未成年者略取被告事件

弁護人○○の止告趣意、は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。なお, 所論にかんがみ,未成年者略取罪の成否について,職権をもって検討する。
1 原判決及びその是認する第1審判決並びに記録によれば,本件の事実関係は以下の左おりであると認められる。(1) 被告人は,別居中の妻であるBが養育している長男c(当時2歳)を連れ去ることを企て,平成14年11月22日午後3時45分ころ,青森県cxコ市内の保育園の南側歩道上において.Bの母であるDに連れられて帰宅しようとしていたCを抱きかかえて,同所付近に駐車中の普通乗用自動車にCを同乗させた上,同事を発進させてCを連れ去り.cを自分の支配下に置いた。
(2) 上記連れ去り行為の態様は, cが通う保育園へBに代わって迎えに来たDが, 自分の自動車にCを乗せる準備をしているすきをついて,被告人が,c に向かつて駆け寄り, 背後から自らの両手を両わきに入れてCを持ち上げ,抱きかかえて,あらかじめドアロックをせず, エンジンも・作動させたまま停車させていた被告人の自動車まで全力で疾走じ, cを抱えたまま運転席に乗り込み, ドアをロックしてから,cを助手席に座らせ,Dが,同車の運転席の外側に立ち,運転席のドアノブをつかんで・開けようとしたり,窓ガラスを手でたたいて制止するのも意に介さず,自車を発進させて走り去ったというものである。被告人は,同日午後10時20分ころ,青森県口口郡ムム町内の付近に民家等のない林道上において, cと共に車内にいるところを警察官に発見され.通常逮捕された。(何ω3剖) 被告人が土記行為に及んだ経紳被告人は, Bとの聞にCが生まれたことから婚姻し,東京都内で3人壬・生活していたが,平成13年9月15日, Bと口論した際,被告人が暴力を振るうなどしたことから, Bは,cを連れて青森県co市内のBの実家に身を寄せ,これ以降,被告人と別居し, 自分の両親及びCと共に実家で暮らすようになった。被告人は,巴と会うこともままならないことから,CをBの下から奪い,自分の支配下に置いて監護養育しようと企て, 自宅のある東京からCらの生活するCわに出向き,本件行為に及んだ。なお,被告人は,平成14年8月にも,知人の女性にCの身内を装わせて上記保育闘からCを連れ出させ.ホテルを転々とするなどした末, 9日後に沖縄県下において未成年者略取の被疑者として逮捕されるまでの間, cを自分の支配下に置いたことがある。
(4) Bは,被告人を相手方として,夫婦関係調整の調停や離婚訴訟を提起し,係争中であったが.本件当時,cに対する被告人の親権ないし監護権について,これを制約するような法的処分は行われていなかった。
2 以上の事実関係によれば,被告人は,巴の共同親権者の1人であるBの実家においてB及びその両親に監護養育されて平穏に生活していたCK 祖母のDに伴われ妻:固から帰宅する途中に前昇のような態様で有形力を用いて連れ去り,$護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから,その行為が未成年者略取罪の構成要件に該当することは明らかであり,被告人が親権者の1人であることは,その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるベーき事情であると解される(最高裁平成14年(あ)第805号同1-5年3月18日第二小法廷決定・刑集57巻3号371頁参照)。本件において.被告人は,離婚係争中の他方親権者であるBの下からCを奪取して自分の手元に置こうとしたものであって,そのような行動に出ることにつき, Cの監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められないから,その行為は,親権者によるものであるとしても,正当なものということはできな’い。また,本件の行為態様が組暴で強引なものであること, cが自公の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児であること,その年齢上,常時監護養育が必要とされるのに,略取後の監護養育について確たる見通Lがあったとも認め難いことなどに徴すると,家族聞における行為として社会通念上許容され得る枠外にとどまるものと評することもできなし、。以上によれば.本件行為につき,違法性が阻却されるべき事情は認められないのであり,未成年者略取罪の成立を認めた原判断は,正当である。よって, 刑訴法414条,386条1項3号により,主文のとおり決定する。

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