市町村長処分不服申立却下審判に対する抗告事件

第1 抗告の趣旨及び理由
1 事案の概要抗告人は,事件本人の法定代理人母として,事件本人につき,氏の変更(母である抗告人の再婚前の氏rB野」から抗告人の現在の氏rA JIIJへの変更)の申立てを原審裁判所にし(原審裁判所平成18年岡第xx号). 同裁判所において,子の氏変更の申立てに関する限り,事件本人の監護者である抗告人が民法791条3項の法定代理人に該当し,単独で事件本人を代理して上記審判の申立てをすることができるとして, その申立てを認める審判(以下「本件基本審判Jという。)が行われた。そこで,抗告人が,平成18年4月10日.00市長に対し,事件本人の母の氏を称する入籍届け(以下「本件入籍届け」とし、う。)を提出したところ,同年5月1日,民法791条3項所定の法定代理人からの届出に該当しないとして不受理とされた(以下「本件不受本件は,抗告人が,上記のような経緯で,戸籍法118条. 119条に基理の処分Jとし、う。)。づき,本件不受理の処分に対し,原審裁判所に対し, 不服の申立て(以下「本件申立てJという。)をしたところ,原審裁判所において,本件基本審判は,子の監護者である抗告人が,①家庭裁判所の許可の審判を申し立てる限りで,民法791条3項の法定代理人に該当すると判断したにとどまり,②戸籍法の定めるところによる届出(以下「入籍届けJという。)についてまで同項の法定代理人に該当すると判断したものではなく, 15歳未満である事件本人につき,抗告人から提出された入籍届けを,法定代理人からの届出に該当せず,本件不受理の処分に違法・不当な点はないとしてi本件申立ては理由がないとして,これを却下した。そごで,抗告人がこの審判に対し,抗告を申し立てた事案である。2 本件抗告の趣旨は, f原審判を取り消す。本件を原審に差し戻す。J旨の裁判を求めるものでありその抗告の理由は即時抗告申立書のとおりであるが,要するに,民法791条3項の立法趣旨によれば,子が父叉は母と氏を異にする場合に,子が15歳未満であるときは,子の福祉・利益尊重の観点から子の氏の変更につき,その法定代理人に①家庭裁判所の許可の申立て及び②同許可広基づく戸籍法の定めるところによる届出を行う権限を認めたものと解すべきであり,本件基本審判もその趣旨に出たものであるにもかかわらず原審のように,本件基本審判はi抗告人に上記①に限つての法定代理権を認めた趣旨であるとすると,氏の変更の許可を得た子で‘あっても,入籍届けができないという不当な結果を招くもので、あって,上記民法791条3項を実質的に空文化させることとなる。また,子の氏の変更は,家庭裁判所の許可がその実質的要件の一つで-あり,戸籍法98条の届出により効力を生ずる行為であるから既に家庭裁判所の許可の審判がされている以上,その審判の申立人の資格に欠けるところがあったからといって,その届出を不受理にすべきではない。第2 当裁判所の判断1 当裁判所も,原審と同様,本件基本審判は,上記②入籍届けについてまで,子の監護者である抗告人を民法791条3項の法定代理人に該当すると判断したものと解することができないから, 15歳未満である事件本人につき,抗告人から提出された本件入籍届けを,法定代理人からの届出には該当しないとして行われた本件不受理の処分に違法・不当な点はないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
(1) 抗告人は,平成14年×月×日,抗告人とその前夫であるB野C男との間の子である事件本人につき,その親権者を父であるB野C男と定め,監護者を母である抗告人と定めて,調停離婚した。抗告人は,同月×日,戸籍法77条の2の届出をして離婚時の氏であるfB野」を称し,事件本人は,同年×月×日,抗告人の氏fB野」を称する旨の届出が親権者父により行われた。事件本人は,遅くとも平成16年×月×日;から母である抗告人の下で同居して,養育されている。そして,抗告人は,平成17年×月×日A川D男と再婚し,平成18年×月×日,同人との聞にEをもうけ,同日から翠住所に転居し,夫A川D男,事件本人及びEと同居している。
(2) .抗告人は,平成18年3月31日,原審裁判所において,事件本人の氏を,母である抗告人の再婚前の氏fB野」から抗告人の現在の氏fA J IIJに変更する許可,すなわち本件基本審判を得た(同年閥第xx号)。そして,同年4月10日,本件基本審判に基づき,本件入籍届けを事件本人及び抗告人の本籍地の戸籍係に行った。しかし,本件入籍届けに対して,同年5月1日,本件不受理の処分が行われた。
(3) 子の氏の変更については,子が父又は母と氏を異にする場合には,子は,①家庭裁判所の許可を得て,②入籍届けをすることによって,その父文は母の氏を称することができる(民法791条1項)とされ,氏の変更の効力が生じるのは,許可に基づき,入籍届け,すなわち氏の変更によって同氏となるべき父又は母の戸籍に入籍する旨の届出(戸籍法98条1項)を了した時点である。そして,その子が15歳未満であるときは.その法定代理人が,これに代わって,上記の行為をすることができる(民法791条1項. 3項,戸籍法98条1項)とされている。ところで.子の親権者と監護者が分離分毘している場合には,子の氏の変更の申立ての代理権は,親権者に留保されており,監護者はこれらの権利義務を有しないと解するのが相当である。なぜならば,監護とは,親権の主たる内容である監護.及び教育(民法820条).子の居所指定権(同法821条).懲戒権(同法822条).職業許可権(同法823条)を中心とする身上監護権を分掌し,子の財産につき管理及び代理する権限ないし養子縁組等の身分上の重大な法的効果を伴う身分行為について代理する権限は,親権者に留保され,監護権者にはこれらの権限は帰属しないと解するのが相当であるからである。もっとも,子の氏の変更の申立てのうち,上記①の子の氏の変更許可裁判の申立てについて,監護者が法定代理人に該当するとした審判例(釧路家庭裁判所北見支部昭和54年3月28日審判・家裁月報31巻9号34頁)は見受けられるが,少なくとも,上記②入籍届けをする権限についてまで\監護者が法定代理人に該当するとした先例は見当たらないし,戸籍先例としても,15蔵未満の子につき氏の変更の許可を得た上で行う入籍届けの届出人は,法定代理人である親権者文は後見人に限るとされている(昭和25年7月22日付け民事甲第2006号民事局長回答,昭和26年1月31・日付け民事甲第71号民事局長回答)。
(4) したがって.民法791条1項及び3項に基づく入籍届けは,法定代理人である親権者文は後見人が届け出なければならないというべきであり,本件入籍届けは法定代理人(親権者であるB野C男)でない監護者(抗告人)が行ったものであり,本件不受理の処分に違法・不当な点はないとした原審判は相当である。なお,抗告人は,事件本人は,現在,前記のとおり,抗告人,その夫,その聞の長女と同居しているところ,抗告人の戸籍への入籍が不可能となれば,一つの世帯宅事件本人は,家族の他の者と異なる氏を名乗らなければならず,学校生活等の社会生活上多大な不利益を甘受しなければならないとも主張するが,上記入籍届けの権限,が事件本人の親権者である父に在ることに照らし,やむを得ない結果である。この不都合を解消するには,親権者の協力を得て親権者から届け出てもらうか,親権者の変更の申立てをして,その変更の許可を得て上で,抗告人が新しく親権者となり,入籍届けを了するなど,法律の範囲内で所期の目的を遂げるほかないといわざるを得ない。2 以上の次第で,原審判の判断は相当であり,本件抗告は理由がないから.これを棄却することとして.主文のとおり決定する。(裁判長裁判官宮崎公男裁判官山本博今泉秀和)

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