債務不存在確認等、遺言無効確認等請求事件

上告代理人0000の上告受理申立て理由について
1本件は.Aの共同相続人の一人であり.Aの遺言に基づきその遺産の一部を相続により取得し,他の共同相続人である被上告人らから遺留分減殺請求を受けた上告人が.被上告人Y1はAの相続について上告人に対する遺留分減殺請求権を有しないことの確認を求める旨及び被上告人Y2がAの相続について上告人に対して有する遺留分減殺請求織は2770万3582円を超えて存在しないことの確認を求める旨を訴状伝記載して提起した各訴えにつき.確認の利益の有無が問題となった事案である。
2 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) A.(大 正9年2月19日生)は,平成16年12月7日に死亡した。上告人及び被上告人らは.Aの子である。
(2) Aは.平成10年12月7日.Aの遺産につき.遺産分割の方法を指定する公正証書道言(以下「本件遺言Jという。) をした。
(3)被上告人らは.平成17年12月2日ころ,上告人に対し遺留分減殺5iY求の意思表示(以下「本件迫留分減殺前求Jという。)をし.上告人は.遅くとも本件訴訟の提起をもって.被上告人らに対し本件遺言による遺産分割の方法の指定が被上告人らの遺留分を侵害するものである場合は民法1041条所定の価額を弁償する旨の意思表示をした。
(4) 被上告人らは,上告人に対し遺留分減殺に基づく目的物の返還請求も価額弁償請求もいまだ行っていない。
(5) 本件訴訟の訴状には.請求の趣旨として① 被上告人Y1はAの相続について上告人に対する遺留分減殺請求権を有しないことの確認を求める旨② 被上告人Y2がAの相続について上告人に対して有する遺留分減殺請求権は2770万3582円を超えて存在しないことの確認を求める旨の記載がある(以下\上告人の被上告人らに対する上記確認請求を併せて「本件各確認前求Jといい, 本件各確認結求に係る訴えを併せて「本件各確認の訴え」という。)。上告人は.原審の第l回口頭弁論期日において.価額弁償をすべき額を確定したいため.本件各確認の訴えを提起したものである旨を述べた。
3 原審は.上記事実関係等の下で.①被上告人Y1に対する確認請求は.上告人が被上告人Y1の遺留分について価額弁償をすべき額がないことの確認を求めるものであり.②被上告人Y2に対する確認請求は.上告人が被上告人Y2の遺留分について価額弁償をすべき額が2770万3582円を超えないことの確認を求めるものであると解した上.以下の理由によか本件各確認の訴えは確認の利益を欠き不適法であると判断し第l審判決中.本件各確認の訴えが適法であることを前提とする本件名確認請求に係る部分を取り消して,本件各確認の訴えを却下した。
(1) 被上告人らは.上告人に対して遺留分減殺請求をしたが,いまだ価額弁償請求権を行使していない。したがって.被上告人らの価額弁償請求権は確定的に発生しておらず,本件各確認の訴えは.将来の権利の確定を求めるものであり.現在の権利関係の確定を求める訴えということはできない。
(2) 仮に.上告人による価額弁償の意思表示があったことにより.潜在的に被上告人らが上告人に対して価額弁償請求権を行使することが可能な状態になったことを板拠として.本件各雌認の訴えをもって現在の権利関係の確定を求める訴えであると解する余地があるとしても,受造者文は受問者が価額弁{貨をして迫II自又は贈与の目的物の返還義務を免れるためには現実の履行又は版行の提供を要するのであって,潜在的な価額弁償請求権の存否又はその金額を判決によって確定しても.それが現実に履行されることが確実であると一般的にはいえない。そして,その金額は.事実審の口頭弁論終結時を基準として確定されるものであって.口頭弁論終結時と上記金額を確認する判決の確定時に隔たりが生ずる余地があることをも考慮すると,本件各確認の訴えは.現在の62・5-62裁判例( 家事)権利義務関係を確定し紛争を解決する手段として適切とはいい縫い。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は.次のとおりである。
(1)被上告人Y1に対する確認の訴えについて前記事実関係等によれーば.被上告人Y1に対する確認の訴えは.これを合理的に解釈すれば.本件遺言による遺産分割の方法の指定は被上告人Y1の遺留分を侵害するものではなく.本件遺留分減殺請求がされでも,上記指定により上告人が取得した財産につき.被上告人Y1が持分権を取得することはないとして.上記財産につき被上告人Y1が持分権を有していないことの確認を求める趣旨に出るものであると理解することが可能である。そして.上記の趣旨の訴えであれば,確認の利益が認められることが明らかである。そうであれば.原審は.上告人に対し被上告人Y1に対する確認諦求が上記の趣旨をいうものであるかについて釈明権を行使すべきであったといわなければならず.このような措置に出ることなく.被上告人Y1に対する確認の訴えを確認の利益を欠くものとして却下した点に拘いて,原判決には釈明権の行使を怠った違法があるといわざるを得ず, この違法が判決に影響を及ぼす’ことは明らかである。
(2) 被上告人Y2に対する確認の訴えについて
ア一般に,遺贈につき遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使すると,遺贈は遺留分を侵害する限度で失効し受造者が取得した権利は上記の限度で当然に減殺訪求をした遺留分権利者に帰属するが,この場合.受造者は,遺留分権利者に対し同人に嬬・属した遊間の目的物を返還すべき義務を負うものの,民法1041条の規定により減殺を受けるべき限度において迫I!自の目的物の価額を弁mし又はその履行の提供をすることにより. 目的物の返還義務を免れることがで63きると解される(最高裁昭和53年(オ)第907号同54年7月10日第三小法廷判決・民集33巻5号562頁参照)。これは,特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言による遺産分剖の方法の指定が遺留分減殺の対象となる本件のような場合においても異ならない(以下,受遺者と上記の特定の相続人を併せて「受遺者等Jという。)。そうすると.遺留分権利者が受逃者等に対して遺留分減殺請求権を行使したが.いまだ価額弁償請求権を確定的に取得していない段階においては,受・造者等は.遺留分権利者に帰属した目的物の佃i額を弁賞し.又はその履行の提供をすることを解除条件として.上記目的物の返還義務を負うものということができ.このような解除条件付きの義務の内容は.条件の内容を含めて現在の法律関係というに妨げなく,確認の対象としての適格に欠けるところはないというべきである。
イ遺留分減殺簡求を受けた受造者等が民法1041粂所定の価額を弁償し,又はその版行の提供をして目的物の返泣義務を免れたいと考えたとしても,弁償すべき額につき関係当事者間に争いがあるときには,遺留分算定の基礎となる遺産の範囲,遺留分権利者に帰属した持分割合及びその価額を確定するためには,裁判等の手続において厳密な検討を加えなくてはならないのが通常であり,弁償すべき額についての裁判所の判断なくしては.受造者等が自ら上記価額を弁償し又はその履行の提供をして遺留分減殺に基づく目的物の返還義務を免れることが事実上不可能となりかねないことは容易に想定されるところである。弁償すべき額が裁判所の判断により確定されることは,ーと記のような受造者等の法律上の地位に現に生じている不安定な状況を除去するために有効,適切であり.受遺者等において:i11留分減殺に係る目的物を返還することと選択的に価額弁償をす裁判例.(家事)ることを認めた民法1041条の規定の趣旨にも沿うものである。そして,受遺者等が弁償すべき額が判決によって確定されたときはこれを速やかに支払う意思がある旨を表明して.上記の額の確定を求める訴えを提起した場合には,受遺者等がおよそ価額を弁償する能力を有しないなと矛の特段の事情がない限り.通常は上記判決確定後速やかに価額弁{貨がされることが期待できるし. 他方.遺留分権利者においては,速やかに目的物の現物返還請求権又は価額弁償請求権を自ら行使することによか上記訴えに係る訴訟の口頭弁論終結の時と現実に価額の弁償がされる時との閑に隔たりが生じるのを防ぐことができるのであるから.価額弁償における価額算定の基準時は現実に弁償がされる時であること(最高裁昭和50年同第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁参照)を考慮しでも.上記訴えに係る訴訟において, この時に最も接着した時点である事実審の口頭弁論終結の時を基準として.その額を確定する利益が否定されるものではない。
ウ以上によれば,遺留分権利者から遺留分減殺請求を受けた受造者等が,民法1041条所定の価額を弁償する旨の意思表示をしたが.遺留分権利者から目的物の現物返還請求も価額弁償請求もされていない場合において,弁償すべき額ιっき当事者間に争いがあり,受退者等が判決によってこれが確定されたときは速やかに支払う意思がある旨を表明して.弁償すべき額の確定を求める訴えを提起したときは,受造者等においておよそ価額を弁償する能力を有しないなどの特段の事情がない限り.上記訴えには碓認の利益があるというべきである。
エこれを本伺こについてみるに,前記事実関係等によれば,被上告人Y2に対する確認の訴えは,被上告人Yzの本件逃留分減殺請求により同被上告人に帰属するに至った目的物につき,上告人が民法1041条の規定に基づきその返還義務を免れるために支払うべき額が2770万3582円であることの確認を求める趣旨をいうものであると解されるから. 上告人において上記の額が判決によって確定されたときはこれを速やかに支払う意思がある旨を表明していれば,特段の事情がない限り, 上記訴えには確認の利益があるというべきである。これと異なる見解に立って. 被上告人Y2に対する確認の訴えを却下した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。以上のとおりであるから,論旨は理由があり. 原判決中, 上告人の被上告人らに対する確認請求に係る部分(主文第l項及び第2項)は破棄を免れない。そして, 同部分につき. 更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。よって. 裁判官全員一致の意見で.主文のとおり判決する。(裁判長裁判官古田佑紀裁判官今井功中川了滋竹内行夫)上告代理人0000の上告受理申立て理由2上告人の主張本件において. 被上告人らは故Aの遺言は無効と主張しつつも遺留分減殺崩求権を行使した。そこで.上告人は.被上告人らに対し価額弁償をするとし被上告人Y2に対し遺留分の価額弁償をすべき金額が2770万3582円を超えないこと.被上告人Y1について価額弁償すべき金額がないことの確認を求めた。しかるに原判決は.
① 遺留分減殺請求権は,被相続人の生前処分や遺言によって相続人の遺留分が侵害された場合.遺留分縮利者の意思表示によって,当該生前処分や遺言の効力を遺留分を保全する限度で隠滅するもの裁宇リ例(家事)でその効力は物権的に生じ. 対象財産の権利が遺留分権利者に当然帰属する(最高裁昭和40年(オ)第1084・号同41年7月14日第一小法廷判決・民集20巻6号1183頁)。
② 遺留分減殺請求を受けた者は,民法1041条I項の規定により.追①留分権利者の遺留分に相当する財産の価額を弁償して.財産の返還義務を免れることができるがこの場合.価額弁償は現実に履行するか履行の提供をしなければならない(最高裁昭和53年(オ)第907号同54年7月10日第三小法廷判決・民集33巻5号592貢)o.遺留分権利者は.相手方が価額弁償の履行の提供をしていない場合であっても.遺留分権利者に対して価額を弁償する旨の意思表示をしたときには.遺留分権利者は相手に対し. 遺留分減殺に基づく目的物の現物返還請求権を行使することもできるι.それに代わる価額弁償請求権を行使することもでき.遺留分権利者が相手方に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合には遺留分権利者は.逃留分減殺{こよって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還前求権をさかのぼって失いこれに代わる価額弁償請求権を確定的に取得する(最古裁平成18年(受)第1572号同20年1月24日第一小法廷判決・民集62巻l号63頁)。
の3つの判例を引用し.i迫留分に係る価額弁償請求権は.遺留分権利者がこれを行使する旨の意思表示をするまで確定的に発生しているとはいえないから, その意思表示がある前の段階においてその存否又はその金額の確定を求める請求は.現在の権利関係の確定を求める訴えということはできない。Jとし遺留分減殺5it求権者が, 遺留分減殺詰求権を行使したにもかかわらず, 現物返還請求権の行使に若手しておらず,価額弁償請求権を行使する意思表示もしていないときは. 上告人の価額弁償請求権は確定的に発生していないとし上告人の価額弁償請求権の不存在及びその金額の確定を求める訴えは. 将来の権利の確定を求めるもM 、のであるとして.確認の利益を欠くとして. 上告人の諮求を却下した。上告人の請求は現在の法律関係について権利の確定を求めるものであり,適法であり. 本請求を却下とするのは.裁判の拒否である。
3)遺留分減殺請求を受けた者は.遺留分権利者が価額弁償の請求をしたか否かにかかわらず. 自らの権利として価額弁償をし.遺留分を消滅させることができる(前記最高裁判決②)。その場合. 遺留分減殺詰3止を受けた者として.そもそも価額弁償するべき義務があるのか否か, また弁償すべき義務があるとして. いくら価額弁償すべきか. が問題となる。つまり弁償すべき額の有無及びその額が当事者間で争いとなり.、,、-の争いは,権利・義務の有無及び範囲の争いであって.法律上の争いであり.且つ現在の争いである。つまり遺留分滅殺請求縮を消滅させるのには.履行の前提として.履行すべき金額の有無及び額を確定しなければ弁償ができない。遺留分減殺請求を受けた者は.現実の履行(庖行の提供)をすることによって.遺留分権利者の逃留分を消滅させることができるのであるが, 現実の履行をするべきか否か, するとしてもいくらすべきかについて.正確な金額が分からない(確定していない)以上.履行したものが少なかったならば争いになることは明らかであか他方.遺留分を消滅させるために.弁償者が.多めの弁償をせざるを得ないとしたならば.弁{賞者に過大な負担を強いることとなり.不当であることは明らかである。
4)このように本件請求を却下すると. 本件の被上告人Y,は造留分として減殺訂j求する権利があると主張し上告人は遺留分として請求されるものは無いと主張し.争いがあるところ.被上告人Y,は訴えを62・5-6845)裁手リ例(家事)提起することにより解決をする手段はある。しかし上告人から被上告人Y,の遺留分に関する権利は不存在として確認を求める訴えは認めない(不適法)とすることは.上告人の解決の手段を認めないとするものでそれは裁判り拒否である。このことは:被上告人Y2に対し一定の金額を超えて遺留分減殺請求権は存在しないとの判断を求める場合も同様である。以上のように遺留分減殺請求権を「消滅」させるのに現実の履行(履行の提供)が必要であるとしても,その「履行の内容(=具体的金額)Jについて争いがあるならば.当事者間において紛争は解決しない。このような法的紛争を解決することを裁判所が訴の利益なしとして却下することは裁判の拒否に他ならず,国民の裁判を受ける権利を侵筈するものとして. 強法第32条に反する。また原判決は・「逃留分減殺請求を受けた者は,民法1041粂l項の規容により.遺留分権利者の遺留分に相当する財産の価額を弁償して財産の返還義務を免れることができるJとした前記最高裁判決(②)の趣旨にも反する。現実に履行が
4原判決は価額弁償をすべき金額を判決で雌定しでもなされるか否か確実でないとするが,その点は上告人に釈明を求め.履Eつわさがわざ裁判を提.行の意思と能力を確認すれば足りることであり.起して金額の確認を求めること自体,版行の意思と能力があることは明らかである。また存否.金額は事実務の口頭弁論終結時を基準として確定されるものであり.口頭弁論終結時と当該判決の確定l判的が生じる余地均このことは本件に限らずf,{~認訴訟において一般的に生ると指摘するがじることであってそのことをもって上告人に解決の方法を認めないとする理由になるものではない。

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