子の監護に関する処分(面接交渉)審判に対する即時抗告事件

第1 事案の概要等
1 事案の慨要理由(1) 抗告人(元夫)と相手方(元妻)は,平成15年10月30B..未 成年者ら(長男D.長女E)の親権者を抗告人と定めて協議離婚した。(2) 相手方は,当初概ね月1回の割合で実施されていた未成年者貯との面接交渉を抗告人が拒否するようになったとして,平成16年11月6日,面接交渉を求める調停の申立てをしたが,同調停は,平成17年1月24日に不成立となり,原審の審判手続に移行した。(3) 原審は,平成17年8月24日,相季方に未成年者らとの毎月l回(3 月と7月は宿泊を伴うもの)の面接交渉を認め,その方法を具体的に定める内容の旨の原審判をした。.抗告人がこれに対して不服申立てをしたのが本件である。(4) なお,原審判後である平成17年8月30日,抗告人は,参加入と婚姻した。そして,参加人は.同年9月8日,未成年者らと各養子縁組をしたことにより,未成年者らの共同親権者となったので,当裁判所は,家事審判法12条により,捗権で参加入を利害関係人として本件に参加させることとする。2 抗告の趣旨及び理由(1) 抗告人は,原審判を取り消し,本件を京都家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求めた。(2) 抗告理由の要旨は.次のとおりである。ア原審判~:t_,相手方と未成年者らとの聞の面接交渉において子らゐ福祉を害する様なことは全く見られなかったと認定したが,相手方は,突然抗告人の家に押し掛けてきたり,夜中に玄関口で大,声で叫ぶなどして警察を呼ばざるを得ない事態に至っており.その後も脅迫的言動をしていることから,未成年者らの福祉を害するおそれがある。イ現在.抗告人.から相手方に対する養育費請求事件が家庭裁判所に係属しているが,相手方は養育費を支払わないのに,面接交渉を求めるのは不当である。ウ相手方は,男性と不貞に及んだ結果,抗告人と離婚したものであり,自己中心的性格の持ち主であるから,母親として未成年者らと面接交渉するのは不当である。エ参加入(旧姓(0)は,平成17年8月30臼,抗告人と再婚した上,未成年者らと養子縁組をしており,抗告人らは新たな家庭生活を築き始めている。相手方と未成年者らとの面接交渉は,家庭生活の平穏を脅かすものであり,また,未成年者らが情緒不安定となるなど,子の福祉を害する結果となる。.以上によれば.未成年者らが状況を把握できるようになるーまで,相手方との面接交渉は控えるd きである。オ原審判は,土曜日;から日曜日にかけての宿泊付き面接交渉を認めたが,抗告人は,土曜日は,仕事上未成年者らの引渡に関与できず,参加入は妊娠中であるうえ,過去の相手方の行為により相手方に対し恐怖心を抱いており,未成年者らの相手方への引渡の協力はできない状況にある。他に協力を求める適当な者もいないので,仮に,面接交渉を実施するにしても,宿泊付きを認めるのは相当でない。
第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,相手方と未成年者らの面接交渉は認められるべきであり,その頻度等原審判の定めた方法も基本的には首肯できるけれども,現在の状況からみると,当面は宿泊付き面接交渉は控えるのが相当であり,また,その他の点についても若干調整を要する点が高るので,その限度で原審判を変更する必要があると判断する。その理由は,次のとおりである。2 事実関係(1) 記録によれば,原審判2頁24行目から5頁9行固までの事実(ただし,原審判4頁7行目から9行固までを削る。)が認められる。(2) 記録(当審記録を含む。)によれば,更に,次の事実を認めることができる。ア参加人は,平成15年冬頃から原審相手方と交際を始め,平成16年夏頃からは,原審相手方宅に出入りするようになり,平成17年春頃からは,原審相手方と同棲しており,原審判後である平成17年8月30日に原審相手方と婚姻し,同年9月8日,未成年者らと.・養子縁組をした。参加人は,現在,専業主婦として,家事に従事し.未成年者らの監護養育に当たっており,未成年者らも参加l人になついている。なお,参加入は,現在妊娠中で平成18年4月に出産予定である。〈参加人は,当審において.家裁調査官に対し,概略次のように述べている。「現在,抗告人及び未成年者らと新しい家庭を築き始めたところなので,相手方には関わって欲しくない気持ちを抱いている。相手方は,平成16年11月深夜,委主加人が抗告人方に居たときに押し掛け,玄関口で宰加人の名前,仕事,車のナンバーも調べたと怒鳴り, 面談を強要し,相手方の車が自宅近くに駐車してあったことから,参加人は相手方に対して恐怖心を抱いている。面接交渉については,月l回の割合の面接交渉は多すぎて,家族が休日一緒に行動するのに支障がある。宿泊併きの面接交渉は,それ自体受容できないが.そもそも,土曜日比未成年者らを引き海す者がじないので無理である(抗告人は仕事があり,抗告人の両親は相手方と会うことを拒否しており,参加人は妊娠中である上,上記のような相手方に対する恐怖心から相手方と会うことには強い心理的抵抗がある。)。また,原審の定めたプレゼントの限度額(1人当たりl万円)は高額に過ぎて,我慢することを未成年者らに教えようとする抗告人らの養育方針と相反する。Jウ他方,未成年者らは,相手方に対しても,親和性を持っていて,これまでの面接交渉の過程において,抗告人らの養育方針にはそぐわない場面があったか否かは別としてd 未成年者らの心情を損なうなど子の福祉を直接害する事態は生じて丸、ない。また,特に.長男Dは,相手方との面接交渉を希望し.てし.こ品。3 事実関係に基づいて,相手方の面接交渉申立ての当否につき.検討する。(1) 非監護親の子に対する面接交渉は,基本的には,子の健全育成に有益なものということができるから,これにより子の福祉を害するおそれがある場合を除き,原則として認めら柁ゑ’べきもの.である。上記の事実関係によれば.当事者双方の協議離婚に際し.抗告人が未成年者らの親権者となることが合意されるに当たっては,相手方と未成年者らとの面接交渉の機会が確保されることが重要な要紫になったことが推認でき,それ故にこそ,約10か月聞は,毎月1回宿泊付きの面接交渉が実施されてきたもめと認められること,及び,未成年者らは相手方に対して親和性を抱いており,従前実施された面接交渉によって,子の福祉を害する特段の事態が生じたということも認められなし、から,相手方の面接交渉は認められるべきである。抗告人は,平成1’6年9月の面接交渉を終えた際.相手方が長女Eに対してした軽率な発言によって同女の精神的な安定が損われたとして,爾後の面接交渉を拒否したものであるところ,その後,相手方が抗告人方に押し掛けてした様々な行動報からみて,面接交渉によって未成年者らの福祉を害するおそれがあると主張している(抗告理由ア)。確かに,上記の相手方の発言は軽率であり,その後の相手方の行動は,反省すべきものであるけれども,上記発言は一時の感情から出た発言にとどまるものであり,また,その後の行動も,相手方からみれば,一方的に面接交渉を拒否されたことに由来する衝動的な行動であって,その後は,相手方も事態をわきまえて,抗告人方を突然訪れるなどの行動には出ていないことからすれば,今後の面接交渉のルールを定めることにより解決可能な問題であって,面接交渉自体を否定すべき事由に当たると認めることはでき払レ。(2) そこで,面接交渉の具体的方法について検討する。ア面接交渉の回数については,従来の経緯からみて,毎月1回の割合で実施するのが適当である。参加人は上記のとおり,頻度を少なくするよう希望しているが,離婚の際に.相手方の面接交渉が重要なものとして位置づけられていることを考慮すると,抗告人らとしては,この程度の回数は受忍すべきである。未成年者らの受渡し方法に関しては,原審判における試行的面接に準じるものとする。イ従来実施されていた宿泊付きの面接交渉は,当分の聞は実施しないものとすることが適当である。離婚後約10か月聞は,宿泊付きで面接交渉が実施されていたことは,上記のとおりであるが,現在においては,こ・れまでとは事情が異なる。すなわち,現在は,抗告人及ひ’参加人は,その共同親権の下で未成年者らとの新しい家族関係を確立する途上にあるから,生活感覚やしつけの違いから,未成年春らの心情や精神的安定に悪影響を及ぼす事態は芯きるだけ回避されなければならず,宿泊付きの面接交渉は,そのような危慎が否定できないもめというべきであるから,現段階においては避けるのが相当である。土曜日に怯,未成年者らを相手方に引き渡す適切な者が見当たらず,また.従前の経緯からすれば,抗告人方で参加人から相手方に子らを引き渡す方法も相当でないとし、う物理的な理由も考慮しなければならない。今後, 日帰りによる面接交渉が円滑に実施され;未成年者らに新しい生活習慣が身に付き,上記のおそ五が払拭された時点で,改めて,宿泊付きの面接交渉の実施の可否が検討されるべきであ.る。相手方の宿泊付き面接交渉に関する希望は理解で・きるが,従来とは状況が異なることを理解すべきであるdウ相手方が,面接交渉の際,未成年者らに対し,プレゼントをすることは,それが,未成年者らの年齢等からみて,社会通念上相当なものである限り許容されるべきであるが,それが毎回ない頻繁に行われるのは適当でなし、から,誕生日,クリスマス,正月等の時期に限ってされるのが望ましく.また.その価格も,抗告人ら家族の養育方針を尊重して,できるだけ慎ましいものに留めるべきである(参加人が. 1万円は高額に過ぎると指摘していることを念頭に置くべきである。)。エ未成年者らの学校,保育園等における生活を安定させるため,相手方は,それらの行事に参加することを控えるべきであり(相手方において,抗告人らに無断で保育園や小学校に赴いて未成年者らと会ったり,抗告人及び参加人の家庭問題に不当に干渉するようなことは,その面接交渉実施の阻害原因となるから,厳に慎むべきであり,そのような事態は,場合によっては,将来の面接交渉禁止の原因左もなり得るものであることを理解すべきである。).その反面として,抗告人らは.それらの状況をビデオ,写真等に撮影したときは,適宜,相手方に提供すべきである。オ以上の趣旨を明確にするため相手方と未成年者らとの面接交渉に関して別紙のとおり面接要領を定め,抗告人及び参加人並びに相手方に履行させることとする。γ (3) 抗告理由ア,エ,オは,ム記説示に沿う限度において,理由がある。4 その余の抗告理由は,いずれも採用できない。すなわち,(1) 養育費支払の有無は,義務者による面接交渉の可否と直接結びつくものではないし,記録によれば,相手方は,子らの養育費について支払意思を有するものの,抗告人の請求額が余りに過大であるため,具体的支払額については審判に委ねる意向であること.が窺われるのであって,抗告人主張の事由は,面接交渉を拒む根拠となるものではない。(2) 仮に.抗告人との離婚の原因が相手方による不貞にあるとしても,上記認定のとおり,抗告人は,協議離婚時において,相手方が未成年者らと面接交渉することを認めていたのであり,現時点において,そのことを理由に面接交渉を拒むことは適当でなし、。5 以上の次第で,原審判の認定判断は,基本的には首背できるが,その後の事情変更や,当審における調査の結果に照らして,当面は’.上記の限度で面接交渉が実施されるのが相当と判断される。本件抗告は,上記説示に沿う限りで理由があり\家.事審判規則19条2項に従い,原審判を変更する裁判をすることとして,主文のとおり決定する。予の健全育成のためには,実母と子の面接交渉が定期的かつ円滑に実施されることが必要である。双方は,このような理解の.もとに,お互いの立場を尊重し,節度をもって誠実に協力する必要があることを付言する。(裁判長裁判官田中批太裁判官「松本欠村田龍平)

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