子の監護に関する処分(面接交渉)審判に対する抗告事件

第1 抗告の趣旨

抗告人は,主文と同旨の裁判を求めた。

第2 事案の概要

1抗告人(昭和46年×月生)と相手方(昭和42年×月生)は,平成6年×月×日に婚姻し,平成7年×月×日に長男Cが,平成9年×月×日に二男Dが出生した。抗告人は,平成13年×月×日に休養のため単身帰省して,そのまま相手方と別居することとなったが,平成14年×月×日,未成年者らを通園先から連れ帰って,以後,未成年者らを監護養育するようになった。それ以来,相手方は,抗告人と未成年者らの居所すら知らされず,相手方と未成年者らとの交流は途絶えている。抗告人が提起した離婚訴訟において,平成16年×月×日,離婚請求を認容し,未成年者らの親権者宏抗告人と定める判決が言い渡され,控訴棄却,上告不受理により,同年×月×日,判決が確定した。

2 本件は,未成年者らの父である相手方が,抗告人に対し,相手方と未成年者らが面接交渉をする時期,方法等を定めることを求めた事案である。原審は,抗告人に対し,未成年者らの通学する学校の夏季休暇中に1回,抗告人の指定する日時に2時間,抗告人の指定する者の立会いの下に,相手方が未成年者らと面接交渉することを許さなければならないと命じたので,これを不服として,抗告人が本件の抗告をした。

3 抗告人の抗告理由は,次のとおりである。子の監護に関する処分は,子の権利面,親の権利面等,各具体的状況に応じて柔軟に対応すべきことはもちろんであるが,本件に関する相手方の行状に即して子の福祉を最重点的に考えた場合,原審判が,両親が感情的争いの渦中にあるにもかかわらず,あえて相手方の面接交渉を認める審判をしたことは,時期尚早である。未成年者らは,母親の心情を考え,また自身も会いたくないと明言し,中学生になったら将来のこともあり,会いに行くことを考えている。原審判は,明らかに子の真意を無視するものであり,子の福祉に反する。

第3 当裁判所の判断

1 本件の事実経過など本件の事実経過や当事者の意向等は,原審判の「理由」第2の1項に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原審判5頁19行目の「小学5年生」を「小学6年生」に,「小学3年生」を「小学4年生」に改める。)。

2 面接交渉を認めることの当否

(1) 離婚の際に未成年の子の親権者と定められなかった親は,子の監護に関する処分のーっとして子との面接交渉を求めることができるが,その可否は,面接交渉が現実的に子の福祉に合致するかどうかという観点から判断されなければならない。

(2) これを本件について検討してみると,上記引用にかかる認定のとおり,未成年者らは,原審において家庭裁判所調査官に対し,いずれも,将来はともかく現在は相手方(父親)と面接はしたくないと明確にその意思を述べている。その意思の基礎には,以前00家庭裁判所における面接交渉の調停係属中に,相手方が未成年者らに対して,位置情報確認装置を潜ませたラジコン入りの小包を送ったことによる相手方への不信感があり,その不信感には根深いものがあると認められる。

また,抗告人においても,相手方が,上記のとおり調停係属中にもかかわらず位置情報確認装置を密かに送付したり,抗告人ら親子の居所を探索するために親類や恩師に対して脅迫的言辞を用いたことがあったこと(前件審判における認定)などから,相手方が未成年者らを連れ去るのではなし、かとの強い恐怖心をいまだに抱いていることが認められるのであり,相手方の面接交渉に関する行動につき信頼が回復されているとはいいがたい。そして,未成年者らが相手方との面接交渉に消極的な姿勢を示しているのは,このような抗告人の心情を察していることも一因となっているものと考えられる。

相手方は,原審での審聞において,今後,未成年者らを連れ去ったり,居所を調べるなどのことはしないと述べているが,抗告人や未成年者らの原審における発言等に照らしてみると,その相手方に対する不信感は,このような供述があったからといって容易にぬぐい去ることはできない程度に深いものと認められる。

そうしてみると,現在の状況において,未成年者らと相手方との面接交渉を実施しようとするときには,未成年者らに対して相手方に対する不信感に伴う強いストレスを生じさせることになるばかりか,未成年者らを父親である相手方と母親である抗告人との聞の複雑な忠誠葛藤の場面にさらすことになるのであり.その結果,未成年者らの心情の安定を大きく害するなど,その福祉を害するおそれが高いものといわなければならない。したがって,現在の状況においては,未成年者らと相手方との面接交渉を認めることは相当ではない。

(3) ただ,未成年者らが父親との間で言葉を交わすなどして心情の交流を図ることは,未成年者らの精神面の発達, とりわけその社会性の酒養にとって不可欠であることはいうまでもないところであり,母親である抗告人においても,未成年者らの健全な発育,成長を真剣に願うのであれば,その重要性について十分な認識を抱いて,時間の経過にゆだねるのではなく,そのための環境作りに工夫し努力する必要があることも,またし、うまでもないと考える。

記録によれば,原審における調停の過程などで,未成年者らと相手方との接点を設けるためのいくつかの方策が取り上げられたことをうかがうことができるが,今後,双方当事者においては,真に未成年者らのために,まずは手紙の交換など未成年者らと相手方との間接的な交流の機会を設けるなどして,未成年者らと相手方との聞の信頼の回復に努めるなど,面接交渉の環境が整うよう格段の努力が重ねられることを期待したい。

3 よって,未成年者らと相手方との面接交渉を命じた原審判は不相当であるから,原審判を取り消し,相手方の本件申立てを却下することとして,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 安倍嘉人 裁判官 片山良広 内藤正之)

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