児童福祉施設入所措置等の期間更新の承認申立事件

第1 申立ての趣旨
主文同旨
第2 当裁判所の判断理由
1 一件記録によれば,次の事実が認められる。
(1)事件本人は, 平成12年×月×日,事件本人親権者母(以下「実母」という。)の非嫡の子として出生した。事件本人出生後まもなく,実母は,事件本人親権者養父(以下「養父」という。)と交際を始め,平成14年×月×日婚姻し,同年×月×日,養父及び実母と事件本人とは養子縁組をした。
(2) 実母及び養父は,平成16年×月ころ,事件本人とともに○○区○○のマンションに引っ越し,同所で生活していたが,養父は定職に就かず,覚せい剤を常習的に使用し,その影響で暴れたり,また,養父と実母とが事件本人の面前で, しばしば暴力を伴う喧嘩をするような生活状況であった。また,事件本人は,実母及び養父の双方から.「しつけ」と称して,日常的に暴行を受け,同年×月末ころには,事件本人がガスコンロをいじっていたことに腹を立てた実母から,調理に使用しまだ熱い状態にあるフライパンを左ほほと右足ふくらはぎに押しつけられ,全治1か月余を要する熱傷等の傷害を負い,また,そのころ,事件本人が養父の説教をよそ見して聞いていない様子であることに腹を立てた養父から,スプーンを投げつけられ,頭部に全治約1週間を要する傷害を負った。事件本人は,同年×月× 日.○○児童相談センター(以下「児相Jという。)に一時保護されたが,その際,事件本人には虐待によると認められる複数の傷痕やPTSD症状が見られた。養父は,同年×月×日,覚せい剤取締法違反で逮捕され,平成17年×月× 日同罪(自己使用,所持)により懲役2年の実刑判決を受け,刑務所に服役した。
(3) 平成17年9月5日,東京家庭裁判所は,前記(2)のとおりの事実を認定した上,事件本人については,精神面においても実母らによる身体的虐待や父母の喧嘩が絶えない等の家庭環境による影響が認められ,今後も落ち着いた環境において継続的に専門的な手当を行う必要があること,他方,実母は定職に就かず,生活は極めて不安定であり,またこれまでの安易に暴力を振るう傾向は直ちに解消されるものではないと考えられること,養父は従前の生活態度に対する反省が深まっておらず,出所後事件本人らと生活するようになるとこれまでと同様な事態となる可能性が高いことなどから,事件本人を実母及び養父に監護させることは著しく事件本人の福祉を害するとして,申立人が事件本人を児童養護施設に入所させることを承認する旨の審判(以下「前審判」という。)をし,併せて,申立人に対し,下記のとおり,実母及び養父に対して必要な指導措置を採ることを勧告した(以下「前審判指導勧告」という。)。前審判は,同月×日確定した。

「保護者(実母及び養父)に対し,適切な指導措置を採ることを勧告する。特に,実母に対しては,子の養育に対する考え方(特に「しつけ」の問題)の不適切さを認識させてその改善に向けて努力させ,また,定職に就くなど生活態度を改善させること。特に,養父に対しては,子の養育に対する考え方を改善させ,また,覚せい剤等薬物との関係を断ち切り,定職に就くなど健全な社会生活を営めるようにすること。」
(4)ア申立人は,平成17年×月×日,事件本人を児童養護施設に入所させる措置をとった(以下「本件入所措置」という。)。イ事件本人は,本件入所措置後,同施設で生活し,現在施設近くの小学校の2年に在籍している。事件本人は,施設ではムードメーカー的存在で,友達も多く,安定した生活を送っている。しかし,その一方,事件本人に対しては,施設と児相とが連携し,定期的にカウンセリングを行うなどの心理的なケアが継続されているが,事件本人は,実母にフライパンで火傷をさせられたことや,実母及び養父から受けた暴力がトラウマになっており,フライパンを見て実母から叩かれたことを思い出すなど,被虐体験による精神症状が依然として続いていて,施設入所後現在に至るまで,虐待児にまま見られる夜尿がほぼ毎日見られる。また,学習面では,潜在的な知的能力の低さによるものと思われる学習の遅れや授業に集中できない落ち着きのなさなどが認められ,今後学習内容の抽象度が増し,対人関係が複雑になってくる小学校高学年あたりでの不適応やつまずきが心配される。さらに,事件本人には,うつぶせの女性の尻にまたがり腰を動かして「こうすると気持ちいいんだよ。」と言ったり,性器を見せたりするなどの性的問題行動も散見されている。ウ当庁家庭裁判所調査官(以下「調査官」という。)に対し,事件本人は,実母については, 「会いたい。(施設に)会いに来て欲しい。」と述べ,事件本人からへその緒のことを持ち出し, 「ママのお腹にいるときへその緒でつながってたんでしょ。」と述べている。事件本人は,施設の職員に対しでも,実母に会いたいと言うことはあり,他の子の親が面会に来たりするとうらやましがっている。一方で,調査官に対し,養父に対する話題は事件本人自身からは積極的に語られることはなく,調査官から,養父に会いたいかと尋ねると, 「なんか(実母と)別れたらしいよ。」と述べ,特に会いたい気持ちなどは表現しなかった。
(5)ア実母は,平成17年×月×日から生活保護を受けて生活し,その後,上記マンションから現在の住民票上の住所に転居した。しかし,実母は, 生活保護のケースワーカーからの就労指導に体調不良を理由に従わず,平成18年×月×日に生活保護を打ち切られた。実母は,養父が平成19年x月に刑務所から出所すると, 再び養父と同居を再開したが,同年×月,養父と共に現在の住所地の10畳くらいの広さのワンルームマンションに転居した。イ児相では,本件入所措置後,養父が刑務所に服役中であったため,これまで実母との関わりを主に行ってきた。しかし,実母は,児相から親子再統合のための治療的プログラムへの参加を促されても,「子育ては慣れているから自分だけでできる。」などと主張して拒否的な態度を取り,一度も参加していない。また,体調不良などを理由に,児相との面接や家庭訪問なども予定どおりに行われていない。実母及び養父は,事件本人との面会を希望しているが,児相から,面会の実現に向け,面会時の約束事を決めるために来所を促されてもこれを拒否しているため,現在まで事件本人との面会も実現していない。ウ平成19年×月×日の調査官調査期日の呼出に,養父は出頭したが,実母は体調不良を理由に出頭しなかった。そこで,養父に実母の出頭確保を要請の上,養父の同意を得て第2回調査期日が同年×月×日に設定されたが,当日,養父及び実母とも連絡なく不出頭であった。そこで,同月×日午前×時に審問期日を指定し,実母及び養父に対し,出頭しない場合は本件に対する意見がないものとみなす旨の添え書きをした通知書を送付し,審問期日を通知した。当日,実母から仕事(居酒屋の手伝い)のため出頭できないとの電話連絡があったため,調査官が対応、の上,同年×月×日に調査期日をもうけることになった。ところが,同月×日,実母から電話で,養父が同月×日に警察に逮捕され,実母も体調不良のため×月x日の調査期日には出頭できない旨の連絡があった。結局,実母の出頭は得られなかったが,同年×月×日受理の調査官の照会に対する回答書によれば,実母は.「事件本人の引き取りを希望する。」.引き取り後の生活については「これから生活保護の手続をする予定です。」.施設入所には「同意しない」.「子供は母と一緒にいるのがペストだと思うし,私も生きがいになります。1からやり直したいです。」と回答している。養父は,平成19年×月×日の調査期日において,調査官に対し,「現在求職中であり,実母は体調が良いときは○○のスナックでアルバイトをしている。」旨述べ,本件に対する意向については,「事件本人を引き取って育てたいが,現在の住居は子が育つ環境として良いとは言えないため, 引き取った場合は例えば口口口のように子にとって環境の良い所に転居したい。また,経済的にも不安定なので,知人の会社で働き,稼ぎを得たいと,思っている。」旨述べていた。しかし,養父は,同年×月x日,党せい剤取締法違反で逮捕され,同年×月x日.○○地方裁判所において, 同罪(使用)により懲役2年の実刑判決を受けた。
2 以上認定の事実に基づき検討するに,実母は,児相の指導に拒否的であり,その結果,事件本人が家庭において健全な養育を受けるための環境作りや,実母の盤育に対する考え方の修正に向けた働きかけは全く進展していない状況であること,実母の事件本人に対する養育態度は,本件入所措置以前と何ら変化はなく,実母には自身が行った養育の不適切さに対する認識も乏しいこと,また,実母は,定職にはついておらず,恒常的に体調不良を訴えるなど,生活状況も安定していないこと,養父は,出所後わずか数か月で,再び覚せい剤取締法違反の罪により実刑に処せられたものであり,従前の生活態度に対する反省が全く認められず,今後,本人自身によほどの覚悟がない限り,これまでと同様の事態が繰り返される可能性が高いこと,他方,事件本人は,現在施設で安定した生活を送っているものの,フライパンをみて実母に叩かれたことを思い出したり,ほほ毎日のように夜尿があるなど,実母及び養父から受けた被虐体験による精神症状が依然として続いているほか,学習の遅れや性的な問題行動がみられるなど,事件本人については,日常的な支援や指噂,継続的な心理的ケアが必要な状況にあることなどにかんがみれば,現状で,事件本人を実母の元に返すことは,著しく事件本人の福祉を害するおそれがあるといわざるを得ず,事件本人に対しては,引き続き,安心できる施設の人間関係の中で,落ち着いた生活を保障していくと同時に,事件本人が抱えている問題について留意しながら,関係機関協力の下で,適切な支援や心理的なケアを行っていく必要があることは明らかである。したがって,本件入所措置を継続しなければ著しく事件本人の福祉を害するおそれがあると認められるから,措置の期間を更新することが相当である。
3 また,前審判に併せ,申立人に対し,前審判指導勧告がなされたが,現在に至るも,その内容に沿った指導が進展している状況にないことは,前記lで認定のとおりである。しかし,本件入所措置の期間の更新後,親子再統合のためには,実母及び養父の養育に対する考え方や養育環境を改善させることが必要であり,そのために,児相による実母らに対する指導を現実化していくことがなにより重要となる。そこで,本件期間更新の承認に併せ,申立人に対し,前審判指導勧告と同内容の事項について,実母及び養父に対し、必要な措置を採ることを勧告する。よって,主文のとおり審判する。(家事審判官土居葉子)

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