祭杷財産の承継者の指定申立事件(甲事件)祭杷財産の承継者の指定申立事件(乙事件)

第1 申立ての要旨
1 甲事件被相続人D (以下「被相続人DJという。)所有の祭柁財産として,同人の位牌,仏壇,遺骨,神棚○○寺(東京都○○区○○×一×ー×所在)内の墳墓がある。乙事件被相続人E(以下「被相続人E」といい,被相続人Dと併せて「被相続人ら」という。)所有の祭肥財産として,被相続人らの位牌,上記仏壇がある。
2 被相続人Eは,亡くなる4目前に,申立人に対し.rA (申立人)に好きなだけ財産を取らせる。00の実家はAが継いだらいい。墓は家を継ぐ者に守ってほしい。Jと告げて,被相続人E所有の祭杷財産の承継者に申立人を指定した。
3 申立人は,同人の亡夫の遺骨を,上記墳墓に埋葬するつもりであり.co寺の住職からも了解を得ている。
4 よって,被相続人らの祭杷財産の承継者を申立人と定める旨の審判を求める。
第2 相手方らの主張
1 相手方Bは,被相続人Dが亡くなる前に, 同人から○○家のことを頼むと繰り返し言われていた。同人の没後,相手方Bが00寺と交渉して墓地使用権を取得し,被相続人Eと共に,墓碑を建立して,被相続人Dを埋葬した。
2 被相続人Eの生前,相手方Bは,相手方Cと共に被相続人Eの介謹に当たっており,同人は,相手方Bに対し○○家の全てのことを頼むと言っていた。一方,被相続人Eは,被相続人Dの死後,長年にわたり,申立人に会っていなかったが,平成7年ころ,申立人が突然自宅に訪ねてきて.r家を売れ。Jなどと言われて首を絞められたりしたことから,申立人と同人の夫を怖がっており,申立人について「廃嫡届をして欲しい。」「死んでもあの子には知らせないで。」などと述べていた。
3 相手方Bは.被相続人Eの死亡に際して,葬儀の喪主を務め,前記墳墓に埋葬し,その後も○○寺からの墓や法事に関する連絡は相手方B宛てにされており,同人が,墳墓,被相続人らの位牌及び仏壇を全て管理してしる。相手方Bは,相手方Cと共に○○家の法事を執り行っているが,申立人がこれに出席したことはない。
4 したがって,被相続人らの祭杷財産の承継者は,相手方Bと定められるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 本件記録によれば,次の事実が認められる。
(1) 被相続人Dは,昭和53年×月×日に死亡し,被相続人Eは,平成9年×月×日に死亡した。
(2) 申立人,相手方B及び相手方Cは,被相続人Dと被相続人Eの聞の長女,長男及び二女で・ある。申立人は昭和29年にFと婚姻して○○県で生活を始め,昭和32年ころXX県に転居し,昭和52年ころから奈良県の現住居で生活している。申立人は,現在○○症のため歩行に支障を生じており,本件の審聞のため,当庁に出頭することもできなかった。相手方Bは,昭和53年×月から,被相続人らの住居から徒歩圏内の東京都口口区△△町に居住し,平成17年からは神奈川県の現住居で生活している。
(3) 被相続人Dは,昭和40年ころ,申立人の薦めで△△県の土地を購入したが,その後,申立人が同土地が値上がりしたにもかかわらず礼をしないと言い出したことから,被相続人Dと申立人の関係は険悪になって,接触をもたなくなり,申立人は○○家の法事や祝い事にも出席しなくなった。被相続人Eは,申立人に宛てて書いた手紙に.「Dもお前様の電話で金くれ金くれと言ふので百万贈って×月×白から頭が白くなり人そうがわるく明る年×月から病気になり×月に死にました。お前様が殺したのです。」「Dとの土地売買は私は全く知りません。二人で納得の行くまで話し合えばよかったのです。」などと記している。被相続人Dは,亡くなる前,入院中の病院で,相手方Bに対し、「○○家のことを頼む。」と繰り返し述べていた。
(4) 被相続人Dの死後,被相続人Eと相手方らは.00寺に墓地使用権を取得し, 墓碑を建立して00家の墓所を設け,被相続人Dの遺骨を埋葬した。墓石の費用250万円は,被相続人Eと相手方Bが各100万円,相手方Cが50万円を負担し,墓地使用権を取得するための費用150万円は,相手方Bが100万円,相手方Cが50万円をそれぞれ負担した。その後,被相続人Eと相手方らが. ○○寺と,檀家としての付き合いをしてきた。被相続人Dの位牌の費用は,相手方Bが全額負担した。相手方らは,被相続人Dの死後,約20万円で仏壇を購入し,被相続人Eの自宅に置いて,同人が管理していた。
(5) 被相続人Eは.被相続人Dの死後,自宅建物で一人暮らしをしていたが,昭和63年にCわのため手術を受け,その後は左手の使用に支障が生じ,平成4年に右手指に腫癒ができた後は,右手の使用にも支障が生じた。相手方B夫妻と相手方Cは,昭和63年ころから,ほぼ半々の割合で,被相続人Eの日常生活の世話や家事援助を行ってきた。被相続人Eは,平成8年×月から×月にかけて手術を受けた後は,終日病臥することが多く,相手方B夫妻と相手方Cが,起居の手助けやトイレ介助等の身体介助を行った。被相続人Eは,平成9年×月に,△△で再入院し,同年×月には,歩くことも,水も飲むこともできない状態となり,同月×日に死亡した。
(6) 申立人は,平成6年×月×日に.10年以上ぶりに,被相続人Eの自宅を訪れて同人に会い,平成7年×月と平成8年×月にも,同人の自宅を訪れた。被相続人Eは,平成7年×月の訪問について,申立人に宛てて書いた手紙に「太い手でおさへて手にアザが出来て痛みます。私を殺しに来たのですね。後に廻り首を〆めつけて息が切れるところでした。もう私の所へは来ないで下さい。・・・本当にこわい一言でした。…もう来ないで下さい。…年老いた母親にあちこちあざをつけて痛めつける娘は世界中にゐるのでせうか。」と記している。平成8年×月の訪問時にも,被相続人Eと申立人は,口論の上,つかみ合し、になり,相手方Bが同人宅に申立人を連れ帰った。その後,被相続人Eと申立人が会うととはなかったが,被相続人Eは,申立人と同人の夫のととを恐ろしいと述べており,相手方らに対し,申立人について廃嫡届をして欲しい,自分が死んでも申立人と同人の夫には連絡をしないで欲しいなどと述べていたため,相手方らは,被相続人Eの再入院を申立人に連絡せず,同人には亡くなって初めて連絡した。
(7) 被相続人Eは生前,相手方Bに対し,相手方Cも同席の下で,○○家のことを全て頼むと述べていた。
(8) 相手方Bは,被相続人Eの葬儀を喪主として執り行い○○寺の前記00家の墓所に埋葬する手続を取った。被相続人Eの死後は○○寺からの○○家の墳墓や法事に関する連絡は,相手方Bに宛ててされるようになり,同人が,前記墳墓,被相続人らの位牌及び仏壇をいずれも管理している。相手方Bは,相手方Cと共に.00家の法事を執り行っているが,申立人が出席したことはなし、。相手方らは,申立人に対して,同人が00家の墳墓を管理すること,同人の亡夫をCわ家の墓所に埋葬することに同意したことはなし、。
(9) 申立人は,平成17年×月×日に夫が死亡した後、○○寺の住職を訪ね○○家の墳墓は自分に所有権があり,墓地を使用したいと述べたため,同住職が,墓地の所有権は檀家にあるのではなく○○寺にあることを説明した。同住職は○○寺としては.申立人に墓地の使用を認めるつもりはないと述べている。
2(1 )被相続人らの所有する祭杷財産について
ア 民法897条1項本文は,系譜,祭具及び墳墓の所有権について,相続財産を構成せず,祖先の祭最Eを主宰すべき者が承継することを定めている。前記認定事実によれば,申立人が被相続人D所有の祭記財産として主張している①被相続人Dの位牌,②仏壇,③00寺の墳墓,④神棚,⑤被相続人Dの遺骨のうち,①被相続人Dの位牌,②仏壇及び③00寺の噴基は,被相続人Dの死後に,被相続人Eが相手方らと共に取得し,被相続人Eが相手方らの助力を得て管理していたものと認められるから,被相続人Dが生前に所有していた祭記財産ではなく,被相続人E所有の祭記財産というべきである。なお,申立人は,③Cわ寺の墳墓につし、て,被相続人Dの死後に,被相続人Eが取得し,以後,同人が管理していたものであり,その費用は被相続人Eが支払ったが,これは,本来申立人が受け取るべき被相続人Dの遺産から支出されたものであって.申立人が購入したのと同じであるから,被相続人E所有の祭杷財産ではない旨主張する。しかしながら,申立人の主張を前提としても○○寺との問で,対価を支払って墓地使用権を取得したのは被相続人Eであるから,墳墓に関する権利の主体は被相続人Eというほかなく,仮に,親子の間で内部的に,申立人が費用を実質的に負担するのと問視できる事情があったとしても.上記権利の帰属には影響しないから,上記権利が被相続人Eの祭記財産であることに変わりはなし、。
イ 次に,④神棚は,や11を記るために家の中に設ける制jで・あって,神道で祖先を杷る霊盟を納めた御霊舎とは性格を異にするところ,前記認定事実によると○○家の祭杷は××宗の○○寺を菩提寺として.同寺に墓所を設け,仏壇に位牌を納めて供養していることが認められるから,申立人が主張するや11棚は,祖先の祭記の用に供するものとは性格を異にし,民法897条1項本文にいう祭杷財産には当たらないと解される。
ウ また,⑤被相続人Dの迫骨は,生前の被相続人Dに属していた財・産ではないから,相続財産を構成するものではなく,民法897条1項本文に規定する祭杷財産にも直接は骸当しないというべきである。しかしながら,迫骨についての権利は,通常の所有権とは異なり,埋葬や供養のために支配・管理する権利しか行使できない特殊なものであること,既に墳墓に埋葬された祖先の遺骨については,祭最E財産として扱われていること,被相続人の遺骨についても,関係者の意識としては,祭記財産と問機に祭犯の対象として扱っていることなどからすると,被相続人の遺骨についても,その性質上,祭杷財産に準じて扱うべきものと解するのが相当である。したがって.被相続人の指定又は慣習がない場合には,家庭裁判所は,被相統人の迫骨についても.民法897条2項を準用して,被相続人の祭最Eを主宰すべき者,すなわち遺骨の取得者を指定することができるものというべきである。
エ 以上によると,被相続人Dが生前所有していた祭記財産の存在は認められないから,甲事件では,被相統人Dの迫骨についてのみ,取得者を定めることになる。また,前述のとおり.被相続人Eが所有していた祭杷財産は,①被相続人Dの位牌,②仏壇及び③○○寺の境墓であり,別紙目録記載のとおりであることが認められ.乙事件では,これらの承継者を定めることになる。なお,被相続人Eの位牌は,同人が生前所有していた祭杷財産には当たらない。
(2) 被相続人Dの遺骨について
ア 前記認定事実によれば,被相続人Dは,亡くなる前,相手方Bに対し「○○家のことを頼む。」と述べていたことが認められるが,これをもって,被相続人Dによる祭杷財産の承継者の指定とまでは認められなし、。また,特定の者を承継者とする慣習が存在することを認めるに足りる資料もない。
イ そこで,被相続人Dの祭杷を主宰すべき者,すなわち被相続人Dの遺骨の取得者の指定について検討する。祭事を主宰すべき者を指定するにあたっては.被相続人との身分関係や生活関係,被相続人の意思、,祭最E承継の意思及び能力,祭具等との場所的関係,祭具等の取得の目的や管理の経緋,その他一切の事情を総合して判断すべきである。これを本件についてみるに,被相続人Dの配偶者である被相続人Eが生存していないため,祭記承継の意思を示している長女である申立人と長男である相手方Bについて,比較検討して決することになる。前記認定事実によれば,申立人は,婚姻後.口口姓を名乗り.以来,現在まで遠隔地で生活しているのに対し,相手方Bは,婚姻後も○○姓を名乗り.昭和53年1月以降は,被相続人Dの自宅から徒歩圏内に居住していたこと,被相続人Dは,亡くなる前,相手方Bに対し. 「○○家のことを頼む。」と述べていたこと,被相続人Dは,晩年,申立人と不和になり,交流もほとんどなかったこと,被相続人Dの遺骨は,相手方Bが被相続人Eと共に費用を負担して取得したCわ家の墳墓に納められているこ.○○寺との檀家としての付き合いは,現在まで主に相手方Bが行ってきたこと,申立人が祭杷承継を主張し始めたのは.○○寺の○○家の墳墓に,申立人の亡夫の迫骨を埋葬することが目的であると窺われること,以上の事実が認められ,これにその他の前記認定の諸事情を総合すると.被相続人Dの祭最Eを主宰すべき者,すなわち,被相統人Dの遺骨を取得すべき者として相手方Bを指定するのが相当である。
(3) 被相続人E所有の祭杷財産について
ア 前記認定事実によれば,被相続人Eは,生前,相手方Bに対し○○家のことを全て頼むと述べていたことが認められるが,これをもって,被相続人Eによる祭柁財産の承継者の指定とまでは認められなし、。なお,申立人は,被相続人Eが,亡くなる4目前に,申立人に対し「A (申立人)に好きなだけ財産を取らせる。○○の実家はAが継いだらいい。基は家を継ぐ者に守ってほしい。」と告げて,被相続人E所有の祭記財産の承継者に申立人を指定した旨主張するが,これを認めるに足りる資料はない。かえって,前記認定事実によれば,申立人は.被相続人Eの再入院の事実さえ知らず,亡くなってから連絡を受けたというのであって,亡くなる4目前の被相続人Eの容態からしでも,遠隔地にいた申立人に対して,同人が主張するような話をしたという申立人の家庭裁判所調査官に対する陳述は措信できない。また,特定の者を承継者とする慣習が存在することを認めるに足りる資料もない。
イ そこで,被相続人E所有の祭最E財産を承継すべき者の指定について.前記披相続人Dの場合と同様に検討する。被相続人E所有の祭杷財産について,承継の意思を示しているのは,同人の長女である申立人と長男である相手方Bであるから,以下,両名を比較検討して決することになる。前述のとおり,申立人は,婚姻後,口口姓を名乗り,以来,現在まで遠隔地で生活し,被相続人Eが最初に○○の手術を受けた昭和63年から亡くなるまでの約10年間に,同人を訪ねたのはわずか3回であり,その訪問時には,被相続人Eと口論の末,暴力行為に及ぶなど,晩年の両者の関係は極めて悪く,被相続人Eは,申立人の魔除を望むほどであったことが認められる。一方の相手方Bは,婚姻後も00姓を名乗り,被相続人Eの自宅から徒歩圏内に居住して,相手方Cと共に,同人の日常生活の世話や家事援助を行い,同人の病状が悪化してからは身体介助も行い,被相続人Eは相手方Bを頼りにして同人に○○家のことを全て頼むと述べていたことが認められる。さらに,申立人は,現在も奈良県に居住しており,菩提寺である○○寺から地理的にも遠く,歩行に支障を生じてし、ることもあって,祭記を行うには,不便,不自由な状況にあり○○家の法事にも出席したことはないこと,前述のとおり,申立人が祭最E承継を主張し始めたのは.Cわ寺の00家の墳墓に,申立人の亡失の遺骨を埋葬することが目的であると窺われることがそれぞれ認められる。他方,相手方Bは○○寺の墳墓,被相続人Dの位牌及び仏壇の取得に要した費用の多くを負担し,被相続人Eの葬儀では喪主を務め,その後.00寺からの連絡は,相手方Bに宛ててされるようになり.Cわ寺の墳墓,位牌及び仏壇は,現在いずれも同人において管理し〇〇家の法事も同人が執り行っていることが認められる。以上に,その他の前記認定の諸事情を総合すると,被相続人E所有の祭杷財産を承継すべき者を相手方Bと定めるのが相当である。
3 よって,主文のとおり審判する。(家事審判官男揮聡子)
〔編注〕別紙は省略した。

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