相続の放棄申述却下審判に対する抗告事件

第1 事案の概要等

1 抗告人は,抗告人の子である被相続人亡B (以下「被相続人」という。)の相続につき,平成18年6月20日に相続放棄の申述をしたところ,原審は,既に法定のj切聞を経過しているとして,抗告人の申述を却下した。これに対し,抗告人が抗告したものである。

2 抗告の趣旨及び理由抗告人は,原審判を取り消し,本件を東京家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求め,その理由として別紙即時抗告申立書記載のとおり主張した。

第2 当裁判所の判断

1 本件の事実関係

一件記録によれば,以下の事実が認められる。

(1) 被相続人(昭和26年×月×日生)は,抗告人と亡Cとの六男として出生し.平成17年12月17日死亡した。被相続人の相続人は.母である抗告人のみであった。

(2) 抗告人は,死亡当日,被相続人の死亡を知り, 自己のために相続の開始があったことを知った。抗告人は,耳が悪く,物忘れはあるが,物事の是非弁別についての判断能力を有している。

(3) 抗告人の夫である亡Cは,平成5年×月× 日死亡した。同人の相続人は,妻である抗告人.長男であるD,二男であるE,三男であるF,四男であるG,五男であるH,六男である被相続人の7名であった。

(4) 亡Cの相続人らは,平成5年×月XB,その相続財産につき,遺産分割協議をし,抗告人民わ区Cわ×丁目×番×の宅地XXXm2及びその他の財産を,被相続人は同町×丁目×番XXの土地××m2 (以下「本件相続財産」という。)及び100万円を取得することとなった。

(5) 本件相続財産は, 00電力の高圧送電線用鉄塔に隣接する面積約4坪程度の変則的な三角形状の土地で,送電線路の設置及びその保全の為の土地立入等のため地役権が設定されており,単独での資産価値はほとんどない。

(6) 抗告人は,被相続人の死亡時,被相続人に本件相続財産があることを知っていたが,負債があることは知らなかった。抗告人は明治43年生まれで相続開始当時95歳で,相続開始の前後において,被相続人と抗告人あるいは抗告人の同居家族との日常的な交際はほとんどなかった。

(7) 抗告人は,平成18年4月20日, その親族が本件相続財産の登記事項全部事項証明書を入手したことにより,同相続財産には,平成11年×月× 日, 極度額xx万円の根抵当権設定の仮登記(権利者株式会社○○○)がなされていることを知ったιそこで,抗告人の長男であるDが弁護士Iに依頼し,被相続人の債務を調査したところ,被相続人が債権者・根抵当権権利者を株式会社Cにわとする債務につき,連帯保証(主債務者は自己破産)をしている事実が判明した。上記債務の残元本は平成13年時点で1200万円に達しており.超過利息の元本算入をしても,残元本の額は600万円を下回らない。

(8) 抗告人は,平成18年6月20日,本件相続放棄申述受理の申立てをした。

2 以上の事実によれば,抗告人は,平成5年×月×日,抗告人の夫Cの死亡に伴い遺産分割協議をし,被相続人が本件相続財産及び現金100万円を取得したことを知っていたもので,平成17年12月17日の被相続人の死亡という相続開始の原因たる事実を知った時点で, 自己が相続人となったこと及び被相続人には本件相続財産が存していることを知っていたとみられる。しかしながら,相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが,相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,被相続人の生活歴,被相続人と相続人との聞の交際状況その他諸般の事情からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって,相続人において上記のように信ずるについて相当な理由がある場合には,民法915条1項所定の期間は,相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又はこれを認識し得ベかりし時から起算するのが相当である(最高裁昭和59年4月27日判決・民集38巻6号698頁)。そして,上記判例の趣旨は,本件のように,相続人において被相続人に積極財産があると認識していてもその財産的価値がほとんどなく,一方消極財産について全く存在しないと信じ,かっそのように信ずるにつき相当な理由がある場合にも妥当するというべきであり、したがって,この場合の民法915条l項所定の期間は,相続人が消極財産の全部文は一部の存在を認識した時又はこれを認識し得べかりし時から起算するのが相当である。

これを本件についてみるに,抗告人は,平成17年12月17日の相続開始の時点で,被相続人には本件相続財産が存していることを知っていたが,本件相続財産にほとんど財産的価値がなく,一方被相続人に負債はないと信じていたものであり,かつ抗告人の年齢,被相続人と抗告人との交際状況等からみて,抗告人においてそのように信ずるについては相当な理由があり,抗告人が被相続人の相続債務の存在を知ったのは.早くとも平成18年4月20日以降とみられるから,本件の場合,民法915条1項所定の期間は,向日から起算するのが相当である。

そして,抗告人は,平成18年6月20日,本件相続放棄申述をしたものであるところ,上記申述は,上記の同年4月20日から3か月の熟慮期間内に行われたものであるから,適法なものというべきである。

3 結論

以上によれば,本件相続放棄の申述は受理すべきであり,本件抗告は理由があるから,原審判を取り消し,審判に代わる裁判をすることとして,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 青柳 馨 裁判官 豊田建夫 長久保守夫)。

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