子の氏の変更許可申立却下審判に対する抗告事件

第1 抗告の趣旨及び理由
別紙「即時抗告申立書」(写し)記載のとおりである。
第2 裁判所の判断
l 一件記録によれば以下の事実が認められる。
(1) 抗告人法定代理人親権者母(以下単に「母」という。)は昭和48年×月×日に出生し,乙川C男(以下単に「父」という。)は昭和45年×月×日に出生した者であり,両名は,平成10年4月から夫婦として共同生活を営んで・いるが,婚姻の届出はしておらず, その関係は事実上の婚姻関係である内縁関係に留まっている。なお,父母はいずれも,これまで法律婚歴はない。
(2) 両者の間には,平成15年×月×日,男子である甲山D男(以下iD男Jという。)が出生し,父は,同年×月x日にD男を認知した。そして,母は, D男の親権者として,事前に家庭裁判所の許可を得た上で,同年×月×日, D男の氏を母の氏である「甲山」から父の氏である「乙川」に変更する旨の届出を行い受理された。しかし,D男の親権者は,その際父に変更されず,現在に至るまで母である。
(3) 両者の聞には,さらに,平成19年×月×日,抗告人が出生し,同月×日,父は抗告人を認知したが, D男の場合と同様,親権者が父に変更されることはなく,現在に至るまで抗告人の親権者は母のままである。
(4) 母は,抗告人の親権者として,平成19年6月×日,札幌家庭裁判所に,抗告人の氏を父の氏に変更する許可を求める申立てを行ったが,同裁判所は,同月19日,上記申立てを却下したので,母は, x月×日,本件抗告を申し立てた。
2 以上認定したところに基づき,本件子の氏の変更の許否につき検討する。非嫡出子の氏について,民法790条2項は,一律に母の氏を称すると定めた上で,父による認知後,同法791条により, 親権者である母が家庭裁判所の許可を得て届け出ることにより,父の氏に変更することを認めている。民法791条が,上記の場合を含めて,子が父又は母と氏を異にする場合にその父又は母の氏への変更を認めた趣旨は,民法790条により形式的基準でいったん定まった子の氏につき,主として共同生活を営む親子聞で氏を同一にしたいとの要請に配慮して,その他の利害関係人の利害感情も考慮の上で,家庭裁判所の裁量により他方の氏への変更を認めるところにあると解される。かかる観点から本件をみるに,父は,母と長年にわたって事実上の夫婦として共同生活を送り,母は,法律上の婚姻関係にないため父の氏を称していないものの,平成15年に父母聞に生まれた第一子は,父による認知後家庭裁判所の許可を得て直ちに父の氏を称しており,第一子同様,第二子である抗告人についても,同居して養育を受ける父の氏を称させることは,前述した民法791条の趣旨に適うということができる。また,父には現在はもとより過去においても法律上の婚姻関係が存在したことはなく,第二子に父の氏を称させることにつき,父母以外の者の利援を害するおそれはない。加えて,抗告人の兄である第一子との関係では,抗告人が父の氏を称することによって,きょうだいでありながら戸籍上の氏を異にするという望ましくない結果を避けることができる。.なお,母は,抗告人の氏を父に変更する申立てを行いながら,第一子同様,親権者を父とすることなく,氏の変更が許可されても,親権者は将来にわたり母のままであると認められる。しかしながら,氏の変更は,親と共同生活を営む子の社会生活上の必要性から認められるものであり,両親のうち親権者をいずれにするかとは直接の関連性を有せず,親権者が母のままであることは,非嫡出子が,その氏を,共同生活を営む父の氏に変更することを妨げる事由とはなり得ない。以上によれば,抗告人の氏を母の氏から父の氏に変更することを許可するのが相当というべきである。
3 そうすると,抗告人の本件申立ては理由があるからこれを認容すべきであり,これと異なる原審判を取り消し,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官末永進裁判官千葉和則住友隆行)

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