戸籍訂正許可申立事件

第1 申立ての趣旨及び実情
申立人は,主文と同旨の審判を求めた。その理由は,申立人は出生以来.その名を戸籍上「詫」と表記され.「詫」の名を名のってきたのに,本人に何の連絡もなく戸籍上の名が「喜」に変えられたというものであり,その趣旨は,上記の表記の訂正が違法であるとして,戸籍法113条の事由を主張するものと解される。
第2 当裁判所の判断
1 記録によれば.CXJ町長は,戸籍法117条の2に基づいて電子情報処理組織により戸籍事務を。取り扱うことのできる旨の指定を受け(平成16年法務省告示第599号).平成16年12月xx日から戸籍事務のコンピュータ化を開始し,あわせて, ー同日付けで申立人が入籍している芦籍(筆頭者甲野ムム)を改製し,申立人の名の表記が「詫」であったのを「喜οJと改めたものと認められる。
2(1 )戸 籍は国民の身分事項を記録し,社会一般に対し公証する公簿で・あるから,その記載には社会一般に通用,する正しい文字を用いる必要があるというべきであり(一般国民が正しく識別できない文字を用いて表記する場合には,その者の社会内での識別に支障を来し,ひいては,その者本人に生活上の不利益を与えるおそれもある。)このような要請は,出生した子の名に常用平易な文字を用いなければならない旨を定める戸籍法50条,同法施行規則60条や,戸籍の記載をするには略字又は符号を用いず,字画を明らかにしなければならないとする同規則31条1項等の関係法令の規定からもうかがうことができる。他方においてて,実際には,戸籍事務担当者の書き癖等の要因から誤字(文字の骨組みに誤りがあり,公的な字形とは認められないもの)により氏名等が記載される例もあるが,このよう注記載はでーきる限り解消する必要があることから,新戸籍の編製,他の戸籍への入籍文は戸籍の.再製に伴う氏名の移記の際,誤字につ.いては,特別の定めのあるもの以外ば,当該誤字に対応する字種及ひe字体による正字で記載するものとする取扱いがされているところであり(平成2年10月20日仔け法務省民二第5200号民事局ー長・通達人本件のような戸籍事務のコンビュータ化による戸籍改製に際しても,基本的に同様の取扱いがされている(平成6年11月16日付け法務省民ニ第7000号民事局長通達(以下「本件通達」という。))。このような表記の訂正については, もとより個人の氏名を実質的に変更するものではないし,こ仮にとの取扱いにより.氏名の表記モのものに対する愛着を害する場合があるとしても,そのことは,上記の公簿としての要請に基づく合理的な制約として,許されるもの.と解するのが相当である。
(2) したがって,ある者の誤字による氏名の表記が正字によるものに訂正され,そのことが当人の意に沿わないということのみからは,当該記載に戸籍法113条にいう違法があるとはいえない。しかし,他方において,本件通達は,上記の前提に立ちながらも,氏名が誤字で表記されている者の当該表記に対する愛着等の感情に配慮して,一定限度で手続上の配慮、をすることとしている。すなわち,市区町村長は,名の表記を誤字から正字に改めるに際しては,事前に本人に対し密面により告知をした上,本人から正字への表記訂正を欲しない旨の申し出がある場合には,電子情報組織による取扱いに適合しない戸籍として,改製を要しない(従来の紙による戸籍が引き続き本人の戸籍簿として扱われる。)こととする特例が認められている(本件通達第7・1(2)エ,同2(2)ウ・エ)。この特例は,従来の誤字で表記された戸籍を改製しないで存置するというものにすぎず,改製後の戸籍に誤字による記載をすることは想定していないと解されるけれども,上記の事前告知の手続は,市区町村長に裁量を与えるものでない一律の取扱いとして定められたものであって,単に表記訂正に伴うトラブルを未然に防止する行政サービスにとどまるものとはいえずその目的は,自己の氏名につき誤字による表記の維持を望む者に対し.引き続きそのままの表記で公証される機会ないし手続的利益を与える趣旨にあるとみるのが相当であるから.市区町村長が上記の事前告知の手続を省略し,又は表記の訂正を欲しない旨の本人の申し出を無視して訂正をするなど,本人に上記の機会を与えたといえない場合には,戸籍法113条にいう違法な戸籍の記載がされたものとして, もとの表記への戸籍訂正を許可することができるものと解するのが相当である。3(1 ) そこで検討すると,申立人は,平成19年7月×自実施の事実調査に対し,同年4月に住民累の交付を受けた際,自分の名の表記が改められていることに気づいたが,平成16年12月に先立つ時期に, O.O 町長から名の表記の訂正に伴う告知害が送付されてきた記憶はない旨を述べてし:モ。そして,本件通達及びこれに基づく取扱い上,申立人の名の表記の訂正に際しては,申立人本人にあてて事前の告知をすべきものとされているのであり(本件通達第7・2(2)ゥけ)(イ)),記録によれば,申立人は上記の時期において.告知曹が送付されるべき申立人の戸籍附票上の住所地(平成6年11月16日付け民ニ第7001号法務省民事局第二課長依命通知第3・2(2) に居住していたと認められることにも照らせば,申立人に送付された告知書が,申立人の気づかないうちに廃棄されたなどの事情があったとも考えにくい。他方,記録によれば,(わ町長の保管する記録上,申立人に対して告知書の発送手続をとったところ発送できず,又は返戻されたとの形跡はないが,発送手続の前提として作成された告知書の発送先リストは平成18年に廃棄済みであって,そもそも申立人にあてて告知書の発送手続がとられたことを裏付ける記録がない(なお.本件通達に基づく取扱いにおいては,告知ができなかったり,告知書が返戻された場合に限り記録を残せば足りるわけではなく,告知の日,内容等を適宜の方法で記録しておく《きものとされている〔上記依命通知第3・2(3)) ところ,上記発送先リストの内容がこの要請を満たすものであったかどうかは判然としない。)ことが認められるから, そもそも,申立人に対し漏れなく告知容が発送されたかどうかに疑念をいれざるを得ない。
(2) 以上の事情を総合すると,記録上.Cわ町長が申立人に対し,本件通達に基づく申し出の機会を与えたと認めるのは困難で、あるか戸籍法113条に基づき,申立人の従来の名の表記への戸籍訂正を認めるのが相当である。
4 よって.主文のとおり審判する。(家事審判官土屋毅)

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