子の監護者の指定申立及び子の引渡し申立却下審判に対する即時抗告申立事件

第l 抗告の趣旨及び理由等
1抗告の趣旨
(1) 原審判を取り消す。
(2) 本件を広島家庭裁判所へ差し戻す。
2 抗告の理由の要旨未成年者らの監護者は,抗告人が適当である。幼児期における母親の存在は,子の健全な成長発育には不可欠なものであり,母親自身が子の監護をする意思がない場合など特段の事情のない限り,母親が監護者ひいては親権者に指定されるのが子の福祉に適うものである。
3 抗告の理由に対する反論の要旨未成年者らの監護者は,相手方が適当である。幼児期の子の健全な成長発育に不可欠なのは,母親だけではない。父親も同様に不可欠であ’る。単に抗告人が母親であるとし、う理由だけで,抗告人が監護者りいては親権者に指定されるべきだというのはし、ささか乱暴な論理であ篭る。未成年者らが相手方の下で・順調に成長発育していることをも踏まえると,監護者は相手方がふさわしい。
第2 当裁判所の判断
1 認定事実当裁判所が認定する事実は,以下のとおり.付加・訂正するほかは,原審判の「第2 当裁判所の判断Jの1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原審判2頁2行目から同7行目までを次のとおり改める。i(l) 抗告人は.昭和48年,cxx)で出生し,平成5年ころ,最初の婚姻をしυE(平成8年×月×日生)をもうけたが,平成12年ころ, Eの親権者を抗告人と定めて協議離婚したρ 同じころ.抗告人は,別の男性と内縁関係になり,同人との間の子供を妊娠したことから婚姻屈を提出したが,子供が生まれてしばらくすると,主として経済的な問題が原因となって夫婦関係が悪化し,平成15年に別居。した。平成15年7月ころ,抗告人が都内の00で働いていたとき.客として来庖した相手方と知り合い,交際するようになった。抗告人は,当時の失と協議離婚をしたが,その際,夫との間の子供の親権者は夫に定めた。相手方は,当時,△△をしていたが,廃業して○○市に帰る予定であったので,抗告人と相手方は,00市で生活することにし,ひとまず先に抗告人とEが00で生活を始めた。抗告人の実家は,離婚にも相手方との再婚にも反対で,抗告人と実家は絶縁状態になった。相手方は,口口の事情で廃業が平成16年8月まで遅れたが,廃業後,広島県00市△△町のマンションで,抗告人及びEと同居を始めた。抗告人と相手方は,’平成16年×月×日,長男Cをもうけたことから同日婚姻届出をし(同日,相手方とEとの養子縁組届出も行われた。),平成17年×月×日には長女Dをもうけた。そのころから,主として経済的な問題で,夫婦聞の不和が高まった。抗告人は,出産前後の時期を除いてほとんどの期間就労していたため,未成年者らとも0歳のときから保育所に預け,夜間もO口で働くなど家を空けざるを得ないこともあったが,家事や育児は,抗告人が中心となって行い,相手方がこれに補助的に関わっていた。J
(2) 原審判2頁9行、自の「暴力をふるっていた」の次に「(なお,相手方は,未成年者らに体罰を加えることはなかった。)」を,同13行目末尾に「相手方の両親は,未成年者らが生まれたときから行き来が多かったので,監護養育の当初から未成年者らは相手方の両親によく懐いていた。Jをそれぞれ加える。
(3) 原審判2頁18行自の「係争中であるが」を「係争中であり,当事者聞に離婚すること自体に時争いがなし、が」に改める。
(4) 原審判2頁21行目末尾に改行の上,次のとおり加える。「現在の抗告人方から,自転車で数分のところに保育所がある。’抗告人は,未成年者らを引き取ったら,当面は現在の住居で生活し,抗告人一人で未成年者らを養育する予定である。近くに友人もいるので,いざというときにはその援助も期待している。また,離婚訴訟が解決したら,実家のあるCDに帰るつもりでいる。抗告人は,実家の援助や友人の援助も受けることができるのではなーし、かと期待している。抗告人と実家とは,相手方との婚姻当初から,絶縁状態になっており,現在に至るも父は抗告人の行動に対する怒りが強く,抗告人が実家に直接連絡戸ることはできない状況にある。ただし,抗告;人は,母に対しては父に知られないように連絡を取ることはできる。もっとも,母に対しでも,まだ具体的な協力は求めていない。」
(5) 原審判2頁24行目末尾に改行の上,次のとおり加える。「相手方は,仕事の都合上,未成年者らを養育するのに相手方両親の助力を得ることが必要である。相手方両親は,協力的であり,今後も引き続きその援助が期待できる。なお,相手方は,平成18年4月,抗告人から受診を勧められ, 0O検査等を行った結果,CD障害によってCわを呈しているものと診断された。当初,薬を服用していたがγ 調子の思いこともないので,現在はやめている。」(6) 原審判3頁l行目末尾に「未成年者らが家にいるときは,相手方かその両親のいずれかが面倒をみている。時間的には,相手方両組が多く関わっているが,相手方も帰宅した後に入浴させたり,休日には遊びの相手を務めるなど、している。Jを加える。
2 判断(1)上記のとおり,抗告人と相手方との婚姻関係は既に破綻に瀕しており,・未成年者らを共同で監護するとし、う実態は失われているから3 このような場合には,民法766条を類推適用し,家事審判法9条l項乙類4号により,親権者の一方を未成年者の監護者に指定することができると解される。
(2) そこで,この指定の必要性の点も踏まえて,監護権者として抗告人と相手方のいずれが適当であるかにつき判断する(子の監護に関する処分は,子の福祉に直接に関係し,裁判所による後見的関与の必要性が高い込のであること,本件においては,現に未成年者らの住所をどこに定めるかとし、う監護の基本的な事項についても抗告人と相手方との間で対立しており,抗告人はI未成年者らが通っている保育所を変えたいとの意向を漏らしている午と」現在離婚訴訟が係属中て・あってもその確定長でには時間を要することに照らすと,監護者の指定申立てを受けた裁判所としては,監護者の指定をせずに上記実態を放置するのは相当ではなく,適切な監護者を定めるべきである。)。上記認定事実によれば,抗告人・相手方とも,監護者として適性を欠くとまではし、えない(相手方にはCわの診断もあるが.普段の生活に支障があるようではなく,未成年者らに対して感情的行動を、するなど,監護に支障をきたす事実があるとも認められない。)。また物的な養育環境の面でも,抗告人・相手方とも未成年者らが安定して生活するに足りる住居や保育所などの環境を整えており,この面で両者に有意な差があるとはいえない。しかしながら,今後の未成年者らの人的な養育環境の面を考えると,抗告人は,当面は抗告人一人で現在の住居に持いてEの外,未成年者らを養育し,いざというときには友人の援助も期待しているが,養育の意欲に欠ける点微ないとしても,一人で未成年者らの監護を全うするのは現実的には困難であるとしみ外なく,友人の援助なるものも具体性に乏しく,これを安易に期待することはできなし、。また,抗告人は,いずれC丈ト転居して実家の母を監護補助者とし,その援助を受けることをも期待しているが,これまでの経緯にかん品みると,その現実的な可能性には疑問を差し挟まざるをえないし,その具体的な態様も明らかではない。これに対し,相手方に関しては,現在の人的な養育環境に大きな変化のないまま,安定的に推移するであろうことが期待できる。以上によれば,将来の人的な養育環境が不分明なまま現在の監護状況を変化させることはし、たずらに監護の安定性を欠くことになる.のであって,相手方の下で生活する方が,未成年者らの福祉にかなうというべきである。この点,抗告人は,幼児期における母親の存在は,子の健全な成長発育には不可欠なものであるとして,抗告人を監護者とするのが適当であると主張するが,相手方の母によって母性的な監護もなされているのであって,抗告人が母親であるという点は,上記の判断を覆すほどに重視すべきものではない。したが4て,未成年者らの監護者については,当面,いずれも相手方と定めるのが相当である。
(3) 次に,未成年者らの引渡しの申立てについては,監護者でなし、抗告人が監護者である相手方に対して引渡しを求める理由は存しないから,これを認めることはできない。
3 結論ー以上のとおりであって,未成年者らの監護者をいずれも相手方と定め,抗告人の相手方に対する未成年者らの引渡しの申立てを却下すべきところ,原審判はし、ずれの申立ても却下しており,上記と一部趣旨を異にするので,家事審判規則19条2項に基づき,原審判を変更することとし,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官康田聴裁判官山本和人山口浩司)

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ