名の変更許可申立却下審判に対する即時抗告事件

第1 抗告の趣旨及び理由
本件は,抗告人が,外国人登録上の名「春子」を「夏江」と変更することの許.可を求めたところ,原容は, 日本国籍を有しない外国人について外国人登録上の名の変更を許可すべきか否かを判断する権限を家庭裁判所に与えた規定は存在しなし、から,上記申立ては,家庭裁判所に判断する権限がある事項とはじえず,不適法として却下するほかないとして,これを却下したところ,抗告人は,これを不服とし即時抗告を申し立てた。その抗告の趣旨は,r原審判を取り消し,抗告人の名を『春子』から『夏江』と変更することを許可する。Jとの裁判を求めるものであり,その理由は,抗告人の外国人登録上の国籍欄には「朝鮮」と記載されているが.日本で出生し.特別永住者の資格で日本に居住し,生活の本拠が日本にある抗告人の出生届は,韓国又は朝鮮民主主義人民・共和国のいずれの本国官署にもされておらず, 日本国の官署へ出生届をして外国人登録,在留資絡を受けているのみで,その国籍の属する本国において登録された公簿上の名を全く持たないので,その外国人登録上の名の変更をするには.戸籍法107条の2を準用して.日本の家庭裁判所の審判でその許可を得るほかに方法がなく,また,本件のような外国人登録上の名の変更許可の申立てを許す審判例も存在しており,抗告人の上記申立てを許すべきであるというものである。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,抗告人は, 1958年(昭和33年)x月×日, 日本で出生し,その外国人登録原票(以下「登録原票」という。)には,国籍として「朝鮮」と,在留資格として「特別永住者Jと, その氏名として「甲春子(甲夏江)Jとそれぞれ登録されていることが認められる。登録原票の国籍「朝鮮Jという記載のみでは,抗告人の国籍が「韓国J文は「朝鮮民主主義人民共和国Jのいずれであるか不分明であるが,抗告人の国籍がし、ずれであっても,原審判のなお書きにおいて説示しているとおり,外国人登録法9条1項が規定する趣旨に従い,外国人は登録原票の記載事項の氏名等に変更を生じた場合には,その変更を生じた日から14日以内に,その居住地の市町村の長に対し, 変更登録申請書及びその変更を生じたこと官証する文告を提出して,その記載事項の変更の登録を申結しなければならず.土記の変更の登録を申請するには.rその変更を生じたことを証する文書Jとして,当該外国人が国籍を有する国の公的機関が発行した証明書を提出する必要があるとするのが,本来の姿である。しかし,抗告人の国籍が韓国であろうと,朝鮮民主主義人民共和国であろうと,いずれにしても,一件記録上抗告人は,いずれの国においても,そめ名につい’て,公簿上の登録を受けていないこと,抗告人は. 7歳のころから名を「夏江Jと称しこの名で,昭和O年口口を卒業し,平成O年にムムも修了しているのを初め, 日常生活においても一貫してこの名を使用し,公的生活及び私的生活の両面において周囲の者からもこの名で呼ばれていることがそれぞれ認められる。
2 したがって,抗告人は,国籍が韓国又は朝鮮民主主義人民共和国のいずれにしても,両国の公簿上その名が登録されていないのであるから,両国の公的機関に対してその変更手続を行い,その証明書の交付を受けることは事実上不可能であるといわざるを得ない。その上J抗告人は,登録原簿,上記口口卒業証明書,上記修了証書,厚生年金保険証書やはがき等から,抗告人は,日本で出生し. 49年間にわたり,特別永住者の資格で我が園で生活していること,我が国においては,国民の身分関係を登録公証する戸籍制度が存し,我が固に居住する外国人については登録原簿が戸籍と同様の機能を果たしていることなどから,抗告人の登録原簿に登録された「名」の変更については,戸籍法107条の2に準じて,正当な理由があるときに限り,家庭裁判所の許可を受けて,これを許すことができると解するのが相当である。そして,抗告人は,上記認定のとおり. 7歳のころから「夏江Jの名を使用し,社会生活上その名で認識され,登録原簿にもこれが通称として登録されているので,抗告人の名の変更については,戸籍法107条の2所定の「正当な事由Jがあるというべきである。また,抗告人に名の変.更を許した場合に不都合な事態が生ずるこせこが危倶されるような事情も,一件記録上.見当たらない以上の次第で,これと結論を異にする原審判を取り消し,抗告人の外国人登録上の名「春子Jを「夏江Jと変更することを許可することとし,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官宮崎公男裁判官山本博今泉秀和)

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