特別縁故者に対する相続財産分与申立事件

第1 申立ての要旨
(1) 被相続人(大正3年×月×日生)は,平成13年×月×日死亡して,相続が開始した。
(2) 被相続人には法定の相続人が見当たらなかったので,相続財産管理人が選任され,同人の請求により相続人捜索の公告がなされたが,期間内にその権利を主彊するものがし、なかった。
(3) 申立人亡Aは,被相続人の生前,同人と特別の縁故関係があったとして,平成15年×月×日,特別縁故者に対する相続財産分与の申立てをした。
(4) Aは,平成16年×月×日死亡し,申立人ら(妻であるB及び養女であるC) が相続し,本件審判手続の承継を申し立てた。
第2 当裁判所の判断
1 さいたま家庭裁判所飯能出張所平成15年同第20号事件記録,同出張所平成13年隊)第C丈わ号事件記録,東京高等裁判所平成19年(ラ)第1876号事件記録及び本件記録によれば,申立ての要旨(1)ないし(4)の事実のほか,次の事実が認められる。
(1) 被相続人とAは,母親同士が姉妹であり,いとこの関係にあたる。被相続人は,大正3年×月×自に神奈川県co市で出生し,幼くして父を亡くし,戦前から最後の住所地となった埼玉県Cわ市内において,母Eと兄F,姉G,妹Hと生活していた。母Eは,昭和37年×月×日に亡くなり,姉Gは結婚して家を出た(昭和58年×月×日死亡)。その後は,生涯結婚することのなかった,被相続人と兄F,妹Hの3人で生活することとなった。被相続人は,小学校の教諭をしていたが,定年退職し,年金で生活を立てていた。兄Fも年金暮らしであったが,妹Hは,職に就かず, もつばら家事を担当していた。Aとは,同じ町内に住んでおり,戦前には兄FがAの経営するムム工場で働いていたこともあり,妹Hは,しばしばA宅を訪問して,交際があった。しかし,被相続人と兄Fは,対人関係が苦手で, A宅を訪れることは殆どなかった。やがて平成3年×月×日に妹Hが死亡し,被相続人と兄Fとの2人暮らしとなった。
(2) 平成8年×月×日に兄Fが死亡した。被相続人は,A宅を訪れ,Fが今日亡くなったので,宜しく頼みます。」と言って帰っていった。Aと妻である申立人亡A承継人Bが,被相続人方に行ってみると,既にFはミイラ化しており,響察に連絡し,死体の検視手続を了した。被相続人は,著しく衰弱し,精神状態も正常ではなかったため, Aが, Fの葬儀にかかる一切を代行して執り行った。
(3) Fの葬儀の後,平成8年×月×日, AとBが,被相続人を訪ねると,被相続人は法要のときに食べ過ぎたことが原因で.下痢をし止まらないとのことで,歩くこともできない状態であった。A夫妻は,救急車を呼び,○○病院に被相続人を入院させた。入院に際しては,Bと申立人亡A承継人Cが身元引受人,保証人となった。Cわ病院の主治医作成の診断書(さいたま家庭裁判所飯能出護所平成13年(家)第○○○号事件記録・嘱託する事項に対する回答)によれば, r平成8年×月×日発熱と下痢にて自宅前にて倒れているのを発見され救急車にて本院へ入院。独居であり.栄養状態も悪く,他人を寄せ付けない生活をしていたため,症状改善するも自宅での生活できる状態ではなく,身元引受人の希望もあり,継続入院となった。入院後漸次痴呆が増強し,平成9年×月頃より俳佃を認め,意味不明の発語が多く,平成10年になると,痴呆増悪し,同年×月には他患者の病室に入り迷惑をかけるため,閉鎖病棟での管理となる。平成11年×月×自転倒により右大腿骨骨折し,それ以後臥床したきりの状態となる。平成13年×月×日急性の心筋梗塞にて永眠する。」とある。
(4) 被相続人は,入院するに当たって,預金通帳と印鑑をAに預け,入院費用を預金から支払ってもらいたい旨申し向けた。入院時において,被相続人には,少なくとも,358万円余りの定期預金(口座番号xx x x x x x), 800万円の定期預金(口座番号xxxxxxx)と100万円余りの普通預金(口座番号xxxxxxx)があった他,2か月毎に,公立学校共済組合から24万円ないし25万円程の年金が支給されていた。Cわ病院から入院費用の請求があると,被相続人は,Aに請求書を渡し,Aが預金を払い戻して支払っていた。入院費用額は,時期によって変遷があるが, 10万円ないし14万円程度で,ほぽ年金収入で賄えることになっていた。A夫婦は,殆ど毎日病院に見舞いに行っていたと述べるが, 00病院は,完全看護で,洗濯等も病院で世話していたため,見舞いに行っても被相続人のために特に何かをするといったことはなかった。A夫婦は,被相続人がどんな治療を受けていたか, どんな薬を飲んでいたか全く把握していない。(さいたま家庭裁判所飯能出張所平成13年岡第○○○号事件記録・相続財産管理人作成の平成14年×月×日付け管理報告書(第1回)別紙4聴取書)
(5) 被相続人は,4年半の入院の後,平成13年×月× 日病院で死亡した。被相続人の葬儀は, AとBの2人だけで執り行った。Aは,葬儀費用として, 20万円を立て替えて出摘し,東京都○○区にある○○家の菩提寺○○院に埋葬し,永代供養料50万円を立て替えて支払った。
(6) 被相続人は,○○銀行(x)支庖に普通預金及び定期預金の口座を開設していた。被相続人は○○病院に入院するに際して,預金通帳と印鑑をAに預けていたものであるが,Aは,預かった預金通帳から,次のとおり払い戻している。口座番号xxxxxxxの総合口座の通帳(公立学校共済組合から隔月で年金が振り込まれていた通帳)から,普通預金を合計899万1821円払い戻し,別口の定期預金36万円を払い戻した。口座番号xxxxxxxの定期預金の通帳から,平成11年×月×日から平成12年×月×日まで8固にわたり.合計201万6257円を払い戻し,平成12年×月×日中途解約で156万7226円の支払を受けた。口座番号xxxxxxxの定期預金の通帳から.平成9年×月×日に150万円を,同年×月×日に300万円(内100万3019円が同日口座番号xxxxxxxの通帳に入金されている。)を,平成10年×月×日に350万円を解約した。以上のとおり, Aは,被相続人の預金から合計1993万5304円を払い戻して,受領している。他方で,Aは,被相続人のために,固定資産税25万9200円,国民健康保険税1万4200円を支払い,葬儀費用20万円,永代供養料50万円,粗大ゴミ撤去費用6万5535円を立て替えて支払った。また,00病院の入院費用として合計633万0647円が充てられた。以上の他にも,さいたま家庭裁判所飯能出張所平成13年嗣第Cにわ号相続財産管理人選任事件において,Aは,被相続人の看護費用と称し日当1000円合計150万7200円の被相続人に対する債権など種々の項目を債権として届け出るなどしているが,相続財産管理人が内容を的確に精査して,上記の立替金のみを正当な債権として認めている。したがって, Aが被相続人の預金から払い戻した合計1993万5304円から,被相続人のために適切に支払ったと認められる合計736万9582円を控除した1256万5722円が,Aが不当利得した金額であると認められる。(さいたま家庭裁判所飯能出張所平成13年隊)第Cにわ号事件記録・相続財産管理人作成平成14年×月×日付け管理報告魯(第2回),平成14年×月×日付け届出債権認否表,同出張所平成15年闘第20号事件記録・平成15年×月×日付け家庭裁判所制査官作成の調査報告書6頁
2 申立人亡A承継人ら代理人は.差戻前の抗告審において, 平成19年×月×日付け上申告をもって, r元来被相続人は,諸都自分で管理する性格であったから,預貯金その他貴重品は入院中でも自分で管理した。Jと主張し,Aが被相統人の預金通帳や印鑑を預かり.預金を管理していたことを否定する。しかしながら,平成13年×月×日,A及びBは.被相続人の相続財産管理人から事情聴取を受けた際, r被相続人は,入院したとき,私達にこの通帳と印鑑を預け,入院費用をこの預金から支払ってほしいと言っていました。病院から入院費用の請求書がくると,被相続人は,それを私達によこしましたので.私達は銀行へ行って預金を払い戻して支払っていました。Jと明確に,預金通帳と印鑑を預かった事実を供述している上(さいたま家庭裁判所飯能出張所平成13年闘第OCわ号事件記録・相続財産管理人作成の平成14年×月×日付け管理報告書(第1回)別紙4聴取書),申立人亡A承継人ら代理人自身,差戻前の原審・同出張所平成15年同第20号事件申立容において, 申立人(A) は,被相続人の預金や現金の管理を担当した」と主張して,預金等を管理したことをAの被相続人との特別縁故の事情としているのである。そればかりか,平成14年×月×日,被相続人の相続財産管理人がAの代理人となった0000弁護士(本件の代理人でもある。)と面会し,当時判明していた不当利得金556万5722円の返還を請求したのに対し,○○弁護士は.相続財産管理人と電話のやり取りをして,同年×月×日には「相続財産管理人から諮求のあった金銭は支払うように本人を説得しているが結論が出るのに時間がかかる。もう暫く待ってほしい。」と述べ,同年×月×日にはrAは,当初銀行から融資を受けて弁済しようと思い,銀行と折衝していたが,融資が受けられないことになった。それで.現在は信用金庫に融資をお願いし,話し合っているので暫く待ってほしい。Jと述べたものであり,A及びその代理人弁護士の行動は,まさに不当利得を自認していたものということができる(同出張所平成13年同第Cだわ号事件記録・相続財産管理人作成の平成14年×月×日付け管理報告宮(第3回)別紙)。ところが,差戻前の原審手続において,平成15年×月×日,家庭裁判所調査官がA及びBと面接した際に,A及びBは,突然前言を翻して,被相続人の財産の管理はしていないと供述するに至ったのである。A及びBは,従前の説明と全く相反することを述べるに至った経緯について,合理的な説明をすることができず,まさに不当利得の返還を免れんがために,前言を翻したものと断ぜざるを得ない。そして,前記1(3)認定の被相続人の入院時,入院後の病状の経過,Cわ病院が本人は金銭管理がで・きないと認定していること(同出張所平成13年闘第Cだわ号事件記録・嘱託する事項に対する回答「相談内容J) に照らせば,被相続人が預貯金を管理する能力があったと見ることは困難である。また, 00病院が,被相続人の預金の管理について, r入院時には,900万円ぐらいの預金があったが,平成11年2月にはほとんど残金なし。平成11年2月までは,入院保証人である○○様が, ○様(被相続人)の入院費用の支払等,全て行っていたが,あまりにも現金が少なくなるので,病棟の看護師(副婦長)○○が○○様と面談し,以後D様(被相続人)の入院費用等の支払を事務所に依頼する。Jとして,埼玉県に意見を求めたことがあり,平成11年×月×日には,年金が入金される,00銀行00支庖の被相続人の普通預金通帳(口座番号×xxxxxx)を同病院が預かることにしたとしみ経緯は,A及びBが被相続人の預金を管理して誌に出金していたことを窺わせる事実である。なお,上記通帳は,被相続人の死後Bに返還され,253万2546円が平成13年2月8日に出金されて残金0となり,同月19日に被相続人の死後振り込まれた年金及び利息計25万3439円が出金されて,残金0となった後,被相続人の相続財産管理人にAから引き渡された。(同出張所平成13特)第○○号事件記録・嘱託する事項に対する回答「相談内容」「預金通帳の写しに,通帳3冊受領しました。Bと記載のあるもの」「預り証」)以上検討したところによれば,上記1で認定したとおり,Aが被相続人の預金通帳や印鑑を預かり,預金を管理していたところ,これを窓に領得したことは明らかというべきである。
3 1で認定した事実により検討するに,Aについては,被相続人に対する4年半以上の療養看護(完全看護の病院に入院中の被相続人を時折見舞い,入院費用等を管理するといったこと)や葬儀の主宰の事実が認められるのであるが,他方で,療養看護の期間中において,被相続人の資産を1256万5722円もの多額に不当利得していることに照らすと, このように被相続人の療養看護の過程において被相続人の巨額の資産を不当に利得した者につき被相続人と特別な縁故がある者と認めるのは相当ではないというべきである。よって,本件申立てはこれを理由のないものとして却下することとし,主文のとおり審判する。(家事審判官生島弘康)

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ