特別縁故者に対する相続財産分与審判に対する抗告事件

第1 事案の概要等
1 事案の概要理由
(1) 被相続人(明治43年×月×日生)は,平成19年×月×日死亡した(97歳)。同女には法定の相続人が見当たらなかったので,抗告人B (被相続人の成年後見人。以下rBJとしみ。)の申立て(平成19年×月×日)によって相続財産管理人が選任され,相続人捜索の公告がされたが,期間内にその権利を主張する者はなかった。
(2) 被相統人の相続財産は,相続財産管理人によって管理されている預金6283万円余り及び別紙動産類目録(原審判のそれと同じもの)記械の宝石類等(以下「本件遺産動産」という。)である。
(3) 抗告人A (以下rAJという。)は,被相続人の父の妹の孫に当たり, Bは, Aの夫である。A及びBは,平成20年×月×日,それぞれ,被相続人と特別の縁故関係があったとして,相続財産の分与を求めた。
(4) 原審は,A及びBと被相続人との関係は,被相続人が89歳の高齢に達して老人ホームに入所するまでは,通常の親族関係の域を出るものではなかったけれども.老人ホーム入所後は,被相続人の療養看護,財産管理及び死後の法要等に尽力したものとみることができるから,いずれも特別縁故者に当たるとした上,特別縁故の性質,内容,程度,葬儀法要等のため負担した費用の額,相続財産の種類及び金額その他一切の事情を考慮、して,相続財産から,Aに対しては金300万円及び本件遺産動産,Bに対しては金300万円をそれぞれ分与する旨の原審判をした。
(5) A及びBが原審判を不服として即時抗告したのが本件である。
2 抗告の趣旨及び理由
(1)抗告の趣旨抗告人両名は,原審判を取り消し,本件を京都家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求めた。
(2) 抗告の理由抗告の理由は,別紙のとおりであって,結論的には,A及びBの抗告人両名に対し,相続財産の全部を分与すべきであるとするものであるが.その要旨は,次のとおりである。ア被相続人が老人ホームに入所するまでのA及びBと被相続人との関係は,遠隔地とはいえ,入所の10年も前から,極めて親密な交流を継続してきたものであるから,これを, 「通常の親戚関係の域を出るものではなかった」とした原審の認定は,重大な事実誤認というべきである。イBは,成年後見人の通常の職務内容を超え, Aとともに,法定相続人による場合に勝るとも劣らないほど,献身的に被相続人の療養看護に尽くしたものであるのに,原審はこれを其に考慮しているとは見られない。財産管理についても同様である。ウ死後の法要等に関する貢献については,原審判後にされた三回忌法要及び永代供養等に必要な出費を考慮すべきである。
第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原審判中,被相続人の相続財産から, Aに対し本件遺産動産を分与した点は相当であるが, A及びBに対しそれぞれ300万円を分与するとした点は,やや低額であるので,これを変更し, A及びBに対し,それぞれ500万円を分与するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおりである。
2 記録によれば,原審判2頁7行目から3頁23行自までの事実が認められる。
3 以上の事実関係によると,被相続人が高齢及び認知症状により一人暮らしが困難となって老人ホームに入所するまでの聞は, A及びBと被相続人は,遠隔地に居住していたこともあって,その関係は,精神的な交流を中心とするもので.親しい親戚関係の範囲内にあるものと評価することはできるが,相続財産の分与を相当とする関係に達Lているとまでみることは困難というえきである。しかし,被相続人が平成11年に老人ホームに入所してからは, Bが,入所時の身元保証人や成年後見人となったほか, AとBは,多数回にわたって,遠距離の旅程をものともせず,老人ホームや入院先を訪れて,親身になって被相続人の療養看護や財産管理に尽くした上,相当額の費用を負担して,被相続人の葬儀を主宰したり,その供養も行っているものである。このような関係をみると, AとBは,被相続人と通常の親族としての交際ないし成年後見人の一般的職務の程度を超える親しい関係にあり,被相続人からも信頼を寄せられていたものと評価することができるから,民法958条の3所定の,いわゆる特別縁故者に該当するものと認めるのが相当である。
4 そこで,被相続人の相続財産からどの程度の財産をAとBに分与すべきかについてみるに,上記のA及びBと被相続人の特別の縁故関係,相続財産管理人保管に係る相続財産が,本件遺産動産のほか預金約6283万円であること,その他,本件に表れた一切の事情を考I置すると,原審の定めた金額はやや低額とみることができ,被相続人の相続財産からAに対し本件遺産動産及び500万円を, Bに対し500万円を,それぞれ分与するのが相当というべきである。抗告理由は,この限度においては,理由がある。
5 なお,A及びBは,更に上記のとおり,同人らに相続財産の全部を分与するのが相当であると主張するが,採用できない。すなわち,(1) 被相続人が老人ホームに入所するまでのA及びBと被相続人との関係は,上記のとおりにみることが相当であるけれども,特別縁故とみるに至らない点では原審と同旨であるから,原審の認定に重大な事実誤認があるということはできない。(2) また, A及びBの療養看護上及び財産管理上の貢献並びに被相続人の死後の供養については,これらを十分割酌した上で,上記のとおり分与額を定めるのが相当というべきであり,これを更に増額すべき事情があると認めることはできない。
6 以上の次第で,本件抗告は.上記説示に沿う限度で理由があるから,.家事審判規則19条2項に従い,これと異なる原審判を変更することとし,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官田中j仕太裁判官小野木等久保井恵子)

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