子の監護に関する処分(面接交渉)審判に対する抗告事件

第1 抗告の趣旨及び理由
奈良家庭裁判所が平成20年同第○○号子の監護に関する処分(面接交渉)申立事件につき,平成20年×月×日付けでした審判は,これを取り消し,本件を奈良家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求めた。抗告理由の要旨は,①抗告人は,奈良家庭裁判所平成15年岡第○○号子の監護に関する処分(面接交渉)申立事件(以下「前件審判」という。)についての平成16年×月×日付け前件審判で認められた未成年者への誕生日とクリスマスのプレゼントの送付を,入国管理局により収容されていた期聞を除いて毎年欠かさず送り続け,また,同審判において相手方が抗告人に送付することとされた未成年者の写真を相手方に送付するよう求める働きかけをしてきたのに,これと反する認定をした原審判は不当である,②相手方は審判で面接交渉が定められれば,立ち会う意向であるから,抗告人と未成年者の直接の面接交渉が可能であるのに,これを認めなかった原審判は不当である,③前件審判で命じられた義務さえ守ろうとしない相手方は,前件審判と同様の内容を維持した原審判による義務も守らず,未成年者の福祉に反することになり,また,抗告人が退去強制となった場合には,未成年者が父である抗告人と会う機会はほぼ永久に失われることになり,未成年者の福祉に反し,不当である,というものである。
第2 当裁判所の判断1 事実関係一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1) cx.コ国国籍を有する抗告人(1966年×月×日生)は,平成5年×月ころ,短期滞在の在留資格で・来日し,残留期間が経過したまま4年間不法に残留し,その後は日本人女性と2回婚姻し, 日本人の配偶者等の在留資格を得て日本に在留していたところ,平成12年ころ相手方(昭和55年×月×日生)と知り合い,平成13年×月×日に婚姻した。抗告人と相手方との聞には,同月×日,長男である未成年者が出生したが,平成14年×月末文は×月初めころ別居し,同月×日,未成年者の親権者を相手方と定めて協議離婚した。未成年者は,出生以来,相手方の実家で相手方及び相手方の両親とともに生活している。
(2) 抗告人は,平成14年×月×日,未成年者との面接交渉を求める調停を申し立てたが,調停は不成立となって審判手続に移行し,平成16年×月×日,抗告人と未成年者が面接交渉する時期,方法等を定めることを求めだ主位的申立てが却下され,相手方に対し,① 3か月に1回.3か月以内に撮影した未成年者の写真3枚を送付すること及び②抗告人が未成年者にクリスマス及び誕生日にカード及びプレゼントを送付することを妨げてはならないとの内容の前件審判がなされ,確定した。なお,上記調停事件と並行して,抗告人から親権者変更調停事件及び子の監護に関する処分(養育費支払)調停事件が申し立てられたが,いずれも取り下げられた。
(3) 抗告人は,相手方との離婚後の平成14年×月×日に在留期間が満了した後も, 日本に不法に残留していたところ,平成18年×月×日,在留特別許可を求めて入国管理局に出頭し,同年×月×日に収容令書が執行されて収容された。抗告人は, co入国管理局入国審査官から出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。) 24条4号ロ(不法残留)に該当するなどの認定を受け,○○入国管理局特別審査官から同認定に誤りがないとの判定を受けて異議の申出をしたが,同年×月×日にco入国管理局長から,上記異議には理由がなく,在留を特別に許可しない旨の裁決を受け,同月×日に00入国管理局主任審査官から退去強制令書が発せられた。抗告人は,平成19年×月×日に上記裁決及び上記退去強制令書発付処分の取消しを求める訴えを提起し,①抗告人は未成年者との面接交渉権を有し,未成年者の健全な成長のためにも抗告人と面接交渉することは極めて重要であるのに,退去強制となれば,事実上未成年者と面接交渉することはほぼ不可能であり.抗告人及び未成年者にとって回復不可能な損害となり,特に未成年者の最善の利益に反し,児童の権利条約等の条約に抵触すること,②抗告人は来日して以来約13年間,入管法違反以外に何らの違法行為も行わず, 日本でまじめに生活し,十分な日本語能力もあり,日本での生活に十分に馴染み,不法残留は未成年者の養育及び成長を気にかけ,面接交渉を強く望んでし、たためであって,その情状は重くないこと,③抗告人の00国での稼動経験,経済状況,親族の経済的余力の点から,抗告人がco国で生活することは困難であることなどを主張した。抗告人は,同年×月×日に仮放免され,その後は一時期友人宅で生活し,平成20年×月に現住所に転居した。
(4) 抗告人は,前件審判確定後,前記(3)の収容令書の執行を受けるまで,未成年者にクリスマス及び誕生日にカード及びプレゼン卜を送付したほか,相手方と別居した当初は月額10万円を,その後は概ね毎月l回3万円程度を未成年者の養育費として相手方に送金した。他方,相手方は,抗告人に対し,前件審判の約1か月後及び平成18年×月ころに未成年者の写真を送付したが,それ以外には写真を送付しなかった。抗告人は,相手方の実家に電話をかけ,相手方の両親又は相手方から未成年者の様子を聴くことがあった。抗告人は,平成18年×月×日,行政書士の立ち会いの下,相手方の父と面談して未成年者の様子について聴き,そのころ,相手方の父から,未成年者の写真並ひ・にco入国管理局及び法務大臣に宛てた,抗告人の望む処分をすることを嘆願する旨の陳述書の交付を受けたが,未成年者との面接交渉は,相手方の強い反対により実現しなかった。
(5) 抗告人は,仮放免された直後である平成19年×月×日,未成年者との面接交渉を求める調停を申し立てたが,相手方が抗告人と未成年者との面接交渉に応じる姿勢をみせなかった。抗告人は,平成20年×月×日付け及び同年×月×日付けの未成年者宛ての手紙を相手方に送付したが,未成年者に会いたいなどと記載されていたため,相手方はこれらを未成年者に見せなかった。同調停は,平成20年×月× 日に不成立となり,審判手続に移行し.同年×月×日,抗告人と未成年者との直接の面接交渉を認めず,相手方は抗告人と未成年者との間の手紙のやりとりを妨げてはならないとの内容の原審判がなされた。相手方は,同年×月になってから.未成年者の写真3枚を抗告人に送付した。(6) 抗告人が提訴した前記(3)の訴訟につき,同年×月×日,大阪地方裁判所は,抗告人の請求をいずれも棄却する旨の判決をなした。同判決において,抗告人が相手方に対して未成年者の養育費を送金したり,未成年者に対してプレゼン卜を送付して面接交渉の実現を望みながら,面接交渉をめぐる紛争が未解決のまま推移した点で,抗告人の不法残留に至った経緯については酌むべきところがないとはいえないとしながら,抗告人が短期滞在の在留資格で来日して以来,約4年聞にわたり不法残留して不法就労を続け,その後, 日本人女性2名と婚姻し,2人目の妻と別居して事実上の離婚状態にありながら,婚姻同居が継続しているかのような書類を作出して在留許可を受けるなど,このような抗告人の在留状況が,在留特別許可の許否の判断に当たり,抗告人に不利益にしんしゃくされてもやむを得ないと指摘した。そして,抗告人は未成年者の出生後約半年間同居したのみで,その後, 今日に至るまで一度も直接面接交渉していない上,相手方による未成年者の養育状況には特段の問題はうかがわれないことなどからして,退去強制令魯発付等の結果として抗告人と未成年者との面接交渉が困難になるとしても,そのことが未成年者の福祉に反するとは直ちに認めがたいことなどをも併せ考えると,前記(3)の裁決において,抗告人の在留を特別に許可しなかったCわ入国管理局長の判断に裁量権を逸脱し,文は濫用した理庇は認められず,また,同裁決の思庇を前提とする前記(3)の退去強制令書発付処分が取り消されなければならない旨の主張は理由がないとして,抗告人の請求を棄却した。
(7) 抗告人の生活状況及び意向ア抗告人は,不法滞在により就労が禁止されているため収入がなく,在日○国人の団体や親族から援助を受けて生活している。イ抗告人は,未成年者が日本人の両親を持つ子に比べて自らの出生について関心を持つことが予想されるとして,仮に退去強制となっても,一目でも未成年者と会っておく意義があると考えており,未成年者に○国のことを話したいし,来日してから肌の色のため差別を受けることがあったため,その対処方法についても話しておきたいとの意向である。また,抗告人は,相手方を嫌つてはいないが,未成年者との面接交渉の機会を利用して,相手方との復縁を求めるつもりはないと述べた。抗告人としては,相手方が面接交渉の条件とした後記(8)エの条件を概ね了承するが,回数については,相手方の仕事の繁忙期を除いて,毎月1回を希望している。なお,抗告人は,相手方が指定する待合せ場所について,抗告人がCわ県外に出る場合には, 事前にCわ入国管理局の許可を得る必要があるため,早めに場所を指定してもらうことを希望している。(8) 相手方及び未成年者の生活状、況及び意向ア相手方は,抗告人と離婚した後も未成年者とともに実家で両親と生活し,相手方の父が経営する学校教材等の販売をする会社で営業職として働いている。そのため,毎年,新学期が始まる前後の3月から5月及び年末の12月が特に忙しし、。イ未成年者は,小学校1年生に在籍し,平日の放課後並びに春,夏及び冬の長期の休みの聞は,学童保育で過ごしている。未成年者は,外国人の親を持つことが分かる風貌であり, 3歳のころ,父がCわ国人であることを伝えたが,それ以上に詳しい事情は伝えていなし、。また.自宅には抗告人の写真もないため,未成年者は抗告人のことは全く知らない状態である。相手方は,原審判に移行する前の調停段階で,未成年者に対し,抗告人と会いたいかどうかを尋ねた際. i会いたいかどうかわからない。とりあえず,やめておく。」と答えていたと述べた。ウ相手方は,抗告人が日本での在留資絡を得る手段として未成年者との面接交渉を求めていると考えており,その動機が信用できないとして面接交渉には反対している。また,抗告人が,未成年者との面接交渉の機会を利用して相手方に復縁を求めてくる可能性があるとも考えている。さらに,相手方は,未成年者が抗告人に馴染まない可能性があるし,仮に馴染んでも,抗告人が退去強制されると,未成年者にショックを与える可能性があるから,このまま抗告人に未成年者を会わせないのが一番ょいとの意向である。エ相手方は,どうしても抗告人と未成年者との面接交渉をさせなければならないのであれば,面接には相手方が付き添いたいし,頻度は半年に1回程度とし,仕事の繁忙期は避けてほしい,曜日は土曜日とし,昼間の1時間から2時間程度とし,抗告人は,相手方に対し,面接交渉に必要なこと以外に連絡をしないでほしいし,相手方の了解なく,未成年者と直接約束事をしないでほしいなどと述べた。
2 前記の事実関係を前提に,抗告人と未成年者との面接交渉について検討する。
(1) 面接交渉の可否子と非監護親との面接交渉は,子が非監護親から愛されていることを知る機会として,子の健全な成長にとって重要な意義があるため,面接交渉が制限されるのは,面接交渉することが子の福祉を害すると認められるような例外的な場合に限られる。ところで,相手方は,抗告人が未成年者との面接交渉を求める動機を疑問視し,仮に未成年者が抗告人と馴染んだ後に抗告人が退去強制された場合に未成年者に与える影響をも懸念して面接交渉に反対している。確かに,抗告人は,前記1(3)の訴訟において,未成年者との面接交渉が抗告人及び未成年者にとって極めて重要であり,抗告人が退去強制となると抗告人と未成年者にとって回復不可能な損害となる旨主張しているが,これは,抗告人が日本での在留許可を求める理由のーっとして主張するものであり,そのことゆえに抗告人が日本で・の在留許可を求めるために未成年者との面接交渉を利用しているとまで・は認められなし、。また,抗告人が未成年者との面接交渉の機会を利用して相手方との復縁を求める可能性があるとも認められない。抗告人は,上記訴訟の1審で敗訴したことをも踏まえ,仮に退去強制となる場合でも, 日本に滞在している聞に未成年者と面接交渉し,未成年者に抗告人が父であることを知らせ,母国00固について話をするなど,直接の面接交渉を実現することに意義があると考えている。確かに,未成年者が抗告人と面接交渉し,抗告人への愛着を感じるようになったのに抗告人が退去強制となった場合には,未成年者が落胆じ悲しむことも考えられるが,未成年者が父を知らないまま成長するのに比べて,父を認識し,母だけではなく,父からも愛されてきたことを知ることは,未成年者の心情の成長にとって重要な糧になり, また,父が母国について未成年者に話すことは,未成年者が自己の存在の由来に関わる固について知る重要な機会となる。抗告人が日本を退去強制となると,当面は未成年者との直接の面接交渉は困難になるが,手紙等の交換を通じての交流が統けば,未成年者が成長した後も親子聞の交流は可能であることにかんがみると,未成年者の福祉を図るためには,現時点で抗告人と未成年者との直接の面接交渉を開始する必要性が認められる。したがって,相手方は,抗告人に対し, 抗告人と未成年者との面接交渉をさせる義務が認められる。
(2) 面接交渉の条件前記のとおり,抗告人と未成年者との面接交渉を認めるとしても,その条件については,未成年者の年齢やこれまで未成年者が抗告人を知らなかったこと,相手方の生活状況や意向等にかんがみると,面接交渉の頻度は3か月に1固として相手方の仕事の繁忙期を外し(平成21年2月以降,毎年2月. 6月. 8月及び11月).開始時聞は午後O時とし,初回は1時間.2回目以降は2時間とし,相手方が付き添うことなどを内容とする主文第2項のとおりとするのが相当である。
3 以上のとおり,相手方には,抗告人に対し,主文第2項の条件で,抗告人と未成年者との面接交渉をさせる義務があると判断する。よって,本件抗告は,上記説示に沿う限度で理由があるから,家事審判規則19条2項により,原審判を変更することとし,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官松本哲拡裁判官白石研二永井尚子)

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ