婚姻費用分担申立却下審判に対する即時抗告事件

1 抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨及び理由は,別紙の「申立ての実情」欄記載のとおりである。
2 事案の概要
(1) 本件は,抗告人が,妻である相手方との聞で,別居後,抗告人が相手方に対し婚姻費用を負担して支払う旨の契約を締結したところ,その負担額は事情の変更により高額に過ぎるものとなっているとして,適正な額に減額する審判を求める事案である。
(2) 原審は,次のとおり判断して,抗告人の本件申立てを却下した。抗告人は,別居中の妻である相手方との聞で,抗告人が相手方に対し婚姻費用分担金として月額15万円を支払うとする契約を締結したこと,相手方はこれに基づき,抗告人を被告として,千葉地方裁判所松戸支部に婚姻費用の支払を求める訴訟を提起し,抗告人は契約の効力などを争ったところ,同裁判所は相手方の請求を認容し,東京高等裁判所も抗告人の控訴を棄却したが,これは原審判時において未確定の状態にある。この事実によれば,契約の効力は金額の当否を含めて通常裁判所の判決手続において確定されるべきものであり,本件申立ては通常裁判所の判決の変更を求めるもので許されず,不適法である。
(3) 抗告人の抗告の要旨は,家庭裁判所は, 当事者間で合意した婚姻費用の分担額を変更することができ,これは婚姻費用の分担義務の存否に関する通常裁判所の判決が存在しでも異ならないというものである。
3 当裁判所の判断
(1) 本件記録によれば,次の事実が認められる。
ア 抗告人と相手方は,平成4年2月17日婚姻の届出をした夫婦であり,同年7月17日長男をもうけたが,平成13年7月末から別居状態(長男は相手方の下で生活している。)にある。
イ 抗告人と相手方は,同年11月3日,抗告人が相手方に対し,婚姻費用分担金として,同月以降毎月末日限り15万円,同年12月25日限り50万円, 平成14年以降毎年6月末日及び12月25日限り30万円を支払う旨の契約を締結した。
ウ 相手方は,抗告人を被告として,平成14年9月,千葉地方裁判所松戸支部に,上記契約に基づき,平成14年3月分以降の未払分(ただし,同月分の未払は10万円)及び将来分に係る婚姻費用の支払を求める訴訟(同支部平成14年(ワ)第○〇〇号。以下「本件民事訴訟」という。)を提起し,抗告人は,婚姻費用分担は家事審判事項であり通常裁判所の判決手続により求めることはできないし, 将来の婚姻費用を求める部分は訴えの利益がないから本件民事訴訟に係る訴えは不適法であること,あるいは錯誤無効,詐欺による取消などの抗弁を主張して争ったところ,同支部は,平成16年1月28日, 訴えは適法であり,抗弁は認められないとして相手方の請求を認容し,東京高等裁判所(東京高等裁判所平成16年同第△△△号)も同年6月1日,抗告人の控訴を棄却し,上告期間経過により確定した。
エ 抗告人は,平成16年4月20日, 相手方に対し,千葉家庭裁判所松戸支部に,上記契約に基づく婚姻費用の分担額を平成16年3月から当事者が離婚するまで月額4万円に減額して変更する婚姻費用の分担調停申立て(同支部平成16年(家イ)第口口口号。以下「本件申立て」という。)をした。同調停事件は,平成16年6月2日調停不成立により審判(同支部平成16年依)第xxx号)移行し,同年6月8日,本件申立てを不適法とし,これを却下する旨の原審判がされた。
(2) 夫婦聞において婚姻費用に関する協議が成立した場合には,権利者は義務者に対し, その協議に基づいて,通常裁判所の判決手続により,婚姻費用の支払を求めることができることはいうまでもないところである。一方,当該協議が成立した後,事情に変更を生じたときは,民法880条の類推により,家庭裁判所は,各自の資力その他一切の事情を考慮し,事情に変更を生じた過去の時点にさかのぼって従前の協議を変更して新たな婚姻費用の分担額を審判により決定することができ,通常裁判所に従前の協議に基つ’く婚姻費用の支払を求める訴訟が現に係属中であるからといって,そのことが障害事由になるものではないと解される。そして,通常裁判所の判決が確定した後,家庭裁判所による新たな婚姻費用の分担額を定める審判が確定した場合には,義務者は,判決手続により命じられた従前の協議による分担額と審判による減額後の分担額との差額について強制執行の不許を求めるため請求異議の訴えを提起することができると解するのが相当である。
そうすると, 抗告人の本件申立ては,本件民事訴訟の係属及びこれについての判決の確定の有無にかかわらず,適法というべきである。
(3) 以上によれば,本件申立てを不適法であるとして却下した原審判は相当でなく,本件抗告は理由がある。よって,原審判を取り消し,減額の要否及び時期について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととし, 主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 福岡右武 裁判官 納谷監 畠山稔)

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