児童福祉施設入所措置等の承認申立事件

(申立ての要旨)
主文同旨
(当裁判所の判断)
1 一件記録によれば,以下の各事実が認められる。
(1) 事件本人の実父と実母は,平成12年×月×日に婚姻し,同月×日に長男Dが, 平成13年×月×日に二男Eが,平成14年×月×日に事件本人がそれぞれ出生した。Dは,平成14年×月×日に○o乳児院に入所措置となり,平成14年×月×自に措置解除となり家庭引取りとなったものの,同年×月×日からは実母が事件本人を出産するために再度○○乳児院に入所措置となり,平成15年×月×日に措置解除となり家庭引取りとなった。その後.Dは,平成15年×月×日に○○○○に入所措置となったが,平成19年×月×日に家庭引取りとなった。Eは,平成14年×月×日.○○乳児院に入所措置となり,平成16年×月×自には○○○○に措置変更となったが,平成19年×月×日に家庭引取りとなった。なお,事件本人は.D及びEと異なり.出生後から平成19年×月×日に一時保護されるまで施設に入所したことはなく,実父及び実母の下で監護養育されていた。
(2) 事件本人の実母は,平成19年×月×日ころ.Eが失禁したことに立腹し,自宅において.Eに対して頭部や腹部を手けんで殴打し,左大腿部を足げりする暴行を加えた。また.事件本人の実父と実母は.事件本人の実父が運転する車内においてEが再度失禁したことに立腹し,平成19年×月×日午前零時ころ,自宅台所において.Eを正座させ.事件本人の実父が手けんでEの左頬を殴打した。事件本人の実父と実母は,平成19年×月×日,上記の各暴行が原因で逮捕され,その後,実父が暴力行為等処罰に関する法律違反,母が暴行及び暴力行為等処罰に関する法律違反を公訴事実として(x)地方裁判所に起訴され,同年×月×日.両名とも懲役1年6月,執行猶予3年の有罪判決が言い渡されて,同判決が確定した。なお,上記のとおり,事件本人の実父と実母が逮捕されたため.0O警察署長は,平成19年×月×日.00児童相談所長にD及び事件本人を児童福祉法25条により通告し(Eは平成19年×月× 日に同児童相談所に一時保護された。).同日,同児童相談所が一時保護した。そして,事件本人については,平成19年×月× 日から児童養護施設に一時保護委託中である。また,甲第2号証(Eの身体に存する誌や火傷の痕跡の状況を撮影した写真8葉)によれば,上記の公訴事実以外の箇所にも窓や火傷の痕跡が存するから,事件本人の父母らによってEに暴力行為や虐待行為がなされたことが推認される。
(3) 事件本人の両親は,平成15年×月から事件本人《わ保育園に通園させていたほかは, 自宅にて主に実母が監護養育に当たっており,保育園との連絡カードにおいても特に食事や睡眠時間といった点に関して不適切な事情は窺われない。もっとも,事件本人の前歯5本が全て虫歯であり,現在.治療を続けている。
(4) 事件本人の実母は,同人からEに対する平成19年×月×日の暴行については. 1階の階段下の廊下でなされ,その当時,事件本人は台所で遊んでいたとのことであり,同年×月×日の暴行については,事件本人は入浴中であり,暴行現場にはし、なかった旨供述している。なお,事件本人の実母は,当庁の家庭裁判所調査官に対して,そのほかに平成19年×月末ころか同年×月初旬ころに一度,また,同年×月初旬ころに一度,それぞれEに対して暴行に及んだ旨供述しているが.その際,事件本人が臨場していたか否かについては判然としない旨述べている。もっとも,甲第2号証によれば.Eの患は顔面や両手,背部等の広範囲に及んでいる上,左手の甲や右手の掌にはケロイド状の痕跡(左手の甲が直径5センチメートル程度,右手の掌が直径3センチメートル程度)も存し,暴行現場に臨場していなくてもその暴行内容や暴行の程度を幼少者であっても容易に知りうると認められる。
(5) 現在入所中の施設における行動記録によれば,事件本人について,以下の内容の記載が存する。① 事件本人は.DやEが事件本人の父母から暴行を受けていた旨発言をしたことがある。② 事件本人は,極度に火を怖がっており(なお,このことはD及びEにも共通している。).DとEが事件本人の実父から怒られて足に火をつけられた際,自分も同じようにされるのではないかと思って怖かった旨発言している。③ 事件本人は,失禁や夜尿などほとんどないものの,失禁や夜尿をした場合には黙って隠し通そうとしてしる。
(6) 00児童相談所の児童票によれば,事件本人の心理学的所見の要旨は概ね以下のとおりである。事件本人は,知的には普通域であり,発達に問題はなく,身辺自立は年齢相応である。なお.Eに対する実父及び実母の態度に畏怖しており,事件本人の大人の顔色を窺う態度や他の児童への意地悪な態度は,自分が攻撃されないように,両親の顔色を窺いながらEを排斥する行動に加担するとしろ認知・行動パターンができつつあると思われる。また,事件本人は,現在,自宅に帰るよりも,大きいお泊まり保育園に行くことを期待している。
(7) 00児童相談所所属の児童福祉司が平成20年×月×自に実施した事件本人の心理学的所見の要旨は慨ね以下のとおりである。事件本人の気の強さや大人の顔色を窺いながら.大人が見ていないところで自分より弱L、者には強く当たる態度から子供同士の関係ではときおりトラブルが見られるが,大きな問題はなく,概ね安定した生活を送っている。事件本人の実父及び実母から事件本人への暴力は一切語られないが.D及びEへの暴力やそれを目繋したことによる恐怖は継続的に語られている。入所後の変化として,性的な言動,両親に「会いたい」という発言がみられる。両親に対しては,会いたい気持ちはあるものの,恐怖心もあり,帰りたいとは言わない。今後も定期的な関わりが必要である。
(8) ○o児童相談所の心理担当者作成に係る平成20年×月×日付け心理学的所見によれば,事件本人に関する心理学的所見の要旨は以下のとおりである。施設での生活が慣れるにつれ,家庭で起きた事柄を少しずつ言語化できるようになってきている。事件本人に対する直接的な暴力はなかったものの,兄達に対する両親の暴力を見ることで,同じ自に遭わないように蝿をつくというスタイルを身につけ,現在はその罪悪感に苛まれている。兄達と暮らした短期間に相当の恐怖を体験したことが推察され,現状では事件本人への継続的な心理的ケアが必要不可欠である。事件本人自身,単独での家庭復帰を望んでおらず,現段階での家庭復帰は,事件本人の情緒安定のために不適当と判断される。
(9) ○○児童相談所非常勤精神科医師○○○○作成に係る平成20年×月×日付け文岱によれば,事件本人の心理所見としては,①持定の状況での過緊張,不安及び恐怖,②長兄との自然でない関係,③年齢不相応な性的表現が認められ.これらは事件本人に適切でなかった養育環境の影響が現在も残存していることによるものであり,施設の利用によってこれらが改善しつつあることが指摘されている。
(10) 口口児童相談所常勤精神科医師口口口口作成に係る平成20年×月×日付け児童票(6)医学的所見における所見要旨は以下のとおりである。心理司に対しては兄が親権者らに暴力を振るわれた場面を見たと話しているにもかかわらず,精神科医の面接では兄に対する親権者らの暴力を完全に否定し.兄の暴力に関して医師の質問を拒否することから,兄の暴力に対して,解離性健忘かあるいは回避の可能性があると思われる。Eへの暴力があることは事実であるから,事件本人への精神的影響があることは否定できず,安全な児童養護施設で経過をみることが望ましい。(11) Cわ児童相談所は,親権者らと事件本人の再統合フ・ログラムを策定しており,事件本人の児童養護施設への入所が承認された場合には,同プログラムに基づき,指導を実施することを検討している。なお,同プログラムは,①親権者らとともに改めてケースを振り返り,児童相談所の考え方と指導方針を説明すること,②親権者らに対して事件本人の生活状況や発達,成長,心理診断を説明し,親権者らの反応を見ながら,現段階の事件本人に対する想いや認識,自覚を確認すること,③親権者らに対する虐待カウンセリングの実施,④事件本人の状況を慎重に見極め,親権者らとの面会を設定すること,⑤面会の状況を見極めながら,定期的な面会や外出を重ねた上で,外泊が実施可能か慎重に判断すること,⑥外泊の実施,⑦定期的な面会を重ねつつ地域の関係機関によるカンファレンスを実施するとともに家庭引取後の具体的な在宅支援の内容を協議し,役割分担を明確にすること,③事件本人の家庭引取後も地域の関係機関の見守りと児童相談所の指導を継続すること,との内容から構成されており,上記①から⑥まで順番に実施されることを予定している。
(12) 当庁の家庭裁判所調査官による調査報告書によれば,事件本人の現在の生活状況は以下のとおりである。① 事件本人は.現在,施設の寮で生活し,幼稚園の年中として通闘している。② 事件本人の一日の生活は,午前6時50分に起床し,その後着替えをし,布団を畳み,朝食を食べて午前9時ころに施設の他の仲間とともに幼稚園に通園する。幼稚園は,水曜日が午前のみの保育で,水曜日以外は午後2時ころに施設に戻り,その後,午後3時のおやつを食べたり遊んだりして過ごし,午後4時30分から午後6時の間に入浴し,夕食を食べ,午後8時30分から午後9時に就寝している。③ 日常生活面では,以前は幼稚園に行っても,施設の仲間との交流が中心であったが,最近は友達関係が広がっていることが窺える。なお,入所した当初から,特に情緒的に不安定になることなく過ごす様子が窺われ,施設入所歴がないにもかかわらず,施設の生活に順調に適応した。
(13) 事件本人の父母らは,事件本人を児童養護施設に入所させることについて同意していない。
2 以上の事実に基づき本件について判断する。前記認定によれば,事件本人の実父及び実母は,平成19年×月×自にD及びEを家庭に引き取ったが. Eが両親の指導に従わず,年少の事件本人が尿失禁をすることがほとんどないにもかかわらず,尿失禁をした上,両親に隠すなどしていたため,平成19年×月×日に逮捕されるまでの間.Eに対して公訴事実を含む複数回の暴行に及び.Eに窓やケロイド状の痕跡を残す傷害を負わせたことが認められる。そして,事件本人が両親からEに対する暴行行為を直接に目撃したことについては不明であるものの,事件本人の施設内における発言には両親からD及びEに対して暴力行為がなされた旨の発言があること, ζわ児童相談所の事件本人の児童票における心理学的所見に記載されているように,事件本人がEに対する両親の態度に長怖し,大人の顔色を窺う態度が存するため事件本人への継続的な心理的ケアが必要不可欠であると指摘されていること,現在入所中の施設における行動記録にあるように事件本人が極度に火を怖がっており,また,失禁や夜尿をした場合には黙って隠し通そうとすることに照らすと,両親からEに対する度重なる暴行によって事件本人が心的傷害を受けたことが推認される。そして,実兄が暴力を振るわれた記憶が残る環境において,暴力を用いる指導を行う可能性がある父母の下に戻すことは,情緒的にも身体的にら適当であるとはいえず,事件本人を虐待環境から切り離し安定した環境の中で生活させるとともに,ある程度長期にわたって専門的な働き掛けを行う必要がある。他方.Cわ児童相談所所属の児童福祉司が平成20年×月×日に実施した事件本人の心理学的所見によれば,事件本人は現在施設内において概ね安定した生活を送っており,また,当庁の家庭裁判所調査官による調査結果によっても,事件本人の生活状況については特に問題性は窺われない。そして.Cわ児童相談所において,段階的に事件本人を親権者らの下に戻すための親権者らと事件本人の再統合フ.ログラムを策定していることも併せ考慮すると,本件においては,事件本人の父母らに事件本人を監護させることは著しく事件本人の福祉を害するから,児童福祉法28条1項に基づき.事件本人を児童養護施設に入所させることを承認するのが相当である。また,事件本人の施設入所の措置中に,上記の再統合プログラムが円滑に実施されるためには,事件本人の父母らにおいて現状の問題点を認識するとともに適切な養育方法に向けての努力が重要であるから,入所措置の承認と併せて,申立人に対し,この点に関して親権者らに適切な指導の措置をとることを勧告する。
3 よって,主文のとおり審判する。(家事審判官品川英基)

タグ

トラックバック&コメント

この投稿のトラックバックURL:

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ