夫婦同居審判に対する抗告事件

第1 抗告の趣旨
原審判を取り消し,本件を大阪家庭裁判所堺支部に差し戻すとの裁判を求める。
第2 事案の概要
1 事案の要旨相手方(妻昭和35年×月×日生)が,別居中の抗告人(夫昭和48年×月×日生) に対し,同居を求めた事案である(平成20年×月×臼婚姻費用分担調停と共に調停申立て。平成20年×月×日調停不成立〔婚姻費用分担調停は同日成立〕により審判手続移行)。
2 原審判原審は,平成21年3月13日,夫婦関係が悪化したのは専ら抗告人の不倫に原因があり,抗告人の不倫を知った後の相手方の言動がかなり激しいものであったとしても,相手方は現在円満な夫婦関係を切望していることなどの事情に照らし,夫婦関係の修復は可能であるというべきであるとして,抗告人に対し,相手方との同居を命じる審判をした。
3 抗告理由の要旨相手方の抗告人に対する激しい行動は今後も収まることはなく,抗告人としても相手方と通常に接することはできなし、から,相手方との同居は,抗告人にとって精神的に耐え難し、。別居も1年以上が経過し,夫婦関係の修復は不可能であって.相手方と同居することはできない。
第3 当裁判所の判断
1 事実経緯等(一件記録により認める。)
原審判1頁19行目から同4頁9行固までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,つぎのとおり改める。
(1) 原審判2頁11行自の「平成19年×月下旬ころ, 」を「平成19年×月~×月にかけて,」に改める。
(2) 同2頁14行自の後に「しかし,抗告人は,機会があれば相手方と別居するか,離婚する考えであったと述べている。」を加える。
2 判断
(1) 上記の事実経緯によれば,別居状態に至ったのは,主に抗告人の不貞行為にその原因があると認められる。ところで,相手方は,抗告人と同居を再開すれば,円満な家庭生活が回復すると述べて抗告人を受け入れる姿勢を示しており,また,抗告人がCとの交際を再開し,ほとんど相手方のもとに帰らずに外泊するようになってからl年9か月程度が,全く帰宅しなくなってからは1年数か月が経過したにすぎなし、。したがって,抗告人の不倫が発覚した後,相手方においてかなり激しい言動があったことは否定できないとしても,今後の抗告人の相手方に対する接し方と相手方の努力に期待して,夫婦関係の修復は,なお可能であるとし,抗告人に対して同居を命じた原審の判断は.必ずしも不当であったとまではいえない。
(2) ところで,抗告人と相手方は,婚姻中であり,互いに同居義務を負っている(民法752条)。そして,家庭裁判所の同居審判は,この同居義務の存在を前提として,その具体的内容を形成するものであるが(最高裁大法廷昭和40年6月30日決定民集19巻4号1089頁参照),同居義務は,夫婦という共同生活を維持するためのものであることからすると,共同生活を営む前提となる夫婦聞の愛情と信額関係が失われ,仮に,同居の審判がされて,同居生活が再開されたとしても,夫婦が互いの人格を傷つけ文は個人の噂厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる場合には,同居を命じるのは相当ではない(東京高裁平成13年4月6日決定家庭裁判月報54巻3号66頁参照)。
(3) 相手方は,いったん抗告人がCと別れることにした後も,抗告人に対して不倫を責め立て,これが原因で激しい口論となることもあったことなどから,抗告人は,相手方とのこれ以上の婚姻生活の継続は不可能であると考えるようになった。また,相手方は,自分が納得できなし、ことがあると,激情して取り乱すなど,衝動的な行動をとったり,抗告人が勤務する小学校に行って,抗告人が不倫をして帰宅しないなどと話したりしたことがあり,抗告人は今後もこのようなことが繰り返されるのではないかと考えている。そして,このような抗告人の考えは,同居を命じる原審判がされた後も変わらず,抗告理由では,相手方と同居することは抗告人にとって精神的に耐えがたいものであって,夫婦関係の修復は不可能であると断言している。また.当事者双方から円満同居に向けた具体的な提案がされたことを窺わせる資料もなし、。そうすると,抗告人が審判(決定)に基づいて任意に同居を再開することはほとんど期待できず(同居審判の性質上.履行の強制は許されない。).仮に,同居を再開してみたところで,夫婦共同生活の前提となる夫婦聞の愛情と信頼関係の回復を期待することも困難であり,かえって,これによって,互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる。したがって,現時点において,抗告人に対し,同居を命じることは相当ではない。3 以上のとおりであって,本件抗告は上記説示に沿う範囲で理由があるから,家事審判規則19条2項により,審判に代わる裁判をすることとし,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官赤西芳文裁判官小野木等粛木稔久)

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