籍を有する者であり,他方,相手方は我が国に居住する我が国国籍を有する者である。このような場合に協議離婚した抗告人と相手方の子で・ある事件本人の親権者指定の裁判について我が固に国際裁判管轄があるかどうかが問題となる。親権者指定の裁判に関する国際裁判管轄については,フィリピン国と我が国の聞において定める条約は存在しない上に,我が国法上の明文の規定は存在しないため,条理により定めるほかはない。そうとすれば,離婚事件のみならず,親子関係事件(本件親権者の指定の事件も含まれる。)についても,相手方が行方不明その他の特段の事情のない限り,相手方の住所地国を原則とするのが相当である。もっとも,親手関係事件の中でも本件のように未成年者の親権者を指定する裁判の場合については,子の福祉という観点か弘、子と密接な関係を有する地である子の住所地国に国際裁判管轄を認める合理性も否定できないことから,この場合は,上記相手方住所地固と併せて子の住所地固にも国際裁判管轄を認めるのが相当である。これを本件についてみるに,上記認定事実によれば.相手方は我が固に住所を有するから.相手方住所地国である我が固に国際裁判管轄が存在するというべきである。これに対し,原審判は.本件親権者指定裁判に関する国際裁判管轄は,子の住所地国文は常居所地の国での親権者指定の裁判が速やかに行われる見込みがないなとeの特段の事情がない限り,子である事件本人の住所地国であるフィリピン固にのみ存在すると解しているところ,その理由として親権者の指定については子の福祉を第一義之して決定すべきである点を論拠としている。しかしながら,親子関係事件であるからといって.国際裁判管轄を決定する一般基準である被告(本件の場合は相手方)住所地国の原則を変えるべき合理性は認め難いというべきであるから,同解釈には条理の観点から採用することはできない。また,仮に同解釈に依ったとしても,本件においては,相手方住所地固にも国際裁判管轄を認めるべき特段の事情があるというべきである。何故ならば,本件においては,①子である事件本人とその出生以来生活を共にしている同人の母である抗告人は,自国の裁判所ではなくわざわざ遠隔の外国である我が国の裁判所に対し親権者指定の審判を求めているものであり,それにもかかわらず,事件本人の利益の点を重視してフィりピン固にしか裁判管轄を認めないとする必要があるかどうか疑問であること.②仮に親権者指定の裁判の審理のために事件本人の状況を調査する必要性がある点に着眼したとしでも,フィリピン国の裁判所は抗告人汲び事件本人の調査についての利便は有するものの,我が固に居住する相手方に対する調査が極めて困難なことが明らかであること,③他方,我が国の裁判所が抗告人や事件本人の状況等について調査する必要があるとしても(本件については,後記のとおり特にその必要性はない。).事件本人と生活関係を同じくする抗告人が自ら我が国の裁判所に本件申立てをしているのであるから,抗告人及び事件本人の生活状況等についての調査を.抗告人を通じて行うことは格別困難であるとはし、えないとみられることなどの事情があり調査の必要性の観点からも我が固に国際裁判管轄を認めるのが相当であるからである。してみれば,本件につし、ては,我が固に国際裁判管轄を認めるのが相当である。3 準拠法及び本件親権者指定について本件事件本人の親権者指定は親子聞の法律関係に属するから,法例21条に従い.子である事件本人とその母である抗告人の本国法であるフィリピン家族法が適用される。ところで,フィリピン家族法においては,離婚制度が存在しないため,協議離婚に際して未成年者である子の親権者を指定する制度は存在しないものの,同法26条2項では,フィリピン人が外国人と婚姻し,その後外国において離婚した場合には,フィリピン人はフィリピン圏内において再婚能力を有することが定められていて,外国における離婚の効力が認められている。そして,外国人と離婚するに際して子の親権者の指定については,別居の際の親権者の指定を定めた同法213条の規定を類推適用するのが相当であるところ,閉条では,裁判所があらゆる事情を考慮して親権者を定めるとされ,その場合,7歳以上の子の意思は,選択された親が不適格でない限り考慮すべきことが定められている;そうすると,本件親権者の指定についても,裁判所によ与審判が必要であるところ,上記認定事実によれば,事件本人は出生以来抗告人と生活を共にしており,また,事件本人に対する抗告人の監護養育状況に特に問題と宇れる点を窺わせる資料はないこと,これに対し,相手方は事件本人と生活したことはなく,現在は同人の養育を事実上放棄していることから,事件本人の親権者は抗告人に指定するのが相当である。
第4 結論よって,本件抗告は理由があるから, これに基づき原審判を取り消して本件親権者指定申立てを認容することとし,主文のとおり決定する。( 裁判長裁判官南敏文裁判官佐藤公美堀内明)

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