子の監護に関する処分(養育費)〔減額〕申立事

第 1 申立ての趣旨
主文同旨
第 2 当裁判所の判断
1 本件一件記録によれば,次の事実を認めることができる。
( 1 ) 申立人(昭和43 年O 月O日生)と相手方(昭和42 年O月O日生) は,平成3年11 月26 日婚姻し,平成 4年O 月O日に長女である未成 年者 c(以下「長女Jという。) .平成7 年O月O日に二女である未 成年者 D(以下「二女」とし、ぅ。)がそれぞれ生まれた。
(2) 申立人は,平成1 6 年2 月末か 3 月初めころ,相手方から離婚の申 し入れを受けた。申立人としては突然のことであり ,離婚したくは なかったが,相手方の強い意向を受け,離婚することを了承した。 また,申立人は,その際,相手方から口頭で,長女及ひ’二女の養 育費として 1 人月額1 0 万円.2 人分計20 万円の支払いを求められた が応じなかったところ,その後,相手方から. 1 人月額8 万円.2 人分計1 6 万円の養育費を申立人が相手方に支払 うことを内容とする 離婚協議書に押印するよう求められた。申立人は,離婚協議書への 押印は断qたものの,結局. 1 人h 額 7万円. 2 人分計1 4 万円の養 育貨を支払う ζとを了承した。そこで,相手方は,平成1 6 年×月× 日ころ,申立人との養育費の取り決めを公正証書にすべく ,公証人役場に行き,公正証書の作成を依頼した。
( 3 ) 申立人と相手方は,同年×月×日,公証人役場に赴き,長女及び 二女の親権者を相手方と定め近日協議離婚することを前提に,東京 法務局所属公証人口口口口作成句平成16 年第xx 号離婚給付等契約 公正証書‘ (以下 「本件公正証書Jとし、う。)に署名押印l!- .申立人 は,相手方に対し,その第 l条第 1 項をもって,平成16 年 4月か ら,長女及び二女がそれぞれ大学を卒業する月までの聞の毎月,長 女及び二女の養育費として. 1 人当たり各月額7 万円を支払う旨, また,第l 条第 2 項をもって,前項の月額養育費については,当月 分を毎月末日限り( 第 1回目の支払については,平成16 年4 月25 日 限り) .相手方に持参文は相手方が指定する銀行口座に振込手数料 を申立人が負担して振り込み支払う旨をそれぞれ約した(以下,本 件公正証書の第 1 条第 1 項及び第 2 項を併せ.i 本件養育費約定J ‘とし、う。)。 なお,本件公正証宮中の第3 条には,申立人が本件養育費約定に 定められた月額養育費の支払いを 2 か月分以上遅滞したときは,分 割払いの期限の利誌を喪失し,申立人は,相手方に対し, その遅滞 額及び将来にわたる未払月額養育費の合計額を一括して直ちに支払 う旨が定められている( 以下 「本件期限の利益喪失約定」と い う。)。
(4) 申立人と相手方は,翌 3月18 日, 長女及び二女の親権者を相手方 と定め,協議離婚した。 しかし,申立人としては,当時特段の替えもなく ,すぐに家を出 て行ける状況にはなかったことや, 相手方からも,号| っ越し費用が 貯まるまでは同居してよいと言われていたことから,離婚後も当分 の聞は相手方及び未成年者らと同居生活を継続できると考えてお裁判 例 (~(事) り,平成16 年・ 3 月分の給与についても,従前どおり.. 全額相手方に 渡した。ところが,現実に同居生活を続けてみると,離婚した相手 方との生活は思いのほか辛く,また,相手方が長女に申立人との離 婚を告げたのを知って,申立人は,相手方及び未成年者らとの同居 生活を続けることに耐えられなくなり ,平成16 年 4 月3 0 日, 家を出 て申立人の両親が住む都営住宅に一時身を寄せたものの,収入及び 居住制限のある都営住宅に住み続けるわけにもいかず,周年7月, 現住所地のマンションを賃借の上,転居した。
( 5) 申立人は, 相手方との婚姻~Þ. 相手方に給与の全額を渡し家計の 管理一切を任せていたため,別居した場合に生活費がどれだけかか るのかなどについて十分認識していなかったところ,別居後の平成 16 年5月から本件養育費約定どおり相手方に対し,長女及び二女の 養育費として毎月14 万円を支払うようになった。しかし.2 人分の 月額養育費と して1 4 万円を支払うと,毎月の生活費が足りなくな り,申立人は,やむなく不足分を申立人の父母からの援助(借入 れ)によって補い生活していたものの,このままでは経済的に破綻 するとして,同年 7月2日,当庁に本件養育費約定に基づく養育費 の減額を求め,本件子の監護に関する処分(養育費)の調停(以下 「本件養育費減額調停」とし、う。)を申し立てた。 申立人は,当初.2 人分の月額養育費を 6 万500 0 円に減額するこ とを求めたが,相手方は減額すべき事情変更がないとしてこれに応 じず,その後も 2 人分の月額養育費として,申立人は7 万円への減 額を,相手方は12 万円を限度としての減額をそれぞれ主張して議ら なかったことから,調停委員会は. ~人分の月 額養育費を10万円に 減額する調停案を提示した。相手方は,この調停案を受け入れる旨 表明したが,申立人は,期日聞に,父母からの援助が実は父母の庖の客である Eからの借入金であるとの事情が新たに判明し,申立 人自身が Eに対し100 万円近い借入金の返済をしなければならなく なったことを理由に.調停案を受け入れることはできない旨回答し た。そのため,調停委員会は,新たに判明した事情を裏付ける資料 を申立人から提出させた上,2 人分の月額養育賀を 9 万円に減額すす る旨の再度の調停案を提示したところ,申立人は,これを受け入れ る旨表明した。しかし,申立人が平成16 年5 月から平成17 年 2 月ま では本件養育費約定どおり 2 人分の養育費として毎月14 万円を支払 ってきたのに,同年3 月からは一方的に 9 万円に減額して支払うよ うになったことから,相手方は,これに納得できないとして,再度 の調停案の受け入れを拒否したため,同年4月27 日,調停不成立と なり,本件審判に移行した。
( 6 ) 申立人は,現在,現住所地のマンション(月額賃料8 万5000 円) で,一人暮らしをしている。申立人は,和食の調理師で,所属する にわJの斡旋を受け,派遣された佐事先から給与を得ている。申 立人は,平成1 6 年 2 月から,派遣先のムムの口口の ro ムJに勤務 しているが,雇用期聞は定められておらず,勤務条件については, 毎月25 日出勤 ・ 手取り給与( 基本給)35 万円となってお り,賞与が 支給されるかどうかは決まっていなし、。 また,申立人は,ふぐの調 理師免許を取得しているため,ふぐの季節である1 2 月から3 月には 季節手当( 月2 万円)がつき,週 1 回の休みの日に,庖の都合で出 勤すると超過勤務手当がつく。申立人の平成1 6 年の給与等の総収入 は492 万3 620 円(甲35 )であり .平成1 6 年 2 月から同年12 月までの ro ムJからの超過勤務手当分は2 万8 000 円,季節手当分は2 万円, ‘此与は58 万6 160 円(6 月賞与2 1 万9 8 00 円, 12 月11 与36 万6360 円)で ある。また,平成17 年の給与等の総収入は,563 万8856 円である(甲13 ,甲3 7 )が,勤務条件については平成16 年と変更はなく,平 成16 年より総収入が増えたのは,賞与及び手当(特に超過勤務手 当)の増加によるものであり ,平成1 7 年は,基本給税込み年収439 万63 20 円のほかに,超過勤務手当分が2 1 万円,季節手当分が 8 万 円,賞与が95 万2536 円 ( 7 月貸与4 0 万2996 円,12 月賞与54 万9540 円)となっている。
( 7 )相手方は,現在,申立人との婚姻中居住していた現住所地の区営 住宅に,長女(公立中学2 年)及び二女(公立小学校6 年)の3 人 で生活している。現住所地の区営住宅は,協議離婚に際し,相手方 が申立人からその契約者名義を引き継いだもので(本件公正証書第 4 条参照) ,月額家賃は収入に応じ決定されるが,平成17 年7 月現 在では4 万4 000 円である。 相手方は,本件公正証書作成当時,株式会社060 に勤務してお り,勤務当初はパートであったが.平成16 年3月1 7 日正社員となっ た。基本給は月11 万円で(乙 2の1-3) ,1t与はない。 相手方は.平成1 6 年 6 月から株式会社O ムムに転職し現在に至っ ており ,正社員として主に経理関係の仕事をしている。基本給は, 月2 0 万円で(乙 3 ,乙 4の 1-5) ,貸与はない。平成1 7 年分の給 与所得の源泉徴収票によれば,相手方の平成17 年の総収λは, 240 万6000 円である。
2 そこで,前記 1で認定の事実をふまえ,本件養育費約定により合意 された月額養育費を減額すべき事情変更の有無等について,以下検討 する。 ところで,本件公正証哲作成当時の申立人の総収入を平成16 年の給 与等の総収入である492 万362 0 円とし.相手方の総収入を,当時相手 方が勤務していた株式会社OムOの月額給与から推計した年収132 万養育 円として,算定表(判例タイムズ1111 号285 頁以下)の「表 3 2 人分の標準 費・子 2 人表(第 1 子及び第 2 子 0-14 歳)Jにより, 6 万円から 8 万円の範囲内の下限の 6 的な月額養育費を算出すると, 万円に近い数値となる。また,相手方が平成16 年 6 月から転職し,給 与も上がったことから,転職先の株式会社O ムムの給与により年収を 同様に これを相手方の平成16 年の総収入とみて, 240 万円と推計し, 4 万円から 6 万円の範囲 2 人分の標準的な月額養育費を算出すると, 内の上限の 6 万円に近い数値となる。もっとも,申立人の平成17 年の 給与等の総収入は563 万8856 円であり,平成16 年より増収となってい るが,相手方の平成17 年の総収λも240 万6000 円で,本件公正証書作 成当時より増収となっているため,算定表の表 3 により算出される 2 6 万円から 8 万円の範囲内の下限 人分の標準的な月額養育費の額は, そうすると,本件養育費約定により合意された 2 人分の月額養育費 の額は, 14 万円であり,算定表による 2 人分の標準的な月額養育費の 額(約6 万円)の 2 倍以上の額であることが明らかであるから,申立 これを支払い続けることが相当に困難な額であ 人の収入額からみて, ったというべきであること,現に,相手方自身も, r 養育費の14 万円 (相手方審問 は臨時出費分も考慮した金額」である旨述べていること また,本件公正証書作成当時,申立人としては,離婚後 調書11 項) , も当分の間同居生活を継続できるものと考えていたこと,申立人は別 の6 万円に近い数値となり,本件公正証書作成当時の額とほぼ同じで ある。 居後も両親の援助を得て 2 人分の養育費として毎月14 万円を 1 年近く 支払ってきたが,両親からの援助が実は他人からの借入れによってh たことが後になって判明し,両親からの援助が期待できなくなっただ けでなく,申立人自身が借入金の返済をしなければならなくなったこその他,本件公正証書作成の経緯等,前記 1 で認定の諸事情を考 と, 慮、すると,本件においては,当事者聞に,公正証書によってされた本 双方の生活を公平に 件養育費約定に基づく合意、が存在するとはし、え, 維持してし、くためにも,本件養育費約定により合意された養育費の月 額を減額変更することが必要とされるだけの事情の変更があるもの三 認められる。 申立人の平成17 年分の収入が,本件公正証書作成当時より増収とな っていることは事実であるが他方相手方の収入も増加しているこ と,また,前記 1 (6) で・認定のとおり,申立人の基本給や勤務条件に変 更はなく,平成17 年の総収入が増えたのは,もっぱら,支給の有無や 額が不確定な賞与収入が増加したことと,申立人が休み返上で働いた 結果である超過勤務手当が増加したことによるものであること, さら に,増収後の申立人の収入によっても,算定表により算出される標準 的な月額養育費の額にほとんど差はなく,なお 本件養育費約定によ り合意された月額養育費の額が,申立人の収入に比し,高額であるこ とに変わりはないことなどをも翻酌すれば,上記説示のとおり,減額 変更を認めることはやむを得ないというべきである。 そして,本件は公正証書をもって当事者間で合意された本件養育費 約定に定める月額養育費の額を減額変更するものであるこ-とに加え, 前記 1 で認定の本件公正証書作成の経緯,別居後の当事者双方の生活 その他,算定表による標準的な月額養育費の 状況.本件調停の経過, 額や,申立人が平成16 年5 月から平成17 年 2 月までほぼ 1 年近く本件 養育費約定に定められた 2 人分の月額養育費14 万円を支払い,平成17 年3 月以降現在までは毎月 9 万円を支払・つできていることなど,本件 • ‘.、 一件記録によっrて認められる諸事情を考慮、すると,申立人が相手方に 支払うべき養育費を, 2 人分計9 万円に減額変 1 人月額4 万5000 円,この額は,算定表による標準的な (ちなみに, 更するのが相当であり また,本件における養育費の減額 月額養育費の1.5 倍に相当する。), は,本件養育費減額調停が申し立てられた後である平成17 年3 月から 減額されるものとするのが相当である。
3なお,相手方は,申立人が,本件養育費約定により定められた 2 人 分の月額養育費14 万円につき,平成16 年 4月分の支払いをしていない 上,平成17 年 3 月からは 9 万円しか支払っていないのであるから,本 3 件期限の利益喪失約定(本件公正証書第 3 条)により,既に分割払い の期限の利益を喪失するに至ったものであり,遅滞額及び将来にわた る未払い月額養育費の各合計額を一括して支払う義務を負っている以 もはや養育費の減額を請求する余地はない旨主張する。確かに, 上 申立人が本件養育費約定に定められた平成16 年 4月25 日限り相手方に 支払うべき 2 人分の月額養育費14 万円を支払ったことを認めるに足り る証拠はなし、。申立人は,平成16 年 3 月末の給与を全額相手方に渡し ているのであるから 実質的に平成16 年 4 月分の養育費も支払済みと 評価すべきである旨主張するが,平成16 年 3 月末に相手方に渡された 同月分の同居の生活費とし 給与は,申立人自身も認めているように, て渡されたもので・あって,平成16 年4 月分の養育費の弁済として支払 (したがって,申立人は相手方 われたものでないことは明らかである に対し,未払いの養育費14 万円を早急に支払うべきである。)。しかし その定期金としての本質上,毎月ごとに具体的な ながら,養育費は, そもそも本件期限の利 養育費支払請求権が発生するものであるから, また,養育費 の定期金としての本質から生じる事情変更による減額変更が,本件期 限の利益喪失約定により許されなくなる理由もない。そして,本件に 益喪失約定に親しまない性質のものというべきであり, おいては,平成17 年 3 月以降申立人が相手方に支払うべき養育費を,2 人分計9 万円に減額変更すべきことは前記2 1 人月額4 万5000 円, に説示のとおりであるから,相手方の上記主張は失当といわざるを得 ない。 土居葉子) よって,主文のとおり審判する。(家事審判官

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