相続放棄の申述却下審判に対する即時抗告事件

第1 抗告の趣旨及び理由
別紙「即時抗告申立書」に記載のとおりである。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によると,抗告人は,被相続人B (以下「被相続人」という。)の二女であること,被相続人は,平成18年3月29に死亡し,抗告人は,同日,被相続人の死亡を知ったこと,被相続人の遺産には,○○市○○x丁目x番xの土地等の不動産が存在し,抗告人は,被相続人の死亡を知った時点において,被相続人に上記不動産の遺産があることを知っていたこと,しかしながら,抗告人は,昭和54年ころから被相続人と別居しており,先に抗告人の父であり被相続人の夫であるC(平成7年×月×日死亡)の遺産である土地を相続取得していたことや被相続人の遺産の1つである○○市△△丁目×番×号の土地上には被相続人の居宅と共にその長女であるDの居宅が存在したことなどから,被相続人の遺産である不動産はすべてDが相続するものと考えていたこと,また,抗告人は, Dとは日常生活において疎遠であったことなどから, Dと被相続人の遺産分割の話などはしたことがなかったこと,抗告人は被相続人の死後の平成19年3月にDから知らされたことであるが,被相続人は,被相続人の有する一切の財産をDに相続させること等を内容とする遺言公正証書(以下「本件公正証書遺言」という。)を平成18年×月×日○○法務局所属公証人口口口口に帰託して作成していたこと,ところが,抗告人は,平成19年2月28日,東京地方裁判所平成19年(ワ)第xx号譲受債権請求事件(以
下「別件訴訟事件」という。)の訴状を受け取ったことにより,被相続人が,株式会社○○銀行に対する連帯保証債務(Dの夫であるEが代表取締役を務める株式会社△△と同銀行との聞の消費貸借契約に基づく株式会社△△の同銀行に対する主債務一切を保証する内容の連帯保証債務,以下「本件債務」という。)を負担していたことを初めて知ったこと,そこで,抗告人は,平成19年3月14日に岐阜家庭裁判所に対し本件相続放棄の申述を行ったこと等が認められる。
2 民法915条1項所定の3か月の熟慮期間は,原則として, 相続人が,相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から起算すべきものであるが,相続人が,上記各事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが,被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,被相続人の生活歴,被相続人と相続人との聞の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって,相続人においてこのように信じるについて相当な理由があると認められるときには,上記熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時文は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である(最高裁昭和59年4月27日第二小法廷判決・民集38巻6号698頁)。
そこで検討するに,抗告人は,被相続人の死亡を知った当時, 被相続人の遺産として不動産が存在することは認識していたものの,上記認定の事情の下で,抗告人は,上記不動産は姉であるDが相続して自らは相続取得しないもの,したがって自らには相続すべき被相続人の相続財産はないものと信じていたことが認められ,かつ,抗告人は後になって知ったこととはいえ,被相続人が平成18年×月×日に被相続人の一切の財産をDに相続させる旨の本件公正証書遺言を遺していること等からすでれば,抗告人が被相続人の死亡時において, 被相続人の遺産をすべてDが相続し自らには相続すべき財産はないと信じたことについて,相当の理由があったものと認めることができる。
また,上記認定の事実によれば,抗告人は,被相続人の遺産に相続債務が存在することを知らず,平成19年2月28日に別件訴訟事件の訴状を受け取って初めて本件債務の存在を知ったことが認められるとともに,本件債務が,Dの夫が代表取締役を務める会社の取引銀行に対する債務を主債務とする連帯保証債務であることや,抗告人,被相続人D及びその夫の居住関係及び交際状況等に鑑みれば,抗告人が被相続人の上記債務の存在を知り得るような日常生活にはなかったものと推認されることなどからすれば,抗告人が上記の時点まで本件債務の存在を認識しなかったことについても,相当な理由があったものと認めることができる。
そうすると,本件における熟慮、期間の起算日は,抗告人が別件訴訟事件の訴状を受け取って本件債務の存在を知った日である平成19年2月28日と解するのが相当である。
3 以上からすれば,平成19年3月14日に行った抗告人の本件相続放棄の申述は,未だ熟慮期間内の申立てであるから,これを受理するのが相当である。
よって,これと結論を異にする原審判を取り消し,抗告人の申述を受理することとして,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 坂本慶一 裁判官 林 道春 山下美和子)

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