子の監護に関する処分(監護者指定)申立事件

第1 申立ての要旨
申立人は,本件未成年者の母方の祖母であり,本件未成年者と同居
しているところ,本件未成年者の実父母である相手方らは本件未成年者の監護に著しく欠けるところがあるから,主文同旨の審判を求める。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によると,次の事実が認められる。
(1) 当事者等
申立人は,相手方Cの実母である。申立人の実子は,相手方Cのほかに,同人の妹であるE及び弟がいる。相手方Bと相手方Cは,平成5年12月20日婚姻屈を提出した夫婦である。
相手方Bと相手方Cとの聞には,長女F(平成6年4月22日生。以下「長女」という。).長男G (平成8年2月3日生。以下「長男」という。).二女H (平成9年1月6日生。平成10年12月24臼死亡。以下「二女」という。)及び本件未成年者の4名の子がいる。
(2) 二女の死亡に至る経緯
相手方らは,婚姻後,大阪市○区に居住していたが,平成7年12月ころ,三重県〇〇市内の住宅に転居した。これは,相手方Bが相手方Cの父(申立人の夫)経営の会社で勤務することとなったためである。ところが,その後,相手方Bは, 一時申立人の夫方で養育されていた長男及び二女が相手方ら宅に引き取られた後も相手方Bに懐かないこと,相手方Cが家事や家計にだらしがないこと及び同人が次々と妊娠し一時は堕胎を承諾したのに結局出産したことなどを不満に思い,平成9年初めころから長男に対し乱暴を加えた。さらに,相手方Bは,平成10年初めころからは,望まなかった子であり,叱っても泣かずに相手方Bをにらむような仕草をするこ女の頭部や顔面を殴ったり,身体を蹴るなどした。

相手方Bは,平成10年10月ころ,上記会社の倒産により担保目的物であった上記自宅を明け渡し,三重県△△市内の二階建ての貸家に転居した。ところが,そのころから同人は,職を失ったいらだちなども加わり,二女に対する暴行の回数も増え.さらには, 二女の食事を1日2食に制限したり,風呂の回数を少なくしたり,家族で外出するときには二女を家に残したり,玩具が多くある長女の部屋に二女を1人で入らせないなどした。そして,相手方Bは,平成10年12月24日昼,相手方C. 長女,長男及び本件未成年者とともに出かけた玩具庖で長女及び長男のクリスマスプレゼントを買い,同日午後2時とろ,上記自宅に帰宅して相手方Cとともに夕食の支度をしていたところ,同日午後3時ころ. 2階で玩具が床に落ちたような物音がしたことから,二女(当時約1歳11か月)が. 1人で入ることを禁止していた長女の部屋に入り込んで遊んでいると思い.2階に上がると,二女が長女の部屋で玩具を散らかし,仰向けの状態で二段ベッドの下段に1人で横たわっているのを見て立腹し「入ったらあかんやろ。」と怒鳴りつけ,二女の頭部,顔面を手拳で手加減せずに数回殴打した上,その両足首をつかみ,床面から高さ約40センチメートルのベッド上から引きずり降ろし,その身体を床板に叩き付けるなどの暴行を加えて,二女に頭部顔面打撲傷等の傷害を負わせた。その後,相手方Cが二女を2階6畳和室に寝かせるなどしたが,同日午後8時ころ,二女の容態が悪化していたことから救急車を呼んで病院に搬送してもらったものの,二女は,同日午後11時35分ころ,上記病院で右頭部顔面打撲傷による急性硬膜下血腫に基づく脳圧迫により死亡した。
なお,二女は,生前.相手方Bから継続的に虐待を受けた結果,高度のストレスにより.発育遅延,栄養不良で,胸腺が通常児童の約3分の1までしか発育していない状態に陥っていた。
(3) 上記犯行後の経過
相手方Bは,平成11年4月7日,上記(2)の犯行が傷害致死罪に該当するとされて懲役4年6月の実刑判決を受け,他方で,相手方Cは,相手方Bの服役中である平成11年から同15年の間,石川県
口口市△△町で子らとともに生活していた。
相手方Bは,平成15年7月,その刑の執行を終了して刑務所を出所し,相手方C及び子らとともに奈良県〇〇郡に居住した。
ところが,相手方Cは,上記奈良県〇〇郡への移転後である同年9月,本件未成年者の面倒を見きれないとして,三重県在住の相手方Cの父のところに本件未成年者を連れてきた。これに対し.Eは,同月中に,本件未成年者を,当時夫と別居していた申立人とともに居住する石川県口口市の自宅に連れて帰り,申立人は,本件未成年者の旋育を開始した。
申立人が本件未成年者と同居開始後同人から聞き取ったところによると,同人は.相手方らにご飯を食べさせてもらえなかった,寝かせてもらえなかった,相手方らから保育困に行かせないと言われた,などと訴えた。
(4) 念書作成に至る経緯
その後,相手方Cは,家庭内暴力を理由に相手方Bと別れるといい,同年12月10日,長男と共に申立人のもとを訪れた。その際,相手方Cは,同日付けで,本件未成年者が自分で判断して生活できるまで申立人に預けると述べ,同趣旨の記載がある念告を作成の上,指印して申立人に交付した。
(5) 本件未成年者の現在の生活状況
本件未成年者は,現在,申立人及び同人の実母と居住している。本件未成年者は,昼は保育園に通っている。また,申立人は,午後6時から午後10時の間はパートに出かけて生活費を得ているが,その間の本件未成年者の世話は,申立人の実母がしている。さらに本件未成年者は,少なくとも治療を要する病気には擢患していない。
申立人宅の住環境は,概ね清潔を保たれ格別の問題はない。また,家庭裁判所調査官による調査の際.本件未成年者は,申立人に対して懐いた様子で接していたのに対し,相手方らに関して
は. 「パパに何も食べさせてもらえなかった。」などと述べ,その心情において相手方らに好感情を有していないことが推測された。
(6) 本件審判手続における相手方らの応訴態度
本件審判申立ては平成16年2月25日になされたところ,相手方らは,同年4月26日受付で同人らの主張を記載した書面及び資料等を提出したものの,その後は何ら住面等を提出せず,本件審問期日にも出頭せず,家庭裁判所調査官による,郵便や,相手方ら宅の留守番電話に連絡事項を録音させる方法を利用した照会にも何ら応答しなかった。さらに,相手方らは,最終の本件審問期日である平成17年2月16日の期日呼出状の送達が適式になされたにもかかわらず,同期日に出頭しなかった。
2 判断
(1) 子の監護に関する処分事件(家事審判法9条l項乙類4号)の申立権を子の祖母に認めることができるか,についてまず検討する。
ア民法766条1項は. 「父母が協議上の離婚をするときは,子の監謹をすべき者その他監護について必要な事項は,その協議でこれを定める。協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,これを定める。」と規定しており,問項の文言上は,同項は父母が協議離婚をする場合の規定とされている。しかしながら,父母の婚姻が継続していても父母が共に子に対して虐待・放置を行うごとき場合など,父母が子の監護権に関する合意を適切に成立させることができず子の福祉に著しく反する結果をもたらす事態は父母が離婚する場合に限定されないのであるから.同条は,父母が子の監護に関する適切な合意を形成できない場合に,家庭裁判所が,子の福祉のために適切な監護者等を決定する権限を定める趣旨の条項であると解するべきである。
このような解釈は,民法834条が存在することによっても根拠付けられるというべきである。すなわち,民法834条によれば,父母が親権を濫用し,又は著しく不行跡であるときは,家庭裁判
所は,子の親族等一定の範囲の者の請求に基づき父母の親権の全部を喪失させる権限を有するとされているのである。したがって,家庭裁判所は,上記一定の範囲の者の請求がある場合には,親権の一部である父母の監護権を制限する権限もまた有すると解するのが,同条の趣旨に沿うものというべきである。加えて,児童虐待の防止等に関する法律15条は,民法に規定する親権の喪失の制度は児童虐待の防止及び児童虐待を受けた児童の保護の観点からも適切に運用されなければならないと定めており,同条の趣旨からは民法766条l項及び同法834条を制限的に解
釈することは相当とはいえない。
イ以上からすれば,父母が子の監護権に関する合意を適切に成立させることができず子の福祉に著しく反する結果をもたらしている場合には,家庭裁判所の権限につき民法766条を,請求権(申立権)者の範囲につき民法834条をそれぞれ類推適用し,子の親族は子の監護に関する処分事件の申立権を有し,同申立てに基づいて,家庭裁判所は,家事審判法9条l項乙類4号により子の監護者を定めることができるというべきである。
ウなお,上記説示に反するごとき決定例として,仙台高裁平成12年6月22日決定・家裁月報54巻5号125ページが存在する。しかし,間決定は,子の親族ではない第三者が申立人となった事案に関するものであり,祖母が申立人となった本件とは事案を異にし,本件に適切ではない。
(2) 次に,子の父母ではない者を子の監護者に指定することができるか,について検討するに,民法766条1項は,家庭裁判所が定める監護者の範囲について,これを父母のみに制限する明文の規定をおかないばかりか,子の福祉の観点から見て父母以外の者が監護者として最適任という場合もあり得るから父母が親権をその本来の趣旨に沿って行使するのに著しく欠けるところがあり,父母にそのまま親権を行使させると子の福祉を不当に阻害することになると認められるような特段の事情がある場合には,父母の意思に反しても,子の父母ではない者を子の監護者に指定することができるというべきである(東京高裁昭和52年12月9日決定・判例時報885号127ベージ参照)。
(3) 以上の説示に基づき,本件につき検討する。
前記1認定事実によれば,申立人は,平成15年9月以降現在に至るまで本件未成年者と同居して同人を適切に監護しており,同人も申立人に対し自然な愛情を感じているというのであるから,申立人が本件未成年者の監護を継続することが同人の福祉に合致する。他方で,同人は,相手方らに対しては好感情を有していないと認められる。かつ,相手方らの本件未成年者自身に対する親権行使の態様は具体的には明らかではないものの,相手方Bは本件未成年者の姉である二女に虐待を加えて死亡させ,また,相手方Cは申立人に対し本件未成年者を同人が自分で判断して生活できるまで申立人に預ける旨述べ,さらには,相手方らは本件申立て後も家庭裁判所調査官らが働きかけたにもかかわらず本件審判手続に積極的に関与しない,など,相手方らは本件未成年者の親権者としての責任ある養育態度や監護に対する意欲を見せていない。
かかる事実関係のもとでは,上記(2)という特段の事情が認められることは明らかである。
(4)相手方らの以上の説示に反する主張はいずれも採用できない。
第3 結論
以上の理由により,主文のとおり審判する。(家事審判官関述之)

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