性別の取扱いの変更申立事件

第1
申立て申立人の性別の取扱いを男から女に変更する。
第2 認められる事実戸籍及び除籍各謄本,戸籍及び除籍各記録全部事項証明書,改製原戸籍謄本,各診断書,染色体検査報告書.証明ID.陳述書によれば,以下の事実が認められる。
1 申立人の身分関係等に関係する事実
(1) 申立人は,昭和40年生まれの男性である。
(2) 申立人は,昭和63年×月にBと婚姻し.平成2年×月に同人と協議離婚した。
(3) その後.cが申立人の子を妊娠し,平成3年×月に同人と婚姻して長女D (平成3年×月×日生まれ)をもうけた。しかし,平成6年×月には,同人と協議離婚した。
(4) さらに,申立人は,平成6年×月にEと婚姻し,平成11年×月に同人と協議離婚し,現在は婚姻していない。(5) 長女Dは,平成20年6月23日. F (昭和31年×月×日生まれ)と婚姻し,同年7月4日協議離婚した。
2 性同一性障害等に関係する事実
(1) 申立人は,遅くとも.cとの離婚.Eとの婚姻のころには性別違和が持続するようになっていたところ,妻Eにそれを打ち明けた上でその理解を得て,平成9年からホルモン療法を開始し,平成10年に顔の女性化手術を受けた。(2) さらに,平成11年×月,タイの病院で2段階の性別適合手術を受けた。その結果,申立人の生殖腺の機能は永続的に失われ,性器に係る部分の状態は女性の性器に係る部分ととれる状態となっている。
(3) 申立人は,平成12年×月に名を「(X)」から現在の名に変更した。また,同年中に.声を女性化する声帯手術を受けた。
(4) 申立人は,平成20年×月及び平成21年×月.○○クリニック○○医師及びロロクリニック口口医師から,一致して,性同一性障害者であると診断された。第3 当裁判所の判断第2の各事実を前提に判断する。なお,本件は平成20年12月18日に申し立てられたものであり.同日施行された性向一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の一部を改正する法律(同年法律第70号)による改正後の性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下,単に「法J-という。)が適用される。1 法2条については) 申立人の陳述書中の陳述によっても,申立人が心理的には女性であるとの確信を抱いた時期は明らかではないが,前記認定の申立人の婚姻史および治療史を総合して判断すれば,遅くとも,平成9年にホルモン療法を開始したころ以降は,現在に至るまで,心理的には女性であるとの持続的な確信を持ち,かつ自己を身体的および社会的に女性に適合させようとする意思を有しているものと認められる。(2) そして,前記第2, 2(4)の診断のうち平成21年×月のものにおいては,申立人の婚姻史を勘案しても,申立人には上記持続的確信および性別適合意思があるとの診断が一致している。
(3) したがって,申立人は,法2条に定める性同一性障害者である。2 法3条1項1号, 2号, 4号及び5号について前記認定事実によれば,申立人は,法3条l項1号, 2号, 4号及び5号の各要件に該当する。3 法3条l項3号について(1) 前記第2, 1 (3)及び(5)認定のとおり,申立人の長女Dは平成3年×月×日生まれ(17歳)であるが,同人は,平成20年6月23日の婚姻の届出により,成年に達したものとみなされるから(民法753条),申立人は,形式的には,現に未成年の子がいないとの要件(法3条1項3号)に該当する。
(2) しかし,前掲各資料及び職権により行った事実の調査(関係人D審問及び申立人審問の各結果)によれば,上記婚姻についてはさらに以下の事実が認められる。長女Dは婚姻届出時16歳(高校1年生),夫Fは同51歳であるところ, Dは, FはDが12歳くらいのころから申立人とDの自宅に同居していると述べ,申立人も, Fは申立人とD双方の友人であるが年齢的にも近い申立人が先に知り合ったと述べている。Dは,家事審判官の質問に対し, Fの年齢については「50くらい」と,職業については「知らない」と,結婚した理由については「結婚したいからじゃないっすか」,「好きだったんじゃないっすか」としか答えない。さらに, DとFについては,婚姻届の11日後である平成20年7月4日に離婚届が提出されている。Dは,家事審判官の質問に対し,離婚したのはr7月4日だから独立しようって感じだったJ,「離婚したかったから離婚したって感じです」と答え,離婚後も,婚姻前,婚姻中と同様に,申立人, D, Fの3人での同居生活が続いている。(3)上記(2)の各事実及び本件に現れた一切の事情を総合的に考慮すれば,申立書の申立ての実情欄及び第2, 2 (4)の診断書の家庭環境等の欄に「申立人は平成15年から交際していた男性と長女とともに同居している」と記載されているその男性がFであり, DとFは,平成20年6月18日に同年法律第70号が公布されたことを受けて,同法が施行されれば申立人が性別取扱い変更の申立てをすることができるよう,DとFの聞には実質的な婚姻意思がないのにDについて婚姻による成年擬制を受けることを目的として同月23日に婚姻の届出をしたものと強く推認される。そして,申立人は,申立人とFの関係, Dの生活実態等から, Dの婚姻が婚姻意思を欠くものであったことを知る立場にありながら,父としてこれに同意した上で(民法737条1項),同婚姻によって戸籍上はDについて成年擬制が及ぶことを利用して, Dが満20歳に達するのを待つことなく平成20年法律第70号の施行当日に本件の申立てを行ったものであり,本件申立ては法の趣旨に反し,法により認められる申立権を濫用したものと認めるべきである。なお,申立人は,審聞において, DとFの婚姻,離婚については申立人の申立てとは関係がなくその全部の経緯は知らない等と述べ,またFも婚姻は当事者聞の意思によるものである旨の意見曹を提出したが,いずれも採用することができない。
第4 結論よって,申立人の申立ては不適法であるからこれを却下することとして,主文のとおり審判する。(家事審判官松村徹)

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ