子の監護者の指定申立及び子の引渡し申立各認容審判に対する即時抗告事件

第1 事案の概要等
1 事案の概要
(1) 相手方(妻)は.抗告人(夫)と別居した後s 自己の監護下にあった未成年者を抗告んが実力で連れ去ったため(平成16年9月26日).抗告人に対し,相手方を未成年者の監護者に指定し,未成年者を相手方に引き渡すことを求める審判申立て及び同趣旨の審判前の保全処分申立てをした。
(2) 原審は,平成16年12月15日,相手方の申立てを認容し,未成年者の監護者として相手方を仮に指定し,未成年者を相手方に仮に引き渡すべきことを命じる審判(審判前の保全処分)をし, この審判は,抗告審である当裁判所も支持しだ(平成17年2月28日)。
(3) 抗告人は,上記保全処分審判に基づく履行勧告に応ぜず.また,2回にわたる強制執行(平成16年12月28日,平成17年1月7日)にも従わず,上記抗告審決定後(平成17年3月31日)にされた強制執行においても,未成年者の所在を秘匿して,これを阻止した。
(4)原審は,平成17年4月5日. 相手方の本案の申立てを認容し, 未成年者の監護者として相手方を指定し,未成年者を相手方に引き渡すべきことを命じる原審判をし,抗告人が抗告を申し立てた。これが本件である。
2 抗告の趣旨及び理由
(1) 原審判を取り消し,本件を原審に差し戻す旨の裁判を求めた。
(2) 抗告理由は,別紙のとおりであるが,その要旨は,次のとおりである。ア未成年者は,抗告人が44歳になって初めて得た子で, 目の中に入れても痛くないほど可愛がっている子である。このような親子の情愛を考えれば,抗告人が平成16年9月26日に未成年者を連れ去ったことには,否定し得ない面がある。イ相手方は,具体的な離婚原因がないにもかかわらず,未成年者を連れて別居し,平穏な家庭生活を破壊したものである。未成年者を連れ去った抗告人の行為が許されないのなら,このような相手方の行為も許されないはずである。ウ本件申立ての当否の判断に当たっては,未成年者は,抗告人と相手方のどちらに監護されるのが,未成年者の利益になるのか,具体的な判断が必要である。しかるに,原審判は.抗告人が批護者になると,面接交渉に協力するかどうか疑わしいとか,抗告人による監護が長期化すると,未成年者にとって適切な監護環境とはいい難いものになる可能性があるとか,抽象的な判断しかじていない。エ未成年者は,現在,抗告人に設育監護されて,良好な環境下にあるのであって, このような環境を変更すべき具体的な必要性は認められない。
第2 当裁判所の判断
1 当裁判所も,原審判と同じく,本件に顕われた事実関係の下においては,未成年者のより健全な成長を図るという福祉の観点からみて,早急に未成年者を相手方の監護の下に戻すのが適切て“あるから,未成年者の監護者を相手方と定め,抗告人に対し,相手方への未成年者の引渡しを命じるのが相当であると判断する。その理由は,原審判の理由説示のとおりであるから, これを引用する。
2 抗告理由は,次のとおり,いずれも採用できない。
(1) 抗告理由アについて記録によれば,抗告人と未成年者との面接については,平成16年9月6日に相手方申立てに係志夫婦問調整(離婚)調停事件が不成立になった後も,引き続き協議することが予怠され,抗告人は,面接交渉を求める調停を別途申し立てる意向を示していた。それにもかかわらず,抗告人は,調停の申し立てをすることなく,同月26日,相手方の膝下で平穏に監護されていた未成年者を実力で連れ去ったものであり,この行為をもって,未成年者を見かけて思わずとってしまったもので,偶然に発生したことなどと評価することはできない。このような,抗告人の行為は,例え,それが未成年者に対する愛情に基づくもので、あふたとしみ面があるとしても,・法的手続を軽視するものと評されて当然のもめであるだけでなく,相手方と未成年者との親密平穏な母子関係を事実上断絶させるとし、う深刻な結果をもたらす点においても看過しがたいものというべきであって,これを正当化するいささかの事情も認められない(なお,審判前の保全処分審判に基づく数次の強制執行における持告人の態度は極めて遺憾であり,今後の法的手続において,抗告人の人的評価,親権者適格等にかかわる重要な事情として考慮されるべきことは,同事件における当審決定においても言及したところである。)。
(2) 同イについて抗告人と相手方の別居の主たる原因がし、ずれにあるかについては,終局的には今後の法的手続において解明されるべきことであるが(記録に照らすと,当事者聞においては,既に離婚訴戸が係属中であることが窺われる。),本件記録に顕われた事実関係に照らすと,別居の原因が相手方にのみ存するとは到底判断できなし、から,抗告人の主張は,その前提を欠くものというべきである。,また,相手方は,未成年者の出生から抗告人との別居までの間,未成年者の監護を主と-して担っていたものであるから,そのような相手方が抗告人と別居するに際して,今後も監護を継続する意思で,未成年者とともに家を出るのは,むしろ当然のことであって,それ自体,何ら非難されるべきことではない。相手方の上記行為は,相手方の監護の下にある未成年者を実力で・連れ去った抗告人の行為とは全く異質のものというべきである。
(3) 同ウについて本件申立ての当否は,未成年者の福祉の観点から決せられるべき-ことは,抗告人の主張のとおりであるが,原審判は,そのような観点から適正に本件申立ての当否を判断しているものといえる。すなわち,原審判は,本件では監護の継続性が最重要視されるべきところ,認定事実からは,相手方が未成年者の監護のために果たした役割や相手方と未成年者との結びつきは,抗告人のそれに比ベて大きく強いといえることを第1の理由とし,法的手続を軽視するこれまでの抗告人の種々の行為からは,抗告人を監護者とすると,相手方と未成年者の面接交渉に協力するかどうか疑わしいと推認できることを第2の理由として,本件の結論を導いているのちあって,その、判断は,適正なものである。これが抽象的な判断に過ぎないとの抗告人の主張は,本来維持されるべき未成年者と相手方との密接な関係を切断した自らの行為の意味を自覚しない,自己中心的な見解で,到底採用することができない。
(4) エについて抗告人が両親の援助を受け,現在のところ,未成年者を適切に監護している模様であることは,原審判の認定するところである(もっとも,相手方による強制執行を警戒するため,未成年者の所在を秘匿している昨今の抗告人の態度からみおと,これが未成年者にと.って適切な監護環境とはいし、難いものとなる可能性があることは原審指摘のとおりである。)が,この点を考慮しても,出生時からの監護の継続性のほか,原審判の説示する上記理由を総合的に考え併せると,抗告〉人で‘はなく相手方において未成年者を監護するのが,未成年者の福祉に適うとし、うべきである。抗告人は,真に未成年者の福祉を考えるのであれば,これまでの頑なな態度を改め,原審判に従い,自発的に,かつ,できるだけ速やかに未成年者を相手方の許に戻すことが必要である。
3 以上の次第で原審判は正当であり,本件抗告は,理由がないから棄却することとし,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官田中社太裁判官松本久村田龍平)

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ